プロローグ
いつもと変わらない朝。
俺こと菊山和喜は学校へと向かう支度をする。なにも変わらない日常。
だがこれでいい。
俺は何にでもなれる。
が、なりたいもの、やりたいこと等の欲をそそるものが無い。
後一年すれば受験生だ。だが、少々見通しが立つ大学をちょちょいと合格して終わりだろう。
頑張ってトップの大学目指そうとか思わない。
ただ生きていければこの世の理からは外されないのだから。
朝の6時50分。
後40分後には学校につき、読書をしている頃だろう。
そろそろ出発せねば。
俺は家の扉を開けた。
俺は菊山和喜。高校3年生。
受験シーズンだがいつもと変わらない生活。
第一志望の大学に受かる見通しは立っている。
だからこれ以上努力する必要は無い。
俺には生きていく中で目標なんて物は無いのだから…
3月。
大学にも受かった。
ある程度の人生の見通しは立った。
普通のサラリーマンになるというごく普通の人生の見通しである。
俺に目標などない。
生きていればこの世の理からは外されない。
そう信じている。
…ハズだった。
現在、俺は家にいる。家といってもマンションの一室である。
大学の始業式に向かおうとしたのだが何故か扉の奥は真っ白な雲海。
何度も扉を開け閉めした。顔も洗い直した。爪も切ってみた。
雲海である。
一面に広がる雲海。ずっと地平線(雲平線?)が広がっているだけである。
どしよ、これでは学校に行けない。
というか普通の生活すらままならない。
もう生きていればこの世の理からは外されないとか信じない。
自分で信じられる理を見つけるまで気が済まない。
俺は脳細胞をフル稼動させ打開策を考えた。
1時間経過。
とりあえずこの雲について調べ上げた。
・何故か上に乗れる。
・ふわふわしている。
・つまりはあまり分からなかった。
そして高度。息は苦しくならないから此処は低い場所で、謎の雲がある場所か、高いが空気があり、謎の雲がある場所と予想される。
それ以外だったらしらん。
この雲を掘れば地上に出れるかとも思ったが、落ちたら怖いのでやめた。
なので、ずっと歩いて周りを調査中。
マンションの扉が見える範囲を調査している。
謎の建築物を発見した。
二つの立派で真っ白な柱。その表面には美しい装飾が施されている。
その奥に広がる一直線の廊下。
何故か二つの柱の内側は真っ直ぐな廊下があるのだが、柱の外側から見るとただ雲海が広がっているだけだった。
ここは夢の中か、自分の知らない理がある場所なのかもしれない。
これ以外に扉が見える範囲から見える範囲に建築物は二つの柱以外に無かった。
ならこれに突っ込んで行く以外の策は無いはず。
10分ほど考えて、改めて一本道を進むことを決めた。
一本道を進むこと数時間。
この道の中は何故か明るかった。
道の壁は平べったい雲のようだったが、どこからか固い岩のような物になって行った。
道の壁が完璧に岩になり、少し表面がごつごつしてきて本物の洞窟みたいに暗くなってきた。
しかし、だんだんと明るみを取り戻して行った。
「出口だ!」
思わず叫んだ。思えば調査時間や歩いた時間こみこみち約4時間ぶりの地上だ。
出口が見える。
草が足元に生えている。
地面も土っぽくなってきた。
やっと出れる。
早く大学に連絡しないと、そう俺は思いながら洞窟へと変化した廊下を抜けた。
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「随分と慎重な男よのぉ」
180度ディスプレイに囲まれ、回転する椅子に座っている若い女性。
白衣姿に眼鏡をかけている理科が得意そうだとよく言われそうな容姿である。
通常ならばディスプレイに自分が管理する世界が映し出されるが、今は一つ一つを繋げた裏道が映っている。
彼女は自分が管理する世界のうちの一つにいた、ルールから外れてしまったある男を捕まえ、別のルールの世界へ誘導した。
彼女もそんなことはしたくはなかったが理なのでルールには敵わない。
気休め程度にだが身体能力の向上と、魔法適性と、固有魔法を一つあげたのですぐに死ぬことは無いだろう。
この世の理を知り、生きていけ。と、その女性は独り言を呟いた。