第6話 魔力属性
「確かに子供だけの村なんて中々ないですね」
先程の青年、ケインが笑って答える。
「でも、かれこれ2年も続いているんです。子供だけでも案外できるもんですよ」
笑うケインの歯のなんと綺麗なことか。
眩しいな、なんて思いながらドロっとしたスープを口にはこぶ。
ここは子供らがわさわさ出てきた家屋の中。真ん中にどん、と置かれた長方形の机を30人の子供がぎっしり囲む。少し体重をかけるとギシギシいう床や机は、いつ穴が空くかヒヤヒヤさせる。
さすがにこの辺には座布団の文化は伝わってないらしく、みんな胡座か正座で直座りだ。
そんな中私は、誕生日席で一緒に夕飯を食べていた。どうやら子供が村一大きな家に全員集まっていたのは、食事の途中だったかららしい。
チラチラとこちらを見ながらスプーンを口に運ぶ子供たち。そして服にこぼす数人。
この広い部屋には不自然な沈黙が漂っていた。
なにかの骨柄を煮込んだだろうスープをもう一口。これは小さな子供も食べやすいだろう。離乳食もこんな見た目だった気がする。
「いやー、【プラチナ】でしたか...いやー...」
さっきからケインは嬉しそうに呟いている。
ケインは齢18にして、チル村の村長を務めている。実にすごいことだ。そんなことを言ったら、あなたの方がすごいですよ、とものすごい勢いで返された。
ドロドロスープを口に運ぶ。
子供だけの村の割に獣の料理もできるとは、中々仕上がっている。さながら一昔前の狩猟民族だ。いや、これは褒め文句じゃないな。
肉も野菜もちょうどよく入れられている。
本当に、子供たちだけでもできるらしい。
そういえば魔獣に襲われた3人は排泄物の破棄に出向いていたという。今は私が魔獣を倒したことに安心してか、粟やひえと汁物をもりもり食べている。
私が子供の時は、絶対に村人分の排泄物など処理できなかった。要は、彼らは「大人」なのだ。
「冒険者さんは魔法が使えるんですよね?」
ケインより少し幼い女の子が、目をキラキラさせている。
魔法に興味があるのだろうか。
「彼女はリリカといって、この村の洗濯とか料理とかのまとめ役をしてるんです。この料理も彼女が考えたんですよ!」
村長が自慢げだ。
どうやら彼女は30人のお母さん的存在のようだ。彼女もケインと同じくグルド人で、中々に容姿端麗。周りの男子がチラチラと彼女を気にしている。実にわかりやすい。別に口説いたりしないから安心して欲しい。
「ああ、魔法の腕も結構自信あるよ」
「そうなのですか!?じゃあ、どの属性が得意なんですか?」
中々知識を得られにくい辺境の地で、よく属性なるものを理解したものだと少し驚く。魔法は知識がないと発動できないがゆえ、知識のない人はその存在すら知らないこともある。
ひとつ、説明をしよう。
属性とは生まれながらにして決まる、使える魔力の適正のことである。
系統は放出、変化、回復、生成、干渉の基本5属性に、支援、悪化を加えた計7種類ある。
わかりやすくするために、火・水・木・金・土、日・月と分けていている。
魔力を形やエネルギーにして放出する【火】
魔力で物体や空間を変化させる【水】
生命維持や回復を行う【木】
魔力による物質の合成などによる別の物質の生成ができる【金】
自然や大地に干渉する【土】
バフに特化した【日】
デバフに特化した【月】
そんな感じだ。
別に火、水~など付けなくても良かったと思うが、覚えるには楽なようだ。
適性は人により、その種類も強度も差がある。適性がある色の魔法は簡単に習得できたり、魔力使用の効率が上がったりなどするため、仕事の大半に魔法が関連するこの世界では、属性は重要なのだ。適性のない魔法は、それこそ莫大な魔力量を持ち合わせないと使えないのだ。
適性は普通は1色特化だが、中には2色特化や、稀に3色、4色特化すら存在する。さらに稀なのが0色特化だがね。
とあるシノビは水・木・日・月の4色特化の魔力適性を持ち、【プラチナ】ランク冒険者をやっているはずだ。
私はその例外に近しい。
「私はね、『無系統』なんだよ」
「...!」
リリカは驚き、申し訳なさそうに口を開くが、言葉は出ない。変に慰めたりするのはお門が違うとわかっているのだ。
『無系統』は適性がない。こういう解釈が曲解され、無系統などと聞けばそのままその人が魔法を使えないという理解に至ってしまう。
ただ、それは仕方の無いことだ。例外が1年前にわかったばかりだから。
私はどの系統も平均以上には使いこなせる自負があるし、なんなら今代【勇者】とも魔法勝負では互角だったくらいだ。負けはしたがね。
【キャラ紹介】
リリカ
チル村のお母さん15歳。お母さん的存在であってまだお母さんではありません。
村随一の知識人かつ村一番の容姿で村一番の常識人。
ケインと同じ特徴をしたグルド人。