16 救助活動
ちゃんとした敬語を使うキャラが初めて出て来てしまった…敬語の使い方間違えてたらごめんなさい。
王都から出て少し経った。ようやく馬車や馬の扱いにも慣れてきたといったところだ。だけど、
「馬車旅もう飽きた。おしり痛い。すごく帰りたい。」
慣れるってつまり、目新しさが無くなるって意味でもあるんだよね。
「リリィちゃん…もう少し頑張ってください。まだ3日目ですよ?」
私は完全に馬車旅に飽きていた、だって本当にする事がない。直前まで結構な過密スケジュールだったせいもあってギャップが酷い。
初日は良かった、王都の外壁の外に出るのに半日かかったけど、その後は御者のやり方をアリスと一緒にアビーに習ったり、初の野営やアリスの手料理とテンションが上がりまくった。
二日目の時点では交代で御者をやっている時間以外は2人とイチャイチャしながら過ごしていた。いや、御者をしていても2人は御者台に上がって来るのでずっとだ。
三日目、飽きた。
いやアリスとアビーと一緒に居るのは飽きないよ?でもする事が無いんだよ。
「そもそも、まだ3日って言うけど、行程を半分越したら引き返すより進んだ方が良いって割り切れる分、気が楽になるんだよ。つまり前半が辛い。」
「まぁそれは分かるですけど。リリィちゃん、変なところで体力ないですよね。」
「精神的な方の体力は多分ここの誰よりも低いよ。2日以上かけて移動したことすら初めてだから。」
「そうなんですね。明日は1個目の街に着いて補給するので、そこでのお買い物を楽しみにするといいかもしれないです。」
「え、本当?うん、ちょっとやる気出たかも。」
今は昼過ぎで、多分日の高さからして4時ぐらいだ。馬を休ませるために少し早めに馬車を止めて野営の準備をしていた。
アビーは魔法で火と水の準備、あと馬の世話。
アリスはご飯を作っている。
私は天幕の担当だ。これぐらいしか出来ることが無かった。
穴を掘り、支柱を立て、天幕をかける。
これだけなので当然暇だ。
暇なのでアビーに話しかけている。
しばらく明日寄る町について話していると、風に乗って微かに人の声が聞こえたような気がした。
耳を澄まして見ると、遠くではあるがガラガラと車輪のような音が聞こえてくる。どうやら馬車が近づいて来ているようだ。
でもそれにしては騒がしいような?
「何か変な音しない?」
「え?そうですか?……何も聞こえないです。」
音のした方向に目を向ける。
かなり遠いけど、土埃が舞っている様子が見えた。
「馬車が凄い勢いでこっちに来てるね。」
「え!……あ、本当ですね、何かに追われてるみたいです。うーんと、多分走竜系ですね。」
アビーは魔法を発動していた。右目が青白い光を放っている。確か遠見だったかな?
本当に色々できるよねアビー。
私は馬車の荷台に走り、急いで大剣を取り出す。
走りながら外せないのでそこで鞘を外す。
「リリィ様、どうかしたんですか?」
「魔物に馬車が追われてるから助けに行くよ。」
「…大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないです!数が多過ぎです!逃げましょう!!横にそれれば多分大丈夫です。」
「それは無理かなぁ。アリスはアビーから離れないでね。こっちには流さないつもりだけど、念の為。」
安全に行くならここから逃げるのが1番良い。
走竜がどんな魔物なのかも知らないしね。
でも多分、飛竜よりは弱そうだ。走竜って名前なのに全速力の馬車で辛うじて逃げられてるし。
それに人が困ってるのに助けない選択肢はリリィには無い。出来ない。
「10頭以上居るですよ!無茶です!!」
それくらいならまぁ何とかなりそう。
なんでそんなに心配してるんだろう?
ああそっか。
「そういえば、まだ本気で戦ってるとこ見せた事無かったね。大丈夫、それくらいなら余裕だよ。」
御前試合とか模擬戦の時が本気だったと思われてるなら心外だ。よし、良いとこ見せるチャンスかもしれない。
まだ何か後ろで叫んでるけど無視して走り出す。
そのまま攻撃魔法を準備する。
私は魔法的なセンスは壊滅的で、戦闘に使う魔法を覚えるのにもかなり苦労した記憶がある。
細かい制御が必要な魔法とは特に相性が悪くて、水を用意しようとすれば辺りがびしょ濡れになるし、火を着けようとすると薪が7割消し飛ぶ、残り3割は吹っ飛ぶ。うんそうだね、旅の初日にやった失敗だね。
魔法が下手なのは昔からだ。だから一部の魔法に絞って死ぬ程練習した。
「雷矢」
私が多分処刑場以外で1番使っている魔法を発動する。
雷属性は複合魔法の最上位の魔法だ、でもランカーの間ではあんまり使われてない。
準備に手間がかかるし、その割に攻撃力が低いからだ。その代わり相手を拘束する効果がある。
私は魔法を連射出来るほどMAGは高くないので手間がかかるというデメリットはあんまり関係ないし、速くて避けづらく防具で防げない特性も、相手の足を止める効果も、完全に私向きだった。
普通なら火属性で焼いた方がよっぽどダメージが出るし、足を止めても撃ち合いになるだけなんだけどね。
ほら、私は近接でしか戦えない割に足が遅いから。
同時に5本発生した矢を馬車の近くに居る走竜共にそれぞれ当てる。
矢が当たった個体が転倒して後ろに居た個体が前に出てくる。8頭…全部で13頭の群れだったようだ。走竜は頭に羽毛のようなトサカがある肉食恐竜みたいな見た目の魔物だった。
体高は2m、体長は4mぐらいかな?そんなに大きくない。本当に竜?亜竜なんじゃないかなこれ。いや分類もこっちは違うよね。
馬車とすれ違い、走竜の群れに突っ込む。一瞬御者さんと目が合ったような気がした。
群れのうち2頭が私の間合いに入った。
処刑場と呼ばれている間合いだ。名前の由来は私の職業が処刑人だという事と────この間合いの内に入って首を落とされずに逃げ出せた者が未だに居ないという特徴からだ。
即座に魔法を発動して走竜の足を消し飛ばし、体勢が崩れたところに剣を振って首を落とす。
2体目も同様に斬り殺しながら次の魔法を用意する。
振り向いて、私を無視して馬車を追っていた6頭の走竜に手をかざす。
今度は6本同時に雷矢を撃ち込み、接近して首を落としていく。
最初に離れた位置から雷矢を打ち込んだためにかなり後方に居たらしい走竜共は、5頭とも既に逃げ出していたようだ。もうかなり遠くに居る。追いつけるけど別に殺さなくていいか。
しかし大量に血を浴びたなぁ、ゲームだとエフェクトだけなんだけど…これは酷い。
後ろを振り返ると、少し離れた位置に馬車が2台停まっていた。
2台?あ、片方はアリス達か。ちゃんと2人とも一緒に居る。そう言えば近づくなとは言わなかったけど…
私が歩いて馬車に近づくと2人は駆け寄ってきた。
「リリィ様!ご無事ですか?!」
「うん、無事だよ。でも2人ともなんでこっち来てるの?危ないから近づいちゃダメって少し考えたら…」
「いざという時は私の魔法と馬車で特攻してリリィちゃんを回収して逃げるつもりだったんですっ!!どれだけ心配したと思ってるんですかっ!!!」
アビーは半泣きになりながら物凄い剣幕で言葉を被せて怒鳴ってきた。
アリスも顔色が真っ青で指が震えている。
かなり心配させてしまっていたらしい。
「あ…ごめんなさい。でも本当に大丈夫だって説明する時間もなかったから。」
「リリィちゃんが強いのは分かってますけど、金輪際こんな事しないでください。」
「こんな事?」
内容によっては困る。これからダンジョンに潜るつもりだし、戦うこととある程度の危険は避けられない。
「他人のために命を賭けないでください。」
それなら、うん。
「分かってるよ、本当に危ない時はちゃんと逃げるから、今回だって絶対大丈夫だと思ったから出てきたんだし。私もアビーとアリスに会えなくなるのは嫌だからね。」
2人に出会う以前だったら、誰かを助けるためなら勝てない相手にも挑んでいただろう。リリィならそうすべきだし、そう在りたいと思っていたから。
でも今はもう命を賭けてまで他人を救うつもりはない。助けられる人は助けるけど、その結果2人を悲しませるような事はしたくないからね。
アビーは私に抱きつくと本格的に泣き始めてしまった。アリスもフラフラとよろけながら私に寄りかかり、腕を回してきた。2人とも返り血はどうでもいいらしい。
「リリィ様が無事で本当に良かったです。怪我もありませんか?いえ、後で確認しますね。」
「ありがとうアリス、本当に怪我は無いよ。ただ、後で体拭いてくれる?」
「はい、かしこまりました。」
2人ともしばらくそのままの体勢だったけど、少しして私から離れた。
ちょうどそのタイミングで人が近づいてきた。
というよりタイミングを計って近づいてきたんだろうね。助けた馬車で御者をしていた人だ。見るからに執事ですと言わんばかりの服を着たナイスミドルだ。
空気を読もうとするのは好感度高い。
「リリィ様。この度はお嬢様が危ないところを助けていただき、誠にありがとうございます。私はポルドー子爵家に仕えさせて頂いております、セバス・チャンと申します。」
なんと本物のセバス・チャンだよ。この世界でもこの名前の人は執事をするらしい。白髪を後ろに流して固めた髪型だし、おじさんなのに高身長で背筋が通って筋肉質で足が長い。まんまセバス・チャンのイメージ通りだ。
ん?ていうか名乗ってないはずなんだけど。
「お嬢様も、是非お礼をしたいと申しております。リリィ様が宜しければ、この後時間を取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、それは構いませんが、着替えてからにしますね。それと、どこかでお会いしたでしょうか?だとしたらその、申し訳ないのですが…」
正直貴族とは沢山挨拶したけど、全く覚えてないよ。
「ああいえ、大変失礼致しました。お嬢様はリリィ様の御前試合とセレモニーを見物をするために王都に滞在しており、今はそこから急いで帰る道中でした。こちらが一方的に貴女を知っているだけの初対面で御座います。」
「それなら良かったです。もう少し先に行った所に、私達の泊まる予定の広場があるので、会うのはそこで良いですか?」
「はい、かしこまりました。お伝えします。」
セバスさんは馬車に戻っていった。そのタイミングでアビーが私に耳打ちをする。
「ポルドー子爵家は迷宮都市ラーゼンを治めてる貴族です。」
あ、そうなんだ。だから同じ道通ってるんだね?
「…この道を通って帰るなんて、相当急いでいるのでしょうね。」
「そうなの?」
アリスが驚いてる。確かにこの道は出発する前に地図を見た限り、1番迂回が少ないルートだけど、普通1番早く着くように移動するんじゃないのかな?
「このルートはいくつかの宿場街を無視して最短距離になるように移動するルートです。当然野宿が必要になるです。貴族ならまず選ばないです。ましてや護衛なしでなんて…いえ、護衛は居たんでしょうね。」
ああなるほど、確かにそれを考えると納得だ。
護衛の人達に関しては…まぁしょうがない事だと諦めよう。
セバスさんが戻ってきた。
「お嬢様に確認してまいりました。全てリリィ様の仰る通りにと申しております。つきましては、広場までの先導をお願いしたく存じます。」
「分かりました。ではまた後ほど会いましょう。」
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