14 セレモニーと出立
「あー疲れたーー!」
「リリィ様、今日はこれからが本番ですよ?頑張ってください。」
「うぅ、そうなんだけどさ。」
準備だけで相当疲れた、日が昇る前の早朝というか深夜に叩き起されてドレスの着付けを行ったのだ。
寝不足でもある。
「私の格好、変じゃない?大丈夫かな。」
「とってもお似合いですよ!お姫様みたいです!リリィちゃん、今日は頑張りましょう!」
「はい、本当によく似合っていますよ。最後のひと仕事です、これが終わったらいっぱい甘えていいですからね?頑張りましょう。」
「そう、なら良かった。これが終わったら2人にいっぱい甘えるね?」
正直に言うと私の美的感覚からすれば微妙な格好なんだけど、この国の人からしたらよく似合ってるらしい。ドレスは原型と白い布地が半分ぐらいしか見えないくらいキラキラと飾られてるし、髪は支柱と飾りに編み込まれて塔の様にそびえ立ってるんだけど。まぁ私の素養が無くて良さが分からないんだと信じよう。今更戻せないしこれ。
国王陛下と以下おっさん達の挨拶を聞き、御神輿のような馬車に乗せられて行進が始まる。
今日の私の日中の仕事は、この上から王都市民達に向かって微笑みかけて手を振ることだけだ。でも一日中とか絶対にしんどいんだけど。アリスかアビーが一緒に居てくれれば抱きついて充電できるのに。
今日私は1人、というか国王陛下と王太子殿下と3人だ。
テンションはダダ下がりだけど、これが終わったらもう何もしないと決めてある。いや旅に出る時にはまた挨拶しなきゃ行けないんだけど。
よし、アリス達とのイチャイチャ生活の為だ、頑張ろう。今日頑張ったら多分アリスとアビーはご褒美をくれるはずだし。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
日中の行進と夜のパーティが終わって部屋に戻った
「………」
疲れた、もはや喋る気力すらない、
行進自体は何も問題が無く終わった。午前のかなり早い段階で王太子殿下にプロポーズされて断ったこと以外は特に何も無かった。
一日中仕事なのに初手から空気最悪になるかと思ったけど、国王陛下が上手くとりなしてくれたおかげでギスギスしなくて済んだのが大きい。本当にありがとうございます陛下。
陛下はかなり有能だった。あの可愛らしいフォルムだけじゃなく、空気を読むのが抜群に上手い。あと私と同じくらい疲れてるはずなのにパーティではたくさんの貴族に囲まれて歓談してた。体力お化けかよ、私はさっさと撤退したっていうのに。慣れてるんだろうな。
評価はうなぎ登りだけど、ごめん名前長過ぎて全く覚えてない。陛下で通じるからいいよね?
「本当にお疲れ様です。リリィ様、お化粧を落として服を楽なものにしましょう。」
「ありがとアリス、アビーは?」
「まだ仕事中です。」
「そう、私もう限界だから、やっといてくれる?」
「はい、かしこまりました。」
「あと、朝まで一緒に…アビーも…。」
私の意識はここで途絶えた。
「うふふ、本当にお疲れ様でした。ご立派でしたよ、リリィ様。」
目が覚めると目の前にアリスが居た。
思わず手を伸ばす。柔らかくてすべすべしていてとても落ち着く。
3日前はアビーの日だったし、一昨日は朝が早いからとそのまま寝たし、昨日も疲れて寝落ちしたから、アリスに触れるのがかなり久しぶりに感じる。
「ダメですよリリィ様、今日は服を作って旅の準備をなさる日でしょう?」
「服は作るけど、午後だよね?旅の準備は、疲れたから明日にするよ。それより、昨日頑張ったからご褒美が欲しいな。」
「仕方ありませんね…」
本当にアリスは私に甘いよね。そんなんじゃダメ人間になってしまう。座った状態でキスをして、お互いの体に手を伸ばす。
「んっふぅ、リリィ様…ん。」
しばらくそのまま服の上から触り合いをしていたけど、ふとアリスが手を止めた。
あれ?なんで手を止めたんだろう。
あ、顔も離れていく。
アリスの顔を見ると私の後方を見ていた。
私も後ろを見る。
アビーが横たわったまま、顔を茹でダコの様に真っ赤にしていた。
「はわ、すみません。私の事は気にせずどうぞ続きを…。」
アビーとはまだキスから先は未体験だ。流石に刺激が強過ぎるだろう。おっぱいはほぼ毎日触ってるけど。
「いや、ごめん。そろそろ起こしに来る人も来ると思うから、朝ごはんにしようか。」
「うー、ごめんなさい。」
「おはようアビー。」
「おはようございます、リリィちゃん。」
起き上がってきたアビーにもキスをする。
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そんなこんなで出立の日だ。
端折り過ぎ?いや準備と模擬戦とイチャラブしかしてないからね。
そろそろ夏が本格的になりそうで、梅雨はないらしく爽やかな風が吹く柔らかい日差しの日だった。旅立ちにはちょうどいい。
見送りには結構な人数が集まっていた。何故か王太子殿下も居るけどそれ以外はみんなお世話になった人達ばかりだ。
アリスは同年代ぐらいのメイドさん達に囲まれて話している。中には泣いてる人も居た、人望が厚いんだね。
よく見るとリーズさんを始めとするベテラン勢の方や、侍女長さんも居た。何やら熱心に話し込んでは頷きあっている。手の動きが完全にいやらしい感じなんだけど、もしかして今房中術のレクチャーをしていらっしゃる?アリスが日に日に上手くなっていってるのリーズさんのせいだったのか!最近ほんとに勝てなくなってきてるからやめて欲しいんだけど。
侍女長さんはボロ泣きで色々と手渡していた。
そろそろ夏が始まるのに毛布やら手袋やら…あの量馬車に乗り切るかな?
アビーは黒づくめのローブ集団に囲まれていた。
どうやらアビーは宮廷魔導師達の中では皆の妹の様なポジションらしく、頭を撫でられては威嚇していた。
でも全然嫌そうではなさそうだ。目の端に涙が浮かんでいる。エドワードさんも来ていて、アビーに何やら厳重に封を閉じた木製の小さな箱を手渡すと一言二言言ってこっちを見る。そのままこっちに歩いてきた。ドライだね。
私は王国軍の人達に囲まれていた。王太子殿下は少し話してすぐに帰っていってしまったからだ。
殿下は何故か私より強くなると宣言するなり踵を返して走り去った。陛下にどう言いくるめられたのか何となく分かる。それ、奇跡が起きない限り無理筋だよ。
王国軍には結構容赦なくボコボコにした私に恩を感じている人が何人か居たようで、何故か敬礼したまま別れを惜しむ挨拶をしていた。アキーレさんは号泣している。でも多分寂しいとかじゃなくて練習相手が居なくなるのが悲しいんだろう。彼は軍の中では頭1つ以上実力が抜けているし、剣が好きだからこそ苦労するだろうな。話もラーゼンでは気をつけろという話以外は剣の事ばかりなので分かりやすい。
ただ、よく分からないけど、剣術狂いのアキーレさんがこのタイミングでラーゼンの話をするって違和感があるね。私の知らない因縁がありそうな気がする。
最後に、探索者ギルドに着いたらこれを渡してくれと手紙を受け取った。探索者ギルドに知り合いがいるのか。
「リリィ殿、今よろしいかな?」
「エドワードさん、はい。大丈夫ですよ。」
「これからも儂はアビーに手紙で現況を伝えてもらう事になっている。何か困ったことがあれば頼ってくれ。いや、困っていなくても頼ってくれていい。ただくれぐれも、くれぐれもだな…」
「はい、分かっていますよ。問題は起こしません。」
「ああ、分かっているならいい。今やリリィ殿は王国の貴族連中の中では最も有名な人間だからな。じきに市井の方にも名前は届くだろう。ラーゼンで何か問題を起こせば、それは国王陛下の──」
何やら説教が始まってしまったけど、この人も心配してくれているんだろう。話の流れが、私が問題を起こすと儂が胃痛で倒れるんだぞ?みたいな話になっているけど、そんなに心配なんだね。途中、私に勝てる気がしないみたいな事をポロッとこぼしていたけど、私エドワードさんと戦うつもりないよ?
別れの挨拶が済んだので馬車に乗り込む、屋根付きの御者台があるかなり大型のものだ。6人以上は余裕を持って座れる上に後方に荷物を載せるスペースがある。
私が旅に出ると決めた時に特注で作り始めたらしく、新品だ。でも要望通りちゃんと地味な木製馬車で悪目立ちしないようになっている。馬は2頭で牽くらしくそれも貰った。こんな大型馬車を2頭で牽けるのか不安だったが、アビー曰く「性格が臆病で軍馬になれなかっただけで、体格は最高ですよ。駄馬の中では間違いなく最高級なので2頭でも全く問題ないです!」との事だ。
馬車は木製だけどサイズと馬で目立ちそう。全く考えてなかったよその辺。
馬車から頭を出すと沢山の人が手を振って見送ってくれていた。私も手を振り返す。
思えば召喚されてから、かなり人に恵まれていたね。
最初はここでやっていけるのか不安だった…事も無いね、初日から割と適応してたわ。メイドさんに体洗わせるのを楽しむくらいには。それでも今日までこんなに沢山の人のお世話になったんだなと思うと、感謝せずにはいられない。
私はお城が遠ざかり、人の姿が点になって見えなくなるまで手を振り続けた。
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