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それでも勇者は帰りたい  作者: かつお節EX
第1章 転移と魔導
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スパルタの予感

大河は敗者たちとの模擬戦を4戦終えた。結果は1勝3敗、この一勝は巴投げを決めたときのものである。やはりというべきか、普通に戦うと8級魔導師にとって大河は相手にならなかった。


大河は未だ、相手が身体補助を発動した時のみ、体表面に展開された魔素の流れに作用することができる。これは、大河の体内に魔素が蓄積されていない為仕方のない部分である。


普通に戦っていれば、対戦相手の体に長時間触れ続けることなど困難である。まして多くのものは剣や槍などの武器を用いるため、間合いを詰める事などそうそうできることではない。


未だ自力で魔導を扱うことができない大河にとって、程度の差こそあれ身体補助を使ってくる相手の攻撃を対処しきることは難しかった。したがって2戦目以降の模擬戦では、相手の体に触れることすらなく負けてしまったのである。


「対戦相手の油断があったとはいえ、生身の体で魔導師から1勝をもぎ取ったのは賞賛に値しますね。」

座学の時間の第一声で、スイロンは大河の結果をそう評価した。


「スイロンさん、実はあの時の模擬戦、俺少しだけ相手の魔素に干渉していた気がするんです。体内魔素を知覚できないのにおかしな話ではあると思うんですけど、相手の体の表面に確かに魔素を感じたんです。」


大河の告白に対して、スイロンの目は大きく見開かれる。

「、、、俄かには信じがたいことですね。よろしければその時の詳しい状況と、ご自分が感じたものが魔素だと思うに至った理由などをお聞かせ願えますか?」


スイロンの問いかけに対して、大河は当時の状況や自分の思考を説明した。


「なるほど、足の先から頭に向かって流れるものを感じたのですね。そして大河様がそれらへ作用する事を試みた結果、相手が流れを強くしたように感じたとおっしゃるわけですね。さらにご自分の頭へ展開するよう念じた結果、次第に相手の打撃に対して痛みを感じなくなったと。」


「はい、その通りなんです。」


「なるほど。身体補助を使い始めた8級魔導師であれば、あまり効率は良くありませんが、魔素を回し続ける形で体表面の硬化や運動能力の向上を図ることがあります。何より相手の打撃が通らなくなったというところから見て、大河様が知覚して働きかけを行ったのは魔素であるといえそうです。」


「やっぱりそうなんですね。ちなみに、俺がやっていた事って身体補助とみなしていいんですか?」


「概ねその理解で問題無いと思います。身体補助とは体表面に魔素を展開させることで、いわば甲殻類の外骨格のようなものを形成して身体の保護を行えるようにしたものなので。」


「体外に魔素を展開して防御力を上げるてるのはわかるんですけど、なんでそれが運動能力の向上に関わるんですか?」


「たしかに初歩的な使い方では防御一辺倒になってしまいます。強いて言えば、何らかの荷重を支える際に魔素の外骨格が体への負担を低減するくらいにしか使えません。


しかしながら、習熟してくるにつれて体表面に展開した魔素の形状をより素早く、精密に操作できるようになります。ある程度まで慣れてくると、魔素の外骨格と言うよりはむしろ体外に存在するもう一つの筋肉と見なすことができるかと思います。


大河様は今回の模擬戦闘において、1人でも力で勝ることができた相手はいましたでしょうか?」


「いいえ。1人として敵いませんでした。動きも俊敏で対処しきれずに押し負けたのがほとんどです。なるほど、そういうことだったんですね。」


「大河様の疑問が解消されたのは喜ばしいことです。一体なぜ人の扱う魔素のみ知覚できるのかは現状ではなんともいえませんが、今のお話が本当であれば、今後の修練は方針を変えた方が良いようです。」


「と、言いますと?」


「座学の時間にお教えしました通り、魔導を使うには魔素を消費しなければなりません。エルドリア王国以外では、この際に使用する魔素を体内から供給する事が一般的です。自らの体に触れている魔素に作用することは比較的容易にできるからです。


一方で、大気や地中などの周囲の環境にも魔素が存在することが知られていますがこれらの魔素を供給源とする方法も存在するのです。しかしこちらの習得難易度は体内魔素を扱う場合とは比べものになりません。


他国でこちらの方法を使いこなせるものなどまずいません。したがって習得方法はおろか、この手法が実用に足るものであると知るものもそう多くはいないのか現状です。対して我が軍では、習得方法がある程度確立されていて魔導部隊への教育の一環として扱っているのです。


我がエルドリア王国の魔導部隊が精鋭と言われる所以はここにあると言っても過言ではありません。」


「ええっと要は、本当は難しいからまだ教えるつもりなかったけど、体内魔素の扱いをすっ飛ばして体外魔素を扱う修練をするんですね。でも、もう少し早く提案してくれても良かったんじゃないですか。」


「先程も申しました通り習得難易度が違います。体内魔素で感覚を掴んでおく方が好ましい事に変わりはありません。大河様は、対戦相手の魔素を知覚して作用することが出来た様子なので、これを持って体内魔素の扱いを感覚的に掴んだものと見なします。


それから、伝承によれば勇者の力と魔導の行使には近い部分があるそうです。私も勇者の力がどのようなものか正確に理解しているわけではありませんが、今後の魔導の修練は勇者の力を扱う良い練習になるかもしれません。今まで以上に励んで参りましょう。」


「わ、分かりました。頑張ります。」

(ようやく勇者として成長するの目処が立った感じだ。早く強くなって帰るとしよう。)

今後の魔導修練にまたしてもスパルタの気配を感じつつ、大河は覚悟を固めるのだった。



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