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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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※ユラ係は問題が発生したことを知る

※前半はフレイ視点、後半ユラ視点入ります。

内容を少々変更しました。(大筋はそのままです)

情報が足りないと感じる部分がありましたので、前話とこの話を修正しています。

それにともなって、登場人物の行動も少し変えました。

「ユラさん!?」


 眠らされたユラが、椅子から落ちそうになって慌てて立ち上がるも、それより先にメイアが歩み寄って肩を押さえた。


「メイア、なぜこんなことを……」


 急にメイアがユラを魔法で眠らせたのだ。理由はわかっているが、それでも何か他に方法はあったのではないかと思う。


「なぜ、ですか? あなたと早急に色々な情報を交換するには、こうするしかないからです」


 メイアは至極当然といった表情でフレイに言う。


「この方に聞かれないように、私の状況と、あなたのことについて伺いたかったのです。フレイ様」


「その気持ちはわかりますが」


 フレイはうつむきながら、ユラを支える役を代わる。

 自分とメイアの話を、ユラに聞かせるべきではないだろう。

 騎士団に来てからは、何かと戦闘などに巻き込まれてしまっているけれど、本来は静かな場所で穏やかに暮らしていたはずの人だ。

 事情を聞かれると、国家間のいざこざについてまで……首を突っ込む恐れがある。ユラだから。

 メイアの方は、それだけが理由ではなかったらしい。


「何より詳しい事情を知ったとなれば、彼女が危険なのです」


「あなたが……精霊融合の実験の被検体になった、事情を知ったら……ということですか?」


 フレイの言葉に、メイアははっきりとうなずく。


「あなたの故国イドリシアは、ただ占領されただけではありません。タナストラが侵略した理由は、イドリシアの聖域を使って神を降ろし、その力で世界を支配することなのです」


 メイアは悲しそうな表情で、一度ぐっと口を引き結んでから続けた。


「フレイ様、あなたと同じように、民を受け入れる条件として国王に雇われた者達が、タナストラに潜入したことでわかりました。あなたには連絡ができませんでしたが……。領地にいるイドリシアの人々は、その話を知っております」


「こちらにまで話しが届いていない理由はわかっています。ここは、精霊で連絡をすることはできないでしょうからね。リュシアン団長に気づかれる恐れがある。そうすると、俺が依頼されて騎士団に入ったことも知られるでしょう」


 フレイについては、民を受け入れる条件というより、亡命を認める代償を求められたのだ。

 イドリシアの王族を匿うのは、アーレンダールとしてもリスクがあるから。

 代わりにその代償が、国王が案じるリュシアンの護衛だというのだから、国王も甘い裁断をする人物なのだと思ってはいたが。


 こんなところで、リュシアン団長の能力を気にすることになるとは思わなかった。

 おかげでフレイもリュシアン団長も、みんな魔女についてはタナストラが関わっていると思っていた。

 メイアの話が本当なら、全員で明後日の方向を見て警戒していたことになる。


「とにかく……それで魔女を作ろうと? 他の人々を犠牲にする必要はないでしょう」


「言い訳になってしまいますが、わたくしは後からこの計画を知りました。その時には既に、何人もの人が二つの実験場で犠牲になっていました。かといってイドリシアの人々ばかりを責めることもできません。わたくしの力が及ばなかった結果でもありますから。でも止めることならできます」


「あなたが実験台になることで、ですか? でもイドリシア王国のことまで、背負う必要はないでしょう。あなたにとっては、母君の国というだけです」


「それでも、私はイドリシア王族の血を引く者です」


 メイア嬢はじっとフレイさんを見つめる。


「そしてあなたも今、知ってしまった。イドリシアの民が行おうとしていることを。……これからあなたはどうなさるのですか? フレイ・ハーシュ・イドラヴァル」


 尋ねるというよりも、問いただすような聞き方だった。

 まるで、あなたは何もしないつもりなのかというみたいに。

 フレイは答えあぐねた。


 イドリシアのことを忘れたわけではない。

 母親も、親族も、優しかった使用人達もみんな死んだ。フレイを逃すために。

 どうしても、王族の血を絶やすわけにはいかなかったから。

 もしアーレンダールに匿われた領民が、イドリシアに戻るための行動をとったら、フレイはそれを先導しなくてはならないだろう。


 だけどこれは違う。

 確かに、タナストラの行動を指をくわえてみていれば、この国も危うい。

 けれどイドリシアの聖域のことについては、アーレンダールの誰かに言うことなどできない。

 タナストラに利用されるというのなら、確かに魔女のような存在をつくり、守らなければならないだろう。


 でもそのために、ユラは犠牲になりかけた。

 そんな行動を起こした故国の人々に、同調するのは……。

 一方で、彼らに責任がある立場なのも間違いない。


 止めるのか。

 けれど止めても、結局は犠牲者よりもさらに多くの人が死ぬことになる。

 それは目に見えているのだ。


「わたくしはこのまま行動するつもりです。それが、間違いなくアーレンダールの多くの人々のためになると思うからです」


 悩むフレイの背を押すように、メイアが言った。


「少し考えさせてください」


 今のフレイは、そう言うしかなかった。



   ***



「ユラさん? ユラさん、大丈夫ですか?」


 一瞬、なんだか意識が遠のいたような気がした。

 気付いたら眠っていたみたいで、私はフレイさんに抱えられて椅子に座っていた。


「わっ! 大丈夫です! たぶんこう、緊張しすぎたのだと思います」


 それ以外に理由が思いつけない。

 公爵令嬢だなんて身分の人と、同席することなんて私の人生ではありえないことだから。

 他に体調が悪いわけでもないし……。


 とにかくフレイさんの心配そうな顔に、ぺこぺこ頭を下げてしまう。


「メイア様にも失礼したしました」


「わたくしは大丈夫です。お加減が悪かったのでは?」


 ちょっと前まで昏睡していた人に、心配されてしまった……不覚。面目なくて顔を上げにくくなり、うつむきがちに応じてしまう。


「ご心配をおかけしました。健康なのでどうぞお気になさらず」


「そうですか? わたくし、実はあなたに良く似た人を見かけたような記憶があって……」


「え? 私にですか? ……それは、メイア様が囚われていた時に、ということですか?」


 寝落ちする前にも、確かそんなことを言っていたっけ。

 メイア嬢はうなずいた。


「少しだけその時のことを思い出したのですが……。確か石造りの建物の中にいた時に、あなたのような人を見たことがあるのです。眠っていたから、印象は違うのですが」


 彼女が見たというのなら、もしかして私かもしれない。

 団長様達が救出してくれたあの時、逃げおおせた魔術師がいて、メイア嬢が連れ去られていたというのならあり得る。

 とはいえ、言うわけにはいかない。


「に、似ている人だと思います。あ、お茶が冷めてしまったのなら淹れ直して来ますが」


「大丈夫ですわ」


 メイア嬢はにっこりと微笑んで、お茶をまた一口飲む。その飲み方から、思った以上に冷めていることがわかった。……思ったよりも私、眠っていたんだろうか。でもフレイさん達は、すぐに起こしたような雰囲気だったけれど。


「冷めても十分に美味しいですね。またお茶を頂きたいですわ。お願いすることってできるのかしら?」


「それでしたら、夕食後にまたお持ちしますね」


 私はメイア嬢に、別なお茶を飲んでもらう約束をした。

 そんな私達の話を、フレイさんが微笑ましそうに見ていた。


 その後しばらく話しをした後、私とフレイさんは遠慮することにした。

 長く話しすぎても、目覚めたばかりのメイア嬢の体に障るだろうからと。

 なにせフレイさんに言われて部屋の掛け時計を見れば、もう三十分も話している状態だった。私の座った席からだと見にくいので、気づかなかった。


 おしゃべりをしてると、時間が経つのって早いなと感じる。

 お茶はフレイさんもメイア嬢も飲み干してくれた。冷めていたのにそうしてくれるということは、本当に美味しかったようだ。

 ほくほくした気持ちになったものの、水の精霊は水分であるお茶が無くなったせいなのか、姿を消してしまっていた。


「これじゃ聞けないか」


 また次回、何かを考えるしかないだろう。

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