第三話 制圧
何もないだだっ広い真っ赤な大地。あちらこちらにさっきまで人だった肉片が多く転がっていた。中には仲間においていかれたのか、悲痛なうめき声もあがっていた。そのうち生き残った彼らも息絶えるだろう。
しかし、そんな様子を尻目に兵士たちは黙々と撤退の準備をしていた。どうやら兵士軍には負傷した兵も、死亡した兵もいないようだ。なかでも見るからに痛そうな怪我をしていたのは、クロイラとシロイラの二人だった。二人とも頭に包帯を巻きうつむきオアシスの側の木陰に座り込んでいた。二人は医療班に処置してもらっている間、
「あんたら二人は似てるけど行動まで似せてどうするの?お互い同時に相手に頭突きするなんて…。」
「「いいえ、相手がぶつかってきたんです」」
という会話を医者と繰り広げていた。それを聞いていた兵士からは失笑が絶えなかった。
「そろそろ出発しましょうか」
シルが馬にまたがり指揮をとった。今回は団長不在の為シルが代わりを務めているのだ。それを合図に兵士たちは馬の準備を始めた。クロイラとシロイラは馬車に乗せるから少し待っていて、と言われ再び木陰に座っていた。
「ハルヴィンそろそろ起きるっすよ」
「あと三分…」
「二人とも何やってんだぁ!」
木陰で仲間を見ていた二人は思わず笑ってしまった。シロイラはとても楽しそうに口を開けて笑い、クロイラはぎこちない笑い方だったが、楽しそうに笑っていた。
「お兄ちゃん久しぶりに笑ったちゃない?」
「そうかもしれん。でも、楽しかー」
その時だった。風がざわざわと吹き始め、不穏な空気が漂ってきた。さっきまで晴れていた空が急に陰りだした。はっとしてオアシスを見ると水面が叩いたように揺れぼこぼこと音をたて始めた。二人は笑うのをやめ、身構えた。もしかすると内乱軍がこちらに紛れこんでいたのかもしれない。クロイラは腰に吊っていた日本刀のうち、一本をシロイラに投げ渡した。
「シロ、いきなり渡すけど大丈夫?」
「うん、いつも槍ば振り回しよっちゃけんが」
シロイラはそうは言ったものの、実際は日本刀はおろか剣さえも一度も手に取ったことはなかった。おそらく護身用としてが精一杯だろうとクロイラは思った。しかし、クロイラの戦力は兵士軍トップと言われていたので、反撃の戦力としては十分だった。
「ピ――――――」
突然笛が鳴り響いた。クロイラとシロイラはすぐさま抜刀し、音がした方を睨み付けた。位置的にいえばクロイラの後方45゜辺りの場所だった。そこには高さ1メートル程の茂みがあった。すると、その場所から10人ほどの内乱軍が飛び出してきた。すぐに反応したクロイラが先頭の男の腹を切り裂いた。男はドサッという音をたてて崩れ落ちた。
クロが後ろの男を切り裂くと、シロイラが飛び出してきた。高く振り上げた刀を背の低い男の脳天へと振り落とした。ゴンという音がしてシロイラの刀を持つ手に振動が伝わった。
「いててて…」
「シロ、使い方違うって。しかも峰打ちやし」
「もーよかとよかと!」
再びシロイラは刀を高く振り上げて脳天へと振り落とした。クロイラはヤレヤレという顔をしたあと、近くの男を切り裂いた。
シロイラが最後の男の脳天へ刀を振り落とした時、やっと他の兵士がやってきた。シロイラが遅いよと呟いた。
「あ、お兄ちゃんイラに肉片が…」
「…ごめん、取って」
シロイラがクロイラの後ろに回り込んだその時、
「危ない!」
辺りに鮮血が飛び散った。