第4話 対魔獣
自分がいつから意識を失ったのか分からない。
ただ目の前の弱者を殺戮する本能のみが体を動かしている。
体を内側から蝕む痛みは次第に強くなっていくが、それを感じ取る意識も泥沼に沈んで見えなくなった。
目の前に佇むのは、一人の人間。グローブベアーの脳裏に、獣だった頃の記憶が浮かんでは沈む。
人間は、ひ弱な生き物。叩けばすぐ肉はえぐれるし、吠えるだけで腰を抜かす。そのくせ、見かけた瞬間に襲いかかってくるような種類もいる、非常に厄介な弱者。
目の前にいる人間もそうだ。叩けば直ぐに潰れる。
ああ、今夜は血が見れる。
いつものように吠え、右手を振り上げる。人間の手元でなにか光ったが、気にせずにその腕を振り抜いた。もはや人の目に追えないスピードで振り下ろされたそれは、暗闇に赤く線を描いた。
薄暗い森に真っ赤な血が咲く。
残ったのは、肉を潰した心地よい感触──否、何も感じない。いや、痛みを感じる──。どうし────。て──。──。
断末魔すらなく、魔獣の首は地にグシャリと叩きつけらた。
「...。」長剣を一閃し、着いた血を払う。迫る拳を回避し腕を斜めに切り上げ、すぐに剣を切り返して首を切り落としたのだ。
血糊を拭き取って、長剣を無限空間に戻す。思ったより硬かったので、次の町で刃こぼれなど見てもらった方がいいだろう。
さて、ここからが魔獣を倒す上で大事な事だ。倒すだけなら今終わったので、処理すると言い換えてもいい。
魔獣は膨大な魔力によって形作られているため、死体をそのまま放置すれば魔力だまりとなってしまう。魔獣が新たにできてしまうのだ。
それを防ぐためには、魔獣の心臓付近にある「魔石」を取り除く必要があった。「魔石」は魔力の結晶で、獣の魔獣化を継続的に行うための器官として、獣自身が体内に作ってしまうのだ。
役割を果たした「魔石」は時間の経過とともに魔力に還元されてしまう。そんなわけもあって、冒険者ギルドには「魔石換金所」があったりする。もちろん、魔石を使う珍しい武器職人もいるが。
換金できそうな部位だけ剥ぎ取り、余りを燃やしている時に気づいたが、両腕の装甲はかなり価値のあるものだ。これは大いに満足。
ただ、ここまで強大な魔獣が居たとなると森の生態系が大きく破壊されている不安もある。
その調査もしたいが、子供たちの安全とあわよくば今晩の寝床を探すのが優先だ。
子供たちが逃げた方向を追いかける。
日は完全に地平線の向こうへと消え、森の中は真っ暗だ。羽虫が多い。気を抜くと目に入ってくるからろくに目を開けられない。絶対に村を見つける必要がある。
五分ほど突き進むと、森の外へ出た。
少し先に小さな村の灯り。おそらく子供たちはこの村の者だろう。とりあえず脅威は倒したと伝え、あわよくば寝床を手に入れたい。




