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〜 古き魔術の森 〜 第二十七話

こんばんは


雛仲 まひるです。


こちらの更新がのろのろですいませんf^^


ではどうぞ><

 ☆第二十七話


 ◆形見の行方



 チッチたちと無事合流し、アイナとアウラはオリビアに促され腰を上げる。

「都市ルミナリス?」

 二人は顔を見合わせた。

 近年突如、アカデメイアの遺跡に現われた都市。 

「そうです。今のアカデメイアを統括するものの下に」

「統括者ですか?」

 オリビアが僅かに微笑んだ。

「さて、とうでしょうね? ソルシエール様から何もお聞きになられていないのですか?」

「ええ……何も」

 アウラは記憶を探るが、そのような話を聞いた事はない。


「お待ちくだされ」

 族長が、ゆっくりと立ち上がった。

「お時間は取らせませぬ。暫しお待ちを」

 族長は、そう言い残し部屋を出て行った。

 待つ事、暫らく族長が長い布袋と短い布袋を抱え戻って来る。

「これを」

 アイナの前に、二つの布袋を差し出した。

「……これは何ですぅ?」

「義理父は御健在ですかな?」

「アイナが、まだ小さい時に……他界したですぅ……」

「そうでしたか。お辛い事を聞いてしまいました。これは姫様の義理父が、この部族の守護にとアカデメイアを出る前に私に謙譲していった剣と短剣です。姫様の義理父は若くして腕の良い錬金鍛冶士でした。言わば姫様にとって、この剣と短剣は亡父上の形見の品でございます」

 族長に手渡された布袋をアイナは受け取った。

 その布袋に包まれている剣が羽のように軽い事に驚いた。

義理父(ちち)の形見でも、アイナには使いこなせないですぅ。……それとも剣は弟への(かたみ)ですぅかぁ?」

「姫様のお好きなようになさりますよう。信頼の置ける誰かに、姫様が守ってほしいと思うお方にお渡ししても構わいませぬ。姫様の義理父は遺言らしき事を何も言っておりませんでした。ゆえに」

 族長は、アイナに微笑み掛けた。

「でもですぅ! この品は“部族の守り”じゃぁ……。そんな大事な物、幾ら形見だとしても貰う事出いかんですぅ」

「よいのです。この部族には、その剣を扱える者などおりませぬ。飾りにして置くには惜しい剣でございますゆえ。それに剣は飾って置く物ではございませぬ」

「……ありがと、ですぅ」

 アイナは、義理父の残して行った形見の剣と短剣が納められた布袋を抱きしめた。

 

 ――まるで、生前の義理父の面影を重ねているように……。


「族長のじいさん。一つ聞いてもいいかなぁ?」

「何なりと」

「この森にドラゴンが住んで居たって話は聞いた事があるか?」

「……ドラゴンですと!? はい。直接見た事はありませんが、言い伝えで耳にしております。それはそれは精悍で美しい鱗のドラゴンが住んでいたと聞いております。……確か森の北、シュタイナー地区に住んで居たとか……」

「ありがと、じいさん」

 それだけ聞くとチッチは嬉しそうに微笑みを浮かべ、短く礼の言葉を述べた。


「用はお済ですか? それでは向かいましょうか。都市ルミナリスに」

 オリビアが背中を向け、歩き出した。

 その後をチッチ、アウラ、シオンが続く。

 アイナは族長に軽く一礼をするとオリビアたちの後を追い掛けた。

「待ったですぅ――! 白状者!」

 胸に抱えた布袋を大切に抱えたアイナが声を張り上げる。

 両腕を塞がれ使えない為、何時ものように歩けない。

「重かったら持ってやろうか?」

 シオンがアイナを気遣い声を掛けた。

 アイナは静かに首を振った。

「抱えたまま歩くのは大変だろなぁ、手を振れないからなぁ……そうだなぁ? 背中に背負えばいくらか楽になると思うぞ」

 チッチがそう言うと自分の鞄から、縄を取り出した。

「革帯でもあるといいけどなぁ、今はこれで代用しておくとするかなぁ」


 アウラの脳裏に過去のトラウマが甦る。

「アイナちゃん! 油断しちゃ駄目ですよ。チッチと縄の組み合わせは最悪ですから」

 放牧レースの時の事を思い出したアウラがアイナに注意を促した。

「何故ですぅ?」

「そ、それは……その……と、兎に角、止めておいた方がいいと思うの……、とっても嫌な予感がするから」

 顔を赤らめ、もじもじ落ち着きのないアウラを見て、アイナは薄い笑みを浮かべた。

「はぁは――ん……、アウラちゃん、チッチに構って貰えないから、嫉妬してるですぅね?」

「ち、違います! 本当にろくな事無いですよ」

 アイナは、ここぞとばかりチッチに甘える。

「チッチ、お願いするですぅ」

「ああ、任せとけ」

 チッチは満面の笑みで応じた。


 ――何よ! 合流してから、アイナちゃんばっかり構って……。


 アイナは頬を膨らませた。

 私、嫉妬してる……。

 こんなにも心が苦しく痛いなんて……切ないよチッチ。

 この旅でアイナちゃんの方が良く……好きになったの? 私より……。

 自分の言葉でアウラは気付く。

 チッチは『好き』と言ってくれた事はある。

 放牧レースが始まる前にプラムの墓前、星降る空の下で互いに唇を求め合った事もチッチなら……。

 全てを捧げてもいいと思い背伸びした約束を交わした。

 その約束は、今だに果たされていない。

 正直、雰囲気に流され約束してしまった事に後悔した事もあった。

 しかし、それは単にチッチの好き嫌いの問題のように思える。

 心を通わし合っているのかは、はっきりと答えは出ていない。

 チッチに布袋を背中に掛けられ、きゃっきゃと、はしゃぐアイナを見てアウラは唇を噛んだ。

 これから未知の都市を眼にしようとしている時に……、チッチが放牧レース終盤、瀕死の状態で漆黒のドラゴンをチッチが自力解放した時に、闇色の眼に現われた未解読の文字を見来るようにとソルシエールから言われているこんな時に……私は何を考えているのだろう。

 しかし、チッチとアイナの様子が気に掛かる。


 ――何よ! 人の気も知らないで……、チッチのばか……。


 アウラは使命と嫉妬が入り混じり、複雑な思いを抱いていた。

 不意にアウラの肩に手が置かれた。

「シオンさん……」

「何だか、元気がないじゃないか」

「シオンさんこそ、落ち着かない様子ですね……」

シオンの様子に気付いたアウラは声を掛けた。

「……あいつ、あの剣を誰に渡すのかって考えるとイライラするんだ。これまでアイナを守って来たのは俺だ」

「シオンさんは、もう立派な剣をお持ちじゃありませんか」

 シオンの腰にはランスから渡された剣を腰に帯びている。

 それにラナ・ラウルでゴーレムを操る鬼神娘から託された“神の剣”フィノメノン・ソードがある。

「それでも!」

 シオンが、悔しげに大声を上げた。

「渡すとしたら弟さんにじゃないのですか? 本来なら。シオンさん? 可笑しいですよ」

「ランス……きっとアイナは、(・・・)のランスには渡さねぇよ」

「事情はよく分かりません……、でもアイナちゃんを守るのは剣じゃないのではありませんか? 彼女を守るのはシオンさん自身の意志とアイナちゃんへの想いなんじゃないですか?」

「チッチは……あいつは、きみを自身の意志と想いで守っているんだ……」

「それは……、正直分かりません……チッチは私との約束を守る為に傍に居てくれてるのだと思います。私たちの間には複雑な想いが交差していますから……、それに……悲しい約束の下で」

「約束? 聞いていいか?」

「ええ別に構いませんよ」

 アウラは一度言葉を切り続けた。

「これはチッチが私に言った言葉です。『俺は、お前以外の誰にも討たれてやるつもりはない。だから、お前が俺以外の誰かに討たれる事は許さない』です。この言葉は以前から……そして本当に仇同士になってしまった私たちの約束です」

 悲しげに目蓋を伏せたアウラにシオンは返す言葉を見付ける事が出来なかった。


「都市ルミナリスまで、後少しです」

 オリビアが目的地に近付いた事を皆に告げた。

 深い森の中に時折、苔むしつる草に覆われた都市の残骸の数が次第にその数を増している。

 しかし、都市らしき建造物は一向に姿を現わさない。

 オリビアが大きな岩の前で立ち止まった。

「皆さん、到着しました」

 一行の眼には大きな岩しか映し出されていない。

 オリビアは、大きな岩に向かい、言葉を発し始めた。

「認識コード、二丸一五七七八二。承認を」

「認識コード、二丸一五七七八二。声帯、身体一致を確認。空間偽装解除」

 

 ――感情の欠片も感じない声が返って来る。


 人の肉声とは違う不思議な声。

「都市ルミナリスにようこそ。アカデメイア女王の血を引く者とその末裔……それと、おまけの方々」

 オリビアの言葉と共に森は姿を変えていく。

「おまけ……って言われてるぞぉ、シオン」

「お前もだよ……チッチ」

「えっ? 俺もなのか」

「ついでに言うとルーシィーとそのおまけもな」

 サルサが自分を指差し苦い笑みを浮かべた。


 一行の眼前に現われた都市は、この世の物とはとても思えない光景が広がっている。

 

 ――ただ一人、シオンを除いては。


 森の中で見た苔むしその様相は、はっきりしなかった瓦礫を思い起させる。

 天高く聳え立つ円筒形の建造物、建物を繋ぐ透明なチューブ、窓枠の無いガラスの壁で建てられた建造物、どれもこの世では見た事もない。

「さあ、皆さん現在アカデメイアを統括するもの(・・・)に貴方たちの立ち入り許可を申請して参ります。少々お持ちくださるようにお願い致します」

 オリビアが都市の中央に向かい歩き出した。


 未知の世界に踏み入る。

 そこで何が待ち受けているかは分からない。

 アイナはチッチが縄を括り奇怪な亀の甲羅模様で肩から胸にかけて通して掛けにしてくれた、背中の布袋を外し差し出した。

 部族の村を出る際、きょとんとするアイナを見ていたアウラの嫌な予感が的中した瞬間だった。

「これを……チッチに渡すですぅ」

「俺には必要ないかなぁ」

 アイナはチッチの言葉を聞いて俯く。


 ――パシン! 辺りにいい音が響いた。


 アウラがチッチの左頬を平手で打ち、眉間を寄せて睨み付けている。

「チッチ! あなたと言う人は……族長の話を聞いてなかったの? それとも忘れた?」

「ア、ウラ……ちゃん」

 平手打ちを貰ったチッチの代わりに、アイナは思わず頬を押えた。


 アウラは振り上げた右手を下ろしスカートの裾を強く握り締めた。

「チッチ? あなたって人は……アイナちゃんが、どれだけの想いでお父様が残された形見の剣を、チッチに渡したか分かる? 族長が仰っていた事を忘れたの?」

 俯いて震える声でアウラは尋ね言葉を続けた。

「あなたになら分かるでしょ? 形見がどれだけ大切な物なのか! 手放したくない物かって事……それに! 失う事がどれだけ悲しい事かって事を!」

 矢継ぎ早に捲し立てた後、アウラは唇を噛んだ。

(チッチの循鱗を……形見(はは)を滅し失わせたのは……私なのに……何を言ってるの……私)

 一度、固く閉じた唇から、自分自身が認めたくない思いが口を吐いて出てくる。

「アイナちゃんは、その形見を弟さんでもなくシオンさんでもなく、チッチ、あなたに渡したのですよ。アイナちゃんは、チッチに守って欲しいから……あなたの事が好きだから……形見をあなたに渡そうとしたのですよ」


 ――私だって……守ってほしいんだよ。チッチ、あなたに……だって私はチッチが好きだから。例え、仇同士だとしても……。


「アウラちゃん……?」

 ただ一人、冷静に事の成り行きを見ていたシオンが口を開いた。

「たくっ……アイナがそいつに形見の剣を渡そうとしてんのは面白くねぇ! が、アウラちゃんが言っている事は、まぁ何となく分かる。しかし、アイナがそいつに剣を渡そうとした理由も何となく分かる。俺は守護者(ガーディアン)だ。自分の知らない土地に何回も踏み入って来た。未知の世界に足を踏み入れる事の怖さを知っている……アイナは、そいつに形見の魔剣(・・・)を渡そうとした……違うか? アイナ」

 シオンがアイナの気持ちを代弁しているように思えた。

「……どっちもですぅ」

「なっ! はぁ? まあいい……って、やっぱり良くないけど、その剣には雷帝が宿ってる。アイナは精霊的なものを感じ取る、俺もな。双剣と無手体術で近接戦闘を得意としていて中長距離からの攻撃手段を持っていない。そいつには、アイナは雷帝が宿ってる魔剣なら、お前には丁度いい剣だと考えたんだ。面白くはねぇが俺には剣は必要ねぇし魔法も扱えるからなっっ! 今回はアイナの気持ちを尊重してもいいと思っている」

「ちょっと、待ってください。チッチがドラゴン化したら距離なんて関係ないじゃないですか?」

 戦う事に慣れていないアウラはそう思った。

「ドラゴンの封印を解けば、チッチには“絶対(ブレス)”があります」


「アウラちゃん……アウラちゃんは知っている、分かっているはずじゃないの? ドラゴンの封印を解く事がチッチくんの心身に、どれほどの負担が掛ける事になるかを」

 ルーシィーがアウラに問い掛けた。

「それは……」

アウラは知っている、分かっている。

 チッチの右眼の変化は、最初に封印を解放した時の後遺症である事を誰よりも。

「何だか……俺の事をネタに話が弾んでいるようだけど……俺には循鱗から削り出した双剣がある。だから必要ないと言ったんだけどなぁ」

 チッチが呑気に微笑を浮かべている。

「はぁっ……、お前は呑気でいいな。アイナの気持ちも考えてやれよ。循鱗の力とやらを使い過ぎてかは、分からねぇけど、一度は消滅し掛けたそうじゃねぇか? お前」

「チッチが……消滅? 何があったのですか?」

 チッチは何時ものように微笑を浮かべている、そんな大事があったなんてアウラには知る由も無かった。

「恐らくですぅ。度重なる循鱗の解放なのか、あの時、大半を奪われた循鱗に何らかの異変が生じたかは分からんですぅが、チッチの身体は人の姿を形成出来ず、一時は消滅し掛けたのですぅよ」

 アイナの言葉にアウラは衝撃を覚えた。


 ――循鱗に異変……もしかして私が循鱗を破壊したから?


「そ、それは何時の……何日前の事なのですか?」

「アカデメイアの臍に来て直ぐの事ですぅから、えっと……確か十日程前になるですぅねぇ」

 アウラは記憶を遡る。

 十日程前……私が循鱗を破壊した頃の出来事……知らない内にチッチをも滅してしまうところだった。

「そ、そんな……そんな事があったのですか……私がチッチを……」

 アウラは愕然とし力無く崩れ膝を地に落とした。


 To Be Continued

御拝読ありがとうございました。

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