13 武器選びと初めての…
今回で旅に出る前の日常回は多分最後になります。
おっさん達に挨拶して回る話は書きません。
「おお〜武器庫って結構広いんですね。それに明るい。」
「いざと言う時には沢山の人が駆け込みますからね。それに武器は個人で使うものではありませんし、人が多いと相応に規模も大きくなるのです。これでも分割して保管している一部なのですよ。」
私はアリスとアビーとアキーレさんとの4人で城の武器庫にお邪魔していた。
何となく武器庫って狭くて暗くてジメジメしているイメージがあったから、存外広くて明るくて清潔なのは驚いた。魔道具で換気と照明を賄っているらしい。機能性と武器が金属のものが多いという事を考えたらこの形で保管するのが正しいのだろう。
個人で武器を使わないというのは、この時代武器はかなりの高級品なのだそう。
「すみません、アキーレさん。わざわざ案内してもらって。」
「いえ、お詫びのようなものですよ。」
「……」
そう爽やかに言われるとわざわざ復讐した私の器の小ささが恥ずかしくなる。
貴族達から逃げた件について、結構ネチネチと責めた上に、模擬戦で都合3回派手にぶっ飛ばした所で手打ちだと思っていたんだけど。まぁ彼の人柄から考えてそれはむしろご褒美だったのかもしれないね。
剣術が大好き過ぎるせいで行き遅れていると衛生兵の方達がこっちをチラチラ見ながら嘆いていた。
残念ながら私はもう売約済みだけど、部下にも慕われているのはこういう面倒見のいい所が関係してそう。
「長物は特に厳重に保管してありますので、奥ですね。こちらです。」
奥に進むと更に鍵がかかった部屋が出てきた。既に武器庫に入る時と合わせて3個目の鍵付き扉だ。
1個目の扉の中には消耗品や手入れの道具。
2個目の扉の中には剣や投射武器の本体。
3個目の扉の中に長物武器や鎧が仕舞われているらしい。
扉をくぐると、先程までのどこか一般的な倉庫のような雰囲気の部屋とは打って変わって、これぞファンタジーの武器庫、といった風情の部屋に出た。
金属製のプレートアーマーが一定間隔で並び、壁には槍や大剣が綺麗に立てかけてある。
「わ、リリィちゃん!あれ見てください!」
「うわ!大きいね、何あれ?」
「あれは巨人族用の両手剣ですね。昔この城に居たらしいです。」
モン〇ンにでも出てきそうな巨大さだ。御前試合で使った大剣をそのまま1.5倍にしたようなサイズ感で、大きな両手剣と言うよりは長い大剣といった存在感である。私の身長より大きい。
「あれ持ってみてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。」
立てかけてあったの巨大な剣を掴み、持ち上げる。
「むむ…これは使えないなぁ。流石に振り回せない。」
というかそもそも持ち歩けない、邪魔すぎる。
「わぁ凄いですね…リリィちゃんでも重たいんですか?」
「うん、それもあるし、柄が太くて握りづらいのもあるね、あと重心が外より過ぎる。」
「SoS」にはステータスの補正があるし、謎の物理法則でどう見ても体重より重いよね?って物も振り回せる。普通なら遠心力で体の方が外側に吹っ飛ばされるんだけど。
けどそれにしてもこれは大き過ぎるね。持ち上げて振り下ろすぐらいしかできなさそう。振り下ろすと言うより立てて倒すような動作だけど。
柄も太すぎて握ると言うより掴むと言った感じで、辛うじて親指と中指が触れる程だ。細かい動きが出来ないだろうね。
壁に立てかけ直す。
「そもそも持ち上げられる時点でおかしいと思うんですけどね…」
アリスが今朝部屋を出てから初めて自分から喋った。さっきまで使用人然とした佇まいで話しかけないと喋らなかったのに、それが崩れるぐらいショックだったらしい。
あ、あれ私の使ってた武器に似てる。
1つの武器が目に付いた。剣先が平らな諸刃の大剣だ、刃の厚みは他の大剣より少し薄めで大剣にしては珍しく叩き潰すよりも斬る事に主眼を置いているらしい。私好みだ。
剣先を平にするメリットは2つ。1つは剣先が割れない事。これはゲームでは関係なかったけどこちらでは大事だろう。もう1つのメリットはかっこいいことだ。
デメリットは同じ重量の剣先が尖っている物と比べてリーチが数cmであるが短い事。刺突に向かない事だ。大剣で刺突はほとんどしないので実質前者のデメリットのみだろう。刃先で斬る時に滑りやすいとか他にもありそうだけど、ステータスで殴る私のスタイルでは誤差だと思う。
手に持ってみて重さや重心を確認する。
握りも問題なさそうだ。
「これにします、これ持って行っていいですか?」
「もちろんよろしいですよ。ただ本当にそれで良いのですか?」
「はい、前使っていたものと似ていて扱いやすそうなので。」
「なるほど、確かにそれは重要ですね。」
私の使っていた剣は断罪シリーズの武器で、STRとPOWの和を参照してステータスに補正を掛けるものだったため、私の処刑人と相性が良かったのだ。
流石にこの武器にそんな補正は無いだろうけど。
うふふ、それでも初の私用の武器をゲットしたぞ。
ポンッ
ん?なにか変な音がした
「今なにか変な音しなかったですか?ぽんって。」
「恐らく、武器の所有権がリリィ殿に移ったのでは無いですか?もしかしてこちらに来て初めてですか?」
え、何それ?アキーレさんは当然のように言っているけど、アリスとアビーはなんの事やらと言った様子だ。
「メニューを開くと確認できますよ。今までリリィ殿は武器を借りているだけで所持はしていなかったんですね。簡単に手放せるので遠慮しなくて良かったんですが…」
「いえ、すみません。そもそも私の元いた世界ではこういう風になった事がなくて。よく分からないです。今確認してみますね。」
メニュー!
リリィ 女 処刑人 Lv.100
HP:99%(1280) MP:100%(1100)
STR:328(+18)
AGI:210
VIT:128(+18)
MAG:110
POW:310
状態:疲労(軽)
装備:「巨鬼殺し」:STRとVITに+18(固定値)トロールの再生能力を無効化して特攻ダメージを与える。
おお、ちゃんと装備できてる。どうやらさっきの音はこれで間違いないようだ。
巨鬼殺しって名前なんだねこの剣。
こっちにも装備でのステータス補正あるようだ。かなり物足りないけど。
「SoS」で使っていた武器だと私が持った場合、補正ステータス合計+294の破格の性能をしている。ステータス強化以外の能力は何も無いんだけどね。
それと比べると補正ステータス合計+36はほぼ初期装備レベルだ。割合じゃなくて固定値だし。特攻はあるけどトロールのみの塩味だね。
まぁ特注の武器を作るまでの我慢だ。
「装備できているようです。音もこれみたいですね。」
「それは良かった。こちらが大剣用の鞘です。」
「ありがとうございます。」
受け取って鞘に収める。鯉口から剣を抜くタイプではなく、止め具を外して横から剣を出すタイプのようだ。大きいと抜き切るのが大変だからだろう。
ついでに肩に掛けるベルトも貰い装着する。
剣の武器としての強みは携帯性だと聞いたことがあるけど、大剣の強みはロマンなのだ。
まぁ私はロマンとかどうでもいいタイプなんだけどね。選択肢がそれしか無かったから使っていた。断罪シリーズは全部デカいのだ、片手剣なのに。
結構時間が経っていたようで、武器庫を出ると日が暮れようとしていた。アキーレさんと別れ、部屋に戻る。途中すれ違う通行人やメイドさん達が私の背負っている大剣を見てギョッとしていたけど、恥ずかしくなんかない。盛大なパイスラを見られても恥ずかしくないのだ。
「リリィちゃん歩くの速いですっ、急にどうしたんですか?」
「ああ、ごめん。ゆっくり歩くね。」
無意識に早足になっていたようだ。
アビーは3人の中で1番背が低いから、歩くのも遅い。いや、よく見るとアリスも息が上がってる。申し訳ないことをしたね。
部屋に戻って剣を置く。
そろそろ夕食の時間だろう。
「2人とも今日は付き合わせちゃってごめんね?つまらなかったら明日からは訓練場にまで着いてこなくてもいいんだよ?」
「いえ、私は結構楽しかったですよ?明日からも着いていきます。色々と心配ですし、特に、女性関係が。」
「私はリリィちゃんにどこへでも着いていくですよ!それが付き人の特権ですし!!」
どうやら明日からも2人とも着いてくるようだ。
でもアリス?私をだらしない人みたいに言うのやめてよ。そもそも訓練場に女の人は居ないし。…昨日の今日で言い返せないんだけどね。
夕食を食べ終え、夜がやってきた。
2人は話し合った結果、ローテーション式で私と一緒に寝ることに決まったらしい。アリスは最初からそういう関係ありきで付き合い始めたけど、アビーはそうじゃない。私と付き合ったらその日からエッチな事をしなくては行けないなんて高度な縛りを自身に課すつもりも無いし、ゆっくりと関係を深めて行けたらと思っていたので、都合がいい。まぁ昨日はアビーだったので今日はサキュバス様なんだけど。
「2つです。」
2人きりになるなり、アリスはそう切り出した。
「2つ?」
「はい、2つです。1つ目は、2人きりの時間を過ごすはずの予定を潰した上に、そのまま恋人を一晩放置した事。2つ目は、私と付き合い始めてすぐに他の女性に手を伸ばした事です。リリィ様には私に2つの負債があります。」
「は、はい。ごめんなさい。」
目が全く笑っていない、思わず敬語になるぐらいには怖い。
「そんなに怯えないでください、それに私も焦っているのです。このままリリィ様が私から離れてしまうんじゃないかと…」
アリスは腰を畳むようにその場に崩れ落ちそうになり、私がそれを抱きとめる。
動作が大袈裟な気がするけど、気のせいだろう。
「そんな事ないよ!私はずっとアリスのものだよ。」
「それなら、証明して欲しいんです。」
「証明?」
「はい、証明です。リリィ様は2回も私を裏切りました。証明がなければ信じられないかもしれません。」
なんてこった、アリスはとても傷ついていたようだ。完全に私が悪い…でも信じて欲しい。私がアリスから離れることなんて絶対にありえない。
「何をすればいいの?なんでも言って!私はもう絶対にアリスを裏切らないって証明してみせるよ!」
「ありがとうございます。では、今日はこちらを使いましょう。」
どこに隠していたのか、ソレをアリスは手に持っていた。
特徴的な凹凸を持つ黒い棒状のアレである。
「私にリリィ様の初めてを下さい。それが証明です。」
「え、えっと私ちょっと心の準備をしたいというか…」
見た目がおどろおどろし過ぎるでしょ、それ。
もうちょっと初心者向けのやつ無かったのだろうか?
「…やっぱり無理ですよね、リリィ様にとって私はその程度の存在なんでしょう。」
「待って!分かったよ、うん。大丈夫、怖いけど、アリスにならあげられるよ、私の初めて。でも少しだけ時間が欲しいというか…」
「少し待つと、そのあと半月は野外ですよ?初めては、清潔な環境でした方がいいと思うんです。それともラーゼンに着くまでずっと待たせるおつもりですか?」
確かに、そんなに待ってもらう訳にも行かないだろう。私もアリスを安心させてあげられるなら、それは早ければ早い方が良い。
「うぅ…分かったよ。できるだけ優しくお願いね?」
「はい、それはもちろん。それと、私の初めても貰って頂けますか?リリィ様のと同じ、これで。」
「それはもちろん!分かった…頑張るよ。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう言った時のアリスの顔はこれまでで1番嬉しそうな、花の綻ぶような笑顔だった。
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