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第??話 書籍版第2巻発売&100話記念SS

 本日9月1日は書籍版『ガリ勉くんと裏アカさん』第2巻の発売日です!

 お近くの書店、各種通販サイトあるいは電子書籍等でお買い求めいただけますので、お手に取っていただけると作者が感激します。

 なお、この記念SSは書籍版に準拠しておりますので、ウェブ版とは齟齬が発生している可能性があります。

 ご了承ください。

狩谷(かりや)君って、やっぱり裸エプロンとか好きだよね?」


 名誉棄損甚だしいセリフが胸に突き刺さった。

 何の脈絡もなかったし聞き間違いかと思って、隣を歩く茉莉花(まつりか)を見つめ返してみたら……キラキラ輝く漆黒の瞳と目が合った。

 肯定を期待されているとハッキリわかってしまうのは、誇るべきなのか嘆くべきなのか判断に迷うところだ。


――落ち着け。


 深呼吸をひとつ。

 即答を避けて、空を見やる。

 七月の空は放課後であっても高くて青く、どこまでも透き通っていた。

 問い正したいことは山ほどあったが、何よりもまず彼女の誤った認識を訂正する必要性を強く感じた。


「……別に好きではないが?」


 ずり落ちた眼鏡の位置を直しながら答えた。

 声が震えないように、慎重に。聞き間違えられないように、丁寧に。

 すると――整いすぎた茉莉花の美貌に、奇妙に生暖かいものが広がっていった。


「またまたそんな、ご冗談を」


「どうしてそうなる?」


「じゃあ、私が裸エプロンでご飯作ってあげるって言ったら……どーする?」


「どうもしない。まぁ、飯は食べてみたい」


 大雨の日に茉莉花を泊めたとき、翌日の朝食を用意してもらった。

 彼女の厚意にケチをつけるつもりはないが、献立はありふれたものだった。

 あれはあれで美味かったが、茉莉花に腕を振るってもらったという感激はなかった。


――料理は得意と言っていたな。


 茉莉花の手料理なら、是非食べてみたい。

 ただ……何の用事もないのに『飯を作ってくれ』とは言いづらい。

 仮に言ったとしても、夕食を作らせた後で暗い夜道を帰らせるのはどうかと思うし、家まで送って行くとなると帰るのが手間だし、朝イチで家に呼ぶのは理由がない。

 一晩泊めて翌日の朝に……という選択肢は、それこそ特別な理由がない限り時期尚早と言うほかない。


「なら、昼飯か」


 弁当。

 彼女の手作り。

 耳に心地の良い響きだ。


「何が?」


「……いや」


 もう七月である。

 期末考査から終業式までは、ほとんど午前中で授業は終わる。

 そのあとは一か月半ほどの夏休み。学校へ行かなくていいのはありがたいが、弁当を食べる機会もない。


「タイミングが悪いな」


「お弁当ってタイミングじゃないよね」


「……ほとんど何も話していないのに、どうして通じるんだろうな?」


「彼女ですから」


「そういうものか」


「そーゆーものです」


 心なしか誇らしげな声が耳朶を震わせ、(つとむ)の頬が勝手に熱を持った。

 茉莉花を見ていられなくなって、後頭部を掻きむしりながら大きく息を吐き出して――


「ところで狩谷君、今、話を逸らそうとしたよね?」


「んぐッ」


 脱力しかけた隙を突かれ、思わず変な声が出てしまった。

 話題にしづらかったから誤魔化そうとしたのに……しっかりバレていた。


――前は普通に話せていたんだがなぁ。


 付き合い始めてから――距離が近しくなってから、言いづらいことが増えた気がする。


「だから、俺はそういう格好にはあまり興味がないと」


「ほんとにぃ?」


「ああ」


「ちゃんと考えた?」


「裸エプロンについてちゃんと考えるという状況が理解し難いが……アレはその、危なっかしくないか?」


「それは、そうでしょ」


 ウェルカムって感じだし。

 上目遣いな茉莉花に、勉は首を横に振った。


「いや、油が跳ねたりしたら火傷しそうじゃないか?」


「……思ったより真面目な理由だったけど、ロマンがなーい!」


 なぜそこで不服そうな反応なのか。

 告白して付き合い始めても、相変わらず茉莉花は勉の想像の斜め上をひた走る。


「それに、俺はどちらかと言うと……」


「どちらかと言うと?」


「いや、なんでもない」


 本音が零れそうになったので慌てて口を塞いだが、時すでに遅し。

 茉莉花はここぞとばかりに詰め寄ってくる。

 間近に迫る漆黒の瞳、その圧が強い。


「どちらかと言うと?」


「……」


「どちらかと言うと、何? 狩谷君?」


「……制服。そう、制服の上にエプロンがいい」


「制服? 学校の?」


 逃げ切れなくなって素直に答えたら、茉莉花が眉根を寄せてしまった。

『何を言っているのかよくわからない』と訝しむ気配が濃厚に滲み出ている。


「ああ」


「裸エプロンより?」


「そうだ」


「マニアックってゆーか、それ、私服じゃダメなの?」


「私服……そう言えば、立華(たちばな)の私服を見たことがないな」


「言われてみれば、そーかも」


 彼氏彼女の関係になったと言っても日が浅いし、学校の外で会う機会はほとんどなかった。立華家に足を運んだ際は、茉莉花は制服を着たままだった。

 それ以外だと、自宅に泊めた夜の裸ワイシャツと……今はもう消去された裏垢写真ぐらいしか見た覚えがない。


「狩谷君、そんなに制服好きだったっけ?」


 茉莉花の白い指が制服――白のワイシャツと、丈が短いスカートを摘まむ。

 これと言って珍しいデザインではないはずなのに見栄えよく感じられるのは、間違いなくモデルのおかげだ。


「いや、嫌いではないが好きというほどではないな」


「じゃあ、なんで制服エプロンなの?」


「……わからん」


 眼鏡の位置を直し、ため息を吐いた。

 茉莉花の私服のセンスが悪いとは思わなかったが、それでも制服の上からエプロンを装着した姿を見てみたかった。

 なぜ?

 わからない。

 上手い言葉が出て来ない。


――どう言えばいいんだろうな?


 直感とか?

 ビビッと来たとか?

 まぁ、理屈をつけられなくもないが……『学校の制服には魔力めいた力が秘められている』などと力説すると、また変わり者みたく勘違いされそうだ。

 そもそもの話、こんなことに道理を求められても困る。


「そこでシリアスな顔されるとリアクションとりづらいんだけど……まぁ、狩谷君だしね」


 納得いったと言外に語る茉莉花の声。

 それはそれで喜ばしくて、誇らしくて……どう考えても気恥ずかしかった。


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『あの子が水着に着替えたら』もよろしくお願いします。
こちらは気になるあの子がグラビアアイドルな現実ラブコメ作品となります。
― 新着の感想 ―
[一言] まだ隣に来る前、ですね。 裸エプロンを地上波で放送していた番組があったんだよなあ… 昔は。
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