12 戦闘以外は全部弱い
ギリセーフ!!
「うぅ…ごめんなさい。」
「謝らないで、勘違いしてた私が悪いんだし。」
アビーはしばらくすると泣きやみ、ポツポツと自分の心境について語った。取り留めもなく内心を吐露しているようで話は纏まっていなかったけれど、私の事が好きだということは十分に伝わってきた。
アビーが話し終えるまで私はずっとアビーの髪を撫でていた。
私は、アビーが私に向ける好意は、アイドルに向けるような種類の物だと勘違いしていた。好きだと言われたのが初対面の時だったというのもある。
アビーからすれば好意を伝えていた人に恋人が出来て、邪魔だと言われた訳だ。普通に振られるより余程きつい。そりゃ泣くよね。
どうすりゃいいんだろうこれ…
自分の恋愛経験値の低さが恨めしい。
自分のせいで泣いてしまった女の子を放って置くことは当然できないし、どう収拾を付けるかも分からないままアビーを撫でているんだけど、さっきからアリスからの視線が痛い。
アリスはアビーの後方から、冷たい視線を私に投げ続けていた。
「はぁ、完全にリリィ様が悪いですね。」
「……はいその通りです。本当にごめんね、アビー。」
一瞬、ただの非難の言葉かと思って凹んだけど、すぐに違うと気づく。これはアリスなりのアシストだろう。まだ出会ってから少ししか経っていないが、アリスが私にとことん甘い事は分かってる。多分、アリスに任せればいい感じの着地点が見つかるはずだ。
我ながらクズの思考回路で嫌になるけど、そうせざるを得ないぐらいには私はこの場で無力だった。
アビーは突然の謝罪にぽかんとしているが、アリスはそのまま言葉を続ける。
「こんなに一途にリリィ様の事を思っている女の子にこんなに酷い仕打ちをして、どう償うおつもりなんでしょうか?」
「え…えっと…。」
任せておけばいいというのは流石に甘かっただろうか。でもどう償うかと聞かれても、私に出来ることはない。これ以上謝ってもアビーはむしろ傷付くだろう。
「リリィ様。リリィ様はアビー様の事はどう思っていますか?」
私の腕の中に居るアビーの肩がビクッと震えたのが分かる。
でもどういう質問の意図なんだろう。可哀想とかそういう話じゃないよね、えっと。
「元気で、素直で、可愛くて、好ましいと思ってるよ。」
「なら、何も問題は無いではないですか。アビー様はリリィ様が好き。リリィ様もアビー様が好き。それなら、アビー様とも恋人になれば良いと思いませんか?…いえ、それはリリィ様が決めることですが。そうでなくとも、少なくとも邪険にするのは間違っていると私は思います。」
好きとは言ってないんだけど…でも理屈は分かる。
そもそもアリスとも、最初にそういう関係になるまでは、可愛いと思っているぐらいの感情だった。今では大好きだけど。
いや問題はそこじゃない、アリスと付き合っているのに他の人ともそういう関係になるのは、不誠実な気がする。そもそもアリスも、私とアビーが恋人になるとしたら、それで納得するんだろうか?
「アリスはそれで良いの?」
「私の事もちゃんと愛してくれなきゃ嫌です。けどそもそも私はリリィ様の事を独占出来ることは思っていませんでしたし、リリィ様の邪魔をする事なんて出来ません。したくもありません。」
「アリス…」
「私は自室で休みますので、後は2人で話し合ってください。」
そう言うとすぐに部屋から出ていってしまった。
アリスにも本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
今日の埋め合わせは本当に頑張らないと行けないな。
いや今はアビーに集中しよう。
抱きしめていたアビーに顔を向けると、アビーも顔を上げて私を見つめていた。何か期待する様な目だ。
「アビー。」
「ご、ごめんなさい…お二人の邪魔をするつもりはなかったんです。」
「いや…それよりこっちに来てくれる?はいこれ。」
ハッと気づいたように謝ってくる。
謝らないでと言っても無理そうだ、むしろ謝らなきゃいけないは私の方だと思うんだけど。
取り敢えずソファの方に引っ張り、机にあったコップに水差しから水を注いで渡す。
ソファに座り、隣に座るように手で示す。
アビーは私から少し離れた位置にちょこんと座った。
思えば、アビーはかなりアピールをしていた。本来より早く付き人になる事が決まったのも多分、エドワードさんに無理を言ってねじ込んでもらったんだろう。初対面で大好きだと言っていたし、ずっと一緒に居たいと常々言っていた。
「アビー、私ね、アリスのことが好きなの。」
「はい…」
俯いて返事をした。消え入りそうな声だ。
「それに、アビーの事をアリスと同じくらい好きになれるかも、まだ分からない。アビーがそれでもいいなら、私なんかでいいと思ってくれるなら、私の恋人になってくれませんか?アビー。」
アビーは驚いたように顔を上げる。目が合い、こちらの真意を問うてくる様な目で見つめてくる。
少ししてアビーの目から涙がまた零れ始めた。
「わ、わたしリリィちゃんの事、大好きです。」
「うん。」
「2番目でも良いです、好きになって貰えるように頑張ります。だから、リリィちゃんの、恋人になりたいです、うぐっ。」
「うん、ありがとう。凄く嬉しいよ、アビー。」
ぎゅっと抱きしめる。アリスより小さくて薄い。
アビーは私を抱きしめ返すと、胸に顔を押し付けて声を押し殺すように泣いていた。
しばらくその体勢のままだったのだけど、アビーは泣き疲れたのか抱きついた体勢のまま眠ってしまった。
腕だけはしっかりと力が入っており、離そうとしても離れそうもない。いや離すつもりは微塵も無いけど。
アビーを抱き上げてベッドまで運び、ゆっくりと横になる。
こうして見ているとまるで赤ちゃんみたいだね。
さっきは好きになれるか分からないと言ったけど、そんなに心配はしていなかった。既にかなり愛おしいと感じている。
「おやすみアビー。」
アビーのおでこにキスをして、私も目をつぶる。
私も疲れていたのか、そのまますぐに眠ってしまった。
体に違和感を感じて目を覚ますと、アビーはもう既に起きていた。
「おはよう、アビー…。」
「っ!!お、おはようです、リリィちゃん。あの、これは違うんです、起き上がろうと思ってただけです!」
どうやら私が抱きしめていたせいで抜け出せなかったようだ。そんなに焦ることないのに。
急いで離れようとするアビーをぎゅっと押しとどめる。
少しずつ脳が覚醒し始め、なんでアビーが焦っていたのか理解する。
さっき、私のおっぱい揉んでたね。
いや別にいいんだけど。女だっておっぱいは好きな人は居るし、これだけ大きければ気にもなるだろう。かくいう私も、召喚されてからアリスが部屋に来るようになるまでは毎日自分で揉んでいた。セルフでプレジャーしていたとも言う。夜、眠る前の儀式みたいなものだよ。
「おっぱい好きなの?」
「違うんです…」
「そうなの?好きなら触ってもいいよ。」
「大好きです。」
「素直でよろしい。」
アビーは言い終わる前に既に胸を揉んでいた。
「んっ…」
「わ、凄…大きいのに形も綺麗…あ、硬くなったです。」
そりゃなるよ。それより…
「人が居る時はダメだからね?」
「居ない時ならいつでも触っていいんですか?!」
「え?う、うん。」
思ったよりも食い付きが激しくてびっくりした。
それにしても良かった、もうすっかりもとの元気を取り戻したようだ。元気過ぎて鼻息が荒いけど。
「アビー、そろそろ起きない?んっ。」
「もう少しだけ、もう少しだけお願いします。」
「何してるんですか?お二人とも、朝ですよ?」
ピシッと空気が凍る音がした気がした。
アビーの手もピタリと止まった。
「あ、あはは、アリスおはよう。いつの間に部屋に入ったの?」
「おはようです、アリスちゃん…」
「おはようございます、お二人とも。すっかり仲良くなれたようで良かったです。普通に入室しましたよ。」
アリスは微笑んだままゆっくりと歩いて近寄ってきた。あの顔は見覚えがある。怒ってる時の顔、いや、怒っているという理由で私をいじめるのが楽しくて仕方がないという顔だ。
「お手本を見せますね?」
半分起き上がって居た私をベッドに押し付けて馬乗りになる。
そして私のおっぱいに手を伸ばす。あ、これアカンやつや。
「あっそれダメっ!あっ!」
「リリィ様はこういう風に、横の辺りを揉みながら先っぽを捏ねられると、胸だけで簡単に×きます。」
「あ、アリス!ダメっ…ああっ!!」
「わ、凄い…。」
本当に一瞬で×ってしまった。
ここまで一方的だと負けたという感覚になる。
「分かりましたか?アビー様。基本的にリリィ様は弱過ぎるので逆に分かりづらいのですが、諦めずにより良い方法を探すことが大切です。」
「は、はい!分かりました師匠!ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします!私のことはアビーとお呼びください。」
「いい心掛けだと思います、アビー。」
まずい、アビーまでアリスみたいになったら、私の体が持たないかもしれない。
「それで、結局付き合う事になった、という事で間違いありませんよね?おめでとうございます。」
「あ、うん、そうなったよ。ありがとうアリス。」
アリスには申し訳ない気持ちもあるけど、ここで謝るのは違うだろう。アビーにも失礼だ。
「師匠、ありがとうございます。それでその…」
「ええ、私もギスギスするのは嫌ですので、そんなに気を遣わないでください。元々、私もアビーのリリィ様への献身は好ましく思っていましたし、仲良くいたしましょう?」
「…!はい!よろしくです!!私も仲良くしたいです!」
…良かった、まだ完全には安心できないけど、2人の相性もそんなに悪くなさそうだ。でも呼び方はアリスちゃんに戻した方がいいと思うよ。
「それはそうと、今日はかなり予定が詰まっているのではありませんか?早く準備いたしましょう。」
「そうでした!リリィちゃん起きてください!」
「ああ、うん。急いで準備しようか。」
この3人のヒエラルキーがアリス頂点で固定されたね。まぁいいんだけどさ。