序章 流されて•••そして•••
青い空、白い雲、そして、光り輝く太陽の日差し。
少し風が吹き、波が揺れ、今にも眠ってしまいそう。
高校二年生の夏、来年の受験に向け夏期講習が始まろうとしている中、僕は授業をサボり、近くの海へ小舟を漕ぎながら、いつもそこで時間を潰している場所に停め、仰向けになりながら、空を眺めていた。
高校とは、行事を前期で終わらせ、後期から勉強に集中させようとしている場所だ。
僕は昔から何かに縛れるというのが嫌いで、常に自由を求めていた。しかし、高校だとそれが問題となり、何かと職員室に呼ばれ、何度も注意されたが、僕自身はあまり気にならず、ありのままに進もうと思った。
そうやって自分の事を優先的に考えていた僕が少し迷いを感じるようになった。それは…
「進路…どうしよっかなぁ〜。」
つい言葉にして出した本音が周りに聞こるかのように大きな声で言った。
僕の高校は有名な進学高であり、高校一年生から既に自分が入りたい大学を決めている生徒が多い。
僕のクラスでも休み時間でさえも常に勉強をしている人が多く見られる。
何故、そんな高校に入ったのか?
それは、家から学校まで徒歩五分で着くという理由であったからだ。
だけど、僕自身は勉強は好きではないが、自分の知らない知識を知る事はとても面白く、楽しい時もある。
ある日、担任の先生が昼休みに職員室に来るようにと言われ、職員室に入ると本題は、やはり、進路の事であった。
「松田。お前…大学進学してみないか?」
「進学ですか…う〜〜〜ん……まだピンとこないですね。」
腕を組みながら、体を傾け、考えているようなポーズをしながら答えた。
「お前の今時点の成績を見るとこのまま進めば良い大学に進める。良い大学に入れば、就職だって大手の企業に入れる可能性もある。
もっと自分の人生考えてみろ!」
それを聞いて、僕は少し引っかかる事があった。
良い大学入って、良い会社に入る。本当にそれが正
しいのか?
人の人生は無限にあるものだ。人にどうこう言われる筋合いはないと心の中で思った。
だが、先生は僕の事を思って言っていると思い、逆らえる気持ちにはなれなかった。
「…分かりました。少し考える時間を下さい。」
「分かった。なるべく早く決めろよ。
遅ければ遅いほど周りにいる奴らに置いてかれるからな。
そこだけは注意しろよ!」
「…はい…ありがとうございます。失礼します。」
そして、現在に至る。空を見上げ、進学すべきなのか?それとも、就職という道を進むのか?
そうやって、頭の中で考えているとある事に気づいた。
「おかしいな?雲の流れってこんなに早かったのかな?」
僕は不思議に思い、体を起こし辺りを見てみると何も無く海と空しか見えなかった。
いつもなら、沖が見えるはずなのに、何度も辺りを確認したが、それらしき沖は見えず、自分を落ち着かせ冷静に状況を確認した。
「これって…噂の……遭難ってやつ……?」
自分の置かれている状況を理解し、急いでパドルを回し、自分の感だけで進もうとしていた。
時間が経つにつれ、体力が徐々に落ち、同時に雲行きも怪しくなっていき、波も高くなり、雨も降り始めバランスを保持するのに必死だ。
「うわぁぁぁ…何このヤバい雰囲気?!
見た感じヤバいよ!
早く、沖が見えるまで進まないと!」
そう言った瞬間に、自分の目の前が急に暗くなり、振り返って見ると大きな高波が発生していた。
「うっそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。」
ザッバーン!と大きな音と同時に高波に飲まれた。
何の苦しみも無く、 高波に飲まれ、海の底へ引きずり込まれるように沈んでいくのを感じた。
いざ、こうなってしまうと呆気ない人生だったな。
まだ、やりたい事がいっぱいあったのに。
成人になれず、未成年のまま死んでいくのかぉ。
お酒飲んで、煙草吸って、ナイトクラブに行って女の子と遊んでみたかったなぁ。
この先、自分がやりたかった事を思いながら、死ぬ事を覚悟していた。
しかし、いざ、覚悟をすると「死」というものがとても怖く、目を閉じ、体を丸くしたかのように蹲り、早く終わってほしいと心から願った。
その時、目を閉じ、体を丸くしているのに隙間から光のようなものが発している事に感じた。
何かと思いゆっくりと目を開けた。
目の前には、小さな光の球体がユラユラと動きながら輝き、僕を見つめているかのようにその場に留まっていた。
(何だこれ?…なんでこんな海の中に光が?)
僕はそれを掴もうと手を伸ばしたが、なかなか掴む事が出来ず、やっとの思いで指先に触れると同時に光が爆発するかのように弾き、周囲の景色が光に包まれた。
その光はとても暖かく、さっきまで怖いという気持ちが無くなるのを感じ、逆に心が和らいでいくのを感じた。
(そうか、これが…死ぬという事なんだ…)
それを実感した事で僕は、何もせず、ありのままに全てを受け入れた。
(もし、神様に会えたら、次に生まれ変わる時は、また日本人として生まれ変わりたい。)
それが、誰にも伝える事が出来ない僕の最後の言葉であった。