18 最初の街に到着した
私達の馬車は予定通り1つ目の町へと進んでいた。
昨日セバスさんとアビーとアリスとで進む道筋についてはもう相談したらしい。幸いほとんどルートを変えずに進むことが出来る。まぁ私達も領主館に挨拶に行く用事があり、その後ラーゼンに向かう予定なので当たり前なんだけどね。
馬車は2つを繋いで、馬を揃えて合計6頭で牽引する事になった。この方法だと御者が1人で済む。
そして元々中が広かった私達の馬車の方に全員が乗っている。マリアンヌ達の馬車は貴族とその召使いが乗るだけのコンパクトな作りで、大型なのは貨物スペースが貴族用に拡張されたかららしい。
つまり強制的にマリアンヌとは顔を合わせる事になるわけだ。
私は最初こそ気まずさを感じていたけど、当のマリアンヌは全く気にせずにみんなと話をしていた。私も次第にどうでも良くなってきて、いつの間にか話の輪に入っていた。
「そういえばなんでこんなに急ぐルートで帰っていたの?」
「今年の秋の社交パーティにデビュタントとして参加するんですの。その準備のためですわ。」
「デビュタント?」
「初めて社交界に出る貴族の子弟の事ですわ。デビュタントの為のパーティが開かれますので、そこではデビュタントが主役として参加することになるんですの。」
ああデビューする人って意味か。
「まだ夏にすらなってないけど、もう準備があるの?」
「当たり前ですわ!むしろ遅すぎるくらいでしてよ。」
「そうですね。かなり遅い方かと思います。今年はリリィ様の召喚が時期が決まった儀式だったので、色んな行事がズレ込むか、準備期間が短くなるのだと思います。」
「社交シーズンは冬です、1番影響を受けるのは社交パーティの中で真っ先に開かれるデビュタントパーティになるのはしょうがないです。」
「なるほど、先に準備してから来ればよかったんじゃ…」
「それでは流行に遅れてしまいますわ。」
どうやら、召喚された人の好みやらその人の世界での流行りを取り入れようとする動きがあったらしい。
ただ私が女だったため、私の着たドレスの様な着合わせを取り入れる人もいるだろう、との事。
それでやたら元の世界の服について聞かれたりしたのね。私は社交界に入るつもりは無いから何も関係ないけど。
「今年は絶対にコバルトブルーが流行りますわ!他の髪色の方がリリィお姉様のように自分の髪色に合わせたドレスを着ても、絶対に見映えしませんもの。」
「そ、そっか。」
確かに、茶髪の人が茶色いドレスを着ても微妙そうだ。それにしてもマリアンヌの熱量が凄い、どうやら今年のデビュタントにかなり気合を入れているらしい。さっきから語りが止まらない。
マリアンヌの語りを聞いていると馬車が止まった。
「皆様、街の門の前に着きました。これから検査が御座います。私とマリアンヌ様は素通りですが…」
お、やっと着いたのか!
久しぶりにちゃんとベッドで寝られるというだけで嬉しい。おやつも買っちゃおう。
「私達も素通りできるようになってるです。そのまま寄せて貰えるですか?」
「かしこまりました。」
「おお〜!普通!」
思ったよりも数段普通の街だ。うんほんと、特徴がない。
「リリィ様は王都から来たのですから当たり前ですよ。」
「そりゃそうだよね。」
マリアンヌ達が泊まる予定の宿があるそうなので、アビーにそこの宿の適当な部屋をとって貰う。
よし!買い物タイムだ。
「その前にこの街の衛兵の詰所の方に走竜のトサカを提出しましょう。」
「あ、うん。」
そうだった。完全に忘れていた。
「私とセバスも同行しますわ。」
「うん、お願いね、多分私だけだと信じて貰えないから。」
「ええ、お任せ下さい。」
証拠提出は意外なほどスムーズに終わった。
最初は魔物の目撃情報を提出すると言うと嫌な顔をされた気がしたんだけど、セバスさんが衛兵の方に何かを見せながら耳打ちをしてからはトントン拍子だ。
持つべきものは金とコネ、つまり権力である。
私が倒したって所だけは最後まで疑っていたようだけど。
「本当に失礼な方達でしたわ!リリィお姉様の実力を疑うような発言ばかりして!」
「まぁ、疑うのも仕事のうちだからね。」
マリアンヌはだいぶ怒っていた、私はそんなもんだと思ってたし、なんなら素直な方だったと思ってるんだけどね。最終的には信じてくれたみたいだし。多分。
「リリィ様は寛大過ぎます…私がもし魔法を使えたら、もしくはあそこにアビーが居れば、あの詰所は今頃燃えています。」
「絶対やめてね?」
アリスも相当怒っているようだ。物騒な事を言っていてとても怖い。
具体的にはそれをしても許されると確信してる辺りが怖い。国王陛下の食客一行って法が適用されないんだろうか?
「元々私が強そうに見えないのは分かってるんだから、いちいち怒っててもしょうがないよ。」
「それにしてもですわ!子爵令嬢であるこの私が証言しているというのに尚疑うなんて、侮辱罪で打首にならなかったのはリリィお姉様の慈悲だと理解していないのもまた腹立たしいですわ!」
「そもそも目撃情報を渡すだけだからね?私の強さを伝えるのにそんなに拘らなくてもいいんだよマリアンヌ。」
「むぅ…」
証拠提出自体は確実に通ったのに不満らしい。まぁファンの心理と言うやつだろう。分からないでもない。
「そんな事より楽しい事を考えよう。アビーと合流して買い物しよう!」
「その事なのですが、私とアリス殿は飼葉や食料の買い付けがありますので、別行動になります。」
「そっか、ならしょうがないか…ん?」
セバスさんからの組み分けの提示のヤバさに少し遅れて気づく。それ昨日のあのメンツじゃないですか?
いや、旅の物資を補給しようとしたらアリスとセバスさんがその役割なのは分かるし、私が買い物をする時はアビーが居ないといけないから、必ずこのメンバーになるのか。しまった、全く考えてなかった。
アビーと合流して3人で歩いている。
気まずさが再来しても良いはずなんだけど。何故かアビーは私と腕を組んで楽しそうに歩いているし、マリアンヌはそれをキラキラした目で見ていた。
「お二人はその、やはり恋人同士でいらっしゃるんですの?」
いきなり核心を突く質問が飛んできた。
あなた一応昨日のは覗きで犯罪ですよ?いやこの国の法律知らないけど、多分。
「…うん、アビーは私の恋人だよ。アリスも。」
「!!やっぱり!とても素敵だと思いますわ!」
「ありがとう。」「ありがとです!」
そこからどんな風に話が展開されるのか警戒していたけど、予想に反してその話題についてはこれで終わりだったらしい。
恋に恋する乙女らしい反応だ。後は色々自分で妄想を広げたりするつもりなんだろう。私にも経験があるから何となく分かる。
ただ私達の行為は恋のその先だし、結構特殊なので変な影響を与えないかちょっと心配ではある。
それから3人で日持ちしそうなドライフルーツやクッキーを買ったり、屋台で買い食いをしたりして時間を潰した。
私が干し肉を買った時、アビーが不思議そうな顔をしていた。ビーフジャーキー好きなんだよ。
日が暮れる前に宿に戻ると、アリスも既に戻っていた。
「随分豪華な宿だね?」
「貴族や豪商の方が使うランクの宿ですので。」
王宮で使っていた部屋とほとんど変わらないような広さと豪華さだ。よく取れたねこんな部屋。
若干慣れてきてしまった感はあるけど、多分もっと普通の宿の方が落ち着くんだろうな。今度違う町に宿泊する時はマリアンヌとは別の、普通寄りの宿を取ってもらおう。最低限清潔なら狭い方が落ち着くよ。
夕食を食べた後に久しぶりにアリスに旅の埃を落として貰い、その後2人がお風呂から上がるのを待つ。
2人とも上がったタイミングで小箱に入った魔道具を取り出す。防音のやつだ。
アリスはそれを見て何が始まるのか気づいたらしい。
そういえばアビーには見せた事無かったね、これ。
「今日は3人でするよ。またしばらく馬車だし。良いよね?」
1時間後にはその発言を後悔することになる。
私がどちらかに構うと空いた方が私を責め。交代するとまたもう片方から責められる。私だけ休憩が無いのだ。
最終的には体力を失った私を2人がかりで好き放題されてしまった。腰に全く力が入らないんだけど、明日までにちゃんと治るよね?
「死んじゃうかと思った…」
「ちゃんと手加減しましたよ?リリィ様、どんどん敏感になっていませんか?」
「久しぶりだったからだもん。ずっと我慢してたからしょうがないでしょ?」
昨日もアビーに奉仕しただけだ。むしろ今までで一番溜まっていたんだよ。
「リリィちゃん、すごく可愛かったです…」
「とりあえず、アビーには絶対仕返しするから!」
「多分無理だと思いますよ?アビーは結構要領が良いタイプですし、今回のでかなり覚えたのでは?」
「返り討ちにしますよ!リリィちゃん!」
「うっ…私には秘密兵器があるし。」
アリスにジト目を向けられる。
「…反省してないんですね?あれは卑怯ですよ?」
「?」
「じ、冗談だよ。使う時はちゃんとアビーに説明するし、試してダメそうならやめるよ。」
そういえばアリスあの件は結構怒ってたな。
まずい地雷を踏んでしまったかもしれない。
「…まだ反省し足りないようですし、追加でお仕置が必要ですね。アビー、そっちお願いします。」
「了解です師匠!」
なんでアビーまでそんなにノリノリなの?!
「ちょっ!今日はもうダメだよ?本当に限界だから。」
「うふふ、前回のお仕置の時の記録を更新しましょう。部屋の掃除は宿の人間がやるので、気にしなくて大丈夫ですよ?」
何も大丈夫じゃない。
その日はせっかくのベッドで一睡も出来ず。結局次の日は寝不足な上にまともに歩けなくなってしまった。
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最近は新作を書こうと思って頭を捻っております。