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〜 古き魔術の森 〜 第十一話

★からんちゅ♪魔術師の鐘★ 〜グランソルシエールの禁術書 〜 完結。続編

アルファポリス、ファンタジー大賞にエントリーしております。

 ☆第十一話


 ◆悲しい決意


 蒼い夜、虫達の鳴き声と風が木々を揺らし遊ぶ音が大窓の外から聞こえて来る。

 アウラはグランソルシエールの禁術書に所々、不思議な文字が混じっている事に気付いてから、その文字が何なのか調べていた。

 

 ――何処かで見た事がある。


 アウラの脳裏にシュベルクでの出来事が浮かび上がった。

 そう、チッチが漆黒の魔物ドラゴン(プリュ・フォール・モンストル)を自力で解放した時、闇色の瞳の中に流れるように現われた文字の羅列に似ている事に気付く。

 その時、大窓が音を立て軋んだ。

「風が強くなって来たようね。近い内に嵐でも来るのかな? ねぇ……チッチ」

 アウラは大窓の戸締りに向った。


 大窓の外は蒼い夜空と宝石箱から飛び出したように散らばった星たちの輝きが、アウラの瞳に広がった。

「変ね? 空も蒼いし風も緩やかに吹いているだけ……何かおかしい」

 アウラは辺りを見渡した。蒼い夜の月明かりで辺りは暗闇と言うほどでもない。眼がなれた頃、テラスを横切る獣に跨った人影が視界に飛び込んだ。

「何者です!」

「久しいねぇ。現代のグランソルシエールさん」

「あなたは!」

 聞き覚えのある声。月明かりの中にゆるりと流れるアウラに似た桃色の髪の毛、銀色に光る毛並みの巨大な狼がテラスの手摺の向こう側で笑みを浮かべていた。

「ソルシエールさん」

「しっ」

 アウラの驚いた声を制するようにソルシエールが唇に指を立てた。

「静かに」

「どうして、ソルシエールさんがここに?」

 アウラは不思議そうにソルシエールの顔を見ていた。

「今日は幸い月がいいからねぇ、砦の周りに張り巡らされた罠も良く見えるさね。砦に取り付くには良い月明かりと言う事さね。あんたに渡したい物があってねぇ。わざわざ来たんだよ」

「私に渡したい物?」

「そうさね。あんたたちが言うところのグランソルシエールの禁術書ってやつだよ」

「ソルシエールさんの禁術書なら、ここに」

 アウラは北の神殿で手にした、禁術書を指差した。

「はぁ……、禁術書。一冊だけだと思っていたのかい?」

「禁術書は他にも存在するのですか?」

「はぁ、あんたねぇ……私が何年、生きていると思ってんだい」

「ソル」

 辺りの警戒をしていた風狼(ウォプス)が何者かの気配を感じ、ソルシエールに声を掛けた。

「悪いけどあんたを少しの間、試めさせてもらってたのさね。あんたがどんな事に禁術書を使おうとしているのかね」

「私は……私の組み上げた魔物を創り出す術式を解除(デスペル)する方法を組み上げなければなりません。それが私の使命ですから」

 力の篭もる瞳をソルシエールに向けた。

「はぁ、優等生の答えさね……、そう気張らなくてもいいんだよ、この子は。それもあんたの思う所かも知れないけどねぇ。違うだろさね」

「……は、えぇまぁ。両親と弟を元の姿に……人間に戻したいです。それにチッチの右眼を治したいです。グリンベルを焼いたのは私の魔術かも知れません……でも! もしチッチの持つ循鱗が街を焼き払った事件に関与しているなら、循鱗を滅してしまいたい……グリンベルの仇を討ちたい気持ちも、まだ……」

 アウラは寂しげに俯いた。

「合格。今夜持って来た禁術書で全ての禁術書が揃う訳じゃないよ。今夜持って来た全ての禁術書はあんたに預ける事にするさね。それと……」

「ソル、見張りの者たちが近付いている」

「あいよ。そろそろ消えるとするさね。あんた」

「頃合だな、ソルよ」

「ソルシエールさん! 何を言い掛けたのですか?」

「アカデメイアの森」

「アカデメイアの森? その森が何か?」

「残念だけど、詳しく話してやっている時間はないさね。後は自分で考える事だねぇ。禁術書……伊達に何冊も残した訳じゃないさね。『探せ。されば見つかる』それと(・・・)には気をつけな」

 そう言い残しソルシエールと風狼は一陣の風のように去ろうとした。

「ソルシエールさん。奴とはいったい誰なのですか?」

 ソルシエールは唇の端を吊り上げ、にやりと笑みを浮かべ『その内、分かるさね』と言い残し月夜の闇へと去って行った。


 アウラは昨夜、ソルシエールが置いて行った禁術書を紐解き始めていた時、部屋のノッカーが叩かれる。

「アウル? ちょっと待っててね。お姉ぇちゃん片付け物してるから、終わったら大広間に行くからそこで待ってて」

「残念だが、アウルくんじゃないのだがね。アウルくんは昨日の夕刻過ぎに砦を出て留守なんだがね」

「そのお声はランディー様?」


 ――アウルが……あの子何も言ってなかった。アウルが居ない。それでソルシエールさんは易々と砦に近付けたのね。


「ランディー様、何か急な用でもあるのですか?」

「おやおや、冷たい返事いだね。アウラ」

「いえ、そのような事は」

「アウラ。きみにしか出来ない事を頼みに来たのだがね」

「私にしか出来ない事? お急ぎですか?」

「ああ、そうだが、取り分け急ぐ事でもない。わたしは大広間で待つ事にするよ」

「はい。そうして下さい片付けが終わり次第、私も大広間に行きますから、暫しの間お待ち下さい」

「分かったアウラ。大広間で待つとしよう。茶と菓子を用意させて待っているよ」

 アウラはソルシエールから、渡された禁術書を本棚の奥に拵えた隠し棚に納め、大広間へと向った。


「お待たせ致しました。ランディー様」

 大広間ではランディーが、使用人が淹れた紅茶の香りを楽しむようにティータイムを楽しんでいた。

「昨夜なんだがね。何者かが砦に侵入した形跡が見つかった。幸いアウラに害が及ばなかった事が何よりなんだがね。何か気付いた事はなかったかね? アウラ」

 アウラは一瞬、戸惑った。

 この砦にやって来た時、ランディーが居た事に驚いたが後にアウラの護衛の為、単身敵陣の騎士に扮し潜り込んだのだと聞いた。

 アウルとは一戦交えているものの、アウルが異形化していた前後の記憶は曖昧でランディーの顔を覚えてはいなかった。それに砦でアウラと過ごしている時は、シュベルクを強襲した魔術師アウルの片鱗さえ見せない程に無邪気だ。

 ランディー程の実力者ならば、砦に潜り込み味方に扮するか、寝返ったように思わせる事など息をするに等しい事なのかも知れない。

 ランディーが傍に居てくれる、それだけでアウラの中に底知れぬ安堵を与えてくれた。

 しかし、今、底知れぬ嫌な不安に支配されてる事にアウラは戸惑った。

「ランディー様? 私にしか出来ない頼み事とは何でございましょう?」

 嫌な不安を振り払うようにランディーに尋ねた。

「これを見てくれないかアウラ。きみには分かるだろ? これが何なのか」

 ランディーが懐から水晶石のような鉱石を取り出した。

 その水晶石は部屋の窓から差し込む陽の光を明かりを通し、その光の屈折はプリズムのように七色の輝きを放っている。

「ランディー様……これは、まさか……チッチのお母様、いえ循鱗? ではありませんか?」

「そうだ。きみの弟アウルが山羊飼いの身体を光の触手で貫いた際、偶然山羊飼いの体内から抜き取った物だ。その循鱗を持っていたアウルくんから、わたしが取り戻したのだがね。このまま持ち歩いては何れ気付かれる。そうなればわたしの所在が知れる事になるやも知れない。わたしの仕事はアウラ、きみを無事にイリオンに連れ帰る事、きみ自身がアウルくんや御両親を元の姿に戻したい気持ちを汲んでいるつもりで砦に長居しているのだよ。分かってくれるかね? アウラ」

「……はい。それで循鱗を私にどうしろと仰るのですか? ランディー様」

「率直に言うとだね、アウラ。循鱗をわたしの体内に封印し隠したいのだがね。きみになら出来るだろ? グランソルシエールの封印を紐解いた、きみになら封印する事も。これもきみと循鱗を守る為だ」

 ランディーがアウラに微笑み掛ける。

 アウラはランディーの笑みに違和感を感じ、ソルシエールの言い残していった言葉を思い出し、底知れぬ不安が的中するのではないかと直感的に感じ取った。

「ランディー様、そのような事をすればランディー様のお身体にどのような事が起きるか予想も出来ません。万が一にもランディー様のお命に関わるような事があれば私は……それに循鱗はチッチにとってお母様も同様。そのような頼みをいくらランディー様の頼みとは言え出来ません」

「おかしな事を言うな、アウラ。きみにとって循鱗は故郷と家族を奪ったグリンベルの悪魔に違いないだろう? それにわたしは赤の騎士団(ブラッディー・レット)の隊長、ランディー・ハーニングだ。案ずる事はない。それだけの器を持っていると自負している」

「グリンベルは……、私が組み上げた魔術が創り出した魔物が滅ぼしたのです。そうチッチが……ランディー様が仰っていたと聞いております」

「やれやれ、山羊飼いにも困ったものだ。確かにそれも事実だ。しかし、その魔物ごと、グリンベルを焼き払ったのは、グリンベルの悪魔(ドラゴン)なのだとしたら? アウラ、きみはどうするね? 山羊飼いをそれでも信じるのかね? アウラ」

 アウラは俯き答える事が出来なかった。

 ランディーの言う事が、もし本当なら滅ぼしてしまいたい。しかし、チッチにとって大切な母親が愛する我子同然のチッチに残した形見でもある。

 アウラは暫らく俯いていたが、固く閉ざしていた口を開いた。

「ランディー様は循鱗の力をどうするおつもりなのですか?」

「わたしは騎士だ。一国を守る騎士だ。このような強力な力を敵に奪われ利用されるのも、放っておく事も出来ないのだよ。アウラ」

 ランディーの笑みは、ほくそえむ薄い笑いにアウラは感じ、暫しの間を置き答えた。

「分かりました。ランディー様のお立場、十二分に理解しているつもりです。赤の騎士団、ランディー・ハーニング。その方の体内に循鱗を隠せば、何人たりとも容易に手出しは出来ないでしょう。封印の準備に掛かります。暫しのお時間を私に下さいませ」

 アウラ、そうランディーに言い残し大広間を後にした。


 ランディーの下にアウラが姿を現したのは、半日程過ぎた陽も西に傾き掛けた頃だった。

「お待たせ致しましたランディー様。私の部屋においでくださいませ」

 その後、アウラは無言のままランディーを部屋へと先導して行く。

 部屋の中には、六芒陣の魔方陣が床一面に描かれている。

「ランディー様。陣の真ん中にお立ち下さい」

 ランディーがアウラの言うがまま六芒陣中へと入っていった。

 アウラはランディーから循鱗を受け取り、共に陣の真ん中に入り、小声で古き文字の言霊を詠唱し始める。

 長い長い詠唱が続く。


 ――チッチ……。


 アウラは小さく心の中で呟くき、最後の言霊を乗せ節くれた杖に括られた鐘を、からん♪ と鳴らした。

isa(イサ)ehwaz(エワズ)laguuz(ラグズ)uruz(ウルズ)sowelu(ソウェイル)hagalaz(ハガラズ)othila(オシラ)

(力の流れ働きを休止せよ。完全なる分離と破壊を)

「アウラ! 何を」

 ランディーがアウラの表情を読み取り、アウラのしようとしている異変に気付く。

 言霊の詠唱に、からん♪ と鐘の音色を重ねた瞬間、アウラが手にしている循鱗は粉々に砕け散り、やがて七色の輝きを放つ粒子となって跡形もなく消滅して行った。


 To Be Continued


最後まで読んでくださいまして誠にありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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