昔むかしのお話と物語の始まり
むかしむかし、フィリオスというとても真面目で優しく、機械作り業を営む男がいました。大変腕が良く、国の為にたくさんの機械をつくり王様から表彰を受けたこともありました。そんなフィリオスには妻と二人の娘がいて、毎日充実した日々を送っていました。
ところがある日、フィリオスの家に悪人がやってきて、『暗殺用アンドロイド』をつくるよう、依頼しました。フィリオスは一度は断ったのですが、妻と娘を人質にとられ、つくらざるをえなくなりました。
それから一年間、フィリオスは寝る間も惜しんでアンドロイドを作り上げました。アンドロイドと引き換えに妻と娘を返すようフィリオスは頼みましたが、三人は殺された後でした。
フィリオスは嘆き悲しみましたが、数日後血まみれで倒れているのを住民が発見しました。
その後、遺体となって発見された妻と娘はフィリオスが眠る墓に丁重に葬られました。
それから半年後、妻と娘を殺し『暗殺用アンドロイド』をつくるよう依頼した悪人は捕まりました。
ただ『暗殺用アンドロイド』はどこを探そうと見つからず、悪人も地下牢の中で殺されていました。フィリオスの家にも設計図すら残っておらず、そもそもアンドロイドが作られたのかも疑うようになりました。
一年後、世間では『H‐28ST1』という、謎の言葉が囁かれるようになりました。それはアンドロイドに刻まれた番号とも、悪人とフィリオスとの合言葉とも言われていました。
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ここは城下町。国の中で最も栄えており、また所狭しと家々が建ち並ぶ場所でもある。もちろん家がぎゅうぎゅうに建っているため、家と家の隙間を通ることは到底不可能だ。
それなのに、マントを羽織った2人は少しの隙間をしきりに覗き込んでいた。
「本当にここなの?」
「は、はい!」
声からして若い男女の二人組ということがわかる。
男の方がマントに隠していた細長い棒を取り出し、女に手渡した。受け取った女は隙間に棒を突っ込み、何かを引っ張り出そうとし始めた。
しばらくすると、ドサッという音とともに、人間の形をしたものが現れた。
「あんたが見つけたの本当にこれ?」
「そうっす!これっす!間違いないっす!」
男の方は少し興奮気味に、女の方は冷静にそれを見つめた。
人間のように見えたが、どうやら人形らしい。かなり埃を被っていたが、女は顔にある埃を払うとハッとした目をした。男の方はそれには気付かず、人形を抱え上げた。
起こしてみて2人は気付いた。この人形は驚くほど身長が高かったのだ。それだけではない。剥がれている皮膚からは明らかに人間のものではないバネのようなものが飛び出していた。
「とりあえず、帰って修理してもらうっす。」
男は歩き出したが、女はしばらく歩き出さなかった。