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プロローグ

あれは10歳の時だった。


兼ねてから熱望していた王立魔法学校入学を懸けた最後の一枠を二人で争うことになったときだ。

この王立魔法学園は世界でも最先端の魔法の研究、綿密且つ繊細な教育プログラム、おまけに将来は第一級魔導師の座が約束されるなど全世界の魔導師にとって喉から手が出るほど欲しい環境だった。もちろん俺もそこの入学を望んでいた。


村の同年代の中でもずば抜けて魔法の扱いが上手かった俺は意気揚々とその試験に望んだ。


相手は恐らく同じ年であろう美少女。年相応とは思えない凛々しい顔立ち、透き通った鼻筋、何よりも吸い込まれそうな艶のあるさらさらの長い黒髪を持ち合わせていた。

こんな子を蹴落として入学しようなんて心が痛んだが、かつてからの念願である魔法学校の入学を懸けた戦い、心を鬼にして望まなければ、と当時の俺は思った。


勝負の方法は単純だ。自分の最も得意な魔法を披露し、どちらが魔法学校に相応しいものか決めるというものだ。審判は公平を期すために魔法学校の教員5名がそれぞれどちらが凄いかを決め、多かった方を入学させるという方式だった。


先ずは俺が魔法を放つ番だった。俺がこの時のために放つ魔法は兼ねてから決めていた。


「火球よ汝が敵を貫け『ファイヤーボール』!」


この魔法は村の中でもずば抜けて凄かった俺の最も得意な魔法で、同じファイヤーボールなら大人にも負けたことは無かった。


「おお!火のないところでこのレベルのファイヤーボールを発動できるなんて!信じられん」


魔法学校の教員達も感嘆の声を漏らしていて、この勝負貰ったと確信した。

次は少女の番だった。


少女が前方に手をかざした途端、青白い炎が彼女の前方に大きく広がった。

すると教員達は俺の時よりもはっきりとしたリアクションを示した。


「あれは、まさか超級魔法のドラゴンブレスでは!?いやはや、この年で超級魔法が使えるとは前代未聞だぞ!」


この世界の魔法は初級、中級、上級に別れているのだが、そのもっと上に超級魔法というそれこそ使えれば賢者クラスの魔法が存在する。

因みにファイヤーボールは初級魔法だ。


「しかもあの炎!青いということは通常の火に比べとても熱いということ、私は初めて見たぞ!」


因みに、俺のファイヤーボールは赤い炎だった。


「その前に、あの魔法は超級にも関わらず詠唱がなかったぞ!それなのにあのコントロールとは驚きだ!」


魔法は、詠唱を伴うことによって精密さが増す。因みに俺は詠唱していた。


勝負の結果?5対0で敗北したよ、当たり前だろ。


そんな訳で勝負が終わった後俺はその少女の下に近寄っていった。ここで入学は断念したとしても、彼女とお近づきになれば収穫は大いにあったからだ。


「君の魔法、凄かったね!突然だけど、良ければ僕と友達になってくれない?この魔法学校の座を争った同士としてさ」


急に話しかけたのが不自然にならないように、出来るだけ爽やかに彼女に話しかけた。


「あっそう、お構い無く。私、あの人を越える他に興味ないから、じゃあ」


彼女は前代未聞の塩対応を見せ、踵を返し、学園内部へと入っていった。

当時純情だった俺はその場で立ち尽くし、2時間後断られたと気づいてから3日間自室に引きこもって枕を涙で濡らした。


その後3年間ワンランク下の魔法学校で彼女に追い付くべく死に物狂いで修練を積んだのだが、3年目で超級魔法を習得した辺りから彼女に追い付くのは不可能であると思い始め、結局魔法学校を中退、いわば挫折した。


そんな彼女の名はローズ・ラインハルト。大貴族ラインハルト家の次女で、現在は若き大賢者として称えられている。



▽▽▽



あれは15歳の時だった。


かつての夢を振り切った俺が次に目指したのは王都でも名高い騎士団への入団だ。

この騎士団は王様直属の部隊であり、その騎士団が為してきたいくつもの偉業から全世界の子供達の憧れの的だった。


そんな騎士団への入団試験、最後に残った二人の内、優秀な方を採用するというところまでに上り詰めた。

判断の基準は組み手、騎士団に不可欠である、体術100%の戦いだった。


魔術師を諦めた俺は正反対の事をやろうと思い、2年間1日も欠かすことなく体を鍛え続けた結果、誰にも負けない鋼の肉体を作り上げたつもりだった。勿論体術についても研究に研究を重ねた。


そんな騎士団への入団を懸けた記念すべき相手はまたしても同年代と思われる美少女、ショートのブロンド、憎きローズとは対照的に可愛らしい顔立ち、艶やかな唇、そして何よりも目を引くのは彼女の頭部から生えた大きな耳と臀部から生えた尻尾、彼女は半獣人だったのだ。


騎士団の方から聞いた話では、通常はもっと年上の入団希望者しか残らないらしく、この組み合わせというのは珍しいらしい。


そんなことはともかく、嘗ては相手が美少女だったから気が引けたが二度目はそうはいかないと思い全力を尽くそうと誓った。


そして戦いの火蓋が切って落とされた。


まず踏み出したのは俺、ここまで残ったと言えども女子、単純な腕力差では勝てないだろうと踏み、寝技に持ち込もうと彼女の襟に掴みかかろうとした。美少女に寝技をかけようとか狙ってるだろという意見もあるが、当時の俺にやましい気持ちはなかった。……ちょっとしかなかった。


しかし彼女は手を伸ばした俺の手を赤子の手を捻るかのように軽く払い除け、逆に此方の襟を掴んだ。

その瞬間、俺の体は宙を舞った、文字通りに。

彼女に投げられたと気づいたのは地面に叩きつけられてから3秒後のことだった。後で観戦していた騎士団の方に話を聞くと、それはそれは見事な一本背負いだったらしい。

そのまま俺の意識は暗黒へと沈んだ。


目を覚ましたのは騎士団の医務室でだった。

枕元には俺を投げた少女がいて、目を覚ました俺の顔を覗き込んでいた。


「にゃはは、ごめんね。あの人との約束だったからついついやり過ぎちゃった」


彼女は可愛らしくはにかんでいた。

これまた後で聞いた話では、投げられて気を失った俺は鼻水垂らして白目を向いて、とても騎士団には向かない姿だったと腹がよじれるほど笑い転げられたらしい。


「どうして、そんなに強いんだよ。何で俺は敗けたんだよ」


あまりにも悔しかった俺は、自然とその疑問を口にしていた。


「えーと、目標に向かって必死に頑張ってきたからかな?あたし、こう見えて頑張ったんだよ」


俺だって2年間頑張って鍛えた。

それでも越えられない壁があることにその後2年間鍛え続けた辺りで気づかされた。

やはりこの世は才能がものを言わす世界なのだと。


俺を踏み台にして騎士団に入団した彼女の名はコスモス・ジェネル。その後1年で騎士団の団長までに成り上がり、今や全世界の獣人、全世界の子供達の憧れの的になっている彼女の名を知らぬものはいない。



▽▽▽



あれは18歳のことだった。


騎士団の道を諦めた俺は他に目指す道はないのかと色々試行錯誤した結果、何と精霊使いの才能があることが発覚した。


精霊使いは各地の神官、神父など自然界の神秘的な現象を意図的に起こすことが出来る才能であり、傷の治癒、体力の一時的強化など様々なことが出来る。


世界に精霊使いの才能を持つものはそう多くなく、狭き門である代わりにその待遇はかなり良いものであると言われている。


何よりその中でも神官という職業は未来を約束された職業であると聞き、それを目指すことにした。


そうして大聖堂に向かったのだが、この時に神官を志望するものが俺を含め二人いた。

神官というのは世俗と離れて働くという職業の性質上洗礼の儀式が必要になるのだが大聖堂にはそれを行うための道具が1つしかなかった。

そのため、どちらが神官になるべきか決めなければならず、もし期を逃してしまえば二度と神官にはなれないということだった。


その決め方は、水晶に手をかざしその精霊力が高い方が神官になれるということだった。

どうやら似たような経験を二度したことあるような気がしたが、三度目の正直という言葉もあるため、その試験に挑む事にした。


そしてその相手が来た。かつて2回と同様に美少女であるが、過去2回とは性質が異なり優しい笑みを浮かべ大いなる母性で世の男達を包み込んでくれそうなオーラを身に纏っていた、後すんごい巨乳。


まず俺が水晶に手をかざすと、水晶の中が光で溢れた。どうやらこの光の量で精霊力を測るようだ。


続いて、その少女が手をかざした。

水晶は一瞬眩しい光を全方位に飛ばした後、粉々に砕け散ってしまった。


「何!?この水晶ではやはり彼女の精霊力は測り知れないということか」


彼女の精霊力が水晶の許容量を大幅に越えたことから、粉々に砕け散ってしまったらしい。あと、彼女は元々聖堂の関係者のようだった。


そのすぐ直後、彼女はすたすたとこちらに近づいてきて、俺に話しかけた。


「すみません、もしや貴方様にご兄弟の方などいらっしゃいますか?」

「え、突然どうしたんですか、いやまあ、俺は一人っ子ですけど」

「そうですか、それは残念です」


返事を聞くと彼女はまたすたすたとこの場を去っていった。

そして俺は神官になれる機会を失った。

このタイミングで、二度あることは三度あるということばを思い出した。


その後精霊力について研究したが神官になれることはなく、今に至る。


彼女の名はガーベラ・サンクチュアリ、今は聖女と呼ばれ、起こした奇跡は数知れないことから世界中の人々に崇め奉られている。



▽▽▽



以上がこの俺、サニー・シャベルの生涯の挫折歴である。

完全に心が折れてしまった俺は現在、しがない冒険者として毎日ギリギリの生活を送っている。

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