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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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逃げ場はどこにもなかった……

 まずい。目が合った。

 その瞬間、ぐっと眉間にしわが寄ったのを見て私は察した。


 ――バレてる、と。


 いや、まだ大丈夫。だって声も出していないし。

 あ、でも風の精霊さん達がいっぱいいた! 8体もの精霊が周りを取り囲んでいたから、目立ったのかも。


「あの、解散解散」


 こそこそとささやけば、精霊達は首をかしげながらもぱたぱたとどこかへ飛んで消えて行く。

 その後は無駄な抵抗だと思いつつ、改めてフードを深く被って隅っこに移動した。

 団長様は他の魔物の対応のために視線を動かしたので、今のうちに隠れよう。

 ここまで魔物が減ったし、騎士達も魔物の後ろに回ろうとしている。もう女性は大丈夫だろう。


 私はこそっと移動して、隅っこの暗い場所を向いてしゃがみ込んだ。

 これで闇に紛れられるはず。


 ……無駄な努力だってことは、自分でもわかってるんです。

 そもそもイーヴァルさんにダンジョン行くって言っちゃったし、城から出たので怒られるだろう。ただこれについては、またソラの力でぱっと戻ってきさえすれば、精霊と遊んでいたんですと言って強引に誤魔化すことだってできた。

 そう、団長様には無理かもしれなくても、フレイさんには黙っていてもらえたかもしれない。


 フレイさんは元気そうだ……。

 背後で、笑い声が聞こえるの。とても楽しそうなので、喜々として剣を振るっているんじゃないかな。

 これが全部幻覚だったらいいのに……。いや、このまま上手くスルーしてもらえたとして、私、帰り道はどうするの。

 行きのように一瞬で移動はできないし。


 そう考えると、ますます団長様達を怒らせただろうことが怖くなる。

 みんなが無事に帰って来てほしいからやったことだ。だけど団長様なら、多少犠牲を出しながらも完遂しただろうし、私が手を出すことでみんなが無事でいるより、そちらを選択するかもしれない。

 だとしたら、私は言いつけを破っただけということになり……むっちゃ怒られるわけで。


 でもゲームの団長様ってどんな人だったっけ。どれくらい怒りそうかな?

 私は思い出そうとする。

 だけどシグル騎士団の方はクリアしていないので、トレイラ―とかで見た分しかわからない。


 ただ最後に、部下達を大勢失って呆然としている光景は覚えている。

 あんな顔をさせたくない。

 みんなにも生きていてほしい。

 そのためになら、怒られるぐらいなら我慢できる。だけど怒らせ過ぎて追い出されたらどうしよう。


 問題はそこだ、と考えながら目の前の岩を見る。

 ……と、不可思議なものを見つけた。

 岩の窪みに、変な石が置いてある。青と白が縞々になったような、綺麗な球体の石だ。

 一応ステータス画面で確認してみたけれど、私が知らないものなので《謎の石》という表示になってしまう。


 何なのかが気になる。それにこの明らかに別な所から持ってきた石を置きましたよ、という感じがどうも嫌だ。この石は明らかに磨かれてこの形になっていると思うし。

 このダンジョンにまだ魔術で仕掛けがしてあるのかもしれない、と私は思った。もしくは、謎の金の髪の女性に何かかけられた術に関係があるとか。


「破るなら、移動させるのが一番だよね」


 私はさっそくその石をくぼみからひっこ抜いた。

 そのとたん、石がふわっとお茶に入れた砂糖みたいに溶けて、消えてしまう。

 代わりに私の手からするっと、冷たい感覚が肩から全身に回った気がした。

 何だこれ。

 ぼんやりしていたら、肩を叩かれた。


「どうしてここにいるのかな? ユラさん」


「っ!」


 叫び声はこらえたけど、はっきりと見つかってしまったのは仕方ない。おそるおそる振り返ると、そこにいたのは金の髪の人だ。

 微笑むフレイさんは、でも目が笑っていない。

 怖くて「人違いです」という言葉を飲みこんだ。


「ここは城の敷地内じゃない気がするんだ、ユラさん」


「……そ、そうですか?」


 自分でも苦しい言い訳だけど、おっかなくてついつい回避できないかと無駄な抵抗をしてしまう。


「そうですよ?」


 フレイさんの笑みが深まる。

 私はぶるぶると肩が震え始めた。ひぃぃぃぃぃ!


「団長が、このダンジョンにかかった魔法を解こうとしている人物がいると言い出した時に、もしかして……とは思ったんですよ。精霊が知らせて来たそうですからね。だから少し待った方がいいと精霊は言ったそうですが……待てるわけがないんですよね」


 フレイさんの言葉で、どうやら団長様達は精霊から話を聞いて、予定よりも急いでダンジョン最上層へ来たことがわかった。

 精霊さんーーーー!

 そこまではしなくていいのぉぉぉぉ!


 なぜしゃべった……。叫びたいけど叫ぶわけにはいかない。私は蛇に睨まれた蛙みたいに、震え続けるしかなかった。

 フレイさんにこの先、なんて言われるのかわからない。

 約束を破ったから、もうお前なんて知らないと言われて嫌われるだろうか。

 想像するだけで涙目になっていると、さらに第三者がやってきた。


「フレイ、その重要参考人に話を聞きたい。お前はあっちを頼む」


 フレイさんの背後にやってきた団長が声をかけ、後ろを指さした。その神々しいご容姿で親指を立てて背後を示す姿、なんだかロックですね。なんてどうでもいいことが思い浮かぶ。

 まな板の上の鯉なので、意識がそれていくのを止められない。


「ああ……。なんだか既視感がある人物がいますね。重要参考人に簡単でいいので彼女の状態について聞きたいのですが」


 フレイさんに視線を向けられ、団長様にも早く言えと顎で指示される。


「……その、たぶん魔女にされかけて、なんかここで魔物を復活させる魔術に利用されていたみたいです」


 端的に話すと、フレイさんは額をおさえてため息をついた。


「なんとなくつながりがわかった気がする。詳細は後ほど教えて下さい、団長」


 そう言ってフレイさんが離れると、団長様に「立て」と言われる。

 びくびくしながらも言う通りにした私。

 これ、男同士だったら部下が殴られて説教されるシーンじゃないですかね? 団長様はそんなことはしないだろうけれど、完全に見限られるのが怖い。残った勇気をふりしぼって立場の改善をこころみる。


「あのですね。本当にすぐ帰るつもりだったんですけれど、精霊さんが……」


「話は別な場所で聞く、大人しくしていろ」


 と言ったとたん、団長様が私を担ぎあげた。


「あの……これ恥ずかしいですっ!」


 荷物担ぎはお腹が苦しい。けどそれ以上の問題がある! だって太ももが! 腰のあたりがちょうど団長様の顔の横にくるのよこれ! 荷物担ぎってけっこう危険な体勢!

 悲鳴を上げる私をよそに、団長さんは近くに寄って来た風の精霊に命じて、天井の開いた穴から外へと連行された。

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