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〜 古き魔術の森 〜 第三十話

こんばんは


雛仲 まひるです。


ではどうぞ><

 ☆第三十話


 ◆古き魔術の森(最終話)


 真昼でも森を覆っていた木々の為、常に薄暗かったアカデメイアの森を出ると眩い太陽の光が燦燦と降り注いでいる。

「うぅ――んっ……、久しぶりに陽に当たった気がするなぁ」

 チッチは眼を細め、雲ひとつ無い青い空を見上げる。

「ですぅですぅ――、久しぶりの太陽の暖かさが気持ちいいですぅ。なんて清々しいですぅ」

 アイナが両手を伸ばし大きく息を吸い込んだ。

 ルーシィーとサルサもアカデメイアでの困惑から解き放たれたように両手を広げ太陽の光を全身で受け止めていた。

 シオンと言えば、澄んだ表情のままだ。

 アウラだけが難しい顔をして元気がないように見えた。

「うん? アウラどうしたんだ? 浮かない顔をしてるなぁ。こんなにも太陽の陽が心地いいのに」

 アウラの様子に気付いたチッチが声を掛ける。

「えっ……そんな事は……ありませんよ? はぁ! 気持ちいいですね。森の中はじめじめしていましたから、僅かな風も気持ちいいですね」

 アウラが調子を合わせて微笑んで見せた。


「……なぁ、アウラ。無理はしなくてもいい。大方ソルシエールの事とオリビアの言葉が気になってるんだろ? 何故、アウラにソルシエールがルミナリスを見せたのかって、考えていたんだろ」

「チッチ……」

 チッチに見透かされているようで恥かしくもあり、それ以上に気持ちを察してくれたチッチの言葉が嬉しく頬が赤らんで行く事を感じた。

「気にするな。何れ分かる事だと思うぞぉ、俺は」

「……ちょっと待ってください。チッチ? 不可解な文字を見てくれと頼んだのはチッチ? あなたですよ! 何を呑気な事を言っているのですか!」

 チッチが何時もの微笑を向けている。

「ごめんなさい……役に立てなくて……まだ良く理解で出来ないでいるの」

 アウラは静かに俯いた。

「気にする事はない。何れアウラが解読してくれると俺は信じてる。それに何となく分かったような気がする」

「う、うん……ありがと、チッチ」

 アウラは鈴の消え行くような小さな声で答えた。

「? チッチ今、何と言いました?」

「何となく分かったような気がすると言った」

「……またチッチはいい加減な事を」

 傍にいたシオンがクスクス失笑を漏らした。

「お前の中に眠ってるんだよ。嫌と言うほど摺り込まれた知識がな。俺と同じで記憶の断片に残っているのさ」


 しかし、どうにもルミナリスを後にする前にオリビアの言葉が気になる。

「最後に皆さんにお願いがあります。今見聞きしたものはお忘れくださいませ……くれぐれも他言無用にお願い致します。何れその時が来るまで」

 アウラは、ソルシエールの意図とオリビアが最後に言った言葉を頭の中で反芻した。


 ――いったいどう言う事なのだろう? ソルシエールは何故? 私にルミナリスを見せたのだろう。


 アウラの様子を見たシオンが呟くように口を開いた。

「この世界には、まだ不要な力だと言う事だ。しかし、近い将来に必要になる。それが何時なのか、までは分からない。ルミナリスの科学や技術にNOAも」

「それって、どう言う事ですか? シオンさん」

「さあな。何れ分かる時が来る。今の俺にはそれくらいの事しか分からない」


「今はまだ急ぐ事はないと言う事だ。さて、帰るとするか俺たちの日常に。アイナ! 船を出せ」

 チッチの言葉にアイナが答える。

「アイアイサー」

 アイナがシオンから、くすねて来たブレスレットに手を掛けた。

 ブレスレットにあしらわれた宝石のようなものに描かれた六芒の魔法陣が光りだし、エグジスタンス=シェルシェ号が姿を現し始めた。

 エグジスタンス=シェルシェ号の出航準備に素早く取り掛かり準備を終える。

「出航だ! と言いたいところだけど、今は風が――」

「アイアイ」

 チッチの言葉を遮り、アイナが元気良く返答を返した。

「……まぁ、いいかっ。さて進路……何処にするかなぁ?」

 チッチが手を顎に宛がい首を捻った。

「まっ――くぅ、頼りない船長ですぅ。進路はアイナが決めるですぅ! 進路ラナ・ラウル王国東、ログの村ですぅ」

「まぁ、そっちが先だわなぁ、んんで、進路は王都じゃなくていいのかぁ」

 チッチの疑問にアイナが答える。

「ログの村にはアイナのお母様が住んでいるですぅ」

「逢いたいのか?」

 チッチが尋ねた。

「それもありますが、シオンはログに向かうつもりのはずですぅ。違うですぅか? シオン」

「何だ! その勝ち誇った笑みは……たくっ、正解だよ」

 シオンの態度を見たアイナは勝ち誇ったように号令を出した。

「しゅっっぱ――ですぅ!」

 アイナがからくりを操作するとエグジスタンス=シェルシェ号のマストに総を張る。

「あれ?」

 何時もなら、バフ! っと帆に風を孕み、ゆっくり動き出すはずのエグジスタンス=シェルシェ号がピクリとも動かない。

 マストに張られた帆はダラリと垂れ下がっている。

「馬鹿、だから言おうとしたのに人の話は最後まで聞くもんだ。風が無いのに動き出すか!」

「だぁ――って! 『出航だ』って、チッチが言うから……」

 抗議するアイナをよそにチッチはカルバラの二人に問い掛けた。

「それとルーシィーとサルサ。お前たちが何故、船に乗り込んでいるんだぁ? カルバラの戦士はアカデメイアの森を守るんじゃないのか?」

 チッチが微笑みを崩さないまま尋ねた。

「チッチさんたちといる方が楽しそうだからよ」

 ルーシィーの言葉にチッチの唇が吊り上がる。

「楽しいばかりじゃないと思うぞぉ?」

「わたしの技量じゃ不服なのかな?」

「いいや、頼もしい限りだ。いいのか? 本当に」

「いいわよ。カルバラの民はわたし一人じゃないもの」

「お嬢! カルバラの掟をまた破るおつもりか!」

 サルサの怒声が轟いた。

「なら、サルサ。貴方は降りなさい」

「嫌でございますな。お嬢をお守りするのが、このサルサの勤め。着いて行きますとも」

「お父様に怒られるわよ」

「どちらにしても同じでございましょう……はぁ」

 クスクス笑いを漏らしルーシィーが笑った。

「それもそうね」


「風待ちとは不敏なものだ」

 シオンが、ポツリと呟いた。

「お前は竜にでも乗って先に行ってればいい」

「ログの村ではお前にも重要な用があるんだよ! そう確かめなければならない事がある」

 やれやれと言った口調でシオンは肩をすくめた。

 チッチと言えば、相変らず微笑を浮かべている。

「大体の察しはついているみたいだな」

「何となく……なぁ、嫌な予感がするんだけど」

「同感だよ。俺も」

 

 暫らく経つが、風は一向に拭き気配が無い。

 チッチは何かを思い出したかのように船内に飛び込んで行った。

 船内からチッチが戻ると小脇に本が挟まれている。

「何だそれは」

「説明書だ。イリオンを出航する前にエリシャが渡してくれた。エグジスタンス=シェルシェ号に追加装備した新しいからくりだ」

 自慢げに満面の笑みを浮かべる。

「見たところ……水蒸気機関か。それなら説明書なんて見なくても使い方なら知っている、と言うか記憶にある」

 シオンが装備されている水蒸気機関を見て言った。

「これなら、無風時でも船を走られる事が出来るからなぁ」

「……この水蒸気機関……いったい誰が考えたんだ?」

「造ったのは錬金術科のエリシャだ。俺の頭の中に浮かんだものを形にしてくれる。この船もそうだ」


 シオンはチッチの言葉に確信を持った。

 チッチも自分と同じ世界で創られた人間に違いないと。

「なあ、ログの村に着いたら俺に付き合って行って貰いたい場所がある。いいか?」

 真剣な顔、眼でシオンは尋ねた。

「嫌だ」

 笑みを崩さないままチッチの即答が返って来る。

「いいから付き合え、お前にとっても大切な事なんだよ」

「男に付き合えと言われてもなぁ……ちょっと照れるじゃないかぁ。それに俺には生憎そんな趣味は無い」

「ばっ、馬鹿かお前は! 誰がお前に交際を申し込むか! それに俺にもそんな趣味は無ぇよ」

 シオンは慌てて否定した。

「何だ? ちょっぴり残念だなぁ」

「どう言う意味だよ」


 傍目からは、ふざけ合って見える二人に笑いが漏れている。

 その中でアウラだけが真剣な面持ちで考え込んでいた。


 ――水蒸気機関……このからくりも“科学”なのだろうか?


 ソルシエールがこの世界の科学とも言うべき魔術と融合させようとした未知の力、魔術や魔法とは違うもの……。

 アウラの中に一つだけ思い当たる節がある。

 この世界の竜族とは見た目は似ているものの、隔絶される力を発揮するチッチの中に封印されたドラゴンのブレス。

 見た事もない壮絶な破壊力を持ったオレンジ色の閃光と真っ直ぐ飛ばない青いブレスに漆黒のブレスは魔術や魔法でも似たものを見た事がない。

 しかし、竜族のブレスは火炎。

 もしかしたらチッチの母は……そして、そのブレスは“科学”とか言う魔法の力かも知れない。

 しかし、世間でグリンベルの悪魔と呼ばれるチッチの母は魔法も扱えたと聞いている。

 アウラの疑問は膨らむばかりだ。

「うん? 何……この臭い」

 考えを巡らせていたアウラは何かが燃えている臭いの漂って来る方向に眼をやった。

「へえっ! か、火事?」

 二本のマストの間、以前は山羊の監だった場所にもう一本マストの柱のようにも見える物から黒い煙が、もくもくと天高く立ち上っていた。

「た、大変! チッチ船が! マストの先が燃えてるの黒い煙が、ほら」

 アウラは慌ててチッチに知らせた。

「まぁ、そう慌てる事はない。よく見てみろアウラ。マストじゃない。それにマストとは素材が違うだろ?」

 チッチが、にんまりと自慢げに微笑んでいる。

「準備完了だ。……ったく、俺を釜焚なんかさせやがって」

 思わぬ重労働を押し付けられた、汗だくのシオンが文句をつけた。

「さぁ、帰ろうかアウラ。皆が待っている学園に」

 アウラの肩が不意に引き寄せられた。

「……はい」

 アウラは顔を赤らめ俯き頷いた。

「その前に寄り道はするけどなぁ」

「何処に? ですか」

 アウラが尋ねたその時。

「ああっっ! そこのイチャついている二人に告ぐぅぅですぅ! 至急チッチはアウラちゃんから離れるですぅ!」

「分かったわ、チッチ。学園に帰る前にアイナちゃんたちを送って行くのですね。」

「そうだ」

 翡翠色の瞳を吊り上げたアイナが鬼の眼光でこちらを睨んでいる。

「チ、チッチ? 少し離れましょうか……」


 ――あの時のアイナ言葉を思い出す。


 アウラは抱き寄せられたチッチの手をアウラは、そっと肩から外した。

「どうしたんだ? 勝手に騒がせておけばいい」

「……だけど……、ほ、ほら、出航でしょ? チッチが舵取りしないと、ね? 船長はチッチなのだから」

「そうだなぁ。よし! アイナ出航だ」

 チッチの声にアイナが応じる。

「アイアイ! しゅっっぱっ――ですぅ」

 白い蒸気を噴出し警笛が鳴り響く。

 エグジスタンス=シェルシェ号は一路、ログの村を目指し動き出した。

 そして、更なる運命の悪戯に向けて。


 END

 ★からんちゅ♪魔術師の鐘★ ~ 古き魔術の森 ~ 終幕。

御拝読ありがとうございました。


さて次回はプロローグです。

いよいよ第二章完結。

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