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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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家へ送ってもらいました 2

 町の人口は1000人もいない。村よりはマシという規模だ。

 その近くに、突然竜に乗った騎士達がやってきたわけで、町はもう大騒ぎになった。


 竜や飛びトカゲは、いたずらされないようにすぐに空へ飛び立たせていたけれど、騎士達がいるだけで十分に町の人には大事件だ。

 しかも一緒にいるのが、行方不明になった私だ。

 一体何があったのかと、町長さんがやって来るのも無理もない。


「この娘がひとさらいにあったらしくてな。助けたのだが、まだ捜査に協力してもらうために、我が騎士団領に逗留させることになった。それで荷物を持ち出すのと、長く家をあけることになるだろうから、管理を誰かに頼ませるつもりで連れて来たのだ」


 白ヒゲの町長さんに対応したのは、騎士の一人だった。

 そりゃそうか。団長様自らが丁寧に説明したりしないよね。

 金髪のフレイさんも一緒に来ていたけれど、彼は部下に町長さんへの説明を任せ、団長様と私を促した。


「とにかく家に行きましょう団長」


 うなずき、私は人だかりに道を開けてもらって、自分の家へと急いだ。

 なにせ団長様達はここに泊まって行くわけじゃない。すぐ帰るのだから、ぐずぐずしていたら迷惑をかけることになってしまう。


 私の家は、町の中でも東側にある。でも小さな町だからすぐにたどり着いた。

 二階建ての家で、一階が小間物屋になっているけれど、そこはあの日、閉めたままになっていた。

 と、そこで鍵がないことに気づく。誘拐されたんだもの、当然だよね。


 スペアを探して、私は玄関近くの植木鉢の一つを持ち上げた。良かった、ちゃんと盗られずにあった。

 鍵を使って中へ入ると、とりあえず団長様とフレイさんには、居間の椅子に座ってもらって私は荷物をまとめた。


 旅行なんて行ったことはないので、それ向きの鞄なんかは持っていない。なので、仕入れの時に物が入っていた大きな袋を取って置いていたので、それに服や必需品を詰めて行く。

 何か月かお世話になることを考えると、ある程度の量が必要だろう。引っ越しのつもりで持って行く方がいい。


 後は騎士団のお城の近くで買いそろえることにして、家の中にあるお金をかき集める。

 そして最後に、生ものとかは処分するべく、別な袋に入れて外へ出してしまう。

 これは私一人しかいない状態だったのと、ちょうど買い足さなければと思っていた頃に召喚されたこともあって、少ない量だけで済んだ。


 最後に悩んだのが、お茶だ。

 すぐに悪くはならないけれど、どれくらいの期間、騎士団にお世話になるかわからない。なので持って行くことにした。

 売り物だった分も、この際なので荷物に詰める。軽いから迷惑にはならないし。

 お茶を保存している缶を荷物に入れ、一つぐらいはあった方がいいだろうと、カップを布で包んで袋に入れた。

 そうして食器棚に、お祖母ちゃんが使っていたカップだけが残ったのを見て、ぎゅっと胸が苦しくなった。


 急に、お葬式前のことを思い出した。

 まだお祖母ちゃんが生きていて、一緒にお茶を飲んだ時のこと。


 ……でも今はそのお祖母ちゃんもいなくなって、自分の家からも離れなくちゃいけない。

 それどころか、良くわからない実験をされたり、殺されかけたりして……。


 前世のことを思い出したから、ものすごく頭が混乱していたけど、今の私は確かにここで平凡で地味な人生を送っていたんだ。

 でもそんな穏やかな日常から自分が遠ざかったことを実感して、心細くなった。その分だけ、お祖母ちゃんがいないことが寂しくて辛くて。


 私はつい泣いてしまった。

 お茶の缶を抱きしめて、溢れて止まらない涙に戸惑った。

 殺されそうになった時だって泣かなかった。助かった後でもこんな風に泣きたくならなかったのに、どうしてだろう。


 なんにせよ、早く泣き止まなきゃいけない。団長様達が待っているんだもの、迷惑をかけちゃいけない。

 目元を拭って止めようとしたけれど、しゃくりあげる声も抑えられなくて困る。

 冷たい水に顔を洗おうと思ったその時、ふわりと頭に何かが触れた。


「泣ききるまで待ってやる。無理はしなくていい」


 団長様の声がした。いつの間に一階に降りてきたんだろう、団長様。

 でもこれ、団長様が頭を撫でてくれたってことなの?

 同情してくれたんだなと思うと、少し気持ちが落ち着いた。急かされていたら、辛いのを我慢しようとしてよけいに涙が出たかもしれない。

 とにかく返事をしなくちゃ。


「ぞろぞろ、だいじょうぶでず……」


 涙声で酷いことになった……。でもご勘弁下さい。久しぶりの大泣きだったんです。


「では待っている。家のことを近所に頼みに行く必要があるだろう」


「ばい……」


 くそう、言葉に全部濁点がついちゃう。かっこわるいな私。

 でも泣いてたから仕方ない。きっと酷い顔してるし、気にするだけムダムダ。

 団長様がさっさと離れてくれたおかげで、涙もひっこみやすかった。そのまま慰め続けられていたら、甘えたい気持ちになってまた涙がぼろぼろ出てきそうだったもの。


 とりあえず外の井戸で顔を洗ってから、隣の家のおばさんに話をしに行った。

 お祖母ちゃんのことも気遣ってくれていた優しい人で、私が普通に話せる数少ない相手でもあった。

 おばさんには、家の窓が割れていたとか、そういうことだけ見て知らせてもらえればと思っている。

 迷惑をかけるお礼の代わりに、お店の在庫で残っていた小麦粉の袋を渡しつつ、


「面倒かと思いますが、よろしくお願いします」


 まともな発音に戻った私は、事情を話して頭を下げた。


「突然いなくなって心配していたんだけど、保護してくれる方がいて良かったねぇ」


 おばさんはそう言って、私の肩を叩いてくれる。


「ちょっと眺めて、手紙を送るなんてわけないよ」


 快く受けてくれたおばさんに、もう一度お礼を言って私は町を旅立った。


 帰りも、また団長様の竜に乗せてもらう。

 何でも竜のほうが、飛びトカゲよりも人を乗せるのに適しているそうな。


「あっちは、急上昇も降下をするのも、体に負荷や圧力がかかるからな」


 飛びトカゲは重力制御ができないらしい。


「本当にありがたいやらなにやら……」


 思わずクセで拝んでしまうと、団長様が苦笑いした。


「お前のそれは習慣なのか?」


「どうもお祖母ちゃんのクセがうつったらしくて、ありがたいと思うと拝むように……。お祖母ちゃんが一緒の時は変だとは思わなかったんですが、そのうち直します」


 そんな会話が聞こえていたらしいフレイさんに、大声で笑われたのだけど。


「祖母の薫陶ならば仕方ないな」


 そう言って団長様は理解を示してくれたのだった。良い人や……。

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