いつの間にかレベルアップ
結婚というと、前世でも縁がなかった。
前世の私は引っ込み思案じゃなかったのだけど、モテないのと仕事に必死すぎるのとで、友達との交流すら間遠になってしまう有様で。
今世も、たぶん結婚は無理そうな気がしてならない。
団長様のペット云々のことだけじゃない。魔女の一件を解決しない限り、無理じゃないだろうか?
だけど団長様やメイア嬢みたいな、コミュ障でもなく容姿も美しい人達がどうにもならないのは、やっぱりもったいないなと思う。
親戚の、世話焼きおばさんなったみたいな意見だけども。
「まぁでも仕方ないよね。アレが全て終わった時に……自分が生きてても国が焦土になってたら問題外だし。その可能性があるのに、どうこうなんてしてられないものね」
精いっぱい、ゲームみたいなエンドにならないようにはがんばるけれど。保証はできないもんなぁ。
なんて考えながらクッキーを作っていた私は、オーブンの中に生地を入れたところで、自分のステータスを確認する。
ここ数日バタバタしていたけれど、魔物を倒したり、お茶を淹れたりしていたわけで。それなりにスキルも上昇しているはず。
「あ、HPちょっと上がった。攻撃力とかも、スズメの涙だけどあがって嬉しい……」
とちょっとずつ変わった数字を見て行ったんだけど。
「ひっ……!」
途中で叫びそうになって慌てて自分の口を塞いだ。
ヤバイ。大声を出したら、さすがに今は誰もいないっていうのに、駆け付けられてしまう。とても平静に対応できる気がしないのに、人に来られちゃ困るのだ。
すーはーと一度深呼吸して、もう一度自分のステータスを見る。
ユラ・セーヴェル/紅茶師
生命力(HP)/魔力(MP)……700/100000
攻撃力………5 魔法攻撃力………… 600
筋力…………5 魔法スキル練度…… 700
速さ…………8 剣技スキル練度…… 0
物理防御……5 魔法適性…………10000
魔法防御……500 精霊適性…………10000
取得能力
紅茶師……スキルレベル13
※技が追加されました
魔女 ……スキルレベル15
※技が追加されました
「技が追加って」
何、何が増えたの!? しかも紅茶師はまだしも魔女の技ってなに!
まずは心に優しそうな、紅茶師の技から確認してみた。
チャンネル:C・D・E・F・G
「増えすぎ!?」
この間までチャンネルGだけだったのに、なんか一杯増えてるよ! てかこれ、紅茶師の技なんだね……。
でも増えた理由が全くわからない。レベルに従っての上昇にしてはなんかおかしい。
でも誰にも聞けないので、仕方なく魔女の方の技を確認することにした。
ぺいっと詳細を表示させてみると。
《精霊操作LV1》《精霊召喚LV5》
《冥界の知識》《魔力操作》
それを見て「あああああああ」と呻く。
きっとダンジョンで冥界の精霊を操ったからだ! 召喚って、その前にクッキーを食べさせたりしたせいで技として発生したの?
ちなみに《精霊操作LV1》は、《魔力を与えた精霊を操ることができる》となっているので、紅茶を与えないと使えない模様。いや、もしかすると直接魔力を与えられるのかもしれないけれど。
《精霊召喚LV5》は必須アイテムに精霊のおやつと書かれている。クッキー必須の技らしい。
《冥界の知識》とやらは《冥界の魔力を操作するために必要な知識》と書かれている。
「これ、もしかして……」
魔物が即復活する魔術を解いたのは、冥界の精霊自身だ。だからそのせいではないだろう。とすると、思い当たるのは一つ。
ダンジョンにあった変な石、触ったせい?
丸い石のことを思い出す。持ったら消えてしまったけど、もしかしてあれのせいじゃないだろうか。
《魔力操作》については、レベルが足りないと出る。じゃあなんで技習得してるの。
「……まぁ、仕方ない」
なってしまったのは、もう取り返しがつかない。
「むしろ、ね」
今後もクエストに異変があったりしたら、私は駆け付けてしまうだろう。その時に戦えたり出来る方がいいだろう。
あと、魔女に関わるクエストに行くと、自然と強化されていくので止めようもないし……。
そして一つ考えることがある。魔女として強い力を持った方が、様々なことを解決できるのではないだろうか。
魔力を取り込んだおかげで、魔女のスキルがついたけれど、代わりに魔法を使えるようになったので、戦う術が見つかった。
これからも色々とクエストがある。その時に自分が力を使えた方が、もし他に魔女がいてメインストーリーが進んでしまっているのだとしても、それを阻止できるようになるもの。
とにかく後で、団長様に話しておこうと思う。
「よし焼けたっと」
考え事をしている間に、クッキーが焼き上がってくれた。
冷ますためにお皿に広げ、そのうちの一つをかじる。
「うん、ちゃんとおいしい」
「じゃあ、私も一つ味見させてくれるかな?」
「ぐっ、げふっ!」
突然後ろから声をかけられてむせた。誰もいないと思ったのに!
とにかく水。水を飲もうとしたら、カップに水を入れて差し出してくれた人がいた。
ありがたく飲んでから見れば、フレイさんだ。
「そんなに驚くとは思わなかったよ」
「ふ、フレイさん。いつお戻りに?」
気管に入りそうになったせいで、まだごほごほとせき込んでしまいながら尋ねる。フレイさんが心配そうに背中をさすってくれた。
「さっきだよ。考え事をしていたみたいで、声をかけても気づかなかったから、オーブンを扱ったり、熱いものから手を離すまで待っていたんだ」
なるほど。配慮した結果、つまみ食い直後に声をかけることになったわけだ。
「大丈夫かい? もうちょっと遅く声をかければよかったね」
ようやく咳が収まったけれど、フレイさんは頭をなでてそう言った。
ものすごく自然にそんなことをされてしまって、ちょっと対応が遅れたけれど、あれ?
「あの、クッキー一個なんで、大丈夫です。味見されるのでしたら、座って待っていてくださいフレイさん」
「そうかい?」
フレイさんはそれでも心配だったようで、私に言った。
「具合が悪くなったりしたら言うんだよ、ユラさん。私のせいで何かあったら、申し訳ないからね」
「大丈夫ですよ、むせたぐらいでそんな」
手をぱたぱた振って言えば、フレイさんはようやくほっとしたような表情になった。




