執念の足掻き
お待たせしました。
スイロンに義務付けられた敗者同士の4戦を遂行する為、大河は別の模擬戦闘場へ向かう。
(俺の予想が正しければ、あの感覚は魔素の動きを知覚したものだ。さっきの腕相撲と通常の鍛錬との違いは、身体補助を発動していたルドリーに触れていたことにある。その証拠に、さっきの感覚は右手の手首から先だけだった。
身体補助は体表面の強化もしているから、ルドリーの右手表面には魔素が展開されていたはず。俺が感じたのはおそらくこの魔素だろう。今まで自分の体内にある魔素には気づけなかったけど、体外にある魔素なら知覚できるのか。もしくは魔導に使用されている状態だと知覚し易いのかも知れない。)
ようやく変化の兆しを見出した大河はこれから自分が何をすべきなのか思考を巡らせる。
(まず考えられるのは、さっきみたいに発動している魔導に直接触れること。これで感覚を磨けるかも知れない。そして出来ることなら、感じ取った魔素を俺が動かしてみることだ。そこまで行けば道は開けるはず。)
ひとつの結論に至った大河は、覚悟を胸に模擬戦場へと足を踏み入れるのだった。
―――
「こっ、こいつまだやんのかよ。」
敗者たちに開かれた模擬戦場の一つで、悲鳴とも取れる声が上がる。声の主の足元には、蹲りながらも懸命に足にしがみつく大河の姿があった。
「ぜふ、ぜふぅ、遂に掴んだぜ。こ、このあしぃ離すものかぁ」
「クソッ、もうどうなってもしらねぇぞお前。」
そう言って。対戦相手の男は身体補助の魔導を発動する。
(この雑魚、初戦を見た感じから魔導が使えないと踏んだとこまでは良かったが、ここまでめんどくさいとは思わなかったぜ。)
そうこの男、大河の初戦を目撃していたのである。1,2回戦敗者には、別会場で最低2回の模擬戦闘が義務付けられている。そしてこの男、模擬戦闘を楽に終わらせるために自分より弱い魔導師を探していたところ、魔導を使えないのに参加している大河を見つけたのである。
そんなことを知る由も無い大河は、ただひたすらにあの感覚を求めて集中している。
(ああ、なんかピリピリする。絶対ルドリーより弱い身体補助だけど、確かにここに魔素があるのが分かる。これはもう、全身でまとわりつくしかないな。)
そうして大河は、腕だけでしがみついていた状態から、まるでコアラのように両手両足で男の足にしがみつく。全てはそう、全身で魔素を知覚するためなのだ。
しがみつかれた男は、大河の腕を自分の足から引き剥がしにかかる。
(こいつ、思ったより力強いな。もうちょい出力を上げてみるか。これ疲れるからあんまりやりたくないんだよな。)
(おお、さっきより魔素を増やしたな。なんかピリピリって感じからパチパチって感じに変わった。あとはこの魔素にどうにか作用できないか。多分今これ体表面を足から頭に向けて魔素が流れてる。逆になったらどうなるんだ?止めたら身体補助が切れるのか?)
感覚と想像を頼りに、大河は魔素の流れへの介入を試みる。
(ああ?なんだこれ、いつもより力入んねぇ。クソッ調子狂うぜ全く。)
男は不調を感じつつ、魔素の循環を強める。
(あっ、これ絶対抵抗されてる。ということは他人の魔素の流れにも作用できるのか。これだ、俺の魔導の歴史はここから始まるぜ!)
(こいつなんか変なことしてやがるな。何企んでるかしらねぇがやられる前にやるだけだ。)
不調と大河の関連を疑い始めた男は、大河の腕を引き剥がすのを諦めて大河の頭を殴り始めた。
(痛っ、あっ、ちょっ、こいつ頭殴るとか野蛮人じゃないのか?いや、これ模擬戦だからそんなことないな。でも今手は離せないし。そうだ!)
大河は見よう見まねで相手の魔素を自分頭に展開するイメージをする。
「オラッ、オラッ、手を離しやがれ。頭割れてもしらねぇぞ。」
(くっ、もうちょい、耐えれば、いける、気がする、魔素を、この魔素を、俺の、頭の方に、くっ、痛い、痛い、痛、痛?、痛く、痛く、、、なくなったな。)
「お前頭固いな。なんだよもう。岩殴ってるみたいだ。あぁ、魔素が、モタねぇ。ふぅ、ふぅ。」
男は慣れない出力を維持したことに加え、知らないうちに大河に魔素を使われていたため、体内魔素を使い果たしてしまったようだ。息も上がっている。
(なんだ、相手は魔素切れか。もう少し殴ってても良かったけど、息も上がってるみたいだしこれはチャンスだ。)
相手の足を抱えていた大河は、そのまま巴投げを敢行する。
「なっ」
完全に虚をつかれた男は、受け身もままならず倒される。
「―――っっぁ」
男は言葉にならぬうめき声を上げる。すぐには起き上がれないようだ。
「そこまで、勝者大河」
レフェリーのおっさんが判定を下した。