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それでも勇者は帰りたい  作者: かつお節EX
第1章 転移と魔導
10/19

萌芽

新キャラの登場ですね

「使用する武器は何に致しましょうか?」


「じゃあ矛でお願いします。」


大河は参加者登録をしている。スイロンから見習い魔導師として登録すると聞いた時は、物珍しさによって注目を集めたりしないかと心配していたが、例年見習い魔導師から一定数の参加者がいることを聞いて少し安心する。


(見習い同士でぶつかれば、初戦突破もできるかもしれないな。)そんな事を考えているとトーナメントの配置が壁に張り出される。人混みをかき分けて見てみると、驚くべきことに初戦の相手は同年代の見習い魔導師だった。


(あれ、コレはいけるんじゃないか?)


―――


ドスッ 、「うぐ、こは、、、ぁぁぁ」

「勝者、ルドリー」レフェリーのおっさんが判定を下す。瞬殺だった。


「いやぁごめんごめん、身体補助も使わないとは思わなかったよ。ボクが勝手に期待しちゃったのがいけなかったな。ねえキミ、お腹は大丈夫?」対戦相手の少女はレフェリーと一緒に大河を場外へ運びつつ声をかける。


大河の認識は甘かった。油断があったわけではない。ただ実力差が明確に存在していたのだ。

この国で魔導師と呼ばれるのは基本的に、半年以上の見習い期間を過ごした者の内で、身体補助を習得した者である。


この規定のため、どんなに魔導を得意としていても半年の見習い期間中は見習いの身分なのである。こんな訳で、毎年一定数化け物ルーキーが混ざっているのである。ここのトーナメントに義務でもないのに参加する見習いは大抵こういう奴らなのだ。下手な魔導師よりも強いことだって珍しくはない。


(初手は防げたと思ったのに、馬鹿力でそのまま押し込まれた。体勢が崩れたところで腹に峰打ちスイングが決まってお終いだ。だが良いものも見れた。おそらく最初の踏み込みは身体補助レベルの魔導だが、直後の初撃は身体強化レベルの魔導だろう。)


冷静に分析しているようだが、大河は未だ、場外の空きスペースに蹲って呼吸を整えているところである。

「おーい、まだ痛むのかい。最後のを強くしすぎたのは謝るからなんか反応してよー、ねぇ生きてるー?」

そんな大河に対して、先ほどの対戦相手ルドリーは大河の近くにしゃがみながら声をかける。


(せっかく人が呼吸を整えているところなのに、さっきから脇腹をチョイチョイと突いてくるのは嫌がらせなのか)そう思いながらも何とか大河は返答する。

「ああ、ふぅ、さっきよりは大分マシになったよ。ところで君は『身体強化』が使えるのか?一撃目の踏み込みに比べて、二撃目はずいぶん動きが速かった様に思うんだけど。」


何とか起き上がった大河は、今行われている模擬戦の方を向いて体育座りになる。

「あっ、分かった?いやー分かっちゃうかーそうだよねーあの緩急つけた攻撃で相手を翻弄するのがボクの作戦だったのさ〜」ご機嫌そうなルドリーは両手で頬杖をつきながら答える。


ちなみに『身体強化』とは身体補助の上位互換の魔導である。下手な刃物ではほとんど傷つかなくなる。


「まぁ俺の場合、緩急で翻弄される前に一撃目で力負けしちゃったけどね。」


「そうそう、キミ身体補助使ってなかったけど縛りプレイってやつ?それともまだ覚えてない感じなの?」


「実はまだ使えないんだ。というか、魔素の感知も碌にできてないんだけどね。」


「そっか〜、でも魔導使わない素のままでこのトーナメントに参加するとは、キミなかなか面白いことするね。見習いで参加するのなんて魔導の覚えがあるやつだけだと思ってたよ。」


「確かにね。ところでもし良ければちょっとコツとか教えてもらえないかな。かれこれ一ヶ月試してるんだけど、なかなか感覚が掴めないんだ。」


「うーん、一ヶ月はなかなか苦戦してるね。でもボク、感覚派だからコツって言われても難しいなぁ。」


「なんでもいいんだ、取り敢えず何かとっかかりが欲しくて。」

大河の積極的な姿勢を見たルドリーは感心した。


「いやぁ、キミは偉いな。よしよしボクもなんとか力になろうじゃないか。

じゃあまず心臓の所に手を当ててみて。キミの脈打つ拍動が感じられるはずだ。ボクはこの感じを、生きてる状態のイメージって考えてる。」


「生きてる状態のイメージね。」


「そう、で、魔素も血液みたいに巡回して動き回ってるのが魔導を使ってる時のイメージ。なんかこう ドクドクッ としてるわけ。魔導を使ったことがない人の魔素は多分ずっと眠ったまま動いてないんだよ。だからこう、なんでもいいから体にあるものすべてをグルグルと回してあげるイメージでグーっとやってみて。」


「わ、分かった。」擬態語が多い説明だが、大河は素直に従ってみる。


「どう?なんか未知のものが動き出す感覚ない?」


「うーん。あんまり変化は感じないかな。イメージが聞けたのは新鮮だったけど、やってること自体はいつもこんな感じなんだ。」


「ダメかー。何が問題なんだろ。取り敢えずボクの身体強化でも見ながら感覚をつかんでみる?そうれ。」


ルドリーは体内の魔素を回し始める。とはいえ、視覚的な変化は起こらない。


「今のボクに腕相撲で敵う奴は、きっとこの辺りで試合見てる中にはいないよ。」ふふん とルドリーは鼻を鳴らす。


「じゃあ試しにやって見てもいい?」特に深い考えもなしに、大河は申し出る。


「おやぁ、さっきの試合では物足りなかったと見えるね。ボク、手加減はするけど容赦はしないぞ。」そう言ってルドリーは近くにあった誰も使っていない椅子の片側に肘を乗せる。


「いや、多分それ矛盾してると思うんだけど。」そう言いながら大河も椅子の反対側に肘を乗せてルドリーと互いの右手を組む。


「覚悟はいいかい。よーーい、ドン!」短距離走が始まりそうな掛け声とともに、両者は腕に力を込める。当然ルドリーは本気ではない。


(くっ、まるで腕が動かない。身体強化恐るべしだな)大河のそんな考えを見透かしたようにルドリーが口を開く。


「一応言っておくけど、ボクはまだ身体補助しか使ってないからね。どれどれ もう少し力を込めようかな。」その言葉とともに大河の腕が押され始める。


「くっ、ぬうぅぅぅ」


「はっはっはー、まるで赤ちゃんと握手をしているみたいだ。キミをあと5人は連れてこないと、ボクといい勝負はできないかもね?」字面はあれだが、別に嫌味で言っているのではない。ルドリーとはこういう人間なのだ。


「むぅぅぅ」


バチッ、


(え、なんか今指が、)大河は指先に異変を感じた。


「ほらほら〜、もうちょっとでキミの手の甲がついちゃうぞー。」ルドリーの声や腕相撲の勝敗よりも、大河は先ほどの感覚に困惑していた。


(気のせいかな、怪我とかじゃないといいんどけど)


バチバチバチッ、


謎の感覚が、今度は指先から手首まで走り抜けた。

(気のせいじゃない。そしておそらく、これは怪我とかでもない。とするならコレはもしや!)


「はい、大河の負け〜」大河が何かを感じたところで、ルドリーは勝負を終わらせたようだ。


「いやぁ〜、ボクに腕相撲で挑むのは120年くらい早かったかもしれないね。」


「ルドリー、ありがとう。何か掴めた気がする。お互いこの後も試合だしこの辺にしておこう。長く引き止めて悪かった。」


「え、今のでコツが掴めたの?そっかーボクはどうやら教育者としての才能があったみたいだね。何はともあれキミの力になれたなら、手伝った甲斐があるってものさ。」


「ああ、本当にありがとう。次の試合も絶対勝てよ。」

大河はルドリーに握手を求めた。


「もちろんさ。ボクは結構強いからね。ボクもキミの魔導の修練を応援するよ。えっとー、そういえばキミ名前は?」


「大河、日野大河だ。今日はすごく勉強になった。機会があったらまた会おう。」


「大河か、なんとなくスケールの大きそうないい名前だ。次に会うときはもう少し腕相撲が強くなってることを期待するよ。」


2人はがっしりと握手を握手を交わして、その場を後にした。



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