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箱庭のユートピア  作者: 劔
1章 森の祭り
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第一話

この話から本編スタートです。序章より5年経った主人公達の頑張る姿を見守ってていただけたら嬉しいです。

ここはアストリア国東に位置する森の最奥にある村。初代建国者の結界により、滅多に新しい人が訪れることなく、建国当初の古代の空気が色濃く残っている。


 森の中を吹き抜ける風に気付き、サラは編み物の手を止める。

 「サラ?あ、一雨来る?」

 隣で同じ作業をしていた少女が、サラが深呼吸するのを見て問う。

 「あ、これは風が気持ちいいなあーて」

 「紛らわしいからやめてよぉ」

 「ごめん、ごめん」

サラが笑って誤魔化すと相手は怒って叩いてきた。軽いので痛みは無い。だから笑いながら再度謝ると許してくれた。しかし二人で笑っていたら別の声が飛んでくる。

 「サラ!ミナ!手が止まってるよ!あと完成してないの二人だけよ」

 「「ごめんなさい!ユキ姉さん!」」

二人は慌てて作業に戻り、遅れた分を取り返そうと黙って手を動かす。二人が白い糸で編んでいるのは、祭りに使う花飾りだ。サラとミナを含む十五、六歳の少女五人の担当だが、他の三人はすでに終え、遊びに行ってしまったようだ。それから約一時間後、

 「「お、終わった~~」」

 「はい、お疲れさま」

 「あ、ユキ姉さんお願いします……」

 「おねぇちゃん後お願いします……」

 「はいはい。二人共これ頑張ったご褒美」

自分の作業をしつつ、二人を見守っていたユキの担当は、編み上がった飾りを染めることだ。二人が編み終えると、隠しておいたお菓子と引き換えに飾りを受け取る。

 「それ、他の三人には無いからここで食べてって」

 「「はーい」」

お菓子を手にした二人が、もといた木陰に行こうとするのをユキが引き止める。染色小屋は風通りがよく、入り口付近は木陰と変わらないほど涼しい。二人は大人しく入り口そばに置かれたベンチに並んで腰掛け、お菓子をほおばった。

 「う~ん、やっぱり疲れた時は甘いものが一番ね」

 「いつ食べてもおねぇちゃんのお菓子は美味しい~! 」

二人がちびちびと食べていると、作業をひと段落させたユキが、額に巻いていたタオルを首にかけ直しながら二人の方へ向かい、お菓子のひとかけらをつまんで口に入れた。

 「まあまあの出来ね」

 「おねぇちゃん、自分に厳しい……」

 「十分、美味しいのに……」

ユキは二人の言葉を聞き入れずに話題を変える。

 「ねぇ、サラこのあとの天気はどうかしら? 」

 「天気? ちょっと待って」

聞かれたサラはベンチから降り、外へ出て目を閉じ、大きく深呼吸をする。森を覆うように吹く風に雨の気配が無いかを確かめ、小屋の中へと戻る。

 「今日は雨降らないよ。でも、明日の日の出前に少し降るかも」

 「分かったわ。ありがとね」

サラに礼を言うとユキは最後の仕上げに取り掛かるためにタオルを巻き直した。ミナが会話についていけず、姉に問い掛ける。

 「染めるのに天気なんて関係あったけ? 」

 「せっかく染めたのが、外に干している間に雨で落ちたら台無しになるでしょ」

 「あ、それでサラに聞いたんだ。サラの天気予測は外れないもんね」

 「……外れたこともあったと思うけど」

自分が過大評価されている気がしてサラはミナの言葉を否定する。しかし、姉妹は取り合わなかった。

 「外れたって、三時間以上ずれたことは無いじゃん」

 「サラほど天気予測が得意なのはお婆さまぐらいしかいないわよ」

二人ともそっくりに笑いながらサラを褒めるのでサラは二の句が継げず、話題を変えることにした。

 「ねぇ、それよりも今回の祭りでユキ姉さんが舞うって本当? 」

とっさに気になっていたことを思い出し、サラが問うと二人の反応は異なっていた。

ミナは大きく目を見開き固まっている。初耳だったのが丸わかりである。逆にユキは表情を変えずに染色作業をつづけている。

(あ、これは黙ってた方が良かったかも……)

ユキの雷が落ちるかと恐れたサラは思わず両手で自分の口を塞ぐ。しかし、言ってしまった言葉は取り消すことが出来ない。固まったサラを見てミナは、

 「サラ()聞いたの? ねぇ、おねぇちゃん! ミナも気になってたんだけど。どうなの? 」

(ミナも知ってたの?でも今訊くのはやめて~! )

ミナが問いかけてもユキが無反応なのでサラは恐る恐る手を下ろし、ユキの表情を窺う。

ミナが問いかけてもユキが無反応なのでサラは恐る恐る手を下ろし、ユキの表情を窺う。しかしユキは答えず、染色のために湯気の出る鍋をかき回し続けた。十五分ほど経ってからひと言だけ、ユキは鍋から目を離さずに答えた。

 「祭りには出るわ。でもあと一時間待って」

そして再び作業に集中してしまった。返事を待った二人は、望む答えが得られず肩を落した。

 「一時間は待てない~~。ミナは家に帰るけど、サラはどうする?」

 「え? ……私はここで待っているよ」

 「わかった~~。じゃあまた後でね」

やるべき事が終わってないミナは、残念そうに待つのを諦めて家に帰って行った。ミナを見送り、やることも無いサラはユキの作業を見つめる。

 ユキは慣れた手つきで鍋をかき混ぜ、色ムラなく飾りを染め上げていく。染色作業は、色を整え、染め、固定するもの。ユキの作業は流れる水のように留まらず、見ているといつの間にか水の色が変わり、白い花飾りが様々な色に染まり、染まり具合を確認してから色の固定剤で色落ちしにくくしていく。その鮮やかな手作業にサラが見惚れていると一時間はあっという間に過ぎていた。

 「サラ? お待たせ」

道具も片付け、再び額に巻いてたタオルを取り汗を拭きながら、ユキがサラに近づいて声を掛ける。

 「……あ、うん。お疲れ様、ユキ姉さん」

サラはユキの声で我に返ったため返事が少し遅れる。それを少し不思議がりながらユキはサラの隣に座った。

 「待ちくたびれた? それと、ミナはお婆さまからの課題が終わってないみたいだけど、サラは大丈夫?」

 「ううん。どっちも大丈夫。……さっきのユキ姉さん、作業に無駄が無くて、舞手に選ばれるのはこんな人なんだなぁって思ってたの」

サラを気遣う言葉に首を振って答え、思ったことをそのまま伝えると

 「確かに、祭りの舞手は奉納するものを上手く作れる人が多いけど。選ばれても舞が下手だと違う人に代えさせられるわ」

ユキはサラの言葉に驚いた顔をしてから、作業場に視線をやり、サラを見ずにユキは言った。その横顔には任された仕事を最後までやり通そうとする強い意思が浮かんでいる。しかし、その見え隠れしている不安を感じ、サラは恐る恐る尋ねる。

 「……もしかして、ユキ姉さんは舞手に選ばれたけど、当日まで舞えるかわからないから公言してないの?」

サラの言葉にユキは苦笑しつつ目線をサラに戻して言う。

 「その通り。……言い訳になるけど、私以外の舞手もそうよ。いつも当日まで舞手が誰かわからないでしょう?」

 「言われてみれば……確かにそうね」

 「守秘義務はないんだけどね。公言してから舞えなかった、なんて周りにも迷惑かけるから、舞手に選ばれた人達は隠すのが暗黙のルールだって」

私は隠し切れなかったけど、サラも他では言わないでね、と続けられサラは頷くことしか出来なかった。サラが聞かなければ良かった、と後悔したのを、ユキは表情から読み取り、微笑みながら立ち上がって明るい声でサラを誘う。

 「さてと、サラが聞きたかったことはわかった? このあと暇ならお婆さまのところに行かない?」

 「行く!」

サラは目を輝かせてユキの後を追った。



この作品は土曜のお昼頃更新していく予定です。

よろしくお願いします。


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