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〜 古き魔術の森 〜 第十話

 ☆第十話


 ◆三角、四角?


「「……」」

「これが……」

「……こ、言葉を失ってるわよ。チッチくん」

「ルーシィーも同じじゃないか」

「……そっ、そうかしら?」

 短い会話の後、言葉を失い二人はアイナが呼んだ竜に眼を奪われていた。


「どうですっ? ぶったまげたですぅかぁ! アイナの呼んだ竜に!」

 誇らしげに言い放つアイナは得意げな微笑を浮かべ、眼を細め二人の様子を窺った。

「何だか……仰天が小さいですぅねぇ? ……そうですぅ! 人は本当に驚いた時には言葉を失うと言いますぅし、チッチもルーシィーも仰天が大き過ぎたのですぅねぇ」

 無反応のまま、二人はエメラルドの様に美しい鱗の竜に見入っている。アイナは何だか底知れぬ不安を感じ、思い切って聞いてみた。

「……それとも驚いてないですぅかぁ?」

「驚いてるさ」

「びっくりね」

 チッチとルーシィーから短い言葉が返って来た。

 アイナは、ちょっぴり安堵した……が。

「小さいなぁ」

「小さいわね」

「アイナの胸――」

「なんですとぉ! アイナの形の良い美乳を馬鹿にすんなぁですぅ! 悲しみに暮れショックのあまり熱を出したアイナをルーシィーの家で介抱してくれた時に見やがったくせにですぅ!」

 激高するアイナにルーシィーが言った。

「あんたたち? 人ん家で何してたの? まったく……まさかとは思っていたけど、本当に愛し合っていたのね!」

「何の事だ?」

「何の事ですぅ?」

「はぁ、まぁいいわ。ほんと、本当に言い難いんだけど、この竜……まだ幼生よね?」

「だよなぁ」

「三人を背中に乗せて長距離を飛ぶのは無理よね」

「あぁ、無理だろうなぁ。しかも夜が明けるまでにアカデメイアの臍まで辿り着かないと意味が無い。それに運悪く、空で監視するドラグーンにでも見つかれば逃げ切れない。明るくなって来た空を飛ぶ事なんて論外だなぁ」

 アイナを尻目に二人は体長十六から十九フィール(約五から六メール)程の竜を見て話していた。

「な、なんですぅ? アイナの呼んだ竜が希少種だと言う事に気付いてないのですぅ? 二人の眼は飛んだ節穴ですぅ」

 アイナは一呼吸、大きく往きを吐き出すと得意げに話し出す。

「この竜はですぅねぇ! “眷属種”と言って数いる竜の中でも、とびっきり珍しい竜なのですぅ」

 得意げに話すアイナに眷属の竜が小声で呟いた。

「や、やめてよぉ。空しくなるから……」

「何を言ってやがるですぅ! シルフィーは希少種なのですぅから、胸を張るですぅよ!」

「だって……あの男の子の中に宿っている竜族に似た存在に、もの凄い気を感じるんだもん」

「気にするなぁ、ですぅ! チッチの中に住まうドラゴンは確かに異質ですぅけど」

「でも……あの子の中のドラゴンって現在の竜族にとっては“神”にも値するドラゴンに思えるんだもん。現在生息する竜の姿形とは随分違っているようだけど……」

 アイナの呼び出した竜は“眷属種”巷に生息している竜族の中でも希少で成長も遅い。

 二百年程、生きている眷属の竜は“現存種”ならば、成獣程に成長していても不思議ではない。

 成獣ともなれば、その体長いは大きい成獣で二百フィールを超える巨体の竜も確認されたとも報告されている。

「さてと、どうしたものかなぁ」

 チッチが腕を組み思案している。

「仕方ない。やっぱり俺の――」

「だめですぅ! 絶対! ぜ――ったいに駄目ですぅ。そんな事をすれば、今のあなたの! チッチの身体は……、はっ!」

 アイナは懸命にチッチの言葉を遮った。

「心配してくれるのかぁ? 何時もは毒舌のわりに案外やさしいんだなぁ」

「アイナは何時もやさしいですぅ」

「何だか妬けちゃうわね。お二人さん」

「そんなんじゃないですぅ……けどぅ……」

 ルーシィーの冷やかしをアイナが否定していると眷属種の竜が申し訳なさそうに言葉を発した。

「あの――、……兄さんを呼べば三人を乗せて西側に行けるかも……」

「お前の兄さんはシオンがガーディアンの依頼に使っているかもです」

「でも! わたし、何の役にも立てないなんて嫌だもん!」

 眷属の竜がアイナに食い下がる。

「気にする事はない。俺が力を使えば済む事だ」

「チッチ!」

 思わず声を荒げ、アイナはチッチを制止する。

 何故、そこまで思うのかその気持ちにアイナ自身も分からない。

 チッチの中に宿るあの化け物じみたモノにチッチの身を奪われたくはない。


 ――万が一にも。


「心配は要らない。俺の角笛を使い母さんと縁の深い幻獣か聖獣を呼べばいい。母さんの角笛は強い聖獣を呼び寄せる代わりに一度使うとその後暫らくの間使えない。それに森に入る前から逃げる算段をしていても仕方がないからなぁ。万が一窮地に陥ったとしても何とかするさ」

「でも、チッチ」

「幸い。ルーシィーと言う心強い双剣使いも居る。案ずる事はないだろ? それにルーシィーはアカデメイアを護るカルバラの民だろ? どんな関係にあるかは知らないけど上手くいけば仲介も望めるだろ? その辺、どうなのかなぁ。ルーシィー」

「はっきり言うと、期待に添えない確率の方が高いですね。アカデメイアの森には多種多様な異種族の部族がある。アカデメイアの森で種族同士の争いはないものの、決して友好的だとは言い切れないのです。カルバラの民はアカデメイアでも異端の者。森の外側を守る為に選ばれた者たちと言えば聞こえは良いですが、実際はやっかみ者を体良く森の外か森の外側に住まわし森を守護させたいと思っていいの。カルバラの民は交渉役を買って出れる程の関係を持たないわ……でも、やってみる」

「さて……行こうか」

「ですぅですぅ」

 チッチは腰に下げた角笛に手を掛けた、その時。


 三人の頭上でピリピリと皮膚を刺激する程の威圧感が辺りの空気を震撼させた。

「でか竜! に……シオン」

「お兄ちゃんに……シオンだ」

 アイナと眷属種の竜の言葉が重なる。

「ちっ! 俺をおまけみたいに言うな!」

 不機嫌を露わに見せるシオンにアイナが尋ねる。

「何しに来たですぅ? シオン。さてはアイナの事が心配で追って来たのですぅねぇ?」

「残念だけどアイナを追って来た訳じゃない。依頼を済ませギルドに帰る途中、シルフィーの角笛の音をシェフィルドが聞き付け、ここに寄っただけだ」

「相変らず、シオンは素直じゃねぇですぅねぇ――、アイナが居なくて寂しくて来たんじゃないですぅ?」

「そんなんじゃねぇよ。……今回の依頼がイリオンとの国境に近い場所だったんだよ」

 照れくさそうに答えるシオンに向かってアイナは、はにかんだ。

「な、なんだよ」

「……そうですぅ! シオン魔法生物を呼ぶですぅよ」

 アイナはシオンに監視用の魔法生物を呼ぶように促した。

「そんなもの、呼んで何すんだ?」

「いいから呼ぶですぅ」

 シオンがしぶしぶ、アイナの頼みに応じる。

 暫しの間を置いてガーディアンを監視する鳥の姿をした魔法生物が現れた。

 アイナは羊皮紙と羽ペンを取り出すと何やら掻き始め、書き終えるとシオンに手渡した。

「これって……依頼書じゃねぇか」

「それを魔法生物に括り付けて評議会に向わすですぅよ」

 アイナの言うがままにシオンが承諾のサインをすると魔法生物を評議会に向けて飛ばした。

「まぁ大した依頼じゃねぇし問題ないだろ」

「大した事ないって……他国の国境を無断で超えるのよ」

 ルーシィーがシオンの言葉に驚きを隠せない様子で思わず声を上げた。

「たいした事ねぇ。俺たち守護者(ガーディアン)ギルドの者は他国からの依頼も請ける。それが法を犯す事だとしても、そこに正当性があれば俺たちは依頼者の要望に沿うのがガーディアンだ」

「俺たちのこれからしようとする事の何処に正当性があるんだぁ?」

「お、……俺がアイナを守りたいからだよ。俺の中では正当な動機だ」

 恥かしそうに目線を落とし小声で呟くシオンを見てアイナが尋ねた。

「アイナの事が好きですぅ? シオンは」

「そ、そうだよ。悪りぃかよ」

「うっ、す、素直ですぅねぇ……今日は……でも嬉しいですぅ」

 素直に嬉しく思う半面、アイナの気持ちに違和感を覚えチッチの方に眼をやった。

 相変らず、笑顔を絶やさないチッチと目線が重なる。

「なんだぁ? 良かったじゃないか、オレンジパイ」

「……おばかぁ! お前もとんだ鈍感者ですぅ!」

 アイナは、そう言い残しシルフィーの背中に攀じ登るとシルフィーを飛び立たせた。

「シオンもチッチも。おばかですぅ……、私が一番、……お馬鹿ですぅ。チッチにはアウラちゃんが居るですぅのに……私のおばかぁ……」


「あらま、三角関係だったのね。シオンくんだっけ? きみがアイナちゃんの恋人? しかし、二人って似てるわね。兄弟なのかしら?」

「ちげぇよ! 何で俺がこいつと兄弟なんだよ。それにアイナとは、そ、そんなんじゃねぇよ。本当の意味では、まだな」

「あらやだ! それって身体を求め合う男と女の関係って事? 別の意味で兄弟じゃない! 貴方たち!」

「ち、違ぇよ。俺は一応、あいつの婚約者(フィアンセ) って事になっている一応……。あいつの母親の客人にそう紹介された。うん? 後の方はどう言う意味だ」

 照れくさそうに答えるシオンを見てルーシィーが呟いた。

「まぁ、アイナちゃん位の年頃は、恋多きものよ。憧れと恋。どちらか区別がつかないのよねぇ」

 昨晩の事は、言わないでおこうとルーシィーは心の中で誓った。

「んなっ事より、あいつを追うぞ。あんたもシェフィルドの背に乗れよ」

「俺は?」

「お前は自分で何とかしやがれ!」

「まぁまぁお二人さん? 今は彼女に追い付く事を優先しましょう。もたもたしていて彼女を見失うわよ。早く追いましょう。でないと彼女、単身で国境に差し掛かるわよ」

「大丈夫だ。俺が毒舌白金娘を見失う事はないからなぁ」

「まぁ! 恋のテレパシーかしら?」

「俺は眼も鼻も効くから」

「ちょっと待て! お前、アイナに何かしたのかぁ!」

「介抱しただけっだ。熱出してあいつが寝込んだ時に」

「そ、そうか……な、なんてぇか、その……ありがとな」

「あいつは旅の仲間だ。介抱して当たり前、気にする事はない」

 チッチの介抱を知らないシオンがぶっきらぼうに礼の言葉を述べた。

「乗れよ。あいつを追う」

 成長期に入ったシェフィルドは人間で例えるなら、青年期。成獣になる前の竜でメキメキ、力を付けている時期だ。

 シェフィルドの全長の二倍以上ある両翼を上下に羽ばたかせ断崖絶壁の方に向かい動き出した。

 巨体を滑空させ勢いを付けて風を捕まえた翼を時折、羽ばたかせながらアイナとシルフィーの後を追った。


 To Be Continued

最後までお読みくださいまして誠にありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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