光よりも速く移動しているものについての考察
※いきなり、同著者が別に連載している作品物語の途中から始まります。ご注意ください。
※この短編作は、本編作品「―地球転星― 神の創りし新世界より」の中で既に投稿した内容であるサブタイトル「6.光よりも速いもの」のお話をエイプリルフール作品用として再度、短編作として転用し、そのままコピペしただけのものを一部の部文だけ省略して、微妙に加筆、修正を加えて再び投稿しただけものです。
ですので、冒頭からいきなり、連載作の途中より始まります。
“この惑星で会わなくてはならない誰かがいる”
半野木昇の最後の言葉で幕を閉じられた、
地球で最初に栄えた文明世界の大人たちとの、
夕食の場での会合の後、
章子たちオリルも含めた四人は、すでに入浴を済ませオリルの家族が用意してくれた麻色の寝間着に着替えて、屋根裏部屋にある来客用の寝室のベッドに集まっていた。
ベッドは屋根裏部屋に三台あり、すでに早いもの勝ちで誰がどこで寝るかは決定されている。
今集まっているのはドア近くにある、窓を挟んだ昇と真理の二つのベッドだった。
そこにトスンと昇の寝床台に昇と章子、オリルが座り。
対面の真理がとったベッドに真理その人が一人で腰かけている。
三人と真理は互いが互いと対峙していた。
これから真理を除いた三人はもう一つの疑問に挑もうとしていた。
魔法による固体発生のその原理と、真理学の全貌、そして真理が今まで暗示してきた数々の世界の謎について。
きっとそれら全てを理解、解決するにはこの一晩では、とても時間が足りないだろう。
それでも、これに挑められるチャンスはこの瞬間をおいて他にない様にも思われた。
だから真理も何の抵抗もなく章子たちと面と向かっているのだと思う。
彼女の目は嫌そうにしているというよりも、むしろこれからどんな反応を見せてくれるのか、
それを非常に愉しみにしているような気来さえ感じさせる。
章子はそんな真理の顔に、あまりいい予感はしなかったが、
そばには同じ立場の人間が二人もいるのでそれほど恐怖を感じることはなかった。
だから、むやみやたらに深く考えることもせず、目の前にいる真理の顔を見つめていた。
「さて、……これから残りの事案を話すのはいいのですが、
それはそれとして、
いいんですか?
この部屋は盗聴されていますよ?」
章子のそんな表情を知ってか知らずか、
真理は自分のペースそのままに、下の階のいかにも大人が待機して居そうな他の部屋があると見当される角度に視線を向け、さも中身が全て見えているかのように言う。
そして、確かにそれはその通りだった。
あの会談が昇の発言で半ば強制的に終わってしまった後、
固体発生の原理を解説する前に立ち去ろうとする真理を引き止める大人たちに、
その原理はとりあえず、まずはオリルに先に説明するという趣旨を残して、ここは一度解散したいという運びになった。
その条件として、真理から進んでその時の部屋の盗聴の可をリ・クァミス側へ提案したことは、大人たちにとっても、またと願ってもみなかった有利的な好条件だっただろう。
しかしそんな大人たちの下心を満たす喜興の感情とは裏腹に、
真理自身には、固体発生の技術をリ・クァミスへ伝授することについての抵抗感は、実は蚊ほども存在はしなかった。
むしろ何度も説明することの方がよほど非常に面倒くさいと考えている節がある。
ならばここで今一度、ゴウベンとしての容疑がかけられているオリルに事を伝えて、リ・クァミスへの情報の伝播の波及の仕方を見極めるのも、選択肢として有効なのではないかという悪だくみを考えているのが、
章子という主人の立場から見てもありありと分かった。
「そんなの、もうすでにみんな分かってるわよ。
だからアンタの知ってる事、考えてることを、いま洗いざらいここで全部吐きだしちゃえばスッキリするでしょ。
それで、いままでの事は全部チャラにしてあげる」
章子が両手を放り上げてそう言うと真理もくつくつと苦笑を漏らす。
「それは、それは。
実は、大変な気苦労をかけさせてしまうことになったと、わざわざ負い目を感じていたのに、
なかなかどうして、大きく出てきましたね。
章子。
それでこそ我が主に相応しい振る舞いです」
感極まったのか、真理は章子のセリフに感銘を受け、腕を組んでは頻りと顔で頷き続ける。
「そんなのいいから。
早く!」
「はいはい」
言われて促されると真理はそのまま直ぐに思案顔になった。
「では、何から始めましょうかね」
「何からって固体発生の仕組みからでしょ?
それを説明するんじゃないの?」
だが章子の問いに真理は首を振った。
「固体発生の仕組みを説明するにもしても順番がいるのですよ。
いきなり私から、こうですっ。
……と言われても茫然でしょう?
ですからまず、何から説明すればいいものか……、
とりあえずは、そうですね……。
リ・クァミスの原理論による原理学の常識中の常識である。
まずは「光よりも速いもの」の再確認からしてみましょうか……」
言って真理は自分の主に向く。
「咲川章子、
あなたはもう知っていますね。
この世界で光の速度よりも早く情報を伝える物の存在を。
ではそれを、ここで今一度、言ってみてください」
求められた章子もそれには少し自信気に応える。
「位置エネルギー、でしょ」
その今日の午前中につい知ったばかりの有り触れた物の答えを聞いて、真理は頷いて見せた。
「その通り。
位置エネルギーです。
これはオリルが住むリ・クァミスでも周知の事実でしょう。
この位置エネルギーは光よりも速く対象と対象を繋いで相互作用するエネルギーです。
その作用原理は前に教えましたね。
これは章子たち、七番目の人類でも地球外天体探査でよく使われている、スイングバイという宇宙航法によって比較的容易に分かりやすく説明することができる」
そう言って真理が身振り手振りでもう一度分かりやすいように説明していく。
そんな真理が説明する位置エネルギーの原理とは大まかにこうだ。
探査衛星を使っての地球外、太陽系内探査、系外探査が行われる時、
航行距離によっては、その宇宙航法の一部にスイングバイ航法が採用されることがある。
スイングバイ航法とは、
宇宙空間では頻繁に加減速、軌道変更を行えない単機による探査機が、太陽を公転する巨大惑星に接近し、その互いが出す重力エネルギー、位置エネルギーの引っ掛かりを使って、軌道方向を変え、速度も任意に増減させて目的の天体まで到達させるという、公転惑星から運動エネルギーを調達する航法である。
この航法をとった場合、人工衛星が増速すれば互いの重力によって繋がっている公転惑星の位置エネルギーは太陽に対して下がり公転距離が近づき、人工衛星が減速すれば惑星が持つ太陽に対しての位置エネルギーは上がり遠のく。
この時、探査機が惑星とのエネルギーの交換やり取りに互いの重力エネルギーをエネルギー伝達手段として使い、基点となる惑星と探査機のそれぞれの位置エネルギーと位置エネルギーを運動エネルギーに交換しているように見える。
だが、
実はそうではない。
ここで対象となる惑星を木星に置き換え、
探査機が木星に最も接近できる最大接近高度を「二百万キロメートル」と仮定してみると、
そのエネルギー交換速度に目を見張る誤差が発生するのがその証明である。
考えて見れば、
この条件下では、探査機は木星との距離が最大でも二百万キロしか近づけない。
その間も探査機は木星に接近しているがその自機速度は重力の伝播速度には遠く及ばない。
重力の伝達速度は、最速とされる光速とほぼ同じ毎秒約三十万キロメートルであると云われている。
しかしその重力の速度に置いてさえもまだ最大接近値で二百万キロという距離は片道七秒速に届かないほどの遅延が生まれてしまうのである。
この事実は、
理論上、木星に最大接近した時に、位置エネルギー同士を、互いの重力速度を媒体にしてエネルギー交換を行った時には、致命的な力量交換の速度遅延が発生するという問題として立ちはだかる。
しかし、
そうなるはずなのだが、
実際の現実ではそうなっていない。
二百万キロの差がある高々度から片道七秒弱もかかる互いの重力速度を使って位置エネルギーを交換するのであれば対象同士の往復距離からも単純に考えても、最小で最大接近高度に人工衛星が一秒存在するだけで毎秒13秒以上の交換速度遅延が起こって然るべきはずである。
それもただの片道だけのお互いの重力相互作用用途だけならいざ知らず、
互いの重力伝達速度を媒体にして、肝心の位置エネルギー同士を対象と対象の二物体間で交換するという複雑で精密な作用手段に使うにはあまりにも毎秒に必要なエネルギー交換速度が圧倒的に足りないのは火を見るよりも明瞭。
この交換速度遅延を例え軌道投入前から、計画者が事前に計算していたとしても、
それは最初から宇宙法則の根本として成り立たない。
最大接近値で1秒存在するごとに13秒の位置エネルギー交換速度遅延が発生するのなら、
すでにその時点で、位置エネルギー交換の速度が遅れたまま、
過去からの約七秒弱ほどの片道速度しか必要としない木星重力の力に捕らわれて先に落ちるか、
次第に遠ざかる木星本星からの重力作用の届きが徐々に弱くなり、その足りない重力作用を補う筈の推進力に必要不可欠となる位置エネルギー交換も間に合わないまま、
その状態で作用圏突破して外側に軌道が外れてしまうかの二択が結論として強制されるのが、
その所以である。
しかし、これの反論として、
互いの重力、いわゆる引力が、木星と探査機の互いから出されているのだから往復でも7秒速だろうという主張もあるかもしれない。
だが、それは互いの引力エネルギーの作用だけに限ればの話である。
位置エネルギーの交換速度にまで、そんな速さは成り立たない。
なぜなら、探査機の方が先に動きを見せて位置を動かさなければ木星の位置作用力も反応できないからである。
それはつまり、
探査機から位置の動きである「最初の1」という力の移動を先に示さないと、
木星からの位置の動きである1という力も返ってこないことを意味する。
光速度を超えた距離で、互いの位置を同時に動かせるわけはないのだから。
しかもその片方がどうしようもできない木星質量なら尚更に当然である。
それをただの引力線で繋いで、その線の上で、やり取りをするというなら、確実に13秒以上の速度遅延は絶対に起こらなければならない。
それが、「光より速いものはどこにも存在しない」と言い張っている、この現実世界であるならば、
尚更、それらは絶対に起こらなければならない現実作用なのである。
そしてその時の修正に必要となる推進力は、通常の加減速、軌道変更よりもはるかに激しいエネルギー消費が求められるのは必至。
この事からも分かるように、
やはり光速距離以上の位置エネルギー交換法は、本来であれば精密軌道にとって致命的な欠陥時間損失が生まれなければおかしいのである。
しかしそれが現実には起こっておらず。
かつ位置エネルギー量は光速度を超えて対象から対象へと交換されて、
スイングバイ航法は完全な物理現象として成り立っていることが既に技術的、現象的に実証されてしまっている。
ならばここで浮かび上がる事実は一つ。
「位置エネルギーは光速度を超えて対象と対象を繋ぎ慣性量を交換するという相互作用力を内包している」
という事実が浮かび上がるのである。
その言葉を、
真理は事前に地球の砂浜で章子に言って聞かせていたのだ。
「位置エネルギーは光速度よりも早く力量交換を可能とする。
すなわち位置エネルギーは「第五の相互作用エネルギー」であり光速度よりも速い。
章子には既に私自らが教えましたからもう知っていますが、
その伝達速度は、ほぼ毎秒速の距離が「全宇宙の半径」に等しい。
そしてこの作用はいわゆる、
銀河系の端から端までの自転速度問題までをも解決する。
つまり、暗黒物質の存在です。
暗黒物質は位置エネルギーだった。
天体と天体をつなぐね。
その作用力は天体と天体の数が多ければ多いほど、
そして、
距離が離れていれば離れている程、確実かつ引力以上に強力に固定作用と同期作用、要は絶対慣性力作用として力を発揮するエネルギーです。
逆に言えば近ければ近いほど無力ともいえる。
そこには質量という概念は必要ない。
いえ、
開いた距離が、空いた空間そのものが位置と位置との間に取り持つ慣性質量でありエネルギーであると言い換えることが出来る。
空いた空間が位置と位置との間にあればあるほど、それがその位置エネルギーの慣性質量量やエネルギー量と同じになるのです。
しかも、
あなた方の理論では、質量が実はエネルギーであったとしても何も問題ではないとも定義している。
となると暗黒物質は物質として存在していなくてもエネルギーとしてさえあれば成立する。
そう、位置エネルギーとしてであればね。
この説得力は銀河系にある天体全ての総和とその天体交差距離の全てと全ての長さを慣性質量換算にすれば、綺麗につり合いがとれるのです。
つまり銀河系内の天体一つに対して、銀河系内にある全ての天体との直線距離がその総力を持って揺るがない固定作用と同期作用を促しているという事です。
しかし、その全ての銀河系内で描かれた天体直線交差線を、
そのまま一つ覚えに現在の銀河系の天体の位置、及び暗黒物質の予想分布図とで照らし合わせてみても、
写実的意味合いでの照合率ではズレが発生するでしょう。
位置エネルギーが備える伝達速度とそれに比較される光速度では圧倒的に位置エネルギーの伝達速度の方が早いからです。
銀河系の直径を0.0無限大01秒もかからない速度で伝わる位置エネルギーと同じ距離で十万年もかかる光速度では、
その浮かび上がる現在の姿で、とてつもなく遥かな乖離が生まれるのですよ。
そんなものを照合したところで赤子と翁を比べるようなものです。
まったくもって参考にならない。
これで位置エネルギーは光速度よりも速いという理屈は並べられる。
すなわち、位置は光よりも重力よりも力が弱くかつ、速い。
これが、
オリルのリ・クァミスが誇る原理論による原理学の基礎です。
これがあなた方に説明した光よりも速いものについての一部……」
そこで一旦、息をつき、真理は話を区切り思考する。
「では次にするお話は……。
そうですね。
これにしましょう。
実は、
この世界には、「四つ目の熱伝達移動手段」が隠れて存在しているというお話です。
これも原理学ではやはり基礎中の基礎であり常識中の常識。
さあ章子、
あなたは学校の理科の授業で習ったことがありましたよね?
三つの熱伝達移動手段のことです。
ちょっとそれをここで言ってみてください」
真理の口調が段々と教え上手の教師の講義に近くなってきた。
こういう時の真理の恐ろしさを章子は肌身で知っている。
だから章子は授業で教わった、知っている知識を恐る恐る声に出して真理に向いた。
「伝導、対流、放射」
「エクセレント。
今この章子の言った、三つの熱伝達基本手段は分かりやいように、
「物質の四態」の内の三つに大まかに対応しているのは周知の事実です。
つまり、固体、液体、気体です。
まあ、そうは言っても気体だって対流はするし、液体も放射しようと思えば放射できる。
しかし、ここではおおまかに分けます。
では続けましょう。
三つの熱伝達手段がそれぞれの物体形態相に対応しているとするならば、一つだけ足りない物が出てくる。
そう四番目の物質形態相、俗にプラズマと呼ばれる形態。
煉体です。
この主に物質が炎などの形態として存在している煉体が、
物質の四番目の形態、形相として現実にあるという事実は、
熱移動手段に置いても、更に四つ目の熱伝達手段が隠れてこの現実世界には存在していることを教唆する。
ではそれは何か?
章子もすでにその熱伝達手段現象は目にしていますよ。
分かりますか?」
真理の清々しいほどの見え透いた問いに、だが章子は首を振るしかなかった。
この答えを章子は聞かされていない。
今ここで初めて知る問いかけだ。
そんなものがごく一般の女子中学生に、こんな短時間で分かるはずもない。
だから章子は分からないと首を振り続けた。
それを見とめて、真理も肩でため息を吐く。
「仕方ありませんね。
これについてオワシマス・オリルはもう既に、その答えの正答を持っていますので、
半野木昇。
その前にあなたにも一度、
答えて頂きましょう。
どうです?
わかりますか?」
真理が言うと昇は遠慮がちに一言を呟いた。
「……熱転移」
その言葉を耳にして章子は大きく目を丸くする。
考えて見ればそうだ。
その通りだ。
エネルギー相転移機動。
その超常的移動手段。
「……その通りです。
まったくもって、
もはやさすがなんて言葉も言い飽きちゃいますよね。
まあ、それはいい。
ここは昇の答えた通り、
そう、
熱転移が正解となります。
纏めて言いましょう。
熱伝導、から、
熱対流、
熱放射、そして、
熱転移。
現実世界には、実はこの四つの熱力伝達手段が存在するのです。
だからエネルギー相転移機動などというワープ転移染みた超光速移動手段も実現できる。
では熱転移とは、そんな超常的な人工的による科学技術手段を用いないと目にすることは出来ないのか?
そう思いますよね?
少なくとも自然界では見た試しが無い筈です。
しかし、この熱転移という人為科学的に見える現象も、実は自然環境下で発生し続けて居る場所があるのです。
それは今度は私から答えましょうか。
それともオワシマス・オリル、
あなたが答えて見ますか?」
真理が合いの手を入れると、
今まで居住まいの落ち着く場所がなかったオリルが、まだ水気の乾かない髪を手で耳にかけ直して言う。
「それは太陽のコロナが該当すると思います。
それが熱転移の主な発生場所」
「ご明察です。
あの皆既日食の時などに見られる月に隠れた太陽から洩れ出ている白い光、
コロナ。
あの発生原理は実は熱転移によるものなのですよ。
太陽内部の約数百万度を超える熱量があらゆる超高圧力によって熱転移を起こしその位相速度そのままに太陽表面の約六千度という比較的低温層を無作用そのままに通り抜けて一番外側のコロナ層で爆発的に熱転移が解けてまた一百数十万度まで急激に上昇していく。
自然界ではだいたい「四態の物体形態相の変化、つまり相転移」以外に熱転移というものはそうそう目に見えて起こるものではないので、実際の現実における主な発生場所はそこら辺りに限られますね。
あ、間違っても確認する為に肉眼で太陽を直視しないで下さいよ。
失明する危険性がありますから。
これは可愛い不思議美少女との約束です」
その誰に向かって言っているのか分からない内緒話をする真理の所作を章子はげんなりと見つめる。
ときどき真理はこういう誰に対して言っているのか分からない行動をとることがある。
まるでこれが小説か漫画の出来事で、どこかに配置されたカメラ目線にその読者が隠れているかの様な視線だ。
そんな者は何処にもいるはずがないのに、真理はまたこうやってうっふんポーズをこれ見よがしにわざとらしく取っている。
「さて、冗談もほどほどにしてそろそろ本題に入りましょうか。
駒は揃いつつある。
今度はオワシマス・オリルたち、
リ・クァミスの文明が使う物質、物体を発生させる超科学技術法、魔法についてです。
この「魔法」の発動原理はすでに伝えてありますね?
ちょっとまた言ってみてください」
「ビッグバン」
「暗黒エネルギー」
「第四の火」
「そうです。
第四の火であり暗黒エネルギーでありビッグバンでもある。
この宇宙で、最初で最後の法則反応炎。
これの発生原理は非常に簡単です。
その場にある全てが一つになった位置エネルギーの発生点と発生点を結合させる。
これによってビッグバンが起こる。
やってみましょう。
私の物質を発生させるという意思に備わる位置エネルギーがその場にあるまだ存在していないエネルギー位置と触れて合わさり重なって一つになる」
その言葉と共に、真理がかすかに挙げている手の平の空中点から、
栓を開けた出口を迸るように弱い炎が灯り出現し、次第に煉体の光源の規模を大きくさせていく。
「これが魔法の原理です。
位置エネルギーと位置エネルギーの結合という現象とは、別にそこに定めた位置にある点と点の二点さえがあればいい。
この位置点に存在しなければならない点の形は問われません。
意思点でも存在点でもなんでもいい。
そこに位置さえあればね。
ただし結局、その作用点には現実発現点に必要な規模出力と同規模の作用位置量が要求される。
これは当然の事です。
だから、他の数多にある基本原理、高度応用原理も理解していない、
ただの第七の人間が気持ちを込めただけでは、発生させる為に必要な位置量が足りず、第一の魔法は発動しないのです。
これを体得するには最低でも原理学の半分は理解している必要がある。
そして、あと残りの内、四割四分の原理を理解すれば固体以外の物体相の発生は比較的容易になります。
しかし、それでもまだ固体物体相を発生させるには力が及ばない。
いえ、速度が届かないのです。
ここからが、
今のオリルやリ・クァミスの原理学でもまだ到達していない「最後の原理論」のお話になります。
この話が終わった時、あなた方は原理の終わりを過ぎて、純理を目の前にして、
そして真理学の領域に足を踏み入れる。
その覚悟をしっかりと持っていてください。
でないと自我という現在を保てなくなります。
軽さに惹きずられる危険性がある。
この言葉の意味も純理学を把握すればすぐに分かる。
では始めます。
先程、光より速いものは位置エネルギーだと言いました。
しかし、この世界の中では、その全宇宙の半径を一秒で伝わり進むことができるとされる位置エネルギーよりも、
もっと早く情報を伝達するものがあるのです」
「え? ……あ……、」
「うん」
真理の突然の発言に章子は声を上げたあと、すぐにそれを思い出し、
オリルも覚悟をしていたように膝の上で握りをつくり頷いた。
そして、真理はそれを見とめて先を続ける。
「その位置エネルギーよりも速いとされるものは、
たったの一秒間で「この全宇宙の直径距離」を掌握します」
「は?」
「っ……ぅ」
「そしてその位置エネルギーよりも速いものをここに今現在、
私以外で知っている者が一人だけいる。
それが何を隠そう……」
そう言って真理は、章子の隣で床に目を落としている昇を見る。
「あなたです。
半野木昇。
ここで言ってみてください。
私が許可します。
それを今、すぐに」
真理が促すと、
昇も重い目線をゆっくりと上げて真理に向き直った。
「……事……」
「はぁ?」
「だから、「事」なんだよ。
咲川さん。
多分そうだ。
「出来事」の「事」だ。
それで間違ってない」
そう言って、昇は今もまだ信じられないとばかりに額を手で押さえる。
章子もオリルもそんな昇の様子を見て、何を言ってるのかが理解できない。
その意味不明な言葉の真意の説明を願い出るため、章子とオリルは同時に目の前の真理を見た。
「一体どういう事なの?」
章子が言うと真理も答える。
「どういう事もこういう事も、それが全てなのですよ。
位置エネルギーよりも速いものは「事」であるのです。
それが絶対の正答にして純理の一端であり原理学の最期でもある。
ではそれがなぜなのかを、今から説明しましょう。
章子には前に言いましたね?
魔法の原理、
ビッグバンは「第四の火」であると。
ではここでこれら四つの火をおさらいしてみましょう。
第一の火は酸素などの「化学反応炎」
第二の火は電気という「電導反応炎」
第三の火は原子核による「原子核反応炎」
と呼ぶことが出来る。
ならば「第四の火」とはいったい何の反応炎であるのか?
オワシマス・オリル、
あなたの世界では、これを何と呼んでいますか?」
「……同一位置位反応炎……」
その搾りだしたオリルのか細い答えに、だが、真理は首を振った。
「そうです。
あなた方はそう言う。
位置エネルギーの反応だと。
しかし、それは違うのです。
第四の火、
ビッグバンは、
正確には位置と位置の融合によって起こるのではないのですよ。
ビッグバンとは、既にそこにある存在の位置から発動するものなのではない。
ビッグバンはまだそこに存在していない位置から発生するものなのです。
これを理解するには、過去に起こったとされるビッグバンというものを正しく理解する必要がある。
ならば、ビッグバンの説明から始めましょう。
章子、
私はかつて、地球にいた頃にあなたに言いましたね?
ビッグバンは過去に二百二回、すでにこの宇宙で起こっていると」
「え?」
これに盛大に驚いたのはオリルだ。
それだけではない。
章子たちの下の階でも、
突然、複数の人数が立ち上がったかのようなガタリという物音が聴こえてくる。
「ビッグバンが……?」
「そうです。
二百二回です。
それが今までに起こっている。
今からその根拠を述べますので、皆さん落ち着いてよく聞いて下さい。
ビッグバンは
この現在の時代までに、
最初の宇宙が誕生した回分も含めて合計約二百二回起こりました。
ではなぜそんな数字が弾き出されるのか。
根拠は二つあります。
まず、一つ目。
それは現在の我々の現実世界での、絶対零度が摂氏でマイナス273.15度を示すこと。
そして、もう一つが、現在の「元素数の数」です。
その数、主に発見されたとされるものまで合わせれば、その総数、全118元素種。
この事実が、それまでのビッグバンが二百二回も起きたものだったという事実を如実に物語るのですよ。
それではまず絶対零度から解説していきます。
突然ですがオワシマス・オリル。
あなたの時代、リ・クァミスの時代の絶対零度を摂氏で教えてもらっていいですか?」
「……マイナス272.89度」
「ありがとうございます。
そう。
リ・クァミスの時代。
今から26億年前の時代では絶対零度はマイナス272.89度だった。
これはつまり一億年でマイナス0.01度、絶対零度の最底値が増えていることを物語っているのです。
すなわち、宇宙の絶対温度の零度値は今、この時も、
現在進行形で、小数点以下の最もの最下限で下がり続けていることを意味している。
絶対零度とはこの現実世界で最も温度を下げられることのできる限界の数値だとされていますが、
実は今も宇宙は冷えつづけており、絶対零度の摂氏値がマイナス値で増え続けている事実をここに浮かび上がらせるのです。
また、
この事実は同時に、
絶対温度値も、現在進行形で同時に下がり続けており、
宇宙の現在よりずっと先には、もっと冷えている場所があることをさらに示唆している。
これで章子たちの時代である、
この現代世界における『熱力学の第三法則』は破られる。
次は元素数です。
章子たちは理科の教科書で見たことがありますよね?
教科書の最初か最後の見開きにある元素の周期表の事です。
"スイへーリーベボクノフネ"
あなた方現代人の両親や祖父母がそうやって覚えた元素原子番号記号の順番です。
あの表の形を覚えていますか?
左端の原子番号第一番である水素から始まり、
次の二番目の元素が、一気に表の右の端まで飛んで第二元素である原子番号二番のヘリウムとして出現し、
そこから大体、上五段くらいまでが奇妙な空きを作って表わされる、
あの元素の周期表の事です。
あれを見た時、妙な形をしてるなぁとか思いませんでしたか?
なぜ最初の方の元素の段が、大きな空間を開けて離れて現われるのか不思議に思ったことは?
……実はあれね……。
消えたんですよ。
それまであった元素と元素の位置が消えた跡なんです。
ビッグバンが一回繰り返されるごとに……一つずつ消えていったね」
その唐突の発言を聞き。
今度こそ、章子もオリルも声も上げれなかった。
もはや何と言ってしまえばいいのかが分からない。
それでも真理は
「昔話をしましょう」
と無機的に先を続ける。
「最初に宇宙を開始しようとするビッグバンのその直前。
その直前に用意された元素は、全部の種類を合わせて綺麗に320個ありました。
周期は第10周期までしっかりとあり、元素族は全32族まで整然とあったのです。
それら全てを合わせて320種。
元素コレクターという者がこれを見れば間違いなく卒倒するでしょう。
しかし、
それが過去、ビッグバンが繰り返されるたびに一つずつ減っていった。
まず最初のビッグバンで、本来用意されていた筈の水素の次にあった、今は無き本来の原子番号二番である元素とその元素のいた位置が真っ先に消えてしまいます。
そしてまた次のビッグバンで、さらに次の元素とその元素の位置も消えていく。
そうやってどんどんと元素と元素の位置の絶対数が消えていったのです。
そうして202回目が終わった現在世界の宇宙で生き残ったのが118個の元素。
残った周期は7。残された元素族が18。
それが過酷な現在の宇宙の中で今もまだ生き残ることに成功している、合計118個に及ぶ元素たちなのです。
そして、
その物質たちだけを使って、現在の我々は形作られている。
では、過去にあった元素が消えたというのなら、
この現在の宇宙を始めたビッグバンの前にあったという、前回の宇宙にはあったはずの元素とは一体なんなのか。
私たちは別に過去にあっただろう元素に名前はつけていないので、
その元素の名を言うことはもはや叶いません。
しかしそれがあった場所の予測ならできる。
それが、
現在の第二元素族と第三元素族の間にあった、
幻の第三族、そして現在の第5周期の列の位置にある現在の原子番号38番ストロンチウムと現原子番号39番イットリウムの間にあった場所。
そここそが、幻であり、
かつ今は無き遥か太去の元素物が存在していた場所とその位置です。
そして、
この事実は次のビッグバンで消える運命にある、現在存在している元素と元素の位置をも予測することを可能とさせる。
では、その、
次のビッグバンで存在が完全に消えてしまう宿命にある哀しき元素とその位置とは、
現原子番号21番のスカンジウムのことです。
そしてその次に起こる、現在から二回目のビッグバンで現原子番号39番の元素、イットリウムとその位置も消える。
これでその時の時間軸にあるビッグバン界での元素周期表の中では、現在の第三族の元素族一列の縦の欄の位置がランタノイド、アクチノイドの横列を覗いてキレイさっぱり周期表から抹消される。
そして、
現在の原子番号72番のハフニウムと原子番号104番のラザホージウムが現在の遷移金属という分類からそれぞハフニウムがランタノイド、ラザホージウムがアクチノイドという元素分類に性質転移してしまう。
こうして次々に元素とその元素でいられる位置が消えていくのです。
だから、
現在の場所よりその遥か未来にある、二回目のビッグバンの後の世界で生きている者が、
そこの位置の狭間にあったかつての元素に気付くことはほぼ限りなく0に近いのは言うまでもないでしょう。
そんな痕跡はその周期表の歪さにしか現れないのですから。
これから分かるように、
元素の周期表は過去のビッグバンの回数を如実に表しているのですよ。
ではなぜ、
ビッグバンが繰り返されるごとに元素の種類とその位置である絶対数は減るのか?
その答えはただ一つ。
この宇宙界での全体の常態温度の質が、ビッグバンの前と後の宇宙とで決定的に違うからです。
なぜ決定的に違うと言えるのか?
それは繰り下がるからです。
繰り下がるのですよ。
なぜなら、
前回のビッグバン界では最も最下限値であった絶対限界最低温度点『絶対零度』が、
次の宇宙界では、
水と呼ぶべき物質の融点温度となる基準標準温度点となる摂氏プラスマイナス0度にとって変わるのですから。
だから全ての元素は、
そのビッグバンの前にあった宇宙界より冷低に重くなったこの界での宇宙温度では、絶対数の中から不安定なものより徐々に一つずつ消えていかなければならず。
かつビッグバンの起こった回数ごとに重くなった宇宙用に、全体の元素性質も一斉に変化させられてしまうのです。
それはつまり、
常態温度の中に存在できる元素種の絶対数の場も同時に、
重い低温の為に、そこに空いた空間があったとしても、とても重くて使えなくなってしまうことを意味する。
すなわち、
場が狭くなり、どれか一つは確実に存在できなくなるということです。
前回の絶対零度の最低基準温度が、今度は標準となってしまう「今回の重い宇宙」ではね。
これは海水温が高くないと生きていけない魚が、低い海水温度の海では水が冷たくて重いために生きていけないのと同じ原理といっていい。
逆に言えば、
現在のこの世界での水の融点温度「摂氏プラスマイナス零度」は、
先のビッグバンの過去にあったであろう前回の宇宙界では、
絶対零度としてあったと言い換えることも出来るのです。
だから元素とその元素が存在できた位置は、
この今回の重くなった宇宙空間場では耐えきれず、一つずつ減って消え去っていくしかない」
言い終わって
真理は優しく三人を見た。
「宇宙とその宇宙空間は、
ビッグバンを繰り返すごとに冷えて重くなっていっている。
これが紛れも無い純理なのです。
では、なぜビッグバンは繰り返し起こり、
ビッグバンが繰り返し起こる度に温度は下がり重くなっていくのか……。
それを説明する前に、このビッグバンの正式反応炎の名称をいいましょう。
このビッグバン、
「第四の火」はその原理から、
事象反応炎と呼ばれます。
その事象反応の燃料たる。
「事」は「位置」を土台として、通常なら起こるものですが、
このビッグバンの時に置いてはその限りではない。
その時ばかりは、
「事」は「位置」の土台として起こってしまうのです。
そしてその、
位置エネルギーの速度を超えた「事」の速度こそが、
ここにきてようやくやっと、固体発生を可能とするレベルにまで我々を到達させてくれるのですよ。
今までリ・クァミスが固体発生を出来なかったのは位置エネルギーの点ばかりに目がいって、
固体発生に必要不可欠である物体存在の構成維持速度を、絶対要求領域まで瞬時に広げられなかったことにその原因が挙げられます。
それもそのはず、
位置エネルギーはただの点、一点にしか存在しないに過ぎません。
だから、
それをそのまま体積容量領域にまで押し広げることには土台無理があるのです。
ならばどうするか?
それは位置の速度以上に点と点を結ぶ「事」をという速度を使うしかない。
つまり、こうです」
言うと真理は自分の手の平の空中で、一瞬で真円の小石を作りだしてそれを受け止める。
「これが「事」を認識することによって、初めて成功する固体発生です。
点からの気体や液体や煉体の発生だけでは無くて、
固体が幅広く「位置エネルギーで仕切る体積空間」まで一瞬で把握して見せる超次瞬速手段。
この現象が、
『物質は光の速度は超えられないが、物体は光速度の直径距離よりも巨大な「恒星」として存在することができる理由』でもあるのです。
ただし、
これを綺麗に実行するには少しだけ慣れも必要です。
そして、
また、
今のオリルでもこの知識を知ったからといって直ぐには固体発生技術には届かない。
なぜならオリルはまだ原理学の全てを知ったわけではない。
固体発生は、常に原理学の終わりにあり、また真理学の入り口にも同時にあるからです。
これからそのお話をしましょう。
ではあなた方、三人に今一度、問題を出します。
なに、そんなに警戒しなくても、とても簡単な問題ですよ。
小学生でも分かる問題です。
では行きます。
答えてください。
Q.あなた方の知る、円周率の数値は何ですか?」
ここに来て、見せられる。
真理の裏表の無い笑顔がもはや信用に足るものでは無いことは、章子にもオリルにも分かっている。
だから、章子もオリルも単純な問題だとは思っても、警戒を怠るような事はしなかった。
そして、それはまたもや、やはり間違いではなかったことを二人は後で思い知ることになるのだ。
だが、そんな未来の事など知る由もなく、二人の少女。
章子とオリルは自分たちの知っている数字をそれぞれに言う。
「3.14」
「3.14」
そして最後に言う半野木昇の答え……。
「11.11」
「え」
「え」
「……。」
やはり驚いた二人の少女と既に予期していた一人の少女が、たった一人の少年を見た。
だが、少年はやはり目を逸らして床を見ている。
そして無表情のまま昇を見据える真理は、自らが持つ答えを言った。
「三人とも正解です。
……それがこの世界の全ての答えなのです」
あらすじにもあります通り、再度、申し上げますが、
この短編作品は、同著者のとある本編作品の中で過去に投稿した話の内容の一部を短編作として再び抜粋し、一部に加筆、微修正したエイプリルフール専用の作品です。
つまり、この短編作中の全ての文の記述表現はエイプリルフール的な意味でしかございません。
したがって、この物語中に記述されている全ての内容の全ても完全にそれに同義です。
それ以上では決してありませんが、それ「以下」ではもしかしなくてもあると思います。