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竜門の十哲~最強の10人は再び集う~  作者: 柊 楓
第0章 12歳
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第2話 2度目の別れ

目が覚めた。


ついさっきまで映っていた母さんの顔はもうなく、風にサラサラと揺れる葉が見える。木漏(こも)れ日がキラキラと輝き、さながら星空を見上げているようだった。


「あ、起きた」


優しい声が囁いた。


寝転んでいた僕の隣で膝を抱えた少女は、僕の顔を見て驚く。


「また、あの夢見たの?」

そう言って顔に手を伸ばし、涙を拭ってくれた。


「うん、同じ夢」

体を起こし、少女の隣に胡座(あぐら)をかく。風が吹いて少女のいい匂いが流れてくる。見渡す限りの草原は、さながら海のようだ。それなら僕は漁師で、少女は人魚だろうか。


「別に、男の子に産まれたら魔剣士にならないと行けないわけじゃ、ないでしょ?」

「うん」

「じゃあ、そんなのにはならないで、私とずっと一緒にいようよ!」

僕の顔を覗き込んで笑う。


「戦争に行ったら、二度と会えなくなることもあるって、母様が言っていたもの」


少女の金髪が、さらりと風に流れる。

そうだ。今更強くなろうとしたって、ガルたちに追いつけるわけもない。


すると、少女は立ち上がってスカートのおしりを払い

「だからさ、私ともっと遊ぼう!」

差し出された手を取る。小さくて柔らかい手だ。

「...川、行こっか」

「うん!」


その笑顔はどうしようもなく綺麗で、僕の心を存分に跳ねさせる。

少女に連れられ、川に向かって...


「...アリア様!ジン様!」

家の方から、メイドのジーナがスカートを摘んで駆けてくる。


「どーしたのー!」

少女──アリア──は手でメガホンの形を作って叫ぶ。

普段、ジーナは昼食の時間にゆっくりやってきて伝えてくれるだけだが、今日はそれと違うらしい。日はまだ登りきっておらず、朝の肌寒さもほんのり残っている。


「...はぁ、ふぅ...ハンス様がお呼びです。至急伝えたいことがあるそうで、家族会議(ミーティング)を開かれます」

ジーナの乱れた息が、ただ事ではないことを直感させた。




「お父さんは、戦争に行かなければならない」

開口一番、今のお父さんはそう呟いた。


「どうして」

「ジグルド帝国からの宣戦布告だ。全部隊に出動命令が下ったんだ...」

お父さんは戦闘よりも指揮の方に秀でているらしく、第6部隊の副長を務めているのだとか。


「正直、勝ち目はない。しかし、大臣たちの大半は、甘い判断を下すだろう」

1人用のソファに深く腰かけ、下を向いて一語一語噛み締めるように話す。艶のある若々しい金髪は草臥(くたび)れ、しゅんと垂れ下がっている。


「...私の読みでは、ジン。残念だが君にも召集がかかる」

隣でアリアが息を飲むのが見えた。


「今のところ15歳以上の対人戦闘経験者のみ呼ばれているが、いずれ12歳以上の男性が呼ばれ、総力戦になることは確実だ」

間髪入れず唱える。

「間違いなく私も死ぬだろうが、この戦場から逃げることなどできない。もちろん、ジンもそうだ」


「...でも、呼ばれない可能性も」

アリアが呟いた。

「それならそれでいいが、呼ばれた時にジンが君たちといると不都合が起きる」


「母さんとアリアを逃がすんですね」

「...そういうことだ」

父さんは、言い聞かせるように僕の目を見る。

「これから、帝国のツテで向こうの貴族に2人を預ける。いや、渡す。そこで戦争の集結まで匿ってもらうが...」

「戦争に参加するはずの僕が混ざっていたら、安全のために処分される」

「そう。2人もとてもまずい立場に立たされる」


鼓動が早まり、視界が狭まっていく。


すなわち僕はしばらくしたら死ぬのだろう。運の悪いことだ。1週間前に12歳を迎えたせいで、もうすぐ死ななければならない。


心が冷える。唇を噛んで涙をこらえる。まだ、死にたくない。


ふと、左手を柔らかいものが包んだ。


「...ジン」


アリアの右手が、僕の左手を包む。この人の前では、格好悪いところは見せたくない。もしかしたら、戦いで運良く死なないかもしれないし、僕が呼ばれないかもしれない。


それを見届けた父さんは「ごほん」と一拍おき

「ジン」

僕は顔をあげる。


「お前のことは、とても大事に思っている。アリアもヘーゼも、仕事であまり帰れない不甲斐ない父親よりも、お前のことを愛している」

「...っははは」

アリアが泣きながら、思わず笑う。


「ジン、お前に2人を守り、自分が代わりに死ぬ気概はあるかい?」

母さんもアリアも、声を殺して泣いていた。


「...はい゛」

僕も泣いていた。


「...ごめんな、ありがとう」

父さんも、上を見上げて、泣いた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 早くも戦争の虚しさが伝わってきました。 こちらでもよろしくお願いします。
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