指導開始
スイロンさんのキャラこんな予定ではなかったんだけどなぁ、、、
王の間を出てから、大河はスイロンに連れられて王城の廊下を歩いている。
(このルート、さっきの貴賓室に向かっているのかな?それにしても、、、)
大河は自分の前を歩くスイロンの後ろ姿を見つめた。
(魔導師っていうのが軍人なのか学者なのかは知らないけど、どちらにせよこんな美人さんもいるとは驚いたな。3級魔導師ってどれくらいの位置付けなんだろう。)
大河が取り留めのない思考を巡らしているうちに、2人は、目的地に到達した。そこは、大河の想定していた貴賓用の寝室ではなく、作りのしっかりした机と椅子、本棚が備えてある小部屋だった。さながら小さな図書館といったところか。
(今まで居た部屋がどれも広かったせいで、少し圧迫感があるな。窓がついてるのがせめてもの救いか。)
「勇者様、本日より暫くはこちらでこの世界における基本的な内容を学んで頂きます。」
くるりと大河に向き直ったスイロンはニコリともせずに言い放った。
「あっはい。あの、先程戦闘訓練を担当されるとお聞きしたんですけどもそちらはどの様な内容なんでしょうか?」鋭い視線に驚きつつ、大河はふと気になったことを聞いてみた。
「その質問には今お答えするよりも、事前知識をつけてからの方が理解が進むかと存じます。」
「そうなんですか。分かりました。」(目つきが鋭いせいでなんか怒ってるように見えるけど、多分これが普通なんだろうな。)
「では改めまして、エルドリア王国3級魔導師のスイロンと申します。本日より勇者様専属の戦闘指導を仰せつかりました。まずはこれより1ヶ月の間に基本となる知識と技能の習得を目指して参ります。よろしくお願い致します。」
「こちらこそよろしくお願いします。
あと、勇者様と呼ばれるのは慣れないので大河と呼んで貰えると有り難いです。なんだかんだこちらの世界で名乗るのはこれが初めてですが、日野大河というのが私の名前なので。」
もともと大河は誘拐や拉致を警戒して自分の情報を話していなかった。しかしここが異世界ともなれば実家に身代金が要求される事もなかろうと判断して名乗ることにした。
「左様でしたか。でしたら今後は大河様とお呼び致します。」
「いえ、『様』を付ける必要はありません。もともと大した身分の者ではないので普通に大河で良いですよ。」
「そうは参りません。大河様は我らがエルドリア王国の国賓として招かれた御方ですので相応の礼を尽くすのが道理です。」
(立場上譲れない事らしいな。これは仕方ないか。)
「分かりました。呼び方についてはお任せします。それで、最初はどのようなことから習うのでしょうか?」
「はい。まず大河様には主に4つの内容を並行して学んで頂きます。1つ目がこちらの世界の大まかな歴史と情勢、2つ目が魔導の基礎と魔の者について、3つ目が魔導を用いない体術と武器の扱い、4つ目が勇者の力の把握と制御になります。」
「思ったより色んなこと習うんですね。」
「先程挙げた4つはあくまでも基礎的内容です。予定通り基礎の習得が済みましたら本格的な指導に移行いたします。」
大河は勉強が苦手ではない。しかし目の前の専属指導員から並々ならぬスパルタの雰囲気をすでに感じていた。
「お手柔らかに頼みます。」
「大河様には人類の未来が託されております。しかしながらその前段階として、ご自分の身を守るに足る実力と知識をつけて貰わねばなりません。日々の鍛錬で手を抜くことは、戦場での死を意味すると肝に銘じて頂ければと存じます。」
つい口をついて出た言葉さえも、スイロンは厳しく咎める。
「どうやら未だ雑念がおありのようです。まずは体力の程度を測ることも兼ねて、演習場で走り込みと致しましょう。」
その日大河は、自分の発言が軽率であったと心の底から後悔することになる。
多分次話で時間飛びます