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竜門の十哲~最強の10人は再び集う~  作者: 柊 楓
第0章 12歳
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第1話 悪夢

帝国歴260年。

代々無類の強さを誇る魔剣士を輩出するクラウド家に、ある男の子が産まれた。


産前の魔力量測定にて、歴代の魔剣士を凌駕する兄2人をさらに超える魔力を持っていることがわかっていて、両親は大いに喜んでいた。この子は歴代最強の魔剣士になるだろうと。


その3年後、それは待ちに待った魔力属性検査の日のこと...

「...この子が『無系統』...」


「...それは、本当ですか」


ふと、声が聞こえた。


暗くて、それでいてぽわぽわとした意識の中、ああこれは夢だと気づく。


「ガルたちのようには、いかないか...」


「この子は、魔剣士になれませんね...」


目の前に2人の大人が立っている。向こう側を向いていて、どんな顔なのか分からない。


いや、僕が覚えてないのだろう。


髪の長い片方が、はあと溜息を着く。


お母さんだ。いや、だった人だ。


何故咄嗟にそう思ったのか、理由はよく思い出せないが、夢だから仕方ないだろう。


背も高く、肩幅も広い壁のようなもう片方も、疲れたように目頭を抑える。これはお父さんだった人だ。


「...ジン、魔剣士になれないの?」


「ジンはダメな子なの?」


意識の隅、その暗がりから現れる二人の子供。ガルとケイ。2人は僕のお兄ちゃんだった。この2人も向こうを向いて、顔を見せない。


状況がよく分からない二人の兄は、両親の失望に首を傾げる。


「...ダリルと先に帰ってなさい。」

男は目を(つむ)ったままそう宣った。


いつの間にか暗がりは溶け、周囲に小洒落(こじゃれ)た内装を映し出す。(かたわ)らに立っていたダリル──執事──に連れられ、2人は僕の後ろから外に出ていった。


元両親の目の前には恰幅(かっぷく)の良いおじさんが申し訳なさそうにたっていて、目を瞑って唸る男を怖々伺う。


「この子は、いかが致しますか」

元母さんは目を伏せながら、苦しそうに呟く。


「決まっている。」

間髪入れずに男は応える。


「この家から、魔剣士の名家から『無系統』など出す訳には行かない。」

「...養子に出すのですね」

「ああ、どこがいいか考えているところだ」


女の手には小さなカードが、ぎゅっと握られている。確かあれに、僕の魔力属性検査の結果が書いてあったはずだ。


「...」


「されば、グレイス家はどうでしょうか」


小太りおじさんが、体格に見合わずモジモジと言い出した。ピシッと決まっていたはずの茶色いスーツが、泥団子に見えた。


グレイス家。


何故だろう。とても親近感を覚える。


「...確かにハンスのやつは口が堅い」


「それにギルバート様には御恩もありますし、確実にこなしてくれるでしょう」


「ハンスさんのとこ、確かジンと同い年の娘さんがいらっしゃったような...!」

女はちょっと嬉しそうに思い出す。


「...表向きの理由は考えついた。直ぐにハンスの元へ向かおう」


男は振り向いて、僕の横を通り過ぎて立ち止まる。いつの間にか視界が霞んでいた。覚醒の合図だろうか。


「お前には期待していた...その分、とても失望した」


「魔剣士になれないお前はうちから追い出す」


「もう俺は...お前の父親ではない」


そう言って重厚なドアを開け出ていく。霞んでいた目からは熱い雫がとつとつ垂れた。


僕は泣いていた。


「...ごめんなさい」

女が僕の前に膝をつき、嗚咽を漏らす。

「こんな、母親でっ...ごめんなさい....」

ふと顔を上げると、女の顔がぼんやり見える。


僕の涙で滲んだ懐かしい母さんの顔が、目に焼き付いた。


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