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〜 古き魔術の森 〜 第二十六話

こんにちは

 ☆第二十六話


 ◆暗躍の足音


 イリオン王国のとある場所にある屋敷に黒装束の人物が居る。

 黒装束の人物は、円卓の置かれた薄暗いとある一室の中を調べていた。

 部屋の隅にはイリオン王国の紋章旗が掲げられている。

「組織の連中も、やはりそう簡単に痕跡や証拠を残したりはしないか」

 黒装束の人物が円卓の裏側を覗き込んだ。

 何か彫り物が施されている。

 手で撫でて彫り物の形状を確認する。

 イリオン王国の紋章とは違う掘り物だと感触が教えてくれる。

 ただの装飾にしては、手に伝わる感触が違う。

 形状からして紋章に似ているがイリオン王国のものではない。

 黒装束の人物は、発火剤に着火し形状を確かめた。

「こ、この紋章は……噂は本当だったのね、早く知らせねば……物音? 誰か居る」

 静けさの中、僅かに物音が聞こえる。

 黒装束の人物は、素早く発火剤の火を消し様子を窺った。

「ふっ……気配を消していたか、このわたしに気配を気取られないとは、かなりの手練れか」

 黒装束の人物が呟いた。

「ようこそ我らの屋敷に、しかし、気配を掴ませず侵入するとは恐れ入ります」

 姿無き男の声が部屋に反響する。

「それは光栄だ、とでも言っておこうかしら? しかし、それはお互い様だ」

「そう、思って頂いても結構ですよ。ですが、貴方をここからは生きて帰えしませんよ」

「残念だけど帰えらせて貰うわ」

 黒装束の人物は辺りを見渡した。

 声の主の姿は見えない。

 この部屋は地下にある。

 窓などない扉を通り、元来た経路を辿り外に出るしか統べはない。


 ――イリオン王国で暗躍している画策を知らせないと、何としても。


 黒装束の人物は、扉に向かい走り出した。

「逃がさないと言ったはずです」

 薄暗い部屋に男の声が木霊した。


風狼(ウォルプス)ここでいいぞぉ。それとお前は姿を潜めていてくれるかなぁ」

 白銀の髪にブルーマールの映える少年は風狼を止めた。

「小僧。この場で迎え撃つ、つもりなのか? たった一人で」

「ここは起伏が多いし谷が深くて狭い、一人で迎え撃つにはいい場所だろ? それに争いになるとは限らない。お前が居たら、話がややこしくなるかも知れない。聖十字軍も居るそうだからなぁ。分かるだろ?」

 チッチは微笑み、風狼に言った。

「確かに。では、(わし)は気配を沈め身を潜めておくとしよう……小僧、お前に何かあれば、すぐさま助けに入ろう」

 風狼にチッチは微笑みで応じた。

「上手くやるさ」

「くれぐれも無茶はするな、分かっているな? 小僧」

「分かっている。状況を見極めに来ているだけだからなぁ。俺は」

「ふん! 小童が言うようになったわ。死ぬなよ小僧」

 一陣の風と共に風狼は姿を消した。

 

 チッチは近くに転がっている大き目の石に腰を下ろした。

 馬鉄の音がゆっくりと近付いて来る。

「さて……どうすっかなぁ、先ずは探り入れて様子を見るかなぁ」

 チッチは腰を上げると進軍して来る五千もの大群に向かった。

 

 軍隊の先頭を行くイリオン軍兵士の眼に一人の人影を視認すると司令官に報告をする。

「前方に人影を確認いたしました」

「数は」

 イリオン軍を率いる司令官は短く聞き返す。

「はっ! 一人であります」

「たった一人か、捨て置けこの当りに住む住人か旅の者であろう」

「しかし、こちらに向かって歩いて――」

「よっ! 待たせたかなぁ」

 報告の途中、まだ豆粒程度にしか見えていなかった人影が自分の直ぐ隣に立って微笑んでいる。

「……なっ! 貴様、何時の間に」

 驚く兵士をよそに司令官は、突如、現われた少年に眉一つ動かさず、少年の胸元を凝視した。

 兵士たちは剣の柄に手をかけている。

「同胞か……その騎士勲章は」

 司令官の眼には、イリオン王国軍でも滅多に見る事のない特殊な騎士勲章が映っている。

「司令官殿、この少年はいったい」

「その若さで、その騎士勲章を叙勲されるとは世界は広い。イリオン軍の騎馬隊は全員下馬せよ。歩兵は姿勢を正し敬意を示せ」

 司令官の命令に、兵たちは一瞬戸惑っていた。

「何をしているか! 貴様ら」

 司令官が他の兵たちより、早く馬上から降りた。

 他の兵たちは慌てて馬上を後にし姿勢を正した。

「……その右眼の包帯、任務で負傷でもしたのかね?」

「気にする事はない。眼の病だ」

 左眼を弓のように反し少年が答えた。

「貴様! 司令官殿に向かって礼を弁え!」

「よい」

「はっ! 司令官殿。……あの少年は、いったい何者でありますか」

 司令官の脇に控えていた補佐官が小声で尋ねた。

「あの騎士勲章を見た事があるか?」

「いえ……そう言えば、あの高名な名も無き赤の騎士団(ブラッディー・レッド)の隊長ランディー・ハーニング殿の胸元にあったような……」

「軍事行動を行なう際、名も無き赤の騎士団の隊長であっても、その部隊の司令官の下で行動を共にする。しかし、その実、彼ら(フリーライセンスサー)への命令権はないのだよ。軍隊の統制を乱さぬ為、彼らは司令官の命令に従い行動を取るがね」

「しかし、たかだか一人の騎士ではありませんか。階級から言えば司令官殿が礼を尽くす事はないかと」

 司令官と補佐官の言葉を聞きながら、チッチは首を捻った。

「これがどうかしたのか?」

「やれやれだ。その騎士勲章の持つ権限も知らないのか? 君は」

 司令官は肩をすくめた。

 イリオン軍と少年の様子を見ていた聖十字軍は、呆けた顔をして事の成り行きを見詰めていた。

「一つ聞きたい事があるんだけど、いいかぁ?」

「何なりと」

 司令官が最上級の敬礼をし答えた。

「堅苦しいなぁ」

 少年は微笑を崩さない。

「お知りになりたい事とは?」

「あっ! そうそうイリオン軍が何故? こんなところに居るんだ? それも教会の聖十字軍と共に……この先にはアカデメイアの森がある。教会は人々を近付けないように監視しているはずなんだけどなぁ、それに……この数、アカデメイアを監視している聖十字軍とは思えないんだけどなぁ」

 少年の眼光鋭い碧眼が聖十字軍に向けられた。

 聖十字軍の指揮を執る最高責任者が少年の前に現われた。

「我々はガーランド王国の大聖堂から聖地フィクス・ルミナリスの神樹があるラナ・ラウル王国のルミナリス大聖堂に向かう途中、ガーランド王国を訪れていたイリオン軍と共にメタモニカ王国を訪問しラナ・ラウル王国に向かう」

「アカデメイアに向かう予定はあるのか?」

「ありません」

 少年の質問に最高責任者が短く答えた。

「ならいい。アカデメイアを守っているのは教会の騎士団だけじゃない事は知っる?」

「カルバラの民の事を言っているのですかな? 少年」

「そうだ。この先にはアカデメイアの臍がある事も?」

「無論です」

「カルバラの民は勇敢だ。五千の軍隊にも恐れる事無くアカデメイアに近付く者の妨げになるだろうなぁ、無用な戦いを避けたいなら南に下りメタモニカに入るといい」

 少年はそう言うと上着を巻くり上げ、ルーシィーに刺れた傷跡を見せた。

 イリオン軍司令官は、腑に落ちない顔をして少年の傷跡を見ていた。

「油断でもなされましたかな?」

「まぁ、そう言う事にしておいてくれ」

 司令官は少年が、のらりくらりと話ながらも確実に情報を引き出されている。

「時に、君はアカデメイアの近くで何をしているのだね?」

「個人的な約束で、一人のお嬢様とある人物の護衛がてら学園の夏期休暇を楽しんでいるってとこかなぁ」

 少年は碧眼を弓のように反らし言葉を続けた。

「そんでもって、アカデメイアに近付き過ぎて聖十字軍とカルバラの民と剣を交える事になった。けど、死人はでてないから安心していいぞ」

 何を呑気な事を言っているのか、と司令官は思った。

「その騎士勲章をお持ちでありながら、イリオン王国内に不穏な動きがある事を存じてないのですか?」

 少年の眼が、一瞬にして鋭い眼光を宿し司令官を震え上がらせた。


 ――これがフリーライセンサーの……、あの名を持つ騎士団の一人なのか。


「不穏な動きがあるのは収穫祭の時から気付いている。その首謀者を俺の仲間が洗い出しているところだけど、あんたたちはこんなところで何をしてんだぁ?」

 指揮官は、少年の肩に手を回し顔を近付けた。

「はっ! 我々は国王の(めい)により万が一に備え軍を分散させている。寝首を襲われないように。同盟強化を名目に各国にも注意を呼び掛け、いざ事が起これば支援を頼んで回っているのです。これからメタモニカ、ラナ・ラウルに赴いている隊と合流し潜伏し来たる時を待つのです」

 少年が難しい顔をした後、眼光炯炯(がんこうけいけい)の眼差しを向けている。

 ただならぬ、威圧感に司令官の背筋に冷たいものが迸った。


 ――試されている、のか? ……。


 司令官には、幾度となく死線を潜り抜けて来た自負があった。

 実戦経験も豊富だ。そして司令官を任されるまでになった。

 臆しているのか? この私が……こんな少年に。

「その話、本当か?」

「は、はい」


 ――何だ? 今の威圧感は……、これの威圧感はまるで伝説に聞く<ruby><rb>究極の魔物ドラゴン</rb><rp>(</rp><rt>オプティマール・モンストル</rt><rp>)<rp></ruby>ではないか。


「なるほど、内戦が起こった時に武力衝突を避け、国民と住まいを守る為って意図かぁ?」

 一転、少年の表情に笑みが戻っている。

「教会の力を借りる事が出来れば、不穏分子も教会の聖十字軍には不用意に手は出せませぬ。教会を弾圧すれば国民は内乱を起すでしょう。敵も不用意に国民を刺激したくはないでしょう」

「もし虐殺が行なわれれば?」

「虐殺を行なわせない為に、我々は世界各国にある教会に強力を求め軍を率い散っているのです。では、我々はこれで」

「あぁ、気を付けてなぁ」

 司令官が軍杖を立て指揮を執り軍を南に向けた。

 

 チッチは軍隊が見えなくなるまで見送った。

「シオンの野郎め! ややっこしい情報を持って来やがって……まぁいいかぁ。風狼、もう出て来てもいいぞぉ」

 何処に身を潜めていたのか、チッチの呼び掛けると風狼は風と共に姿を現した。

「いらぬ心配だったな、小僧」

「ああ、お陰で死ななくても済んだかなぁ」

「循鱗の力を使ったな小僧」

「ちょっとだけ使った。保険だ俺の命のなぁ」

 チッチは漂々と答える。

「死なせはせんよ。この(わし)が……循鱗を持つお前が死ぬとは思えんが」

「馬鹿言うなよぉ、俺は人間(・・・)だ。他の人より、ちょっとだけ傷の治りが早いだけだ」

 チッチは、風狼の背に飛び乗るとアカデメイアの臍に向かった。


 アカデメイアの近くまで来ると、カルバラの民たちが集まっていた。

「チッチくん! よく無事で」

 ルーシィーが声を掛けた。

「戦闘にはならなかったからなぁ、しかし、のんびりもしていられないんだけど……焦っても仕方がないからなぁ、仲間の情報を待つさ」

「情報? 何が起こっているのかしら?」

「まぁ、お国の事情ってやつさ。あっ! 情報と言えばシオンお前」

「何んだよ。俺は、こっちに向かう軍隊を見たと伝えただけだ」

「シオン、お前が妙な推測で情報を寄越すからアウラとアイナに帯同出来なかったじゃないかぁ」

「うるせぇよ。……それよりも早くアイナたちを追うぞ」

「言われなくてもそうするさ」

 チッチはそう言うとアカデメイアの森に入って行った。

「お国の事情……って、ちょっと! チッチくん。わたしも行きます。案内は必要でしょ?」

 ルーシィーの言葉にチッチは微笑みで応じた。



 To Be Continued

お疲れさまでした。

最後まで御拝読下さいまして誠にありがとうございます。



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