お茶の評価は上々ですが……?
※内容を少々変更しました。(大筋はそのままです)
情報が足りないと感じる部分がありましたので、この話と次話を修正しています。
それにともなって、登場人物の行動も少し変えました。
持っていたお茶には、水の精霊がまぎれていたようだ。
トビウオみたいな可愛い魚姿の精霊を見て、あ、と思い出す。団長様に、メイア嬢に魔女の片鱗があるのかどうか、話さなくてはならないことを。
「あなた、これから会う人達の中に、魔女みたいな人がいるかどうか教えてくれる?」
尋ねてみたものの、きゅっと首をかしげるように体を曲げる。
これはわかっているのかわかっていないのか。
ステータス画面を出してみると、一応わかっているらしい。
《水の精霊:魔女さがすー?》
「うん探してほしいの」
と言ったら、びしっと私を指さされた(ひれで指し示された)ので「私じゃない人で、それっぽい人がいたらお願い」と頼み直す。
実際、彼女が魔女だったとしたら……。でも助けたんだもんね? 領地に戻ることができれば、魔女としての役割をする必要もなくなるだろう。
でも団長様達は、彼女の経過を確認することになるのかな。
「お茶をお持ちしました」
部屋に到着すると、少し扉が開けられていたので、声をかけて中に入る。
そこには既に三人が座っていた。
病室にしている部屋には、元は寝台しか置いていなかった。
でも公爵令嬢が使うことになるので、急いで数台を移動させて、テーブルや椅子を運んだらしい。起き上れるようになった時に、食事などもここでとることになるだろうという配慮だ。
メイア嬢は、先ほどよりもしっかりと起き上れるようになったみたいで、ヘルガさんが騎士団の予算で用意した菫色の服を着ていた。
怪我をしているわけでもなく、魔力が足りていなかっただけなので、オルヴェ先生も起き上がった方がいいと考えたのだろう。
服はなんとか絹のものが手に入ったとはいえ、貴族令嬢の着る服としてはちょっとランクが低い品ではあった。なのにメイア嬢が着ると、高級そうに見えるからすごい。
もう少しいいものを……とヘルガさんも思ったという。
わかります。貴族令嬢に変なものを着せたら、領地の親族から騎士団に文句がくるかもしれないし、令嬢ご本人が嫌がるかもしれない。
メイア嬢はその辺りは頓着がなかったようで、とても助かった。
ゲームと違ってプレイヤーがいないと、こういうところで色々不自由だなと思う。服飾スキルで作成したものを、沢山売ってくれただろうに……。絹のドレスとかもあちこちで売っていたんだろう。
むしろこの状況で、ヘルガさんが何枚か買ってこられたことにびっくりしていたのだ。
うっかりメイア嬢にみとれそうになったけれど、私は給仕係なのだからと戒めて、しずしずとお茶をテーブルに置いていく。
「さぁ飲んでみてください。うちの騎士団で喫茶店をさせている者のお茶です」
「騎士団の中で喫茶店を?」
オルヴェ先生にすすめられ、不思議そうにしながらも、興味を引かれたようにメイア嬢がお茶に口をつける。
ドキドキしながら部屋の隅で見守っていると、飲んだメイア嬢がほっと息をついて微笑む。
「いい香りで、少し甘くて美味しい。初めて飲むお茶ですが、どちらの国のものでしょう?」
よかった……。美味しいって言ってもらえた。
「お気に召したのなら幸いです、メイア様。これは『紅茶』といって、そちらにいる女性が自ら作って名づけたものなのです」
私はオルヴェ先生が紹介してくれたので、一礼する。
「まあ、その方が」
メイア嬢は目をまたたき、上品に微笑んだ。
「美味しいお茶をありがとう。茶葉を調合なさったんですか?」
「あ、いいえ。魔法で少し変質させているんです」
でなければこの味は出ない。答えると、メイア嬢は「もう少しお話を聞かせて頂きたいと思うのです」と、オルヴェ先生に頼んだ。
「宜しければ、少しおしゃべりしてもいいですか?」
「かまわないかと思いますよ。夕食の時間が近いので、それまでとなりますが」
それならいいな? とオルヴェ先生がこちらに視線を送って確認してくる。私はこくこくとうなずいた。
ここは同年代の女性がいない場所なので、私もしゃべってみたいとは思った。
あまりに綺麗すぎる人でもあり、貴族令嬢なので話が合うか、自分の話で楽しんでもらえるのかは不安だけれど。
「では女性の話に参加するのは無粋なので、私は退散しましょう。見守りにはフレイを残して行きますので」
オルヴェ先生はそう言って席を立つ。
そう話している間に、私は自分の手の上に乗せていた精霊が、何かしゃべっていないかをステータス画面で確認する。
《水の精霊:ぷっぷくぷー》
可愛いことをつぶやいているだけだった。
ほんのり和んだところで、オルヴェ先生の席に招かれて座ることになる。
オルヴェ先生は私も同席しているからか、扉をきちんと閉めて退室した。
メイア嬢を左斜めから見る位置。フレイさんがそのまま席についているので、心強い。
どんな話をされるんだろうと、ドキドキしながら待っていると、まずはお茶について聞かれた。
「どうして新しいお茶を作ろうと思ったのですか?」
「もっと違う味のものが飲みたいなと思いまして……。ええと、小さい頃の色水作りで遊ぶみたいな感覚だったんです」
本当は違うけれど、適当な理由を答えておく。
「昔から、お茶を魔法で変えることはできたのですか? もしかして、つい最近ではないでしょうか?」
そう尋ねられて、私は心の中で「え?」とつぶやく。
まるでメイア嬢が、私が昔は魔法を使えなかったと思っているような聞き方だ。
精霊融合の事を知っている人ならまだしも、どうして……。
「メイア様。立ち入った話はさすがに……」
フレイさんがすかさず止めてくれる。助かった、と思ったらメイア嬢はフレイさんに話の水を向けた。
「必要だと思ったのです、フレイ様。あなたとの話にも。けれど……わかりましたわ」
……ん? なんかおかしいやりとりだけど、どういうこと? そして二人が慣れた様子で受け答えしているように思うんだけど。まさか知り合いだったとか?
混乱する私は、ふいに眠気に襲われて目を閉じた。




