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〜 古き魔術の森 〜 プロローグ 第零話

★からんチュ♪魔術師の鐘★ 第三章 〜 古き魔術の森 〜 

 

 第二章は、ちょっと本編から外れる展開になってるかも。

†人形使いとゴーレムナイト†に登場するキャラが活躍? 物語が交差します。

 ☆第零話

  

 ◆アウラ


 鳥たちの囀り雲一つない抜ける様な青空と眩い日差しの中、旺盛に茂る巨大な森の一角を砦とは思えぬ程、立派な宮殿のテラスから桃色髪の少女が紫水晶の瞳で物憂げに眺めている。

「姉さん気分はどう?」

「……」

「父さんと母さんには、もう会ったの?」

 黒いローブの魔術師が尋ねた。


 アウラの腰まで届く桃色髪が、ふわりと揺れ線の細い肩はその言葉を聞いて、ぴくりと跳ねた。

 テラスに立つアウラの鮮やかな薄い空色のドレスを夏の風が揺らして遊んでいる。

 アウラは無言のまま俯く事しか出来なかった。

 紫水晶の瞳からは物語でよく見聞きする魔法の泉さながら、熱い液体を枯れる事無く湧き上がって夜着に着替え純白のレースが下がる天蓋付きのベッドに就いてもなかなか寝付けない日々が続く。


 ――今夜も。


 ふと窓の外に目を向ければ何時も窓越しは白んで来ている事に気付いて溜め息を吐き目蓋を閉じる。

 偽りの暗闇で閉ざし思い出す事と言えば、まだ離れて幾日も経ってない山羊飼いの少年の顔がはっきりと浮かび上がる。一緒にシュベルクの屋敷で過していた頃は、何時も知らぬ間にベッドに潜り込まれていた。

 正直困惑し嫌だった。

 私はまだうら若き乙女なんだもん。

 だってベットに潜り込んで来る少年は何時も……。


 ――何故か全裸で。


 嫁入り前の娘である乙女の寝床の中に、その様な格好で潜り込まれるのだから恥ずかしいし腹立たしい。

 何より目の遣り所に、あたふた困ってしまうじゃない? 少しは考えて欲しいものだ、とアウラは顔を赤らめ身体を丸めた。

 でも……。

 

 ――何だか寂しい、あんなにも嫌だったのに……。


 昼寝の時は服を着ているのに、何故なのか理解出来ない。

 そう言えばグローリー号の狭い寝台で寄り添い寝った放牧レースの時も服を着ていたなぁー、夜なのに……などと思い出し僅かに微笑みが戻って来る事に気付いて更に顔が熱くなる。

 しかし何故? 忍び込んで人のベッドに潜り込む時は何故か全裸の山羊飼いの少年が繰り返す悪行? も何時の間にか純心無垢なアウラでも(いささ)か慣れた。

 アウラは羽の様に軽い純白のシーツをすっぽりと頭から被った。

 思い出し自分の頬が熱くなって赤らんでいる事が何だか恥ずかしくなる。

 その少年の白銀にブルーマールの因子が入った銀色の髪の毛は、光を通すとブルーが良く映え美しい輝きを放つ。

 何とも幻想的で美しい髪の毛だ。

 左眼の碧眼を弓の様に何時も反らす奥の瞳は無垢に澄み、右眼の包帯が痛々しくもその包帯の下には、炎の様に力強い真紅(ドラゴン)の瞳が隠れている。

 

 真紅の瞳と右眼の包帯の訳……。


 アウラはシーツから顔を覗かせ明るさが差し込む窓の方へと再び眼を向け、上等の羽毛で拵えた枕に顔を埋め呟いた。

 アウラの意識の外、思わず飛び出した言葉。

「チッチ……逢いたいよ」

 無意識のままにアウラの形の良い薄い紅色の唇から漏れ出した。

 白む空を見ながらアウラは細い声で何度も何度も呟いた。


 気が付けば何時の間にか眠っていた。

 夜着を着替えもせず、窓の外に設けられている広いテラスへと歩を進め外気に触れる。窓の外には青空が広がり、その青い野を羊雲がのんびりと流れている。

 陽は天中に差し掛かろうとしていた。

 空を見上げ、この何処までも繋がり広がる青の野の下にいるはずのチッチの姿を瞼の奥に思い出していた。

 不意に部屋のノッカーが鳴らされる。

「姉さん? もうお昼だよ。何時まで寝てるのさ。父さんと母さ――」

「やめて! アウル……」

 アウルの言葉にアウラは言葉を重ねその後の言葉を掻き消した。

「やめて……お願い、アウル。……もう」

「姉さん? そんな事言ってると二人が悲しむよ?」

 アウラは何時も間にか流れ出している熱い液体を遮るように紫水晶の瞳を閉じた。

 閉じてもその液体だけが頬を伝っている事を感じる。

「姉さん? 扉開けてもいい?」

「ごめん……少し待って着替えるから」

 頬を伝う涙を拭いながらアウラは答えた。

「うん。分かった待ってる」

 着替えを済ませ部屋の扉を開け、廊下の壁にもたれ掛かり待っていたアウルに声を掛けた。

「待たせてごめんね……アウル」

「うん平気だよ。お姉ちゃん」

 無邪気な子供のようにアウルに飛びつかれ、その勢いで二、三歩後ろに押されながらアウラはまだ小さな体のアウルを支えた。

 今のアウルにはシュベルクでチッチたちと戦ったあの禍々しい魔術師の面影は欠片も無い。

「さあ行こうよ。お昼! お昼! ごはん! ごはん!」

 もう十三歳、直ぐ十四歳になろうとしているアウルの行動は、年の割りに幼さが目立っている様に思える。

 微妙な歳ではあるものの、甘える事を恥ずかしがる年頃なのに……。

 あの事件。グリンベルの悲劇の折、離れた年頃のままだ。

 アウラは無邪気に笑うアウルの手を引いて、砦の長い廊下を食堂へと向かった。


 赤が基調のテーブルクロスが敷かれた長い食堂のテーブルに三俣のキャンドルスタンド、眼を楽しませる為に花瓶に活けられた花、豪華な料理が所狭しと並べられている。

 中央には子羊を丸ごと長時間、野菜や果物の大きな葉っぱに包み蒸し焼きにしたメインの肉料理は香辛料の香りが漂っている。

 アウラは肉の塊が子羊である事を知り思わず眼を覆った。

 グリンベルの街で家族と過ごした日々の中で子羊ではないが、ひねた羊を絞めて料理に出される事もあった。大抵はお祭りや祝い事の折りに振舞われるのが羊料理だった。

 幼かったアウラは食卓に上がった羊が放牧に連れていた羊であった事を知ってから羊料理を食べれなくなった。

 他にも丸焼きにした鳥に蜂蜜を何度も塗り香ばしく皮を焼き上げた鳥料理、じゃがいものポタジュ、色とりどりの野菜料理にサラダ、川魚のムニエルなど晩餐と見紛う程、様々な料理が長いテーブルにずらりと並んでいる。

 辺りには名も知らぬ砦の主に使える従者たちが壁際に控えていた。


 しかし……。


 長いテーブルに着いたのはアウラとアウルの二人だけだった。

 アウラは恐る恐る父と母の様子を聞いてみる。

「お父様とお母様は?」


 ――分かっている……来るはずはない。


 来れるはずはないのだ。あの姿で……。

「元気だよ? ここには入れないけどね」

 事の重大さを分からないアウルが無邪気に微笑み答えた。

「そ、そう? そうだよね……」

 アウラは唇を噛み腿の上に揃えている手でスカートの布を鷲掴みに掴んだ後、強張る頬を無理矢理、引き攣った微笑みを作り出しアウルに見せた。

 アウラは心の中でひたすらチッチの名を繰り返し呟いた。

 無意識の内にアウラの小ぶりで形良い薄い紅色の唇が震え出し、心の内で呟いていた言葉が吐息の様に漏れ出していた。

 アウラ自身が気付かない程、小さく細い声で……。

 何度も何度も繰り返し呟いた。

 紫水晶の瞳を閉じ込めた瞼の内から零れ落ちる涙はやがて滴が落ちる間隔を短くなり、一筋の線に変わっていく。

 零れ落ちた熱い液体がアウラが握りしめている拳を伝い部屋着のスカートに黒く大きな模様を涙で描いた。

「姉さん? 何故、泣いてるんだよ。そうか! 父さんと母さんに逢えて嬉しかったんだね」

 

 ――チッチ……助けて。


 いっそう強く拳を握りしめアウラの思いが零れ出す。

 拳の甲が温かい雫が零れ落ち、やがて一筋の線を描きスカートの布地の色を色濃く変えていった。

「あっ! そうだ。今日は姉さんにお客さんが来るんだよ」

「……お客様?」

 アウルが発した突然の言葉にアウラに緊張が走る。


 ――いったい誰が……。


「さあ、食事を済まさないとね」

 アウルは並べられた料理の山を次々に、たいらげていく。

 小さい身体に何処に消えていくのか分からないくらいの食べっぷりだ。

 アウラは、その姿を見て素直に喜ぶ事が出来ない。

 本来なら育ち盛りの弟の食べっぷりに驚いたり、嬉しく思ったりして微笑みを浮かべても可笑しくはない。

 アウラの脳裏に異形の魔物と化したアウルの姿が思い出される。


 ――チッチ……帰りたいよ。


 真実とは時に残酷である。

 確かに両親は生きていた。アウラが想像もしていなかった異形の姿で。

 アウルの様に人の姿をとる事も出来ず、魔物その物のままの姿で人の言葉すら解する事も出来ずに……。

 焼き爛れた顔の一部に辛うじて父と母の面影が見えるだけだった。

 こんなはずじゃなかった……アウラは自らが下した選択に戸惑っていた。


 アウルが食べ散らかした食事の後を従者たちが片付け始めた頃、俄かに砦とは思えない宮殿に騎乗した騎士が到着すると玄関のノッカーを二回程叩いた。

 暫しの間を置いてその後に一回、そして再び二回、更に二回、ノッカーを叩いた。

 そのノッカーの音を聞き付け従者が扉を開く。

 従者は顔色一つ変えず騎士の顔を見上げ中に入るように勧めた。

 騎士は、穏やかな笑みを浮かべ従者の後に着いて砦の中へと入っていく。

「暫くここでお待ちを」

 騎士は目通りを待つ間、設けられた待合室に通され、従者の淡々とした感情の乏しいい言葉にも笑みを返し答えた。

「分かった。待たせて貰うとしよう。時にアウラは元気かね」

 騎士の言葉に従者は恭しく一礼をすると何も答えず、部屋の扉を閉めた。

「やれやれだな。まったく、ここは愛想を知らんのかね」

 騎士は、ぽつりと呟いた。

 

 暫しの時間が流れた後、部屋の扉が開かれた。

「御案内致します。アウラ様とアウル様は待合室にでお持ちです」

「そうか、頼むとしよう」

 騎士が飲み掛けの紅茶が残るカップを置き腰を持ち上げた。


 接待室でアウラは浮かない顔をして客人を待っていた。

 この砦に来てから組織の者と思われる人間は来ていない。

 そろそろ来る頃かと思ってはいたがどんな顔をして会えばいいのか、どんな言葉を発すればいいのかよく分からない。

 考えに更けるアウラの耳にノッカーの叩かれた音が届いた。

 返事はアウルが返した。

「空いてるよ」

 扉が開かれ、鎧と思われる金属がぶつかり合う音が部屋の中へと響いて来る。

 アウラは俯いていた顔を恐る恐る上げて客人に眼をやった。

 紫水晶の瞳が戸惑いと驚愕に満ちていく。

「貴方が何故此処に……」

 アウラは瞳に映る人物を見て後の言葉を失った。


 To Be Continued

最後までお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!!

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