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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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公爵令嬢にまつわる気になるやりとり

「リュシアン様!」


 城に到着してすぐ、門のすぐ側までイーヴァルさんが出迎えに来ていた。

 そういえば、イーヴァルさんのこと忘れてた……。

 しかし隠れる場所もない。イーヴァルさんはもちろん団長様の方へまっすぐ突進してきた。


「ご無事で何よりです」


「特に問題はなかった。留守番役ご苦労だったイーヴァル」


 ねぎらわれたイーヴァルさんは、やや焦った表情からほっと頬をゆるめた。


「なにせユラがおかしな飛び出し方をしたものですから、とんでもない事態が起こったのかと思いつつも、留守役を放り出すわけにもいかず……」


 イーヴァルさんがじっとりと私を睨む。

 ひぃっ!

 思えば、団長様を助けに行きます! と言って魔法で移動したわけで。

 先に降りた団長様が、無情にもイーヴァルさんの目の前に降ろして下さる。これ、まな板の上の鯉状態……。


「ごめんなさいごめんなさい、許して下さい。そしてご心配をおかけしまして」


 先に謝った方が勝ち! とばかりに頭を下げる。


「あなたのことなど心配していませんでしたよ。あなたの移動方法は精霊の仕業だとはわかりますしね、行先がリュシアン様のところですから、むしろご迷惑をおかけしていないかとは思いましたが!」


 そう言いながら、イーヴァルさんは口を尖らせながらも私の様子を確認して、視線をそらす。もしかして、怪我がないか確認したのかな。


「許してやってくれ。精霊が私を手伝わせようと、ユラを連れて行ったみたいでな。すぐに回収できたし、無事だった」


 そこで団長様がとりなしてくれた。というか、団長様も無事がわかるようにイーヴァルさんの前に私を立たせたんだろうか?


「リュシアン様がそうおっしゃるなら……」


 イーヴァルさんは渋々ながら引き下がり……と思ったら、再びキッと私を睨んだ。


「ああいうわけのわからないことはやめて、きちんと申告してもらわなければ困るんですよユラ。後で書き置きの書き方について指導します」


「指導!? あ、いえ、はいワカリマシタ……」


 目の前で消えた反動なのか、イーヴァルさんが会社の新入社員の指導をしている先輩みたいなことを言い出した。確かにあの書き置きは、今考えるととても不親切だったなと思うけれど。

 とはいえ、このツンデレ(デレは主に団長様相手)なイーヴァルさんと差し向かいでお勉強などしたら、精神的疲労でお菓子を馬鹿食いして太りそう。


「あの、良ければもう一度書きなおしまして、その採点でご指導をしていただければ……有り難く」


 なので通信講座のごとく、書いたものを渡し、それに赤を入れて返却してもらう方式で対応できないか聞いてみた。


「まぁ、それなら良いでしょう。でも出来るまで何度もやりますからね!」


 と言って、イーヴァルさんは引き下がってくれた。マンツーマン講座は回避したので良かった……。

 でもびっくりさせたのは確かだから、クッキーの差し入れぐらいはしよう。

 ほっとしたところで、団長様がイーヴァルさんに言う。


「ユラが精霊に連れて来られた理由に、あの人物が絡んでいるようだ。おそらく魔術の媒介か魔力の供給者にされたのだと思うが」


 団長様が指し示したのは、立ち止まった私達の横を通り過ぎようとした馬車だ。このままオルヴェ先生の管理する病室へ連れて行くのだろう。

 イーヴァルさんは最初、彼女の顔を見て不審そうに顔をしかめ、驚いたように目を見開いた。


「メイア・アルマディール嬢ではありませんか! なぜ……」


「経緯はわからん。ただアルマディール領へ連絡を送ってくれ。ここに置くには手に余る人物だ」


 そう言った団長様に対して、イーヴァルさんが言いにくそうに告げる。


「騎士団としてではなく、リュシアン様のお名前を使って連絡しますか? 一応、浅からぬご縁がある方ですし……」


 ご縁?

 団長様に、公爵令嬢とのあれこれなんて設定があったっけ。私は記憶をさらってみるけれど、思いつかない。


「もうその縁は無いも同然のものだ。お互いにな」


「確かにそうですが……」


「騎士団の名前で送っておけ。むしろ面倒事が起こらないよう、副団長の名前を借りてもいい。あちらも私がここにいることは知っているのだから、名前を出すことを避ければ察するだろう」


「承知いたしました」


 イーヴァルさんはそれ以上は訴えず、連絡をするためにか、近くの騎士見習いを捕まえて話を始める。

 私はもう一度馬に引き上げられた。

 そうして住いの前に降ろされると、団長様には「後でまた」と言われて頭を指先で叩かれた。

 飼い主になったからか、前よりもちょっと団長様が近い感じがする。


 私はとりあえず、部屋で黒マントやらを脱いだ。

 次にオルヴェ先生の様子をのぞく。

 女性の看病はいろいろ面倒だ。とくにご令嬢が相手では。ヘルガさん達にも手伝いをお願いするだろうけれど、手が足りているか見て置こうと思ったのだ。

 平気なら、陽が落ちるまではまた喫茶店の方を開けようと思ったのだけど。


 診察室に彼女もオルヴェ先生もいた。

 運んだ騎士さんは、さすがにご令嬢の肌を見せるわけにはいかないので、外へ追い出されている。様子を聞いたら連絡するつもりで、待っているようだ。

 ノックして名前を言うと、オルヴェ先生が入ってもいいと許可をくれた。

 中では、ヘルガさんと一緒の先生が、手をかざして魔法で彼女の状態を確認していた。


「どうしたユラ」


 状態確認が終わったらしい先生が、手を下ろして聞いてくれる。


「あの、看病の手が必要かどうか伺っておこうと思いまして。女性の患者さんなので……」


「基本的にはとんでもない状態でもないからな。魔力が激減しているせいで、昏倒したのだろう。起きるまで眠らせておくしかない。ただせっかくだから、ユラには就寝前まで時々様子を見てもらえればいい」


「わかりました」


 そんなことだけでいいのならと返事をすると、ヘルガさんが着替えを持ってくるために部屋を出た。

 オルヴェ先生は一度椅子に座ってため息をつく。


「しかしアルマディールの公爵令嬢か」


「ご令嬢だと、ここでの治療も難しいんですか?」


 オルヴェ先生は、なんだか困ったような顔をしていたのでそう尋ねたのだけど。


「いや、団長がらみで面倒なことにならなければいいと思っただけだ。なにせこのご令嬢は、お前と同じ実験をされた可能性があるんだろう?」


 オルヴェ先生はそこまでの話を聞いていたようだ。


「たぶん……そうだと思います」


「精霊が関係するならと、団長が面倒をみさせられるかもしれない。なにせ……」


 オルヴェ先生が言った次の言葉に、私はなぜか心が冷えた。


「少し前までは、団長と婚約していた人物だからな」

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