少しだけ、団長様の事情も聞いてしまいました
関係図を縦に修正してみました。携帯向けに……。
「先代王の弟……」
どういうこと?
「え、今の陛下は先代王の王弟でしたよね? 団長様の伯父様で……」
団長様がうなずく。
「今の国王陛下は次男だ。公爵令嬢と醜聞があったのが三男。私の母は四番目の子で王女だった」
王子王女がいっぱい出てきた!
先々代国王___先代王〈死去〉
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|_現国王〈オネエ〉
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|_三男___イドリシア王女
| |__メイア嬢
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|_団長様のお母さん_団長様
こういうことだな、と頭の中に図を思い浮かべる。
「先代王が即位する前、王太子だった頃の出来事でな」
団長様はため息交じりに続きを語る。
「彼女の母親は、三年ほど前に隣国タナストラに侵略されたイドリシア王国の王女だ。そもそもは王太子と結婚するはずが、婚約のためにやってきた時に、第三王子の子供を身ごもった。それがメイアだ」
長男と婚約したのに、いつの間にか三男と結ばれてしまったと……。
確かにこれは、とんでもない話だ。
「そのメイア様が、なぜ公爵令嬢ということに?」
「王太子が醜聞に激怒してな。当然、花嫁に迎えるのは拒否して斬りかからんばかりの勢いだった。……苛烈な人だったからな。第三王子は継承権をはく奪の上、当時の国王によって辺境に送られた」
王族では駆け落ちできないし、仕方ないから結婚させましょうとも言えないか。
「問題は残った王女の処置だ。他国の王女が身ごもったのに帰すわけにもいかない。しかも子供は王族の子で、適当に放置するわけにもいかない。当時の王が考えた末に、アルマディール公爵と取引をした。そうして公爵と王女の大恋愛の話を作り上げて、押し付けることになった。だから王女はアルマディール領に引っ込んで、表には顔を出さないという話を作ってな」
「それは……またとんでもないというか、うかつに結婚できないのも、ご親族に邪険にされた理由もわかりました」
継承権がないとはいえ、二国の王族の血を引くメイア嬢は、うかつに好きになった相手に嫁がせるわけにもいかない。メイア嬢自身も、その相手に全てを打ち明けないとは限らないからだ。
そして公爵家にとっては、取り引きの結果とはいえ、メイア嬢は歓迎されざる相手だ。血も繋がっていないのだから、なおさら対応が冷たくなるのだろう。
「あれ、でもそれなのにどうして団長様と……」
婚約していたんですか?
「私も厄介者だったからだ。先代王の時代に、ちょうどいいから厄介者をひとまとめにされそうになった。メイア嬢を結婚させるなら、公爵家が一番面倒がないのは確かだしな。こちらも王族の傍系だ」
「団長様が厄介者だなんて、そんな」
誰がそんなことを言ったんだろう。前の王様だろうか。
「厄介者には違いなかったんだ。私は幼少期、精霊を殺す力を自分で左右することもできなかった。そのせいで……領地の隅にある荒れ地に近い場所に隔離されていた」
「え……幼少期?」
団長様がうなずく。
「まだ五歳になるかならないかぐらいだ。気の毒に思った祖母だけがついてきてくれた」
私は、昔団長がお祖母ちゃん子だったと言っていたことを思い出した。
――私も祖母に育てられたクチだからな、と。
「お祖母様と二人きりで……暮らしていたんですか?」
「父は公爵として忙しかった。そして元王女だった母は、わけがわからないものを嫌がる人だった。当時は精霊教会にも忌まれていて、信心深かったあの人は余計に私に関わりたくなかったんだろう。代わりに、時々は今の国王陛下が遊びに来てくれたがな」
ああ、この人もなんだと私は思った。
お父さんとお母さんとの思い出が少なくて。ずっと側にいたのはお祖母ちゃんだけだったのか。
私は今やっと、団長様が私のことを気にかけてくれていた理由がはっきりとわかった。
団長様も、お祖母ちゃんだけしか側にいなかったんだ。
伯父さんが遊びに来てくれても、基本的にはたった二人だけで。精霊教会にまで嫌がられていただなんて……。確かにランダムに近くにいた精霊を殺してしまうのなら、精霊を崇めている教会には嫌がられても仕方ないだろうけれど。
でもお母さんにまで嫌がられていただなんて、亡くなってしまった私より、ずっと辛いのではないだろうか。
つい生まれ故郷でのことを思い出して、我がことのように悲しくなる。目に涙が浮かんできそうだ。
すると団長様に笑われた。
「お前が泣きそうになってどうする、ユラ」
そう言って団長様が、向かいの席に座っていた私の頭を撫でた。
「え、あの、すみません」
団長様が悲しむのならまだしも、私が泣くのはおかしい。思わずあやまると、また小さく笑う。
「でも団長様が、お祖母ちゃん子だった理由はわかりました。ずっと側にいてくれたのなら、やっぱりお祖母ちゃんが一番になりますよね」
「まぁそうだな」
優しい団長様はそう同意してくれて、私の頭を二度叩くと手を離した。
「そのようなわけで、彼女も気の毒な人だ。それは私もわかっている、ここにいる間、ユラが優しくしてやってくれると嬉しい。私がそれをすると、公爵家の人間が来た時に面倒なことになるのでできないがな」
「わかりました」
ご自分の関与できないところで、運命が決まってしまったメイア嬢。
生まれてからずっとそんな環境で過ごしてきたから、拉致されてしまったりしても、あんなに静かに受け入れてしまうのだろう。
団長様との結婚についても淡泊なのは、自分の意思ではどうにもならないものだと諦めているからなのかもしれない。
「でも……面倒ですか? 団長様が優しくしてさしあげても、問題はなさそうな……」
私の言葉に、団長様は首を横に振る。
「アルマディール公爵は、今でも私にメイア嬢を押し付けたがっているんだ。もし団員から少しでも仲が良さそうだったなどと聞いたら、大きくふくらませて再度の婚約を迫ってくるはずだ。せっかく今の陛下が、私が結婚したくないという意思をくみとって、婚約を破棄してくれたんだ。もう一度迷惑をかけるわけにもいかない」
なるほど。それを避けようとして、団長はメイア嬢に素っ気なかったんですね。
そして団長様は、結婚する気持ちはないんだと知って、私は……少し、悲しいような気持ちになった。




