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〜 古き魔術の森 〜 第十四話

 ☆第十四話


 ◆迷いの森


 森を歩き始めて二日目。夜の戸張が降り、星たちが輝く空を見上げているチッチは六分儀を使い現在地を確かめている。

 夕食時、互いに話し合った中で、誰もが感じた違和感があった。

 チッチ、シオンの二人の方向感覚はずば抜けて長けている。

 チッチはドラゴンに育てられ広大な広野、砂漠を旅した経験を持つ、チッチは自然に身に付けたと思われる経験則と循鱗の恩恵を持っている。

 シオンは元々身に付けている“幾多の眠れる力”や魔法の天稟に加え、ラナ・ラウル王国で守護者(ガーディアン)ギルドの依頼で各地を飛び回る内に身に付け、また磨きをかけていったと思われた。

 アイナはアカデメイアの森に偏在している精霊に聞き森の中でも自信の位置を知る事が出来る。

 またルーシィーは出何処は違えど広大なアカデメイアの森を出た、言わば元住民である。

 優れた感覚と精霊の導きを得られる者、元は森の中で生まれ育った者。それぞれの感覚が狂わされていた。

 幸い開けた河原からは星空が見える。

 星が見えればチッチの持っている六分儀で自身の位置を知る事が出来る。

 深い森の中でも太陽の位置さえ分かれば自分たちが、どの様なルートを辿って来たのか地図を見れば掴む事が出来た。

 チッチは川沿いに近い所を通り、時には森の中でも天測を行ないながら、ルーシィーから聞いた情報を基に最南端にある部族の集落を目指して深い森の中を進んで来た。


「ルーシィーの情報を基に進めば、もう集落があってもいいはずなんだけどなぁ」

 天測を終えて天幕に戻ったチッチが首を傾げた。

 深い森の夜は不気味さを増している。その上迷い込んだと言う不安が心を支配して行く。

 パチン、焚き火が音を立て火の粉は暗闇へと消えて行く。

 火にくべられたら薪が音を立てる度、怖がりのアイナの身体が跳ねる。

「先ず、情報から洗い直そう。二十年程前、三年間にも及ぶ撤退戦を続けていた旧カストロスの殿軍の補給線は、間違いなく最南端の部族に違いないだろう。その補給路がアカデメイアの臍から森に入った時から見当たらない。長い時の中で自然に戻ったのか、それとも意図的に隠されたのかだ」

 シオンの言葉にルーシィーが考えを述べる。

「時の女王は愛するアルフレッド王子が帰らぬと分かっていても尚、戻って来れるようにアカデメイアの森の全域を囲まず、帰りの道を用意して待っておられたと聞いています。だとすれば殿軍の兵士たちが行き来していたはずです。十七年程で補給路の名残さえ消えてしまう程、簡単に自然界に呑み込まれてしまう、柔な道を敷いたとは考え難いと思うわ」

「だとすれば道は残っているはず……なんだよなぁ。それに森の住民たちの生活感を微塵も感じない。俺たちは川の流れが聞こえる森の中を通って来た。どんな種族でも水は生きる為の生命線だ。もし集落を構えるとしたら、水量が得られ水路を引ける場所を選ぶだろうからなぁ」

「その考えは、もっとも人間らしい考え方だ。もしその集落が精霊的な種族や水を必要としない種族だったなら、川の近くに集落を構える必要は無い」

「根拠がある。最南端の部族の集落は間違いなく川沿いか、その近い場所にあるなずなんだけどなぁ」

「根拠とはなんだ?」

「旧カストロスのは殿軍間違いなく人間だっただろ? 何百人もの難民と殿軍に満たすだけの水がある場所のはずなんだよなぁ。それに集落の規模はかなり大きいか、小さな集落に分けて点在していたかなんだけどなぁ。ルーシィーどうなんだ?」

「わたしには、そこまでの事は分からないわ。でも、チッチくんが言ってる事は当たってると思うの。わたしがいた部族も確かに水辺の近くにあったから、それはより人間の姿に近しい者たちがアカデメイアの外に近い場所に住まう事が決められていたから、力のある無しに関係なくね。聖地とされる場所は七本の天空まで延びる塔の中心にあると聞いているわ。その柱を中心に力のある種族が聖地を護っているとも」

「その聖地には何があると言うんだ?」

「分からないわよ。見た事も詳しい事も聞いた事無いもの。その地にいる種族は人間より遙に高度文明を持ったハイエルフと聞いているだけよ。だけどあくまで見たものはいないわ。噂だけが伝わっているの」

 今まで薪の弾ける音に、びくびくして話に加わっていなかったアイナが呟くように言葉を紡ぎ出した。

「ハイエルフ……精霊魔法、絶壁から森を見た時に感じた精霊魔法の結界……結界! そうですぅ! この感じ似ているですぅ……でも何かが違うですぅ……この結果」

「何に?」

「シオン、思い出すですぅよ。ランスが試験的に創った理想郷を」

「そうか! そう言う事だったのか。戻るぞ。森の入り口に」

「何を急に言ってんだぁ?」

「詳しい話は、戻る道中にでも話してやる。いいから夜明けと共に戻るぞ。案外、目覚めたら入り口に戻っていた。なんて事になっているかも知れないけどな」

「そうと決まれば、さっそく寝るですぅ。アイナは、もう眠くてたまらんですぅ」

 そう言うとアイナはチッチが羽織っている毛布に潜り込んだ。

「おい! アイナ」

「ふん! おやすみですぅ。シオン監視役任せるですぅ」

「後で交代するわ。じゃぁお先に、お休みなさい」

「俺も交代するからなぁ、寝てなければ、だけど」

「チッチはいいのですぅよ。誰よりも一番気を張りながら、先頭を歩いてるですぅし天測とかやらで疲れてるですぅから」

「俺だって殿で気を張ってんだよ」

「五月蝿い! 鈍感おばかぁシオン」

 焚き火の薪が弾ける音と川のせせらぎに混じり、アイナの怒り声が静かに広がる暗闇の森の中に響き渡った。


「ふぁっ――、……良く寝たですぅ」

 鳥達の囀りで目を覚ます。

「良く眠れたかぁ、それは良かったなぁ。ふぁ……眠む」

 アイナの隣にはシオンが静かに寝息を立ている。

「おはようですぅ……。あれ? 右眼包帯? 何故? アイナの隣で寝てたですぅのに……」

「交代だ。警戒のなぁ」

「ルーシィーは?」

「薪を拾いに行った。残念ながら目が覚めたら入り口でした、とはいかなかったなぁ。朝食を摂ったら入り口に戻る」

「はぁ……二日掛けて、また戻るですぅか。やれやれですぅ」

「いや、一日も掛からない。川を使って下るからなぁ」

 チッチが、天測をして描いた地図に書き残した経路をアイナに見せた。

 アカデメイアの臍より、西側に逸れてはいるものの、川から臍までの距離は四分の一程の距離である事が分かる。

「何時の間に川の方向を調べたですぅか?」

「昨夜の内に決まっている」

「どうやって……まさか! 循鱗を使ったのですぅか?」

「いや、天測しながら、それなりの距離を川沿いに下った。大体の予想が付く所までだけどなぁ」

「船を使うですぅかぁ?」

「残念だが、この川の深さでは俺の船は使えない。喫水が足りないからなぁ」

 チッチが河原に組み上げてあるいかだを指差した。

「まったく、シオンはチッチに筏まで造らせて爆睡ですぅか! 起きやがれですぅ! シオ――」

 アイナの言葉をチッチの言葉が遮った。

「寝かせておいてやってくれないかなぁ。見張りの交代時間を過ぎても筏を組むのを手伝ってくれた。今し方眠りに就いたばかりだ。お陰で俺は天測をして川の流れている方向を知る事が出来たんだからなぁ」

 隣で寝ているシオンを、たたき起こそうとしてチッチに止められた。

「……旧カストロス王国での事はを話すぅですぅ。森に張られた結界と――」

 アイナの言葉にチッチの言葉が重なる。

「シオンに聞いている。昨夜なぁ、何て言うか……大変な思いをしたんだなぁ」

「もし、同じようなまやかしの結界なら、シオンの剣で結界を斬れば元の景色に戻るはずですぅ」

「それも聞いている」

「むにゅむにゅ……アイナ。す……」

 寝返りを打つたシオンの毛布が捲れ上がった。

 アイナは、そっとシオンの毛布を掛け直す。

「ご苦労様ですぅ。シオン」

 アイナは小声で呟いた。シオンの眠りを妨げない様に。


「腹減った。お前らなぁ! 朝食の用意が出来たなら起してくれよ! 俺だけ朝食抜きで川下りかよ」

「余りにも気持ちよさそうに寝てたんで起さなかったんだ。今朝方まで筏作りで疲れてただろうと思ったからなぁ。皆、気を使って後片付け出発の準備が整うまで起さなかったんだ」

「変な所だけ気を使いやがって!」

 文句を付けるシオンに肩掛け鞄からライ麦パンを取り出しアイナがシオンに手渡した。

「これでもかじってるですぅ。シオンの分の朝食ですぅよ」

「お、おう。ありがとう。アイナ」

「折角の朝食なのに悪いなぁ。この先、川の流れが荒くなる。口動かしてるとした噛むぞぉ」

 シオンがライ麦パンを手に持ち川の先を見てみると川のいたる所に水面から大小様々な大きさの石が顔を出し、川の水はその間を縫う様に水面は流れ荒れ狂っている。

「行くぞ。しっかり掴まっていろよぉ。パンなんて掴んでいる暇はないぞぉ」

 これから激流下りに入ると言うのに、チッチは何時ものように間の抜けた喋り方で微笑を崩さない。

 しかし、碧眼の眼光は鋭く右眼の包帯を外し始めている。

 外した包帯を手に握っている竿に巻き付け、括り包帯の端を噛み締め、ギュッと固く縛った。

「激流に入るぞぉ。激流は二時間ほどで抜けるから、決して気を抜くな。この激流の中に落水したら命の保障はないからなぁ」

「俺を誰だと思ってんだ」

「ガーディアン、だろ? アイナをルーシィーと一緒に支えてやってくれ」

 川の流れは徐々に速さを増し激流へと筏が差し掛かる。

 チッチは流れを読み石と石の間を流れる筏を竿を巧みに扱い流していく。

「きゃぁ――」

 筏の上ではアイナの悲鳴が轟き始めた。


 一行は激流を抜け、穏やかな流れに戻った川を下り、筏を岸に寄せるとアカデメイアの臍に向かい東に向かい森の中を進み続けた。

 やがて森を囲む壁の切れ目、アカデメイアの臍に戻り一度森の外へと出た。

「俺たちの予想通り幻覚の結界が入り口に張られていたとしたら、良く迷わず臍まで帰れたものだな」

「そうね。どんな魔法を使ったの? チッチくん」

「ですぅ。ですぅ」

俺は(・・・)魔法やら、魔術やらは使えない。幻覚に掛かって森の中を彷徨ったとしても、太陽や星たちの位置は変わらない」

「チッチくんの天測とやらのお陰ね」

「さて、仕切り直しだ。結界をぶった斬る」

 シオンの前に魔法陣が現れ陣の中からフィノメノン・ソードの柄が現われる。

 柄に手を掛け、魔法陣からフィノメノン・ソードを引き抜くとシオンは入り口の間にフィノメノンの刃を振り下ろした。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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