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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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団長様のお尋ねですが

 空を飛ぶのには慣れた。

 フレイさんと飛びトカゲにも何度か乗ったので。

 だけど人に担がれて飛ぶことになるだなんて、想像もしていない。


「うええええ」


 お腹への圧迫感はんぱない。

 そして私への優しさなのか、スカートの裾を抑える様に足を持っていてくれるけれど、もうその時点で叫びたい。


 団長様! 私のこと異性だと思っていなくても仕方ないけど、これはちょっと気を遣ってええええ!

 と思っているうちに、明るい地上へ出た。

 まぶしさに目を閉じている間に、荷物担ぎから抱え上げられ、すとんと地面に降ろされる。


「ユラ」


 名前を呼ばれて目を開けたら、地面に降ろした時にわき腹に手を触れたまま私をのぞきこむ、団長様と視線が合う。

 やや厳しい表情。眇められる目が、あまりご機嫌が麗しくなさそうで怖い。おかげで恥ずかしさは吹き飛んだけれど。

 こういう時にはもうとるべき行動は一つしかない。


「申し訳ありませんでした……」


 謝る以外にどうにもできない。でも頭を下げると団長様にぶつかりそうなので、視線だけ下げることにする。

 その時に周囲の状況もわかった。

 ここはどうやら、山頂のような場所だ。二十人くらいなら立っていられる広さがあるそこに、ふと既視感があったけど……今はそれどころじゃない。


「まずは何がどうなってここへ来たのか話せ。それから何を言うのかを決める」


 え、団長様。一応事情を聞いてくださる?

 顔を上げてみれば、団長様は変わらない態度のままだった。

 これから話す内容で、審査されるんだろうな。


 でも私が考えたこと、したことなんて複雑なものではない。ただ団長様達が心配で、精霊に聞いたらお茶でなんとかできるかもしれないからと言われて、クッキーで頼んで連れて来てもらっただけで……。

 だけど説明するには、私のやたら多い魔力のことは話さなくちゃいけなくなる。


 それに気づいて、私は涙目になった。

 やったことは後悔していない。団長様達が大変で、怪我人も出たと聞いたら何度だって私は同じことをしてしまうだろう。

 実際、団長様も戦闘の名残が見える。マントの端が少し裂かれていたりしていたし、さっき見た騎士さんの中には怪我をしていた人もいた。


 それが彼らの仕事だとわかっていても、少しでも負担を軽くしたいと思う。

 最初に精霊に教えてもらった以上に、元気そうだったことは良かったと思う。ちょっとだけ……私、もしかしていらなかったかもしれない? なんてのも心をよぎったりもしたけれど。


 どうしよう。なんて話せばいい?

 魔力のこと隠して、ソラのことも言ってほしくなさそうだったから隠すとして、私のお茶を飲ませることによって相手を操れると言われたとか、どうやって説明するの……。

 せっぱつまったせいで、余計に頭が真っ白になりそうだった。


「お前が話しにくそうだから、先に私が知っていることを言う」


 団長様が黙り込んだ私に焦れたように、口火を切った。


「ダンジョンの魔物の様子がおかしいことには、すぐに気づかされた。怪我人も出たからな。その原因を精霊に尋ねた。すると最上階にいる冥界の精霊が、何度でも復活する魔術を使っているのだと教えられた」


 そこで団長様達は話し合って決めた。


「ここを放置することはできない。それだけおかしな魔術が使われているなら、必ず何か他の災いが起きるからな。そこで私を含めて、最速でダンジョンの最奥を目指す部隊を作って突入した。外からここに来るのは、魔術の影響でできなかったからだ」


 あ、ここには直接来られなかったんだ、と私は初めて気づく。

 ゲームだと強制的にこんな場所から侵入できないし、順を追っていくしかないから、完全に失念していた。

 確かに空を飛ぶ方法はあるし、ここのダンジョンは下から上へ行く構造になっている。ダンジョンの最上階に突入したらいいものね。


「だが3階層目で、異常事態に気づいた。魔物がいなかった」


 ぎくっとした。


「精霊に聞けば、奥のボスを倒しに来た仲間がいて、そのせいだろうと言われた」


 団長様はため息をつく。


「精霊が、こうしたことで自主的に動くことはめったにない。誰かが動かしたのだとして、騎士団に助力するような行動をとりそうな人間で、知っている者となれば君ぐらいしか私には思いつかなかったし、その予想は当たった」


 ユラ、と団長様は再び名前を呼ぶ。


「話せ。君が隠し事をしているのはわかっている。君の行動は、私が精霊の存在を左右できる力を手に入れた時を思い出させる。戸惑って誰にも相談できないと思っているような行動だ。君はそれと同じくらいの何かを手に入れた。違うか?」


 ここまで丁寧に聞かれて、何も言わないわけにはいかない。


「はい……」


 申し訳なさに泣きそうになりながら、私はうなずいた。


「私は、君が言えずにいることをわかっていながら無理に手をさしのべなかった。言えるようになるまでの間、守るつもりで閉じ込める方向で手を打ったが、君はそれを乗り越えてまた無茶をする。正直、どうしてやればいいのかわからない」


 団長様の言葉に息をのんだ。

 ……見限られてしまった? そう感じたとたんに、強烈に寂しくなる。


 勝手だとわかっている。団長様は大人しくしていてほしかった。そして私が全てを話せるようになってから、対応を考えていくつもりだったのだ。

 でも私が、それを破ってしまった。

 だから団長様は、私をどうしたらいいのかわからなくなってしまったのだ。


「君は、何を手に入れて精霊達と一緒にこのダンジョンの問題を解決したんだ?」


 そうして団長様は私の肩を離すと、両頬を手で包み込むようにする。


「君がこれだけの行動をして、ありえない場所に一人で来てしまった以上、待つのは無理だ。話せないというのなら、別な方法で聞き出すしかなくなる」


 だから今のうちに話せと、団長様は促した。


「君の何分の一かは精霊である以上、私はその部分に干渉して、君に苦しみを与えることもできる。できればそうしたくない……ユラ」


 脅しているはずなのに、私は懇願されているような気持ちになった。

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