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〜 古き魔術の森 〜 エピローグ 後編

こんばんは

雛仲 まひるです。


〜 古き魔術の森 〜 第二章、完結です。


ここまでお付き合いくださってありがとうございます。


ではどうぞ><

 ☆エピローグ


 ◆チッチとシオン 後編


 湖面に空いた水のトンネルを抜けると、チッチの眼に金属の壁が現われた。

 シオンが壁を触ると辺で聞いた。女性の声が鼓膜を揺らした。

「認証確認。認識番号四零零五、SIONを確認」

 しかし、壁に変化は起こらない。

「リーシャ。認識したなら扉を開いてくれ」

「却下致します。貴方の他に別の生態反応を確認しました。認証を」

 シオンがチッチに向かい顎をしゃくった。

 意図を察したチッチは、シオンと同じ場所に手を宛がった。

「認識に失敗。再度確認、失敗。“鬼神”プロジェクト及び“キリングチルドレン=レクイエム”に登録されている未確認体のデータをNOAデータ内に該当する生態登録を確認する事が出来ませんでした」

「都市ルミナリス……そうだ! ルミナリスをNOAは探知しているか?」

 シオンの問い掛けにリーシャが答える。

「現在NOAは、完全復旧に向け全システムを稼動させております。復旧作業に割り当てている一部システムを使用、ルミナリスの“オベロン”にアクセスを試みます」

「北西の方角にオベロンの反応を確認。アクセス開始致します。アクセスに成功しました、これよりオベロン内部データから、未確認体の生態登録を検索を開始致します」

 暫しの時間が流れる。

「未確認体の生態登録らしき記録を確認致しました。廃棄されたプロジェクト零零、“ナイト・オブ・ドラゴン”ミディショナリー登録内に未確認体らしきデータを確認。照合率七十二パーセント。恐らく未確認体のデータと思われます」

 壁の一部が窪み、扉が開かれた。

「ようこそ、NOAへ。ナイト・オブ・ドラゴン、ミディショナリー非検体」

「だとよ。チッチ、さぁ確かめに行くぞ」

 シオンの後ろについてチッチはNOAの扉を潜った。


 NOAの通路を歩きブリッジに向かう。

「お帰りなさい。シオン」

 湖面とNOA入り口で聞いた声の主。リーシャが無表情の顔を向けた。

「リーシャ。俺の記憶全てとこいつのDNA検査と分析を頼む」

 表情少なくリーシャが、にこりと微笑んだ。

「分かりました。ではメディカルルームへ」


 透明の窓付が付いた筒状のカプセルが並んでいる部屋にシオンがチッチを連れて行く。

「着衣を脱いでカプセルの中へ」

 リーシャの言うがまま、チッチは微笑を浮かべ着衣を脱ぎ始めた。

 若い女性の前眼だと言うのに恥かしがる素振りも見せずに……。

「お前さ? 恥かしいとか思わないのか?」

「お前は何故、恥かしいと思うんだ?」

「若い女性の前だぞ? リーシャは人の姿をしているが人間じゃないけどな」

「案外、初心なんだなぁ、シオン」

「う、うっせぇよ! さっさとカプセルに入れ、お前の方が時間が掛かる」

「シオン……お前の記憶って……どんだけ少ないんだ」

「ばぁか! バックアップデータを再インストールするんだよ。まぁ、それなりの時間が掛かるけどな」

 二人はカプセルに入った。

「では、始めます」

 リーシャが作業の開始を告げた。


 シオンはカプセルの中で目を覚ます。

「気分はいかがですか? シオン」

「まあまあだ」

 シオンは、渋い顔をして短く答えた。

 エピソード記憶と失っていた知識や経験則が戻ったシオンの脳裏に仲間達と混沌(ケイオス)に呑み込まれた世界が走馬灯の様に巡り巡る。


 ――ネラ、タァニー、ロー……皆、死んでないよな。それにルファー、お前……。


「シオン? 彼のDNA解析です。途中経過なのですが九分九厘、貴方と同じサンプルから採取したDNA情報を使用し“鬼神”“キリングチルドレン=レクイエム”プロジェクト、以前に試験的に創られた人間です。そして彼はNOAサンプルの一つドラゴンの因子を既に宿しています」

「知っている。しかし、俺の知っているあいつのドラゴンと戻った記憶のNOAサンプルだと見せられたドラゴンの映像が一致しない。NOAサンプルのドラゴンは、(まさ)しく神話に出て来る生物だった。あいつの宿すドラゴンは、別物だった」

「“ナイト・オブ・ドラゴン”プロジェクトが廃棄された本当の理由は、実験に成功(・・・)したからなのです。サンプルドラゴンの意思(・・・)を持つ生体兵器化。しかし、サンプルは一体のみ。そして、ミディショナリー非検体実験の失敗。そのプロジェクトを受け継いだのが“鬼神”“キリングチルドレン=レクイエム”プロジェクト。シオン、貴方が創られる以前に島ごと隔離、廃棄された施設の人工子宮の中で生き延びたのでしょう」

 リーシャの見解を聞いたシオンは頷き、尋ねた。

「生体兵器化されたドラゴンは、どうなった? リーシャ」

「元々、NOAは“ナイト・オブ・ディアブロ”及び“ナイト・オブ・ドラゴン”の為に改装された専用高速運用戦闘艦。NOAの中央ハンガーに在りました」

「中央ハンガー? そんな格納庫は無かったはずじゃぁ……、はっ! NOAサンプル室か!」

「そうです。混沌(ケイオス)に呑み込まれた衝撃で大破しましたが」

混沌(ケイオス)の影響を受け、俺やNOAとは違う時代に流れ着き目覚めた。そして、一つの生命としてこの世界で生き、偶然か或いは必然か、チッチを見付け育てた。そしてドラゴンの核、“循鱗(じゅんりん)”をあいつが宿した」

「シオンの仮説は、恐らく正しいかと思われます」

「アカデメイアの森に現われた都市ルミナリスもまた、時代を違え、この世界に流れ着いた」

「そう思われます。そして……重要な事実がもう一つ、シオンと彼は同じ遺伝子を持った双子同然と言う事です」

「……ここに来る前、もしかしたらとは、思っていたけどな……聞きたくない事実だ。まったく……へヴィーな展開になって来たぜ」

「人工子宮で創られたキリングチルドレン=レクイエムは貴方の兄弟も同然。しかし、同じDNA情報を使用する事などなかったはず、恐らくナイト・オブ・ドラゴンに携わった研究員が持ち出し使用した可能性は残っています」

「ったく……余計な事をしてくれたもんだ」

「良かったじゃないですか? 弟が出来て? それとも兄ですかね? シオン」

「あいつが弟に決まってる。気分転換にもう一人のリーシャに会って来るとするか……今頃、怒こってるだろうからな」

 シオンは頭を抱え、小さなリーシャが待つ“ナイト・オブ・ディアブロ”が駐機しているハンガーへと向かった。


 頭を抱えるシオンを見てリーシャが珍しく笑みを見せた。


 チッチとシオンがラウル湖の辺に戻ったのは、陽も大分西に傾いた黄昏時の頃だった。

 アイナ家に向かう途中、一人の人物とすれ違う。

 その風体は、マント代わりにボロボロの布で全身を覆い、鼻の先まで白い布で隠した怪しげな男だ。

 チッチとすれ違い座間、立ち止まり男が羊皮紙を手渡しボソリと呟いた。

エフェメール(かげろう)が動き出した。それと(・・・)からの預かり物だ」

 それだけを言い残し歩き出した。

「誰だ? 不気味な奴だ。お前の知り合いか? ……って、ここはラナ・ラウル王国だった。知り合いなんているのか? ……あれ? さっきの奴の姿がねぇ。何者だいったい」

 シオンが振り向くと男の姿は消えていた。

「まぁ、知り合いってところだ。奴は見た事ないけどなぁ」

 シオンの言葉に、何時もの様にチッチは笑みを浮かべて応じ、手渡された羊皮紙を確かめる。

「あの狸野郎(ランディー)め」

「ランディー? あのランディー・ハーニングからか」

 名も無き赤の騎士団は、大国ラナ・ラウルでも、その名を轟かせていた。


 遠くで手を振る白金の娘が見える。

「チッチ――! シオン――! めしの支度が出来たですぅ――。アイナは腹減ったですぅからぁ――。走って帰えって来やがれぇ――ですぅ! このうすのろ共、ですぅ」

 空腹の余り苛立つアイナの声が、黄昏時を迎えたログの村に響き渡った。


 ささやかな宴が開かれているアイナの家では、チッチとシオンの話題に花が咲いていた。

 アウラは剥れて話を傍観していた。

 話の切っ掛けは、酒に酔い始めたベリルの一言が始まりだった。

「アイナ様も恋多き年頃になられましたか……シオン殿とチッチ殿、二人の殿方を連れて来て母上様に会わせる……。確か以前仰っていたのは……確かシオン殿が婚約者だと……、で、本命はどちら様で?」

「あらあら、ベリルったら本気にしてたのですね」

 口元に手の甲を宛がい上品にナタアーリアが笑った。

「う、うるさいですぅねぇ――! この酔いどれおやじ! ですぅ。そんな事、お前さんの知ったこっちゃねぇですぅ!」

 犬歯を剥き出しにしてアイナが毒舌を吐く。

「そう、照れなくてもいいじゃないですか。アイナ様。……で、何処まで進んでおられるので?」

 アイナの頬に急激に赤みが差し込んだ。

「そ、そんな事……母様の前で! ……その、言える訳ねぇですぅ……」

 口を尖らせアイナが俯いた。

 アイナの言動にアウラの耳が、ピクリと動いた。


 ――えっ……、お母様に言えない事がチッチとあったの? 旅の最中に……。


 初心なアウラは学園の友人から聞いた男女の色事を思い出し顔を赤らめた。

「おい右眼包帯! アイナに変な(・・・)したんじゃねぇだろうな」

 シオンが腰の剣に手を掛けた。

「変な事ってなんだぁ? アウラ」

「わ、私に聞かないでください」

 アウラは更に顔を赤らめた。


 ――言える分けないじゃない……女の子の私の口から……、チッチの馬鹿……。


 悶々と“いけない行為”が脳裏を過ぎる。

「何もしてない。旅の最中、アイナが熱を出した時に介抱した事はあるけどなぁ」

 アウラは胸の内で手を撫で下ろした。


 ――良かった。アイナちゃんと何も無くって……? チッチの介抱って……まさか!


 そうだった。……チッチの介抱と言えば“あれ”なのだった事を思い出す。

「い、いけない人ですぅ……チッチってばぁですぅ……」

 アイナが、真っ赤になった顔を覆い身をくねらせた。

「チッチ! 貴方って人は! はっ……」

 アウラは思わず声を荒げた。

「解せないですよ。アイナ様、キス位はお済でないかと、このベリルは考え――痛てぇ」

 ゴツンと、良い響きが賑やかな宴に水を差した。

「アイナ様に向かって、下衆な事を聞くんじゃないよ。ベリル酒に呑まれてんじゃないよ!」

 スクナ・メラがベリルを一括した。

「……」

 静まり返る宴。


 ――キ、キスは……あれよね! チッチの封印を解く時の事よね? アイナちゃん? キスなら私も……し、しちゃってるしね。封印を解く以外でも……きゃっっ!


 ちょっぴり勝った様な気持ちがアウラの心を満たした。

「解せねぇな……って、あいつ何処に行ったんだ?」

 シオンの言葉にアウラは辺りを見渡した。

 しかし、チッチの姿は見当たらない。

「チッチ……」

 宴は既に違う話題に切り替わって盛り上がり始めている。

 アウラの紫水晶の瞳に一瞬、扉が揺れ動く様子が映り込んだ。

 そっと、宴の席を立ちアウラはチッチを追い掛けた。


 外に出るとチッチが星し降る夜空を見上げていた。

「明日もいい天気だ」

 チッチは、渡された羊皮紙の中に一緒に携えられていた手紙をアウラに差し出した。

「手紙……」


 ――もしかして……、ひょっとして……。こ、恋文? チッチから?


 アウラは手渡された手紙を開いた。

 月明かりで書いてある文字が読めない。

 家の窓から漏れ出す明かりに駆け込んだ。

「はっっ……」

 アウラは溜め息を吐いて肩を落とした。

 人間としての感情に乏しいチッチに、その様な気の利いた事が出来るはずはない。

 期待した自分が馬鹿だった。


「ランディーからの招待状だ。シオンとアイナの分もある」

「どうして? ランディー様は何を考えているの? ねぇ、チッチ」

 アウラは、ランディーの本性を見聞きした。

「さぁなぁ、ランディーにはランディーの事情があるんだろうさ」

「それで、この手紙を? 作戦の成功と皆の無事を祝う宴を催すからハーニング邸に来いですって。……今度は皆を呼んでランディー様は何を企てているの?」

 アウラは眉間を寄せた。

 ランディーは十分に力を持ちながら、更なる“力”を欲している。

 “世界を我が物にする”と言う野望がある。

 教会を滅ぼしたいと考えている。

「アウラ、イリオン王国の情勢が変わるかも知れない。何れそれが世界を揺るがす」

「チッチ? どうしたの急に」

「何でもない。アウラは死なせない。俺がなぁ」

「わ! 私もチッチを死なせないよ。だって……チッチを討つ(みとる)のは私だもん! そして私を看取る(うつ)のはチッチ? 貴方だけなんですからねっ!」

 チッチの微笑が夜空に溶け込む程に眩しく思えた。

 夜風が月明かりに映える白銀にブルーマールの髪の毛を揺らした。

 微笑むチッチの碧眼は凛としていて、かっこいい時のチッチだった。

「はい、これ。新しい包帯、魔術書の解読していた合い間にあつらえておいたの。チッチ、循鱗の力、恩恵増してるんじゃないかなぁって思って……」

 アウラは鞄から真新しい包帯を取り出し、チッチに手渡した。

「魔法陣? 描かれてるなぁ」

「チッチだって、身体は普通の人間でしょ? 循鱗の恩恵は強力になっているせいかは分からないけど、自己解放しちゃうから、普段ドラゴンの力を抑える為に作っておいたのですよ……でないと……チッチの身体が心配ですし、それに……私を置いて何処か遠い所にチッチが行っちゃいそうで……」

 アウラは不安げに俯いた。

「何処にも行かない。約束しただろ? 確かに新生した循鱗と言うか、母さんの少し残っていた循鱗を俺を育てる栄養源に埋め込んだ俺自身の体内で育った循鱗が取り込んだ、元は一つだった母さんの循鱗は基の循鱗に戻ったからなぁ、比率は違うけど、露わになっている右眼から無意識に流れ出すドラゴンの恩恵も増すしている。身体に掛かる負担もなぁ。ありがと、流石はアウラだ」

 チッチが包帯を受け取ろうとした。

「巻き直してあげる……ほら! チッチこっちに来なさい」

 

 しかし、凛としたチッチの碧眼と包帯で隠されたドラゴンの、真紅の瞳に静かな怒りを宿している事に、この時、アウラは気付く由も無かった。

 イリオン王国に暗躍し画策する権力者が居る。

 アスカが傷付き倒れた事も……。


 チッチは、ランディーと“姿無き不可視の影”からもたらされた情報を知り、丸められた羊皮紙を握り潰し静かな怒りの炎を胸の内に点した。


 END

御拝読感謝いたします。



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