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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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フレイさんへの謝罪の代わり

 ……ちょっとドキっとする。

 さっそく怒られるとおもいきや、フレイさんは店の中が気になったようだ。見回して顔をしかめた。


「誰もいないのかい?」


「見守りの人がいなくても大丈夫ですよ。だって皆さん、お行儀の良い人ばかりですから」


「そちらの信用より、むしろ今日は君の監視も兼ねてほしいぐらいだ」


 はーっとフレイさんがため息をつく。


「あの、すみませんでした……」


 まずは謝ろう。

 結局は、私が行かなくてもなんとかなったのに、突撃してしまったわけだし……。


「団長から事情は聞いたよ。精霊に慌てさせられて、うっかり何とか手伝えないかと言ったら連れて行かれたってね」


 フレイさんは私に近づいて、肩に手を置く。


「それでも、事前にイーヴァルに相談もできただろう?」


「ですね……」


 でも精霊と何を話したのかは言いたくないし、なんで私が解決できるかもなんて思ったのかも言えないので、何度繰り返しても選択肢としてはないのだけど。

 反省していないのがわかったのかもしれない。フレイさんが私の顔を覗き込むようにした。


「団長にも『アレは自分がそうしたいと思ったら飛び出す質だから、そこは諦めろ』と言われたけどね? 私は君が心配なんだ、ユラ」


 じっと目を見て来るフレイさんは、悪いことをした犬に言い聞かせをしているみたいだった。

 心配してくれているのは、ありがたく思っている。ちょっと前まで見ず知らずの人間だった私に、そこまで配慮してくれるのだから。


「ありがとうございます。できるだけ、飛び出して行ったりしないようにしたいと思います」


 ふんわりと『飛び出さないとは確約してない』みたいな言い方をしてしまう。

 それではフレイさんに悪いかと思うけれど、たぶん私、隠し事が多すぎてフレイさんに前もって話すこともできないと思うし、できない約束しか口にしないだろう。

 言外の雰囲気をフレイさんも察したようだ。


「……君には約束をさせても無駄なんだろうな」


 そう言われて、私は視線をそらす。だけどフレイさんは怒らなかった。


「人の心を縛るのは難しいって、よくわかっているんだ。自分だって反発したりしてきたんだからね」


「フレイさんがですか?」


 戦闘になると血が騒ぐけれど、普段はいたって礼儀正しく、団長様にも粛々と従っている様子なのに。


「今はだいぶ丸くなったけれどね。元々、あまり我慢する質じゃないんだ。君のことも閉じ込めてどうにかできるなら、そうしたいぐらいで」


「閉じ込めるのはごかんべんを……」


 その発言はちょっと怖いです。団長様にもなんか、それに類することを言われたことあるけど、団長様は最終的にはそういうことはしないだろう、という謎の安心感があってですね。

 でもフレイさんの方は……あの戦闘時の状態を見た後だと、やりかねないかもって気持ちが湧く。普段との落差がすごいせいかな。


「そうさせないでいてくれたらいいんだけど。こっちもね、君のこと首根っこつかんで運べる猫みたいに思っていたのは確かだから。君は人なのにね……」


 ため息をつきながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 まるでいたずらをした猫を、仕方ないなと許すみたいに。

 怒られないのはいいけど、お茶淹れたりするのに髪結んでいたのに、わちゃわちゃになってしまう。


「フレイさん、髪がもさーっとしちゃうんで! もうそのくらいで!」


 ぼさぼさ髪になったら、この部屋には鏡がないから直せない。慌てて止めると、


「ああ、髪もね。犬猫みたいに気にしなくていいなら良かったのに」


 再びため息をつくフレイさん。


「お詫びに結び直してあげよう。そこ座ってくれるかな、ユラさん」


「え、あの、でも……」


 ちょっと待ってくださいなフレイさん? 男性が女性の髪を結うって行動は、この世界じゃなくても勘繰られやすいと思うんです。子供と大人というわけじゃないので、誤解を招きませんか? マズくないですか?


「遠慮しなくていいよ。細かいものを扱うのは得意なんだ」


 私の不安をよそに、フレイさんは腕を引いて近くの椅子に座らせてしまう。


「誰も見てないし、部屋にも入れないから大丈夫だよ。それで今回のことはもうお説教しないから。代わりに、言うことを聞いてほしいんだ」


 私は少しの間葛藤する。

 結果、うなずいた。誰も見ていないのなら、髪を結うくらいで済むならいいだろうと。


「……わかりました」


 フレイさんはとても嬉しそうに微笑んで、私の後ろに回る。

 そうして適当な一つ結びにしていた紐をほどく。さらりと広がる自分の髪を肩に感じた。

 フレイさんはゆっくりと私の髪を手で梳き、持ち上げる。

 片側から編んでいっているようだ。


 さわさわと髪が動くたび、くすぐったい。フレイさんの指先が頭を撫で、時折首筋に触れると、思わず肩が跳ねそうになる。

 過剰反応をするのもと思って我慢しているけれど、フレイさんが小さく笑うので、たぶん気づかれている。


 にしても、どうして怒る代わりに髪を結いたいなんて言い出したのか。


「あの、髪を結うの好きなんですか?」


 そこに女性の、と言葉をつけなかったのは、そうすると危険な問いになってしまいそうだったからだ。

 もし姉妹がいなかったのなら、相手の女性は誰だっていう……ね。そのことをフレイさんが気にしてしまうかなと思って。


「特別好きってわけではないかな。ユラさんの髪なら、触ってみたいかなと思って。あと嫌がらせかな」


「嫌がらせ!?」


「ほら振り向かない。前見て」


 驚いてフレイさんを見ようとしたら、頭をおさえられて前を向かされた。


「約束を破った分だよ」


 そう言ったフレイさんに、結局三つ編みにされたのだけど。

 片づけをして部屋に戻るまで、人の目が気になって仕方なかったのだった。

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