第1章 5話 エルフ
イーバンは街を出てから丸2日経った。目指す場所は実家
である神の峠。目的は義母・義父
に今回のことを聞くためである。
アリスの街から神の峠までは4日はかかる。
そして、イーバンの人生を変える出来事がまたしても起こる。
3日のある日、イーバンはとある馬車が盗賊に襲われているところに遭遇した。
「おい!金目の物と女を置いて行け!!」
盗賊たちは男どもを殺し、金目のものを奪っている。
盗賊は10人近くいる。襲われている馬車は奴隷商人の馬車であり、荷台には1人の女性が首輪に繋がれているのが見えた。
「兄貴!!エルフですぜ!」
荷台から出てきたのはこの世の者ではないような美しさをもつ、耳がとんがったエルフであった。
「離してなさい!あなたたちみたいな人族に触れられたく
ないわ!!!!」
エルフの女性はそう言うと、
「お前ら、抑えてろ!俺からいただくぜ。グフフフフフフ」
リーダーのやつがそう言うと、子分たちがエルフの女を
抑えた。
「やめなさい!!!!」
エルフの女性がそう言うと、盗賊たちの首は一瞬にして吹き飛んだ。
「え?」
エルフの女性は何が起きたか理解出来なかった。
「大丈夫ですか?」
イーバンはエルフの女性に駆け寄った。
「隷従の首輪か...」
そういうとイーバンは手を女の首元に当てた。
その瞬間、首輪から光が出だし首輪が取れた。
「え.....。」
隷従の首輪は簡単には外せない。しかし、イーバンは容易く外した。
「はい、これで大丈夫ですよ!では、ぼくはこれで」
イーバンはそう言うとその場を立ち去った。
「いったい何者なの....。」
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「やっとついた」
イーバンは神の峠の頂上にある実家についた。
「ただいーーー」
イーバンはドアを開けて入ろうとした瞬間、リンファーが抱き着いてきた。
「おかえりなさい!!さあぁ、入って」
リンファーはこの上ない笑顔でイーバンを迎え入れた。
「ただいま。母さん」
中に入りゼオンともハグをし、イーバンは街であった事件を全部話した。
「そんなことがあるの!?」
リンファーは驚きが隠せないようだった。
「おそらく封印が解かれ始めている証拠かもしれないのぉ」
龍神族の任務、それは邪神の封印の管理。または、排除である。
ゼオンは歳であるため、息子であるイーバンにイーバンに受け継がせたのだ。
「しかし、封印が解かれる始めているとしか考えられんのぉ」
「大丈夫だよ。弱かったし」
「そうだといいんだがなぁ....。」
ゼオンは心配そうにしていた。
ゼオン自身は邪神の恐ろしさを体験している。
「大丈夫よ!私たちの子供なんですから!!」
リンファーは胸を張って言った。
「ありがとう、母さん」
このあと、一泊した。
ーーーー翌朝ーーーー
「また来るね。行ってきます!!!」
「"行ってらっしゃい!!”」
イーバンはゼオンとリンファーとハグをし、家を後にし
た。
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家を出てから2日目。ある女性が倒れていた。エルフであ
った。
イーバンは急いで応急処置を施し、龍神族の秘術『パーフェクト・ヒール』を使い、エルフを完全回復させた。
(おそらく、すぐに目を覚ますだろう。ここの近くにテントでも張って休ませよう)
イーバンは近くにテントを張り、そこにエルフを寝かせ
夕食の準備をし始めた。
「-----っ、ここは...。」
エルフの女性は目を覚ましゆっくりと体を起こす。
「体が完全に回復してる。いったい誰が...。」
エルフの女性はそんなことを思っていると、外からいい
匂いがしており、それに釣られエルフもテントの外へと出
た。
「あ、あなたは!!」
「お、起きましたか。おはようございます。口に合うといいんですが、夕飯を作りました」
そこには、色取り取りの食べ物が置いてあった。
「テントは自由にしていただいて結構です。では、ぼくは
これで失礼します」
「待って!!!」
イーバンは立ち去ろうとしたがエルフに止められた。
「わたしに回復魔法をかけたのはあなた?」
「はい。危ない状態でしたのでかけさせていただきました」
「盗賊の時も助けていただきありがとう!わたしの国に来
て!お礼がしたいの」
エルフの女性は嬉しそうにイーバンに言ってきた。
「いえ、助けるのは当たり前ですし、ましては自分は下賤
の身。ぼくとは居るべきではない。あなたが不幸になりま
す」
イーバンは自分と一緒に居る人間は不幸になる。そうアリスの街に居た時に感じた。
「そんなことありません!私たちエルフは人族みたいに
身分で人を判断したりしません!!わたしはあなたを絶対
に国に招き入れます!!」
エルフの女性は声を張って言ってきた。
「実際にぼくのせいで多くの人が死にました。ぼくのせいで、ぼくの、せいで.....」
イーバンは溜め込んでいた感情が涙として溢れ出ていた。
エルフの女性は最初は驚いていたが、すぐにイーバンの傍に駆け寄り何も言わずにギュッと抱きしめた。
しばらくして、イーバンはエルフの女性から離れた。
「すいません。あなた様のおかげで少しスッキリしました。ありがというございます」
「あなた様とかやめて。私の名前はフォルティナ。フォルって呼んで!あなたは?」
「イーバンと申します」
イーバンは一礼をし、さらに自らが下賤であることを告げた。
「私は人族が嫌い。私たちエルフを見るとすぐに欲情し食いついてくる人が多いの。だから、奴隷としても信じられないほどの高値がつくの。」
フォルは苦虫を噛むような顔をしてした。
「じゃあ、ぼくはすぐに立ち去ったほうがよろしいですね」
イーバンはそう言って立ち上がろうとするが、
「ちがうの!イーバンは特別なの!!私はあなたに一緒に居てほしいの!!」
フォルはイーバンの服を引っ張りながら反論していた。
「そ、そうですか。なら良かったです」
「だから、私と一緒に国に来てほしいの。お願い!お礼がしたいの!」
フォルは頭を下げてお願いをしてきた。
「頭を上げてください!その、ぼくで良ければフォルさんと一緒に行きます」
イーバンがそう言うとすごく嬉しそうな笑顔をし、イーバンに抱きついた。
「あと、フォルさんじゃなくてフォルって呼んで!!」
笑顔かと思ったら次は頬を膨らませ怒っている。
「フォ、フォル...」
イーバンは恥ずかしながらも言われた通りにした。
「よろしい!!」
再びこの上ない笑顔をイーバンに見せ、再び抱き着いた。
(まったく喜怒哀楽がすごい方だ)
イーバンはそう思ったのであった。