第7話 チル村の住民たち
「まあ、私は魔法使えるんだけどね」
「本当ですか!?」
と食い気味に聞いてくる。変に困らせてなんか悪いことしちゃったね。
そんな感情変化とキラキラした眼差しとが、どうにも男ごごろをくすぐるもので、
「それなら、こういう魔法はどう?」
彼女に握った右手を差し出す。
期待して私の手を見るリリカに、私は手を広げ...
「わあ...!」
私の手に咲いた一輪の真っ赤なコスモスに、まるで生まれて初めて花を見たかのように純粋に感嘆する。
「すごい...!」
勢いでやってしまって、なんてイタい真似を...と悶えそうになるが、やってしまったものは仕方ない。開き直ろう。
「これは生成魔法。空気からだって、いくらでも綺麗な花が咲かせられる。」
もちろん『無系統』故、あと2、3回が限界だけどね。
あと、この花は空気ではなく私の皮膚を変換して作り出したものだ。生成は空気からより、物体から作り出す方が魔力効率がいい。そんな無粋なことは今更言わないが。
「え、今の何!?」
「もう一度やってよー!」
と、さっきまで人見知りをしていた子達が興味を示す。
この際せっかくだとさっきより少し多くの魔力を動員。
「じゃあ、行くよ。ほら」
掲げた左手の手のひらを開くと、沢山の花びらが舞う。フェルド大陸の東の島で見た、サクラという花だ。食事に入らないよう、放出魔法で風を生んで花を散らす。
私がそうだったように、サクラは好評のようで子供たちはキャッキャと花吹雪に手を伸ばす。まるで餌を上げた時の鯉の様だ。
「あ、おにーさん笑ったー!」
7、8歳くらいの少女が嬉しそうに指摘する。ほかの子達もほんとだー、と笑った。
「そんな珍しいことか?」
「うん、さっきまで難しい顔してた!ずーっと、うーんって感じ」
少女が唇を突き出して顔をしかめる。
いつもこんな顔なのか。軽くショックだ。少女じゃなく成人男性がやったら普通に怖いな...。普段人と合わないから意識しなくなってしまったのだろう。
「ほら、また難しい顔ー」
子供たちがわきゃわきゃ笑い出す。それまで傍観していた子達も駆け寄ってきた。
「たくさん笑えば治るよー」
「あ、こいつ今日面白いことしてたんだぜ!」
「そうそう、聞いてくれよ!」
「あー、こっちがバニラで、こいつはメリル...」
「ひとまず、自己紹介させましょうか...?」
人付き合いは疲れるが、何故こうも子供と戯れるのが楽しいのだろうかと自問しつつ、まあこんな夜もありだなと自答をして、子供たちの自己紹介へと耳を貸す。普段なら大人とお酌をするところだが、たまにはこんなのもありだ。
結局その夜は、子供たちにせがまれ2時間ほど冒険譚を語ることになった。