15 彼女が居ない世界
2本目です。
閑話みたいなの書こうと思ってたのに本編にもちゃんと絡んできてしまうやつ。
その日「Sword of Sorcerers」でレート戦のシーズンが終わった。俺は最後の最後、思うように勝つ事が出来ず、ローカルランキングで2桁後半にまで落ち込んでいた。
マッチング運が無さ過ぎたにしても、最後の連敗は酷いもんだ。
いや、もしかしたら環境を読み違えたのかもしれない。そもそも苦手な戦型への勝ち方をもう少し練ってからレート戦に潜るべきだったか?
とか、クランハウスで自分の戦闘のリプレイを眺めながら反省していたら、階段から転げ落ちるように一人の男が近づいてきた。
今期ローカル1位、グローバル8位のB_Bloodだ。B型と呼ぶと怒るため、BBと呼ばれてる。自分で名付け癖に。
「おい、ReX。お前のフレ欄開示しろ。今すぐ。」
「は?なんでだよ。ほらよ。」
「…やっぱりか。」
「なんだ急に、キモいぞ。何を確認したんだよ。」
「Lilyが居ない。」
「? ああ、そういや見てないな。またビルド弄って順位落としたんじゃないの?どうせいつもの処刑人に戻る癖に。」
「いや違う、フレ欄から消えてる。ツレッターとラビも2日前から止まってる。」
「は?嘘だろ?」
「自分で確認しろ。」
そう言うとすぐにログアウトしていってしまった、クランハウスに残された俺は、スマホと連携している端末からSNSを確認する。
「マジだな。辞めたのか…?いやないか。」
Lilyは生粋の狂人だ。グローバルランカーなら頭が狂ってるやつは珍しくないが、あいつ程の狂人は多分他には居ない。
ランカーは強くなろうとして強くなった連中だ。いつの間にか強くなってた、なんて抜かす奴は居ない。
でもLilyだけは違う。あいつはLilyらしく在る事に人生を賭け、その結果強くなった。
Lilyならこんな所で負けない。Lilyなら勝つために最善を尽くす。Lilyなら常に努力をする。
そういったロールを繰り返して強くなっていく様をローカル下位の頃から見てきた。
あいつのアバターにかける愛は本物だ。
そんな奴が「SoS」から離れられるわけがない。
「リアルで事故に巻き込まれたとか?まぁ生きてるだろ。致命傷でも気合いで戻ってきそうな奴だし。」
結局、そのシーズン中、Lilyの姿を見た奴は居なかった。
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Lilyが消えた事は、日本のゲーマーの中ではそこそこ話題になった。世界でも最上位勢の中では話題になったっぽいが、1週間もすれば誰も話す人間は居なくなった。
日本でも、今でも話題にしているのは最上位勢だけだ。
「おいおい、あいつが居ねぇと環境に蝿が増えるだろうが!何やってんだよ!!糞がっ!」
「確かにAGI特化ビルドに強いからね、Lily。まぁ1人で環境を操作出来るほどの影響力かと言われるとそれは違うと思うけど?」
「はぁ??あいつ戦闘時間短いからやたら潜るせいで3日に1回はマッチすんだろーが?!その試合捨ててんのかよ??だから2位なんじゃねーの?」
「うるせーよお前ら、レート戦談義なら他所でやれ。ていうかなんでてめーまで居るんだよ蓬。」
ここクランハウスなんだが?クラン違うだろお前。
今ここに居るのは前々期8位のB_Blood、21位の蓬猫、ランキング圏外の俺ことReX:)だ。
「あのクソ女探す為に決まってんだろ。このクランだろうがあいつの永住。」
うるせーって言った途端声を小さくするなよ。笑っちゃうだろ。こいつ口は悪いけどやたら素直なんだよな。中身小学生説割とガチっぽい。
「ああ、まぁそうだけど。正直急に居なくなったって以外は何も分かってねーよ。」
「んなこた分かってる。クソ女の本拠地なら仲間が居ると思ったから来ただけだ。」
「仲間?なんのだよ。」
「クソ女を探す仲間に決まってんだろが!」
「は??」
「俺は参加するぞ。まだあいつに勝ってない。蓬をクランハウスに入れたのはその為だし。」
「え??」
何言ってんだこいつら、そもそも…
「探すったってどう探すんだよ?」
そう、どこに居るのかも、どう探せばいいのかも分からない。歩いてて見つかるわけじゃないからな?
「ツレッターのリア垢を探す。そのあと出来れば住所も特定する。そっちにも浮上してないなら凸る。」
「無理だろ、出来ても捕まるぞお前。」
「Lilyの安否を確認するだけだ、悪用しようとしてるわけじゃない。ただ、人の手が要る。」
まぁひと月も前の投稿から遡る気なら、そりゃ必要だろう。とっくに埋もれてる。
「お前も参加しろReX。クランメールで参加者を募ってくれ。」
「はぁ、マジかよ?一応日本1位のクランのマスターなんだぞ?犯罪行為に手を出すとか…」
「日本1位は俺とLilyのおかげだろう。それにお前がLilyに惚れてるのは分かってる。カッコつけてないで協力しろ。」
図星をつかれて何も言い返せない。あーーめんどくせぇな。これで普通にアイツが戻ってきたらどうするつもりなんだ?こいつら。
「はぁ、分かったよ。やるだけやるか。」
「ぶはぁwお前あのクソ女に惚れてんのかよw釣り合わねー!てか似合わねぇ!!」
「いや、それお前もな?わざわざ探そうとするレベルで大好きじゃん。ていうか惚れない方が無理だろ、ずっと同じクランだったんだぞ。アイツのかっこいい武勇伝、今から1時間語ってやろうか?」
男女間の恋愛感情ではない。どうせネカマだろうし。
それを差し引いてもあいつの生き様は見る人を魅了する。有り体にいえばかっこいいのだ。本人がそれを目指して完璧になりきっているのだから当たり前だと言えば当たり前だが。
「は?ちげぇよ!俺は別に好きとかそんなんじゃねえ!あの女が居ねえとつまんねぇだけだ!!武勇伝は今度聞かせろ!」
「まぁかっこいいからね、Lily。このクランで惚れてない奴多分居ないよ。ちなみに俺は2時間は語れる。」
「どこで張り合ってんだよ…」
この時俺はまだ知らなかったが、1ヶ月後にはリア垢を特定し、Lilyがリアルでも女だったという事に驚くはめになる。
そしてLilyの住所を特定し、この3人で家に押しかける事になるという事も、蓬がリアルでは中学生だって事も、返事がないからとBBが窓を割って侵入するレベルの気狂いだって事もまだ知らない。
そこでどんな事件に巻き込まれることになるかも、まだ知らなかった。
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