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それでも勇者は帰りたい  作者: かつお節EX
第1章 転移と魔導
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人理会議

人理会議 それは人類にとって喫緊の課題とされている魔の軍勢への対応を決定する国際機関の名である。この機関では今まさに、各国の国主達が一堂に会する定例決議が開催されている。


「それでは、前線がまた後退してしまいまうではないか!エルドリア王国もいい加減、ご自慢の魔導部隊から主力級の魔導師を派遣すべきだ!」

もともとざわついていた定例決議の場ではあるが、トーラス王国代表の言葉によって、参加者たちは一層どよめき出す。多くの国は、概ね今の発言に賛同する立場のようだ。


「落ち着きなされよ、トーラスの代表殿。いたずらに戦力を投入するだけで戦線が維持できるというものではない。それに今のお言葉ではまるで我が国だけが、協力的でないように聞こえてしまうというものだ、」


「誰がどう見てもその通りではないか!どの国もギリギリまで人員の派遣をしている状態なのだ。仮にも国力で1,2を争う国家が主力を投入しないとは、何事か!」


「その発言は心外というものだ。我が国も主な部隊から魔導師を派遣している事実は変わらない。加えて、大きな国にはそれを維持するだけの人員が必要になるというものだ。全てを投げ打つ姿勢は美徳のように語られるが、長い目で見ればそれは国力の衰退を招きいずれは人類を内側から崩壊させる毒となるのだ。」


「そんなものは詭弁だ!結局魔の軍勢が堰を切ったようになだれ込んで来れば、我々の国は焦土と化すのだぞ!人類を内側から毒しているのはエルドリアではないのか!」


2国間の論争が過熱気味なのを見て取った議長国のオートランドは仲裁に入る。

「トーラス代表殿、少し語気が強いようです。提案された内容は議論しますので、もう少し第三国の意見もきいてみましょう。エルドリア王国もそれでよろしいですな。では手始めにエーゼル帝国のご意見を伺いたい。」


話を振られたエーゼル帝国皇帝は、まるでこの流れが予想できていたかのように饒舌に話し始める。


「そうですね。エルドリア国王の発言には一理ありますが、各国の国力と派遣した兵力を比すると、やはり若干ではありますが、エルドリアの派遣は少ないように感じます。こちらに国力に対する派遣した兵数の比率を示した資料を用意しました。良ければ皆様でご覧になって頂きたい。」


皇帝が合図すると、後ろに控えていた兵たちが各国に資料を配り始める。


「これは。」


「そらみたことか。だから先ほど、」


「たしかに国力の割にはずいぶんと。」


数字で示されるとどうにも説得力が増す。この資料だけでも大方の意見は決まったようだ。


(小癪な若造め。)

エルドリア国王は苦々しく思いながらエーゼル帝国皇帝と資料を眺める。

(奴は魔導戦力と普通の兵科の戦力差を理解した上で、敢えて派遣した兵の数だけを載せている。主力を派遣していないのは事実だが、我が軍が任された戦線を維持するのには充分だ。明らかに我が国の戦力を分散させる意図がある。エーゼル帝国は何か感づいたのか?)


「我が軍は現状として充分戦線維持に貢献している。それは過去の実績を見れば明らかだ。今まで前線に綻びを出してきたのはいずれも別の国の任地だったはずではないか?」


「エルドリア国王、これは人類全体の問題なのです。あまりわがままを言うべきでは無いと思いますよ。むしろ他国の非力を補うのが大国の責務というものだと私は考えますがいかがでしょうか。」


場の流れを逃すまいと、エーゼル皇帝は畳み掛ける。

そして、この発言に対して図ったように四方から拍手が起こる。はじめは少なかったそれも次第に会場中を埋め尽くす喝采となる。エーゼル帝国の下準備にまんまとしてやられた格好だ。


(人理会議か、小国に公然と恩を売る好機と考えていたが、どうやらここは理屈の通らぬ乞食の集まりだったようだ。我が国が抜けた場合その穴をエーゼル帝国がどう埋めるか見てみたい気はするが、魔の軍勢を蹴散らした日にはその矛先をエルドリアに向けかねない。現状も、これはこれでやりようがあるか。)


拍手が収まるのを待って、エルドリア国王は口を開いた。


「相分かった。戦線の維持に力及ばぬ国があるのであれば我が国が人員を派遣して支援しよう。今、この場をお借りして支援の要請を受け付ける。各国の国主よ、その意思を示されよ。」


エルドリア国王の言葉に、先程とは打って変わって会場内部がしんと静まり返る。いままで野次や拍手を送るだけだった国々も、自国の代表としてどうすべきか、エルドリアの思惑はどこにあるのか、銘々に思考を巡らせているのだ。


エルドリアとしては仮に申し出があった場合、その国との2国間協議に持ち込み関係を強めることで徐々にその国への影響力を強めることが一つの狙いだった。もし一切の申し出がなければ、エーゼル帝国が語った大国の責務とやらで兵の増員を必要とする大義名分を崩すことが出来る。賽は投げられた。


「コゾット国はエルドリア王国の支援を要請する。」


第一声は、エルドリアの隣国コゾツトによる支援の要請てあった。もともと山岳に位置する小国であることに加え、エルドリアとの交戦経験も少ないため、他国と比べて敵対意識が低い傾向にあったことから支援を要請したのだろう。


「ドンゴル共和国はエルドリア王国に支援を要請する。」

続く2国目は、最近王政を廃止したドンゴルである。この国は未だ国の舵取りに難航しているようで、兵の練度も高くない。多国籍軍の防衛で最初に戦列の崩壊を起こしたのもこの国である。以降は定例決議の度に割り当てられる任地が縮小される傾向にあるが、それでも荷が重いのだろう。


「エルドリア王国は両国共に支援をお約束いたしましょう。他に支援を要請される国はいらっしゃいますかな?」


「エルドリア国王よ、形だけの支援では意味が無いのです。支援内容も充分なものになるよう、人理会議で話し合って決めなくてはなりません。」

予期せぬ事態になんとか主導権を取り戻そうとエーゼル帝国が横槍を入れる。


「エーゼルの若き皇帝よ、ご忠告痛み入る。しかし国ごとに必要な支援は異なるのだ。そして両国に対して我が国がどのような支援をできるのか、それはここにいる皆様で話し合うよりも、それぞれの国のことをよく理解した当事者同士で話し合う方が明らかに良い答えを得られるというものだ。そして何より、この場で我が国に支援を要請する全ての国に対して、エルドリア王国は最低でも魔導師五百名を遣わす事をここにお約束いたしましょう。」


エルドリア国王の言葉に、会場は再びどよめきだす。


「なっ、エルドリアの魔導師五百名だと!」


「20年前の戦争では魔導師二千名で小国を降伏させたこともあると聞くぞ。」


「会議の冒頭とは全く主張が異なるではないか。一体何を考えているのだ。」


ざわめきは収まる気配を見せない。


結局この後、ササノ国という小国も支援を要請したところで一旦会議は休憩に入ることになった。


ちなみにトーラス王国の王族は他国に亡命しているため政治に関わってません。今は首相が政治のトップです。もう殆ど自治権はありませんが。

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