かくれんぼの鬼
三作品をいっぺんに上げようとしたら長引いてしまった。取り敢えず【夏のホラー2021】をお楽しみ下さい。
___ も~いい~か~い ___
___ ま~だだよ~ ___
___ も~いいか~い ___
___ ま~だだよ~ ___
誰かの声を聴いたような気がして目が覚めた。
時計を見ると朝の5時だ。
あの声は居なくなった妹の声?
7歳の時、妹は行方不明になった。
私と妹は二卵性双生児で、妹はとても可愛かった。
色が白く、瞳は黒曜石のように煌めき、髪は艶やかで中々の美少女で……
あの時、神社の境内でみんなと一緒にかくれんぼをしていた。
妹が鬼だったからみんなで隠れた。
ところが、いつまでたっても妹は、私達を探しに来ない。
飽きっぽい子だったから何も言わずに帰ったのだろうか?
夕方のサイレンの音を聞いて私達は帰る。
家に帰ったら妹は帰っていなかった。
母親は大騒ぎして、ご近所の皆さんにも妹を探してもいらった。
だが、妹は見つからなかった。
警察も近所の森やら川やら探してくれたが、見つからない。
妹はそれっきり【神隠し】にあったように見つからなかった。
誘拐されたんだと人々は噂し。
私は母に責められた。
「あの子の代わりにお前がいなくなれば良かったのに‼」
事あるごとに母は私に暴言を吐き、殴り私を責める。
妹は母に似ていて将来は美人になるだろうと皆にちゃほやされていた。
妹は母のお気に入りで、溺愛されていたから。
父はそんな母に何時も疲れた顔を向けていて、でも母を止めはしない。
いたたまれなくなった私は高校を卒業すると、家を出て働いた。
妹が居なくなってから……20年たち。
母も父も去年事故に遭い、鬼籍に入った。
今年ようやく実家が売れ。
妹が居なくなってからあの家にはいい思い出が無い。
私は家を売り出して、家が売れた。
そのお金でマンションを買う予定だ。
ことり
郵便受けにハガキが投函される。
ワンルームのアパートでリモート会議の途中だった。
後で確認すると同窓会の案内だ。
随分皆に会っていない。
皆は元気だろうか?
そう言えば、有休も溜まっている。
墓参りのついでに、皆に会うのもいいかもしれない。
私は出席に丸を書くと、コンビニのポストにハガキを投函した。
~~~*~~~~*~~~~
「随分久しぶりね」
料亭神楽で同窓会は開かれていた。
昔からある大きな料亭で両親の葬儀の料理もここに頼んだ。
3階建ての本館と、少し離れた所に別館がある。
見事な日本庭園の中にある別館は、少し騒いでも大丈夫だ。
そう言えば、別館の裏にあの神社があったわね。
同窓会で真っ先に声をかけてくれたのは友人の南はるかだった。
三年前に結婚して子供もいる。
苗字が変わったが、私達は相変わらず彼女を南と読んでいる。
妹が居なくなった時、一緒にかくれんぼをしていた幼馴染だ。
何かと気遣ってくれて、家を出るのを後押ししてくれたのも彼女で。
母の暴力が酷い時、彼女の部屋に匿ってもらった事もたびたびあった。
「そうね。去年両親の葬式でバタバタしていたから……ゆっくり話せなかったね」
「ご両親……残念だったわね」
「飛び出してきた子供を避けようとして電信柱に激突するなんてついてないわ」
両親はいつだってついていない。
「それで飛び出してきた子供は見つかったの?」
私は首を振る。
目撃者の話では、飛び出してきた子供を避けて電信柱にぶつかったのだ。
「警察からは何も言ってこないわ」
「そう……愛梨ちゃんの事は?」
「それも無いわ」
私はビールを一気に煽りドン‼と置く。
使えね~と言う言葉を飲み込む。
「あ……南幹事だったね。ハイお金」
「ハイハイ。会費受け取りました。そう言えば、榊くん刑事になったの。知ってた?」
「えっ? いや初耳よ」
榊くんもあの時かくれんぼをしていた仲間だな。
私と南と榊君と愛梨と後誰だったけ?
「榊くんも……囚われて抜け出せないのかな?」
ポツリと南が言う。
「あやめ。おひさ~」
私に声をかけてくれたのは山田君だ。
陽気なクラスの人気者。そうだ彼もあの時いたな。
「なあ。クラス会が終わったら、あの神社に行かないか」
私たちの地区は幼稚園から小学校、中学校、高校と集まっていたから。
みんながみんな幼馴染みたいなものだ。
大学を除いてほぼ同じ時間を過ごした。
「ちょっと……」
南が山田君を止める。
「そうね。実家が売れたからマンションを買うつもり……もうここには帰らないから。最後に神社を見ておくのも良いかも知れない」
私は頷いた。
「すまない。遅れた」
若い男が入ってきた。
刑事になったと言う榊君だ。
子供の頃はやせっぽちでヒョロヒョロだったのに。
今では柔道でもやっているのか、がっしりとした体形になって居る。
そう言えば、彼は地味だが頭も運動神経も良かったな。
「飲み物は何になさいますか?」
小太りの神楽の主人が、榊君に飲み物を聞く。
中居のアルバイトが2・3人忙しそうに料理やお酒を運んでいる。
「取り敢えずビールで」
私はおしぼりを榊君に渡す。
「久しぶりね。榊君。この後みんなで例の神社に行かないかって話してたの。榊君はどうする?」
榊君はおしぼりを受け取ると、眉をひそめる。
「あの神社に?」
「そうだよ。南と山田君と私と榊君で」
榊君の目がきらりと光る。
「そうだな。いいよ」
榊君は店主からビールを受け取り、私に頷く。
あの時のメンバーだと、気が付いたのだろう。
「あやめは愛梨ちゃんに似てきたな」
何気なく榊君はそう言った。
私は少し眉をひそめる。
そう……確かに私は愛梨に似てきた。
正確には母親に似てきたのだ。
だが、愛梨が居なくなってからの母はヒステリーを起こしている姿しか思い浮かばない。
正直余り嬉しくない。
「ああ……そうですね。随分似てきましたね」
榊君の料理を運んできた店主がポツリと呟く。
私は店主を見ると、少し俯いて店主が答える。
「私とあなたのお母さんとは幼馴染で、昔はよくあの神社で遊んでいたんですよ」
「そう言えば、あの事があってから神社で子供を遊ばせる事がなくなったな」
山田君が思い出したように言う。
「そうなの?」
私は山田君を見る。顔が赤い。かなり飲んでいるのだろ。
「うん。あそこは神主さんがいないから、用心が悪いと学校で遊ばせるようになったんだよ」
小さな神社だしねと榊君は付け加える。
「へ~知らなかった。私は小学校を出るまでは、あまり外に出してもらえなかったから……」
「そうだね。中学校は神社と別方向だし、小学校出ると余り通らないわね~」
南が焼き鳥を食べながら答える。
「神社にお参りしたら直ぐにカラオケの二次会に行こうぜ。俺も転勤で九州の方に行く事になったからな。暫くこっちに帰れないんだ」
山田君が言う。
「栄転でしょう。おめでとう」
南が山田君をからかう。
あんたがまさかの出世頭だなんてね。
「それでは、山田の栄転を祝してカンパーイ‼」
かなりお酒を飲んで出来上がったクラス委員長が音頭を取った。
皆に祝福されて山田君は照れている。
昔はクラスのお調子者だったのに、大人になったものだ。
1時間ほどしてお開きになり、他の人はカラオケに向かい。
私達は神社に向かった。
~~~*~~~~*~~~~
「久しぶりね。ここ」
私はぐるりと神社を眺めた。
「子供の頃は広く感じたけど、大人になって見てみるとこんなに狭かったっけ? て思うわね」
南は頷く。
「そうそう」
榊君も相槌を打つ。
夏祭りが始まるから、神社には大きな提灯が吊り下げられているので夜でも結構明るい。
こちらの祭りは獅子舞をするのだ。
「捨て猫を拾ってきては、神社の床下で育てたんだけど……直ぐに居なくなったな……どこ行ったんだろ?」
「そう言えば、お前よく拾ってきていたよな」
「愛梨ちゃんもミルクをあげて猫の世話をしていたな」
榊君と山田君は懐かしそうに神社を見る。
愛梨ちゃんは優しい子だったと榊君が言う。
「あれ? 霧が出てきたね?」
南が首をかしげる。
「本当だ。えっ? なんで?」
「お……おい。おかしいぞ‼」
「う……動けない……」
「えっ‼ ちょ~やだ……」
騒ぐ皆、私は金縛りにあったように動くどころか声も出せなくなった。
皆の声もしなくなる。
も~いいか~い
子供の声がする。
あの声は愛梨の声‼
霧の中に子供の姿が浮かぶ‼
愛梨が手で顔を覆い数を数える。
4人の子供達が隠れる。
私は灯籠の陰に。
榊君は草むらの陰に。
山田君は井戸の陰に。
南は倉庫の陰に。
その姿は子供の頃の私達。
これは一体どういうことなの‼
まるで20年前の再現の様だわ‼
声を出すどころか指一本も動かせれなくなった私達は、ただそれを見つめる事しかできなかった。
子供の頃の私達を。
も~いい~か~い
再び、愛梨の声がする。
も~いいよ~
私達の声がする。
私達は体を縮めて隠れる。
愛梨は顔を上げる。
私達は誰一人愛梨を見ていなかった。
愛梨に近付く影に気付いていなかった。
だが、直ぐにその口はごつごつした男の手でふさがれる。
「ぐ……うっ……」
愛梨は暴れるが子供の力では男を振り払う事が出来ない。
「お……大人しくするんだ……」
男はハアハア言いながら愛梨を抱える。
私達は呆然と男を見つめる。
知っている声だ。
知っている顔だ。
「いっ……痛い!」
愛梨は男の手に嚙みついた。
男は怒って愛梨を殴る。
ガツ‼
愛梨は石段に頭を打って、動かなくなった。
男は愛梨を抱いて裏道から逃げる。
「どうしょう‼ どうしょう‼ 子供には見られなかったよな」
男は神社の裏手にある小屋に入ると愛梨を床に置く。
愛梨は死んでいた。
首の骨が折れている。
だらりとあり得ない方向に向いていた。
オロオロする男。
「見つかる? 警察もこの子の親も探しに来る? 死体を隠さなければ‼」
男は愛梨の服を脱がすと愛梨を解体し始めた。
頭だけをサランラップでグルグル包むと冷凍庫の中にしまう。
冷凍庫の中にはイノシシの肉や鹿の肉が入っている。
何故だかサランラップに包まれた猫の頭もある。
「ああ……この肉はどうしょう……」
男は解体した肉を見る。
「ああ……そうか……食べてしまえばいいんだ」
男は料理すると愛梨を食べた。
「愛梨ちゃんのお母さんも昔からとっても美味しそうだったんだよ」
思い出した様に神楽の主人は呟く。
男は美味い美味いとガツガツ食べた。
私は我慢できなくなって吐いた。
榊君以外皆吐いているようだ。
「噓だ……噓だ……噓っぱちだ‼ やっていない‼ 俺はあの子を殺していない‼」
いつの間にか店主がそこにいた。
包丁を持って、私達の後ろにいる。
___ 噓じゃないよ ___
___ お前があたしを殺して食べたんだ ___
「ひいぃぃぃ‼』
いつの間にか主人の横に愛梨がいた。
料亭神楽の主人を睨んでいる。
男は悲鳴を上げながら包丁を振り回す。
___ お前お母さんも狙っていたろう ___
「違う違う‼ 俺が悪いんじゃない‼ あれは事故だ‼ 殺すつもりじゃなかったんだ‼」
___ お母さんとお父さんの乗った車の前に飛び出して、二人を殺した‼ 女の子が飛び出してきたと警察に噓をついた‼ ___
___ おねえちゃんも食べるつもりで追いかけてきたろう ___
「違う‼ 違う‼ 俺はあの時見られていないか確かめに来ただけだ‼」
___ 噓つき‼ ___
___ ミャ~~ ___
いつの間にか男の足元に五匹の猫がいる。
「お……お前たちは……」
どの猫も切り刻まれて血だらけだ。
ドロリとした怨嗟の目を向ける。
猫は爪で男を切り刻む。
男は階段の方に逃げ出した。
猫は男を突き飛ばす。
男は階段から転がり落ちて。
動かなくなった。
「愛梨……」
___ おねえちゃん ___
「ごめんね。ごめんね。見つけてあげられなくて。ごめんね」
私は愛梨を抱きしめようとしたが、私の腕は愛梨をすり抜ける。
愛梨は笑うとみ~つけた~と言って猫と共に消えた。
他の皆は動けるようになって、男の骸を見下ろしている。
「あれは何だったの?」
南が、震える声で皆に尋ねる。
「犯人は神楽の主人だったのか……」
「愛梨ちゃんを殺して何喰わぬ顔で暮らしていたのか‼ しかも……」
山田君は言葉を続ける事が出来なかった。
また吐いている。
はっと気が付いた榊君は警察と救急車を呼ぶ。
そして皆に口裏を合わせる様に指示した。
皆でお参りをしていたら、錯乱した神楽の主人が刃物を振り回して、階段から落ちたと。
愛梨の事を除いて概ね真実なので、私達は同意した。
~~~*~~~~*~~~~
「榊君……ありがとう……」
榊君は警察を上手く誘導して神楽の主人の家宅捜査を行ってくれた。
別館の冷凍庫の奥に猫の頭と一緒に愛梨の頭も発見され。
今日、お墓に納骨したのだ。
お墓の前には私に榊君に南に山田君がいる。
添えられた花は愛梨が好きな白いフリージア。
「愛梨ちゃんは俺の初恋の相手だったんだ……どうしても彼女を見つけたくて刑事になったんだけれど……」
そこから先は嗚咽で聞こえなかった。
「これで愛梨ちゃんもご両親の元で眠れるね」
山田君がポツリと呟く。
「それで、家宅捜査して何か分かったの? まさか……犯人が料亭神楽の主人だったなんて……何食わぬ顔で殺人犯が近くにいたなんて……怖いわね……」
「家宅捜査をして小屋の屋根裏に日記帳が隠されていた」
榊君の話では、料亭神楽の別館の離れた所に私達が見たあの小屋があったそうだ。
そこは彼の祖父が料理の研究の為に作った小屋で、大きな冷凍庫と台所があり。
冷蔵庫の奥に愛梨の首と猫の首が隠されていた。
そして小屋の屋根裏で日記帳が見つかり、生々しい犯行が記されていたと言う。
彼はお爺さん子で、良くその小屋に入り浸っていた。
祖父が亡くなった時期と彼が大学に落ちた事が重なり引きこもりになり。
くさくさした彼は、夜中に家を抜け出しては、神社に居る猫を殺して食べた。
気が晴れた彼は料理学校を卒業して京都で修業して帰って来る。
20年前だ。
彼は私の母親が好きだったと言う。
でも母は父と結婚していた。
また……
彼は猫を殺すようになった。
あの日私達が神社の階段を上っているのを偶然見て、後を付けたそうだ。
そして……
私達があの夜見た事が起こり、愛梨は殺された。
「でも……よく他に犠牲者が出なかったな」
山田君が誰に言うことなく言葉を零す。
「快楽殺人犯は捕まるまで止まらないって言うだろ」
「たぶんそれは……自分の好みの犠牲者がいなかったせいだろう」
榊君が私を見る。
「自分の好みの女の子?……そう言えば、幹事の私にクラス会を勧めたのはあの男だった」
私と南は顔を見合わせてゾッとした。
「あの変態‼ あやめも狙っていたのね‼ まんまと利用された‼」
南は憤る。
「それにしても……あれは一体何だったのかしら?」
「愛梨を憐れんだ神様が愛梨と猫に復讐させてくれたのかもな」
「そうかもね……」
私は青い空を見上げた。
何処かで猫と愛梨の声がした様な気が……
いいえ。気のせいね。
彼の両親はまだ生きていて、暫くして店は畳まれ。
料亭は売りに出されたが、あんな事件が起きた物件が売れるはずもなく。
廃墟となり潰されて駐車場になった。
今はただ愛梨と両親の冥福を祈るばかりだ。
~ 終 ~
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2021/7/30 『小説家になろう』 どんC
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~ 登場人物紹介 ~
★ 藤村あやめ (27歳)
主人公。双子の妹が20年前にいなくなる。
そのせいで母親はヒステリーを起こして、関係が悪化する。
父親は傍観していて止める事はしなかった。
高校卒業とともに家を出る。
都市で暮らしていたがクラス会で帰ってきた。
★ 藤村愛梨 (享年7歳)
あやめの妹。7歳の時、行方不明になる。
★ 榊 要 (27歳)
あやめの幼馴染。愛梨の事で刑事になる。
愛梨は初恋の相手。
★ 南はるか (27歳)
あやめの親友。旦那と子供がいる。
普通の主婦。
★ 山田義春 (27歳)
あやめの幼馴染。このクラスの出世頭。
猿に似て落ち着きのない子供だった。
野良猫を拾ってきては神社で育てていたが、神楽の主人に食べられていた。
★ 林 隆二 (50歳)
神楽の主人。かなり大きな店で、地元では祭りから葬式の仕出し料理をしている。
裏庭の小屋の冷凍庫に食べた愛梨と猫の頭を隠していた。
YouTubeの雨穴さんの【尼の人形】からインスピレーションを受けて書きました。
中々上手くまとまらず最終的にこの形に落ち着きました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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