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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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私とあなたの間に必要なもの

 怯えるより、ものすごく悲しくなる。

 団長様に脅させているのは私だ。


 彼は騎士団のことを考えなければならない。

 私が悪い人だったり、扱えもしない力に振り回されているけど怖くて黙っているとわかったら、それを放置しちゃいけない立場だ。騎士団の人達や周囲の人達にまで被害が及んでは困るから。


 もちろん団長様が脅したくなんてないのは、わかってる。

 冷徹な人だったら、傷つけると言っておきながら、こんなに優しく触れたりしない。


 私は団長様の手の温かさに、引きこまれるように目を閉じてしまう。

 触れられていると、落ち着いていく気がした。こんな時なのにと思う一方で、精神的に追い詰められての逃避行動かもしれないとも考える。

 でもこの温かさのおかげで、私はようやく団長様に言うことができた。


「話しても、嫌わずにいてくれますか?」


 私が怖いのは、嫌われることだ。

 この人に見離されてしまったら、本当にひとりぼっちになる気がする。お祖母ちゃんを亡くして、拉致された後に保護してくれた人だからだろうか。

 だから約束がほしいと思ってしまう。


「……安心できれば、話すのか?」


 聞き返した団長様は、じっと私を見つめてくる。


「だが私が口頭でそれを約束して、君は納得できるのか? 口だけの約束なら今すぐにでもできる。でも君が欲しいものは違うだろう」


 その言葉にはうなずくしかない。

 そして団長様に言われて気づいた。自分ではどうしたらいいかわからないからって、私は団長様に答えを教えてくれと言っていたことに。

 とても信じてほしいと言う人の行動じゃない。でも、良い案が浮かばなくて苦しい。


「私、騎士団に置いてほしいです。見捨てないでほしい。でも話したら……」


 話そうとすると涙がこみ上げそうになって、言葉に詰まった。一度落ち着いたからできると思ったのに。どうしてちゃんと話せないのかと、自分で自分のことが情けなくなる。

 すると団長様が言った。


「言葉ではなく、別なもので信用を保証できるか? もしそれができれば、私は何を聞いても君を騎士団に置いておけるだろう。たとえ犯罪者でも、情報提供などの利益があれば私一人の胸にしまって見逃す理由にできる。それに君自身も、はっきりとした形で信用を提示できれば安心できるのではないか?」


 私はハッとする。

 そうだ。団長様の厚意だけに頼っていたら、いつまでたっても不安なままになる。団長様の気持ちが変わってしまったら、それで終わりだからだ。


 団長様だって、いつでも私の忠誠を疑い続けることになる。だから何か、契約したという形にできるものがあれば、団長様も私に一定の信用を感じてくれるだろう。

 そこでふと思いつくことがあった。おかげで今度は、はっきりした声で尋ねることができた。


「では、どうしたら団長様は……私が絶対に団長様達を助けたいと思っていると、信じてくれますか?」


 私がしたいこと。その条件を飲んででもやりたいのはそのことだ。

 このゲームのような話の終わりで、あなたが一人きりになる状況にはしたくない。私が知る騎士団の人達を死なせたくない。一人でも多く生きていてほしい。

 たったそれだけを願ってる。

 他には何も持っていないから、この場所を守りたい。


「証明する方法は思い付きません。だから魔法で私が裏切ったら命を奪うようなものがあれば、それを使って下さってかまいません」


 もうこれしかない。

 私には取引ができる質になりそうなものは一つもない。なら、自分の命をかけるしかない。

 団長様は少し考えた後、ふいに視線をそらした。


「そういうことならば、一つ考えがなくはない。ただ……君が受け入れられるかどうかが問題なんだが」


 ん? なんだか団長様の様子からすると、危害を加えられるとかそういう方向ではなさそうな。

 ちょっと困ったような感じ。言っていいのか迷っているのは、心配をしているというよりも、珍しくも団長様が少し恥ずかしいと感じてる気がするんだけども。それなら受けても大丈夫そうな?


「やっぱりこれは……しかし最も誰にも知られずにいられる上に、有用な方法で……」


「それをするとどうなるんですか?」


 団長様がひとりごとのように口走るので、まずはどういう状態になるのかを聞いてみた。


「効果が発揮されれば、近くにいれば私の命令に従うようになる。あと、君の居場所を私が探しやすくなる」


「なるほどです。私が逃亡しても、探し出せるっていうことですよね。近くにいさえすれば、反抗しようにもできないと」


「……そうだな」


 団長様が、とうとう顔をそらした。でも私の頬に触れた手はそのままなので、別に私の発言が嫌でそうしたわけではないんだろう。


「で、一体どういう方法なんですか? 魔法みたいですが」


 聞かれた団長様は、ばつが悪そうな表情ながらもこちらを向いて言った。


「精霊を従属させる術だ。君に使えるかどうか試してみないとわからないが」


「じゅうぞく……」


 従属するというと、従者とか、従うとか、そういう単語が頭に浮かんでくるけれど。ようするに従うようになるっていうことか。

 意味を頭の中でかみ砕いて理解していたら、団長様が要約してくれた。


「犬を飼うようなものだ」


「まさかのペットだった」


 飼育係り扱いのフレイさんがいるので、これで私、正真正銘のペット状態ですね?

 なんてことを考えてしまうあたり、私はこの魔法を特別嫌には感じていないようだ。何より、従う相手が団長様なら、真面目に保護してもらえそうだから……。


 それに、騎士団で言うことを聞いて行動するのと特に変わらないような気がする。

 気軽過ぎるかな?

 団長様の方が、むしろためらいがあるようだ。


「これを使っている間は、術者の方にも責任が生じる。君をどこかへやることはできない。でも君は人間だ。そういった形は嫌だろう? そこまでしなくても……」


「団長様がそれで安心できて、私も捨てられないって保証ができるならいいです。そもそもフレイさんなんてユラ係りとか呼ばれて、私って飼育されてる鶏か犬みたいな認識されてますし……だから今さらというか」


 それに、と付け加える。


「団長様の命令なら。何でも大丈夫です」


 そう言うと、団長がため息をついた。


「君は無防備すぎる。自分を他人の思う通りに動かされることが、怖くはないのか? 私が何をしても、君は抵抗できなくなるというのに……」


 平気です、と言いかけた言葉を止めたのは、団長様の手が頬から首へと滑り降りたからだ。

 触れられた場所も、背筋もざわついて、思わず変な声が出そうになって自分の口を両手で塞ぐ。


 え、まさか団長様がそんな、と私は慌てた。

 異性として何かしようとか考えるわけがないというか、団長様不自由しそうにないし。でも今の触り方って! と頭が混乱しそうになる。

 団長様の眼差しは厳しくて、嫌がるかどうかを試されているんじゃないかと感じた。


「それでも……たぶん他のものよりは、後で疑ったりしなくて済むと思います。情報を伝えても、嘘を言えてしまうなら……やっぱり疑うでしょうから」


 だからそんな風に言えた。

 話が決まってしまうと、すぐに団長様は意識を切り替えたようだ。


「では私に飼われるといい、ユラ」

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