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〜 古き魔術の森 〜 第二話

 ☆第二話


 ◆双剣メーネ


 褐色に白い髪の人物が厚手の皮で拵えた背中のメーネを肩から外した。

「ここまで連れて来てくれてありがとう。行け! お前は生きろな」

 下馬すると諭すようにやわらかい声で、語り掛け馬の尻を叩き走らせた。

 走り去る愛馬に眼をやり、やわらかく微笑むと追って来た聖騎士団に向き直る。

「大人しく退いては貰えないでしょうか? 森を監視する騎士の皆さん」

 白い髪の人物は分隊の騎士、十人程に向かい合い言葉を続ける。

「森を守護するカルバラの民は、貴殿等とは目的もその意思も似て非なるもの。貴殿等の要望を受け入れる訳にはいかない」

「森を見守る同士よ。我らは、この森に人が立ち入らぬよう監視をしている。カルバラの民は遠き昔より、人から森を守ってきた主たちと何がどう違うと言うのかな?」

 鼻と顎に髭を蓄えた分隊長と思われる騎士が、やわらかい物言いで問うた。

「何もかも違う」

「解り合えぬと?」

「見解の相違だ。……その意志も総意もその理由(わけ)もねぇぇ――!」

 身の丈を優に超すメーネを頭上に持ち上げ回転を加え、振り下ろす。

 空気を切り裂く音の後、その切っ先は鈍い音と共に土誇りを上げ地面に喰い込む。

 舞い上がった土誇りが緩やかに吹く風に流され、澄んだ空気を運んで視界を開けていく。

 メーネの重さに耐えかねたのか、腰をくの字に折り中心にある柄を握っている。

 その反対側に延びる刃は天に向き、陽の光を浴びて鋭く鈍い光を反射している。

 騎士たちは、その剣速と剣圧、剣気に押されたのか呆然と立ち尽くしていた。

 しかし、騎士たちも洗練されたもの。一瞬たじろいだものの、すぐさま自分の得物を構える。

 槍を突き出す者、腰の剣を握り金属が擦れる音を立て刀身を抜き出し両手で構える。

「外したな。その細みの身体、その歳でメーネのような騎馬上で振るう重い得物を下馬し大地で振るうとは、なかなかやると……褒めておこう。だが、当たらねば斬れぬ」

 髭を蓄えた騎士が人物を見据えた。

「くっくく、……外れただと?」

 騎士たちと白い髪の人物を、からかうように間の抜けた声が、双方の声を掻き消した。

「今のは……外れたんじゃないなぁ、外したんだろ?」

 右眼に包帯、白銀にブルーマールの映える人物が左眼の碧眼を細めて微笑んでいる。

「何だ少年。危ないから離れておれ! ここは最早戦場だ」

「危ないのは、おっさんたちの方だと思うぞ」


 ――少年の笑みは崩れない。


「笑止! 何を根拠に言っている? 相手は年端もいかぬ少年一人、こちらは教会の騎士分隊、あの小僧がどう足掻こうが勝てぬわ」

「おっさん? 見る眼がないないなぁ」

「何だと、貴様! 神に選ばれし聖騎士を愚弄するか!」

「そんなんじゃないけど……まぁ、見てるといい」

 チッチの白銀の髪が、さらりと揺れる。

 褐色の人物は微笑みを、いっそう強まめた。


 ――刹那。


 土誇りが上がると、騎士たちの視界から姿が消える。

 メーネを持った白い髪の人物は、つま先から踵まで覆う鋼の足小手で地面に突き刺さったメーネを蹴り上げ脇に構えようとした。

 その瞬間、埃除けのローブが舞い上がり陽の光を小さく遮った。

 宙に舞い上がったローブは、空気の抵抗を受けゆっくり不規則な動きで地面に落ちる。

 土誇りは晴れ視界が戻っていく。

 ローブとその外套に隠れていた白い長い髪を結わえた少女の姿が現れる。

「なっ!」

 少年と思っていたローブの中から現われた、その姿を眼にした騎士が絶句した。

「だから、見る眼がないと言ったんだ」

 チッチは、勝ち誇った微笑を浮かべた。


「お前! 何を……している」

 何時の間にか背中側に回り込んでいるチッチは、少女の胸元を掴んみ動きを封じた。

「何って? 別に何も……、あっ! そうそう戦いを止めに来たんだったっけ」

「お前……何を、何処に手を置いて動かしているのかと聞いている」

 褐色の少女は両眼を閉じ眉を吊り上げ、小刻みにぴくつかせながら眉間にしわを寄せた。

「う――ん? マシュマロ? かなぁ? 大きさはメロンパイだ」

 白銀にブルーマールが緩やかな風になびき、さらりと揺れる。

 碧眼を弓のように反らせた満面の笑みを浮かべて。

「チッチ?」

 チッチより遅れてこの場に到着したアイナが、白銀にブルーマールの映える少年の名を呼んだ。

「ちょいとお前さん?」

「何だ? オレンジパイ」


 ――ぶちっ! 何かが切れた音がしたように思えた。


「何がメロンパイですぅかぁぁぁああ! そんなパイがあるなんて聞いた事ねぇですぅ! この変態右眼包帯!」

 足のつま先で地面をしっかりと掴み、捻りを加え、その回転を脚から腰へと伝え更に胴を伝い肩へと伝えていく。

 捻りを加えた拳がチッチの脇腹を的確に捉えた。

「おまっ! いきなり、な……にを……」

 チッチの言葉はそこで途切れ地面に伏した。

「このおばかぁ! 右眼包帯! アイナのかわいらしい美乳を揉みしだいておいてぇ――、今度は見ず知らずのうらやましい“ちち”を揉みしだくとは、ほんと節操のねぇ奴ですぅ」

 アイナが白眼を剥き地面に伏して、口から泡を噴いているチッチに、更に追い打ちの足蹴にをお見舞いしてた。

 騎士たちも突然の珍客に唖然として見ていた。


 そんな状況の中、褐色の少女は爛爛と眼光を研ぎ澄ましメーネを脇に構えた。

「止め……ておい……た方が……いいなぁ? 痛てぇ。縞々……パンツ」

「まぁ――た覗きやがったですぅか! このエロ右眼包帯」

「い……やね? 見た……痛てぇ……んじゃない……ぞ。見えたんだぞぉ」

 げしげしとアイナの足蹴の降り注ぐ中、何時の間にか息を吹き返したチッチが褐色の少女を制した。

「私が負けるとでも?」

 チッチはアイナの足首を掴み足蹴にを止め、すくっと立ち上がった。

「こら! 変態右眼包帯! 何しやがるですぅかぁ!」

 アイナの持ち上げられた足は、チッチの胸元まで上がっている。

 尚も上がる足に開いていくスカートの裾を必死に両手で押さえ悪態を吐く。

「俺はどっちが勝とうが負けようが知った事じゃないんだけど……この五月蠅い縞々パンツに後で小言を言われるのも、泣かれるのも御免だからなぁ」

「心配ない。私が勝つ」

 小女が鋭い眼光をチッチに向けメーネを構えた。

「相手は十人だぞ? それも訓練の行き届いた精鋭だ。加減して勝てるのかと聞いているんだけどなぁ。俺は」

 チッチは、少女の放つ鋭い眼光を何時もの頬笑みで見返した

「それは無理だ。全力で行く」

「だそうだ。騎士さんたち大人しく退いてくれないかなぁ」

 チッチは、騎士の方に向き返る事無く言った。

「我々も負けはしない。退く訳も理由もない」

「死人が出るぞ?」

「ふん! 知れた事をこれは戦士の戦いだ」

「それは困たなぁ」

「小僧が困る理由が分からんな」

「女の子が一人泣く。それに……何とかすると約束した」

 チッチはアイナに微笑み掛ける。

「な、泣きはせんですぅ――」

「離れてろ。アイナ・デュラン・ミラ・カストロス」

「……」

 アイナの胸元を、ついっと押し戻すように遠ざける。

「どっちを敵に回すのかな? 小僧。それとも……」

「お前に恨みはない。戦う理由もな。しかし、邪魔をするならお前も倒す。選べ! 私か……それとも騎士隊か」

「両方だ」

「三つ巴か……ならば仕方無い良いだろう……行くぞ」

 脇に抱えたメーネを抱え、チッチの脇を擦り抜けた。

 騎士たちも獲物を構え戦いに加わっていく。


「やれやれだ……と言う事で、アイナ・デュラン・ミラ・カストロス。安全な場所まで退って見てろと言っている」

「チッチ……死ぬな……ですぅ」

「約束は守るさ。誰も死なせない」

 そう言葉を残すと同時に土埃が舞い上がる。

「シオン? ……」

 チッチの動きにアイナは、シオンの面影を重ねた。

「死なないで……怪我……しないで、ですぅ。チッチ」

 祈るように胸元で掌を組んだアイナの耳に、激しくぶつかり合う剣戟が届き始めた。


 剣戟の中にメーネを蹴り、その反動で重い得物を取り回す鋼の足小手から、発する甲高い音が混じる。

「女伊達らに良くもまぁ、重いメーネを使いこなすものだ。しかし……限界か」

「はぁ、はぁ、はぁ」

 少女は大きく肩を揺すり荒い息使いを始める。

「良く戦った。我らも動ける者は後、五人。敬意を込めて、こちらも騎士の誇りを賭け貴殿を斬る」

 少女がメーネの刃を蹴り上げる。

 一人の騎士がメーネの重い剣戟をトライデントの鉾先で受け止める。

 メーネの剣戟をまともに受け止めたトライデントの鉾先は、悲鳴を上げて砕け散った。

 勢い余ったメーネの刀身が地面に喰い込む。

 少女と間合いを詰めていた騎士が剣を振り下ろす。

 メーネを逆手に持ち変え褐色の少女が、くるりと背を向け踵で刀身を蹴り上げる。

 剣を振り下ろし攻撃に入った騎士にメーネの刀身を受け止める術はない。

 ましてや、かわせるはずもない。

 攻撃に転じた時点で守備は一番脆くなる。

 下から蹴り上げられたメーネの刃が騎士の身体を襲う。

「くそ」

 騎士は短く呟き、振り下ろされたメーネの刃を見つめるしか出来なかった。

「なっ!」

 白い髪の少女は二つの甲高い剣戟音と共に急激に重くなったメーネから伝わる違和感を感じ取った。

「やれやれだなぁ」

 チッチの双剣がメーネと騎士の剣を一瞬、受け止め受け流し騎士に向き直る。

「やっとの思いで八人。打撃だけで気絶して貰ったて言うのに……危うく一人あの世に逝かせるところだったじゃないか」

「貴様……何時の間に、八人もの部下を……どうやって鎧に身を固めた騎士に有効な打撃を」

「アスカ直伝無手武闘プラス毒舌縞々パンツ直伝レバーブロー、俺様ヴァージョン。これで九人目だ」


 チッチの傍らを騎士の身体が伏していく。

 騎士の纏っていた鋼の鎧には窪みが出来、身体に届くほど陥没していた。

「お前……いったい何者?」

「通りすがりの縞々パンツだ。あいつがなぁ」

 チッチは、離れた場所で戦いの行く末を見ているアイナを指差した。

 遠くで自分を指差し、きょとんと首を傾げるアイナの姿が見える。

「とぼけるな! お前の事だ」

 馬鹿にされたと思ったのか、声を震わせ白い髪を少女がチッチに向かい怒りを露わにした。

姿無き不可視の影(インヴィンジブル・イントルーダ)……と言っても知らないよなぁ、その名が示す通りだから……」

「姿無き不可視の影だと? その名を聞く事はあっても、姿を見たものはいない。その名を聞いた者には死しか待っていないと聞き及んでいる……こんな小僧が在り得ない。あの恐怖の対象が……」

 騎士分隊で、ただ一人残っている髭を蓄えた分隊長が声を荒げた。

「あれ? 案外有名なのかなぁ?」

 言葉が終る頃、分隊長の眼前に移動したチッチは、両手に構えた大型ナイフを縦横無尽に振るった。

 騎士の纏う鋼の鎧が紙切れのように切り刻まれる。

 下着一枚にされた髭を蓄えた分隊長は、慄き地べたに伏している騎士たちを起こすと馬に跨り騎士分隊を率いて、その場を後にした。

「貴様もアカデメイアを蹂躙しようとする者か? ならば見過ごす事は出来ない」

 褐色の少女は怒りを露わに、メーネをチッチに向い振り上げた。


 To Be Continued


最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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