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〜 古き魔術の森 〜 第十五話

 ☆第十五話


 ◆真実の姿


 シオンのフィノメノン・ソードが結界を音も無く切り裂いた。

「さあ、再出発だ」

「……」

「ルーシィー? どうしたんだ」

「いえ、別に……」

 何処か浮かない表情のルーシィーにチッチが声を掛けた。

「ならいい。ルーシィーにも、いろんな事情があるんだろうからなぁ」

「そ! そんな事は……」

 チッチの言葉にルーシィーは俯き、眼を逸らした。


 チッチにアイナ、シオンの三人はアカデメイアの森へと再び入って行く。

 そこで眼にした光景を見て言葉を失った。

 三人の眼に映るアカデメイアの森は、とても森と呼べる光景ではない。

 眼を皿のようにしている、シオンの下に一羽の梟が舞い降りた。

「監視の魔法生物」

 肩に乗った梟が携えて来た羊皮紙を開き、内容を確認をするシオン。

「マスターからだ。ランスとアウラちゃんの足取りに目処がついたみたいだ。あくまでも未確認情報で確実ではないけどな。アカデメイアにも興味がある、だが俺はランスの足取りを追おうと思う」

「シオン。ランスだけでなく、アウラちゃんの足取りも調査してたですぅか?」

「マスターにシュベルクでの経緯を報告したからな。マスターが依頼で各地に出向いた時にランスとアイナちゃんの足取りも追うようにギルドの仲間に伝えてくれていたらしい」

「ありがとですぅ。良かったですぅねぇ。チッチ」

 シオンがギルドから情報が書かれた羊皮紙をアイナに手渡した。

「良かったですぅねぇ。チッチ、アイナちゃんの居場所が分かってですぅ」

 アウラの居場所はカリュドス帝国、東の山脈地帯らしい事が書かれている。

 ここから然程遠くない距離だ。

 アイナは手紙の内容を読んだ後、笑顔でチッチを見やった。

 ランス、アウラの足取りが分かったのなら喜ばしい出来事だ。

 

 シオンが飛び立った後、アイナは気持ちの変化に気付き戸惑った。

 しかし……何故だろう。


 ――心が苦しい。


 再び、シオンと離れる事になる事が寂しい気持ちは本物。

 チッチがアウラの下に行くと言い出したら、アカデメイアをルーシィーと女二人で行く事になる。


 ――違う。


 チッチと離れる事も同じぐらいに寂しい。チッチがアウラの下に向かう……。

 胸が苦しい、心が、ズキンと痛む。


「さぁ、行くぞぉ。オレンジパイ」

「えっ? チッチはアウラちゃんを連れ戻しに行くんじゃねぇんですぅかぁ?」

「アウラは必ず連れ戻しに行く。だけどお前との約束が先だからなぁ」

 何時ものように屈託の無い笑顔が返って来る。

 まともにチッチの顔が見れない。きっと、今の自分は熟れた果実のように赤い顔をしているに違いない。

 アイナは、くるりと背を向けた。

「アイナの事はいいですぅ。ほら! ルーシィーに大方の話は聞きましたですぅし……」

「お前が気にする事はない。俺もアカデメイアの森に興味があった。小さい時に住んでいたかも知れない森だからなぁ……そして今、真実の姿を現した森は、話で聞いた事がある、母さんが俺を拾った場所に似ている、アカデメイアの真実とその深くに眠る更なる真実が見たくなって来るなぁ」


 シオンが抜け再出発前から、言葉を発せず静かに一部始終話を聞いていたルーシィーが口を開いた。

「そうですか……残念です。わたしは貴方たちが森で迷い諦めてくれたら、っと内心、思っていました。森で生れ森を出た者を今一度、森の中心へと向かわせる訳にはいかないから、……それがカルバラの民とアカデメイアの掟。本来ならわたしは……あなたたちを……」

「俺たちを殺さなければならない。……か?」

「ルーシィー、それ? 本当ですぅかぁ」

 ルーシィーの真意を知り、チッチの後ろに怯えたアイナが回り込んだ。

「貴方たちが森を出たのは幸い、生れて間が無いか、幼少の頃。そう思えば一度は故郷も見たいのだろう、と独断で判断し、ここまで案内致しましたが事情が変わりました。わたしたちカルバラの民は森に近付く者を決して森に入れない事、森を出たアカデメイアの秘密を知る者たちを抹殺する事も仰せつかっています」

「誰にだ?」

「誰にでもありません。遠き昔に定められた掟にです。まさか、結界を破る者が現われるとは思いもしていませんでしたから、こんな事になるなんて残念です」

「はぁっ! シオンは? シオンはどうなるですぅ?」

 アカデメイアの真実の姿を知った者の末路。ルーシィーの言葉を思い出しアイナが声を上げた。

「シオンくんには、気配を消してわたしたちの跡を追っていた同胞が既に彼の後を追っています。彼は森の出身者ではありませんが外の人間。アカデメイアの真実を知られた以上、掟には逆らえません」

 つまり、ルーシィーが言わんとする事、それはシオンの抹殺である。

「気付いてはいたかなぁ……何者かにつけられている事に。多分あいつも気付いていたと思うぞぉ」

 顔色一つ変えず、チッチが言った後、アイナが緊迫した様子でシルフィー命じた。

「シルフィー! 行くですぅ。シオンに伝えに行くですぅよ! 早く」

「あいつなら大丈夫だろ? お前もそう思ってる。そう言う顔をしているけどなぁ」

 慌ててシルフィーに後を追わせようとするアイナをチッチが制した。

「がってん! シオンは大丈夫ですぅ。でも、追っ手の人がルーシィーのように強かったら、気の毒ですぅ」

「あいつがかぁ?」

「追っ手がですぅよ。相手が強ければシオンも手加減が出来なくなるですぅ。殺しはしないと思うですぅが、追っ手の人たちの大怪我は避けられなくなるですぅ」

 チッチが唇の端を吊り上げ微笑んだ。

「それでルーシィー? 俺たちも、また戦うのかぁ。余り好まない事なんだけど……随分、ルーシィーには世話になった事だし、循鱗の力を使った後で少々疲れている、俺も手加減出来なくなる」

「ですぅですぅ。ルーシィーは私たちを騙してたですぅか?」

「それは……違うわ。と言っても説得力無いわね。それにきっと、わたしはチッチくんには勝てない」

「この前の戦いではルーシィーが勝ったようなもんだ」

「チッチくん? 貴方が手加減していた事くらい。気付いてないと思ってるの? だから、あの時言ったでしょ? わたしの負けだ、って」

「手加減はしてないかぁ? あの時(・・・)の俺は。 だけど、油断して刺されたのも事実だけどなぁ……まさか、女の子が折れた刃を素手で持って刺す、なんて思ってもいなかっただけだ」

「さぁ、始めましょうか? 貴方たちがこれ以上進むと言うなら、致し方無いわね。今度はわたしも始めから|本気で行きます」

 それでも微笑を絶やさないチッチの碧眼をルーシィーの眼光が見詰めている。

「やめ、やめ、やめぇですぅ。この森の中心に居るのは妖精王(オベロン)ですぅねぇ? ルーシィー?」

 チッチとルーシィーの間に流れる膠着していた空気に水を差したアイナは言葉を続けた。

「アイナの目的は達してますぅですぅ。アイナはアカデメイアの森に自分の出生の事実を知りに来たですぅ。その事はルーシィーの話を聞いてよく分かったですぅ。理解し納得いくまでには時間が必要ですぅが、アカデメイアの森の中心にあるへんてこな物に興味はねぇですぅ」

「流石は女王の血を引く者。中心にあるモノ(・・・)に気付くとは思いませんでした。しかし、チッチくんは知りたいのではないのですか? まやかしの森で見た瓦礫と森の関係、それに貴方自身の出生に」

「俺は勘がいい。分かった事にしておいてやってもいい。たぶん、シオンが居ても同じ事を言うと思うけどなぁ」

「何を根拠にですぅ?」

「瓦礫に残された文字の羅列を見たからだ。恐らく各地で見られる遺跡と関係があると考えている」

「何時の間に瓦礫の調査を?」

「仰天ですぅ! 何時の間にですぅ?」

「ルーシィーが見張りを終え眠ってからだ。お前が、(いびき)かいて寝ている間にだ。筏なんて作り慣れた俺には然程時間が掛かるもんじゃないからなぁ。天測に出た時にシオンと調べた。あいつは遺跡の古語にも見慣れない文字にも詳しいみたいだった」

「失礼ですぅねぇ! アイナは鼾なんてかかんですぅ! かわいい寝息と寝言の間違いじゃねぇですぅか!」

 アイナは一頻りの文句を言うと言葉を続けた。

「それで……右眼包帯は納得いったのですぅか?」

「俺の中にも見慣れない文字が何なのか、記憶の中に眠っている。シオンと言葉を交わしている間に、直感した、俺の中にも眠っている“知識”としてなぁ。だからルーシィーと戦ってまで先を見たいとは思わない。今は、だけど」

「それは何時か、戻って来ると言う事かしら?」

「そう言う事だ」

「……その時は戦うのかしら?」

「その時までにルーシィーがアカデメイアの掟とカルバラの民を何とかしてくれている。ような気がするなぁ」

「はぁっ……、貴方って人は……分かりました。アイナちゃんは前アカデメイアの女王の血を引くお方、チッチくんもアカデメイアの遺産を悪用するようには見えません。今度、貴方たちが森に現われる時、その時は何かが起こっているのだと思います。アカデメイアの掟もカルバラの民もその時までに、わたしが説得を試みておきます。保障は出来兼ねますが」

「もう、始まっていると思うぞぉ。ここを出た者の中に遺跡に残された物を争いの道具として利用している者がなぁ」

「それは本当の事ですか?」

「ああ、本当の事だ。シュベルクの街でそれらと戦ったからなぁ。俺たちは」

「それならば、急がねばなりませんね」

「急いだ方がいいかも知れない。でも、抜け道を通り過ぎて招かざる客を招く恐れもある」

「わたしが貴方たちと貴方たちが信頼を置く者だけでも出入り出来るようにしいておくわ。貴方たちは不思議と心の底から信頼を置ける人たちですから」

「アイナは兎も角、右眼包帯は何を根拠にですぅ」

 三人はそう言って笑い合った。


「お嬢。申し訳ございません。あの者に巻かれてしまいました」

 シオンを追っていた者たちがルーシィーに告げた。

「もういいわ。チッチくんもアイナちゃん、それにシオンくんもアカデメイアの真実に気付いているみたいだし、今は入れる事は出来ないけど、話す事はしてもいいと思うわ」

「お嬢!」

「いいのよ。何れこの森を巡り争いになる。そうなれば相手は一国の戦力。いえ、一国だけとは限らないわね。そうなると、とてもカルバラの民だけでは森を護り切れない。彼等が味方についてくれるなら心強いとわたしは判断するわ」

「俺たちがカルバラについたくらいでかぁ」

「ええ、貴方たちには、それだけの力が眠っているように思うの。争いの戦力としてでもあるけど、そうではないところでもね。これからわたしが話す事は独り言(・・・)よ」

「お嬢!」

 ルーシィーがアカデメイアの事について話し出した。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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