第27話 暁 陽太
肌に空気がしなだれかかるようにジメジメした、とある梅雨の日。
そう、今日は暁 陽太、人生一番の大舞台。
なんで人生一番かって?それは、そう。
今日は俺の、人生初の告白をするからだ!!
されたことは何度だってある。付き合ったことももちろんある。だけど、その度に何か違うと思った。俺の中で新たな欲求が首を擡げるのだ。浮気で別れたり、性的に言いよって別れたり。その度に、ああこんなもんかと期待が下がっていく。いつの間にか、告白されて振ることが楽しみの一つになってしまった。
そんな感じで変わったやさぐれ方をしていると、いつの間にか距離が離れていた幼なじみの天音が近寄ってきた。距離が開いていたのは、大方取っかえ引っ変え彼女ができる異性の古い馴染みが、嫌になったのだろう。天音はそういうやつだ。
ただ、最近はなんのつもりかよく俺に張り付いてくる。告白してくるような雰囲気もなにか説明してくる空気も起こさない。
思えば、幼い頃は何を考えているか分からないあいつが、怖かった時期もあったっけ。
そんなどうしようもないことを思い出しながら、灰色の時間を半年過ごした。
俺の時間が止まろうと周りの時間は進むもので、俺は仲間といつも通り過ごしている。あくまで表面上なのだが。
何も言い返せない腰抜けをクラスみんなで罵倒しても、それまでの愉快は思い出せず。
驚かしたら漏らした女子にトイレで汲んだ水を大量にぶっかけても、以前の嗜虐心は感じられず。
新米教師を煽って殴らせ職を奪っても、自分が殴った以上の快感は得られず。
つまらねえからと女子をたぶらかそうとしても、前の様に上手く釣れず。
ああ。つまらねえ。
それが変わったのはつい最近だ。無理矢理カラオケに連れ込んで犯した女を口止めしようとすると、思わぬ暴露をされた。
曰く、あたしたちだってシたかった、だの。天音が俺に近寄らないよう釘を指していただの。天音は俺を独り占めしたいのよ、だの。
なるほど。そういうことか。
合点がいった。生まれた時から親ぐるみで仲良くしたアイツは、今度はみんなで家族になりたいらしい。
そう考えると、不思議と嫌な気持ちはしない。白黒テレビはあっという間にカラーテレビに進化していた。
それから、天音のことを目で追うようになった。その程よい化粧は綺麗な色香を醸し出し、華やかにまとめられた髪も、日々のケアなのか元からなのか、いつだってツヤツヤしていた。表情の機微からだいたいの気分を読めるほどには、見続けてしまった。
まさに、以前俺がストーカーだ変態だなどとつるし上げた陰キャと変わらない行動を取ってしまっている。自覚はある。仲間の目にも呆れが混じり始めていることにも気づいている。
それでも。
ああ。これが「恋」か。
なんとも香ばしくて、優しくて、愛おしい。
──なんと気持ちの悪い感情だろうか。そう心の片隅で気づいても、その中毒性に逆らえない。
この感情を、一体どう消化すればいいのか。こんな大きなものを、どこに当てればいいのか。
いいや、簡単じゃないか。
俺のことを好きだったヤツらと同じように、本人に直接伝えればいい。
思い立った日が吉日。スマホは素行不良で何度も停学にされた罰で親に取り上げられているため、天音の家に直接言いに行くことにする。
今日は天気は良くない。灰色一色の重い空だ。それでもどこか出かけるのに丁度いいほどには、風が気持ちいい。
昨晩殴った拳が痛む。俺がいじめたやつの兄とか言ったか。女を守るための力も頭も度胸も一切足りてなかった。
俺なら、天音に他のやつの指一本触れさせない。
俺なら、あいつを守れる。
そう思うと、不思議と心の中の俺たちが一斉に喝采したような気になるのだ。




