第19話 一年半の功労
「...これで、人柱は無くなるのかなあ」
ジンとソフィアが去った小屋で、何となく呟いてみる。結局、勢いで説得されてしまった感じもしたが、あれだけ自信があるなら、彼に任せていいのかもしれない。
「ケインひとりで背負わなくて良くなったって、ことだよ」
隣に座るのは、この一年半常に俺を支えてくれたリリカ。彼女がいなければ、あの強引なまとめ方は、すぐに崩壊していた。
「...ずっと。一人で心を殺して。一人で子供を守ってたんだね」
それは違う。俺が生き残りたかったのは事実だし、一人だけ村を探した宛のない旅をしても良かった。半年たったくらいには、そんなことしか頭になかったと思う。
「なんにも。なんにも変わらないはずなのに。リリカは、毎日違うご飯を作ろうと、頑張っていたから」
俺と同じく最初に始めたのに、彼女は「生」を楽しむことを、諦めていなかった。あの時からか。毎朝違う木に登り始めた。それからは、少しだけ辛くなくなった。
彼女には、本当に感謝している。
「ずっと。悪役のフリして、頑張ってたんだね」
そんなことは無い。俺はそんなできた人じゃない。子供たちの心に傷を作ってしまったし、悪魔に連れていかれた子供には、顔向けできるわけもない。それなのに...。
「ケイン...。頑張ってくれて、ありがとう」
肩の力が抜けて、涙がどうしようもなく溢れてくるのだ。
「最も強くて自由って、盛りすぎなんじゃないですか?」
「ソフィア。こうやって自分を大きく見せることも大切だ」
「...なるほど。勉強になります」
いや。盛りすぎたな。これ以上ないほどに盛ってしまった気がする。確かにここ数年では負け無しだが、それは北大陸だけでの話であって、東大陸や西大陸にはもっと強いやつがいるんだろう。
それでもあれだけの虚言を吐いて、ケインが重荷から解放されることができたなら、結果オーライと言うやつだ。
そのケインは今、慰め役のリリカとあの小屋に残っている。ケインは心が壊れているという、リリカの予想は外れていた。
「彼は、1人でも多く生き延びさせるために心を殺していたんですね」
「まあ、そういうことだろう」
もっといい方法はあっただろうし、ケイン自身が生き残りたいという意志はあったのだろう。けれども、死ぬはずだった子供たちをここまで生き延びさせたのは、「よく頑張った」と励まされるべき功労だ。
これで、人柱という下手な慣習が無くなれば万事解決なのだろう。不作は早く対策した方がいいだろうが、この国の発展に左右されるだろう。
「それでなあ、俺はそいつに言ってやった。『俺に勝つなんて100年早え!一昨日来やがれえ!』ってな」
「なんで100年なのー?」
「なんで100年早いのに一昨日なのー?」
「一ヶ月後にリベンジで負けたおバカさんはどこのどいつなのー?」
「ったく、この話はまだガキには早えか。いや、おい。セレナ!変なこと言うんじゃねえ!」
「まあ、あの時恥ずかしかったのはルークだけじゃないからね」
「ぐっ...!」
「あははははははっ」
先程まで、悪魔を殺されたことにどう反応していいか分からないといった表情だった子供たちが、全員笑顔で笑っている。ルークはどうしてなかなか、気が利く男だ。
「あれで結構子供に好かれるのが、驚きですよね」
隣でソフィアが笑う。ディランの姿は見えないが、飛行中、子供を乗せる荷台を作ると言っていたので、今頃干渉魔法で木を荷台に変えているのだろう。
洞窟では、「ああ、やっぱり他人は嫌だ」と思ったが、いい所も見れたりして「人付き合いもたまにはいいな」なんて思ってしまう。まあ別に人付き合いが苦手だ嫌いだ、という訳でもない。ただ避けていただけだから、すぐに変われるとは思うけれど。
なんだかちょっと、得した気分だ。




