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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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お茶のオーダーいただきました

 団長様は喫茶店前まで私を送ってくれた。


「それではユラ、後でまた様子を見に来る」


 団長様は軽く私の頭を叩いて、他の騎士達を連れて立ち去った。

 魔女うんぬんに関しては今話せないので、後で、ということなんだろうけれど。

 他の人もいる前で、気安すぎやしませんかね? 飼い主っぽさもあるし、今日もちゃんと嫌われていないことがわかるから、ほっとする気持ちにはなるけれど……。


 そして魔女うんぬんに関してはよくわからなかった。近くに精霊もいなかったので、聞くわけにもいかなかったし。

 あとでお世話に行った時に、それとなく精霊を連れて行くべきか……?

 とにかく仕事仕事と思い、鍵を開けて喫茶店の中に入る。

 けれどフレイさんが、廊下に立ったまま入ってこなかった。


「フレイさん……?」


 振り返ると、フレイさんは団長様の背中をじっと見ていた。けれど私の声に気づいたようで、すぐにこちらを振り向く。


「中へ入りますか? ご用事があるなら大丈夫ですよ。今日は間違いなく閉店までここから動きませんから」


 団長様に何か話があるのかもしれないと思い、私はそう勧めた。


「いや問題はないよ。あと喉が乾いたから、お茶を一杯もらおうかな」


「わかりました。少し待っててくださいね」


 私はすぐにお茶を用意する。けれどその間も、お茶を口にしてからも、フレイさんはずっと何かを考えているみたいだった。

 かといって根掘り葉掘り聞くのも失礼だろう。そっとしておくことにする。

 そしてお昼を過ぎた後、フレイさんは巡回があるからと出かけて行った。


 騎士団の人達は、毎日数か所を巡回している。街道や農地の外側などの、魔物を警戒してのことだ。フレイさんも、ずっと私の相手ばかりはしていられない。


 代わりに、そういう時にはちょくちょくイーヴァルさんが覗きに来る。

 今日も来てくれたので、先日のお出かけの件について、理由を書き直した紙をイーヴァルさんに渡した。


「あの、先日の件はこれで良かったでしょうか?」


 紙をじっと見たイーヴァルさんは、ふんと言ってから答えた。


「まぁいいでしょう。これだけきちんと書けるのに、なぜ先日はあんなひどい殴り書きで飛び出して行ったのやら」


「焦ってましたので……」


 あははと笑って誤魔化す。

 今渡した紙は、一応三年ほどは社会人やっていた記憶を使って書いたものだ。

 たぶんこの世界の上司に出す書式とは違うだろうけれど、そこは平民が適当に書いたものだということでイーヴァルさんも何も言わないでいてくれた。むしろちゃんと書けていると言ってくれたので嬉しい。


 そんなイーヴァルさんが、お気に入りのキャッシュトレイを手にいつもの席に座ってしばらくすると、巡回帰りの騎士さんがぽつぽつとお店を訪れてくれる。

 閉店までの間に10人。まずまずの人数だ。


 そして閉店時間。

 帰って来たフレイさんにまたお茶を出しつつ、帰るかと片づけを始めようとする。

 そこに、珍しくオルヴェ先生がやってきた。


「ユラ、良ければ気持ちが落ち着く茶を用意してくると嬉しいんだが」


「かまいませんよ。そちらにおかけになって……」


 お待ち下さいねと言おうとしたところ、オルヴェ先生に首を横に振られる。


「いや違うんだ。例の保護した令嬢に飲ませようと思ってな。ここは城と言っても、貴族のお嬢様が飲むようなものを常備しているわけではない。それにお前のお茶なら、味としてもいいし効果の方も期待したいと思ったんだ」


 なるほど。オルヴェ先生もお茶にこだわりがある方じゃないし、高級な茶葉とか持っていそうなのって、団長様かハーラル副団長様ぐらいだろう。そこに頼むよりも、私の方を頼ってくれたのは嬉しい。


「あの、メイア様は何か不安がったりされているんですか?」


 心の中をよぎったのは、実験のことだ。もしかして、メイア嬢は実験の前後のこととか記憶に残っていたリするんだろうか。

 貴族のご令嬢がどんな育てられ方をするのかわからないけれど、さっきは感情を表に出さないようにしていただけとか?


 件の研究所送り防止のため、実験のことも話さないように言われているから、よけいにどう近づいたらいいのかわからなかったんだけど……。

 こういうところで、以前のユラのコミュ障っぷりが出てくるなって思う。


 でも不安や恐怖を思い出しているなら、団長様に許可をとって彼女にそのことを話して、お家か隣の領主様のお迎えが来るまで寄り添った方が良いだろうか。

 同じ経験をした人と、あれこれ話した方が気が楽になるかもだし

 いろいろ考えて右往左往しそうになった私は、オルヴェ先生に笑われた。


「あまり拉致された時のことなどは覚えていないようだ。気づいたらあの洞窟にいたらしいからな」


 覚えていないのなら良かった。後から思い出した記憶だと、どう考えても気持ちのいいものではないもの。忘れている方がずっといいに決まってる。


「では、向こうに行って淹れますね」


 運ぶなら、外へ出なければならないものね。

 私は茶葉と茶器を三客持って、オルヴェ先生とフレイさんと一緒に移動した。

 なにせ私は平民なので、貴族のご令嬢と同席なんてするわけにもいかない。

 メイア嬢も一人きりでお茶を飲むより、先生やフレイさんと話ながらの方が、珍しいお茶を口につけてくれるだろう。

 だから三人分だ。


 オルヴェ先生の診察室の横にもかまどはある。そこでお湯を沸かして、お茶を淹れた。

 たとえ記憶がないとはいえ、気づいたら知らない場所にいたのだから、驚いただろうし心細いだろう。

 ハチミツをひとさじ入れて、お茶は完成。


 ほんのり甘い香りが立つお茶をお盆に乗せて、私はメイア嬢と先生、フレイさんが待つ部屋へ運んで行った。

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