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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました
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家へ送ってもらいました 1

 ついて行った先は、お城の庭というか運動場ぽい所だ。

 とても広々として見通しがいい。

 特に子供の姿も見えないけど、さっき騒いでいた子供たちは、もう帰ってしまったんだろうか。


 そんな広場に、団長様が『ヴィルタ』と言った大きなトカゲがいた。


「いや、これ、普通の飛びトカゲじゃ…ないのでは」


 違うような気がする。

 このヴィルタちゃんは、体の色が飛びトカゲにはあまり見ない綺麗な青。ちょっとごつごつしている頭部には、角が二本ある。

 しかも、一緒に引き出されてきた三匹の飛びトカゲよりもずっと大きい。他の飛びトカゲは緑色をしているし。

 ……どういうこと? と思ったら、当の団長様が教えてくれた。


「こいつは正真正銘の竜だ」


「りゅ……!」


 転生しているからこそわかる。この世界で、本物の竜というのはかなり希少だ。

 ゲームだって、イベントのラスボス以外ではあまり見かけなかったもの。

 え、団長様竜所有してたの!? とびっくりしてしまった。


 それに竜で、成長したらお城なんてぶち壊せるほど巨大になるはず。てことはこれ、竜の子供? どうやって飼いならしたの!?

 もちろん団長様にそんな疑問を全部ぶつけるわけにはいかない。驚いていると、フレイさんがやってきて、私に分厚いマントを着せてくれた。


「きっちり覆っておくといいよ。それでも寒いかもしれないよ、お嬢さん」


「なるほど、空……寒いですものね」


 上空は寒いものだ。前世の記憶が蘇った今の私には、それがわかる。

 だから出ようとした時に、近くにいたらしいヘルガさんが、長い靴下とブーツに、赤茶色のコートまで着せてくれたんだ。


 むしろ南の砦から移動をするのに、空を飛ぶことに思い至らなかったのだから、少しぼーっとしているのかもしれない。

 まだ春先なのに、ちょっと厚着しすぎじゃないかなーとぼんやり思っていたのよね。


「お、どこでそんな話聞いたんだい? 普通は兵士だって知らないものだけど」


「前に……旅人さんか誰かから聞いたんだと思います」


 前世の記憶だなんて話はできない。だから曖昧ににごして、マントの前側のボタンを三つ止めてきっちり羽織る。


「準備はいいようだな。お前はヴィルタに乗せる。来い」


「は、はい!」


 竜に乗れるんだ!

 一瞬だけ嬉しいと思ったけど、しかし竜につけられた鞍までの高さに、びびる。

 家の二階に上がるようなもので、飛び上がってどうにかできそうには見えない。


 と思ったら、竜の方がぺたんと伏せてくれたので少し低くなった。でも馬より高いんじゃないの!?

 鞍に飛びついて、なんとか鐙に足を載せればいいのだろうか。あれこれ考えていたら、団長様に小脇に抱えられていた。


「うひょう!?」


 驚いている間に、団長様が恐ろしいジャンプ力で、私を抱えたまま鞍に乗ってしまう。

 呆然としていたら、鞍の前側に座らされた。


「お前は小柄だから、二人でも十分に座れるな。鞍の前にしっかり捕まっていろ」


「わ、はい!」


 鞍の前側が、持ち手のような形になっていたので、素直に両手でそこを掴んだ。

 それから気づいた。

 え、これだけじゃ落ちるんじゃない?

 前世で乗馬体験したことあるけど、むっちゃ揺れたよ? それが空飛んで上下左右に揺れるって。ちょ、死ぬかもしれない私……。


 想像して白目をむきそうになった。

 けど後ろにいる団長様が手綱を掴みながら、私の腰をがっちり捕まえてくれたので、少しほっとした。恐怖のあまり、恥ずかしさよりもシートベルトが来た! という気分。


 いや、でもこれだけじゃ安全性に疑念が残る。

 乗り慣れてる人に捕まえてもらってたって、いつすっぽ抜けるかわかったものじゃない。

 ガタガタ震える私をよそに、団長様が声をかけた。


「行くぞ!」


 竜が立ち上がった。翼を大きく広げ、足で大きく飛び上がった。

 その時が一番、急上昇するエレベーターに乗っているような気分で怖かったかもしれない。

 空へ浮き始めると、逆に重力に引かれる感覚が弱まった。


「え?」


 気づくともう空へ浮かんでいる。お城がだんだん小さく見えていく。

 だけど乗っている私の方は、飛行機に乗る以上の快適さを感じていた。壁も天井もないせいで風は吹きつけてくるけれど、それだって息が詰まるような強さじゃない。

 適当に結んだ髪が、風にあおられてなびく程度だ。


 上空だから寒いけれど、コートがあるから耐えられる。何より後ろから捕まえていてくれる腕がある。

 自分のお腹を覆ってしまうような大きな腕は、団長様も厚着をしているのに、暖かく感じて……妙に意識してしまう。大人の男性の腕が、自分と密着していることに。


 あ、背中も気づいたら密着してた。

 そこへ折悪く、団長様が私の変化に気づいたらしい。


「竜に乗るのは、思ったほど怖くなかったのだろう?」


 指摘されて、気づいたのはそこだけですよね? だったら良かった! とほっとした。

 意識したことを悟られたら、恥ずかしさで面目なくて、もう団長様と顔を合わせられなくなっちゃうもの。


「はい。もっと木から飛び降りるような、怖い状態が続くのかと思っていました」


 飛行機、だなんて表現は口に出せない。だからありそうなものを口にして誤魔化してみた。


「初めて乗る者はたいていそう言うだろう。だが竜は、自分が飛ぶ速さや上空の寒さに耐えられるよう、必要な能力を持っている。ある意味精霊に近い存在なだけあって、上昇に関する空気抵抗などが、ある程度操作できるらしい」


「操作……」


 ということは、あまり重力を感じずに空へ舞い上がったのは重力操作? 

 風を抑えているのは、風の魔法を使っているの?

 ゲームだと竜は飛ぶもの、キャラは騎乗したら落ちるわけがないって思ってたけど、それを実現するには色々と必要なものが多すぎる。


「竜ってすごい」


 思わずそう言うと、団長様が同意してくれる。


「そうだな。これだけ複数の魔法を使える竜は、確かにすごい存在だ」


 でもそこで話は途切れてしまう。

 本当は、そんなすごい竜に乗っているのはどうしてか、とか聞きたいことは色々あった。だけど同僚でもない上、同情して拾っただけの被害者に、そこまで話してはくれないだろうと。


 なので私は質問をやめておいて、空と、地上を眺めることにした。

 でもやっぱり、抱えられている状態なのが気になる。

 竜が重力を操れるだけあって、風が吹いていても鞍から落ちるような感じはしない。だけど捕まえたままだということは、団長様もイレギュラーなことが起これば、私を落としかねないと思っているんだろう。


 それならば……この状態でも納得できる相手にたとえよう。

 私は、お父さんに抱っこされた時のことを思い出そうとする。でも今世のお父さんは、小さい頃に亡くなったから思い出が薄い。


 なのでお祖母ちゃんに抱っこしてもらったことを、回想した。

 ついこの間、風邪をこじらせて亡くなったお祖母ちゃん。小さい頃から、抱っこして古い絵本を読んでくれていた。

 お父さんとお母さんが病気で亡くなった時も、泣く私のことを抱きしめていてくれて……。


 結局私は、しんみりした気分のまま、生まれ育った町へと戻ったのだった。

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